■51■ クロウ編 第23話『吸血鬼医療財団に殴りこむ』
目覚めた三人の鋼の種族。
記録文化と剣術の始祖の一人であるクロウ。
ドワーフの王族に血を遺したグレネット。
とある偉業から半身を失う怪我を負うも星を守ったオルガン。
さて、現在、各々の生活を抱えながら新たな生き方を選んでいるわけであるが、好き勝手に動くことが出来る者といえばクロウである。その身体技能および神性を用いた鋼の種族の御業について、様々な警戒網や感知の隙間を縫うように世界を跨ぐ歩法を使いこなし、身体の伸縮を除く自在剣を用いた剣術は神技の領域という、かつて誇った鋼の種族そのものといった存在だ。現代では明らかなオーバースペックである。
そんな相手が、気付けば仕事場の目の前に立っていたらどう思うだろうか?
高位吸血鬼にして神代より永き時を生きるという吸血鬼医療財団の理事長を務めるミュシャ・エンドワールドはぞわりと背筋が総毛だつと共に、即座に厳戒態勢と共に来訪者に対する一切の戦闘行動を禁じるよう通達を徹底した。
ミュシャの外見は銀髪を結い上げた年の頃20代に見えるくらいの美女だ。儚げにも見えるものの、数万年を生きたという最古、始祖の一人とされ、生半可な吸血鬼など束になろうと瞬きの間に鏖にできるくらいの実力者である。
そんな彼女が財団に関わっているのは、元々財団の創始者が彼女の眷属、その一人であったことが理由なのだが、そういった仔細は一切関係ない、ともすれば施設ごと叩き潰せる相手が訪ねてきているのだ。
急いで施設の玄関ホールまで降りると、そこには、気配も薄い一人の男が扉を開き、ゆっくりと入ってきているところだった。
2m近い長身に、鋼を束ねたような筋肉を備えた四肢。
目元に険がある為に人相があまりよろしくないが、明らかに神性を帯びている。
神代の存在、自分と同じか、もっと古い世代。
そしてスラックスにシャツ、革靴に帯剣と、ともすればどこぞの若様といった様相であるが、立ち姿に隙が無い。剣術を嗜む、といったレベルではなく極めたと言って過言ではないレベルだ。
ミュシャの記憶のどこかにひっかかる。
かつて戦場を均した巨人にして剣術を用いた一族。
鋼の。
そこまで記憶が辿り着いた頃には、その男は施設の受付に二人ほどの同族、それも完膚なきまでに叩きのめされた男達を放り出していた。
「この二人が最寄りの村を襲っていた。どなたか責任者はおられるか?」
だれだあの馬鹿共は。そんな罵倒の言葉をミュシャは飲み込み、とにかく冷静さで取り繕って階下へと降りて行った。
近づいた男達は酷く叩きのめされていた。
手足は砕かれ、再生力に優れた吸血鬼が立ち上がれぬほど徹底的に痛めつけられている。鈍重な棒きれで幾度となく叩きつけたようなやり口は、吸血鬼という存在を知った者のやり口だ。
「私がこの吸血鬼医療財団の理事長であるミュシャ・エンドワールドです。我らが同胞の無体を止めていただけたということで感謝と、そして陳謝を」
「鋼の種族がズミルニが子、今はクロウと名乗らせていただいている。この慮外者への処罰と、現状についてお話を伺いたい」
鋼の種族。ミュシャの頭に電撃のように情報が蘇る。
地を均し、剣戟をもって神すら斬る。地鎮伐神の化身とさえ呼ばれた巨人の裔。しかも、名乗りから察するに真祖アイガイオーン直系の世代だ。下手をすれば国どころか大地を均すことすら可能な闘争の権化が目の前にいると。
気配を抑え、それと気付かせぬ技量といい、おそらく間違いないだろう。
自身の怯えの気配を察してか、周りの吸血鬼以外を含めた職員達も緊張した面持ちで成り行きを見守っている。ミュシャとして高位の吸血鬼であり、たちどころに虐殺者になれる存在であるが、そうしないだけの分別があり周りからの信頼もある。
皆を、守らねばならない。
ともすれば命を懸ける覚悟を決めながら、ミュシャは微笑んでいた。
「こちらへどうぞ。紅茶はお好きで?」
「砂糖とミルクはなしでお願いできるなら是非」
しかし、肩透かしをくらうように軽口に対して飄々と答えるクロウと名乗った鋼の種族。
まるでスイッチの場所がわからない爆弾を前にしているようだと、密かにミュシャは溜息を吐いた。
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