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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第五章 同じ阿呆なら踊らねば損
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■50■閑話3『吸血鬼居住区隣接村落の僧侶』


 なんて日だ。

 森沿いにある小さな村落、そこで僧侶を務める青年は愚痴を零して錫杖を構える。

 亜種吸血鬼レッサーヴァンパイア。零落した吸血鬼、または吸血行為により最初に転換される元人間の吸血鬼。膂力こそ常人を超えるが、吸血鬼そのものと比べれば然程の力はない。それこそ、辺境の僧侶一人に打倒される程度だ。


「下がれ。殺すぞ」


僧侶にしてはなんとも物騒な言葉を口にしながら、金属製の錫杖を構え直す。辺境育ちだけあり青年僧侶、アラン・マッケイは杖術も嗜む。むしろ、嬉々として魔物や獣を狩り殺す。肉類は貴重なので、食べたいと思えば自ら狩るのが一番早い。

 鹿の類は2、3日寝かせれば、とろけるほどの脂が鉄板の上で弾けて。

 いやいや、そういった話ではない。問題は目の前に雁首をそろえている亜種レッサー達だ。

 吸血鬼自治区、または単に吸血鬼領地と呼ばれる場所と距離が近い関係上、アランも個人的に交流がある。吸血鬼の食事は吸血のみと思われがちだが、魔物肉を使った血も滴るステーキ、魔力内包量の多い植物なども摂取する。むしろ、食事を楽しむことに傾倒して吸血行為を厭う美食家すらいる。

 吸血行為はあくまで嗜好であり、魔力の接種さえすれば不要だと。

 まぁ逆に、吸血行為を尊崇するような儀礼主義というか、懐古主義的な吸血鬼もいる。

 そういった吸血鬼は美学というか独自の価値観を有し、強制的な吸血行為を嫌う。

 さて、そんな美食家でもなく解雇主義でもない吸血鬼。

 仲間内にも敬遠されている拡大主義者だ。吸血鬼の勢力を増やしたい、または吸血行為をもっと自由にやりたいという集まり。

 吸血鬼化による膂力や魔力量の上昇を餌に人間内にも勢力をつくるのだが、如何せん自治区のある国が悪い。

 ここは帝国領内なのだ。

 宗教的、種族的な主義主張に対して寛容ではあるが、それによって他の人民の権利を侵害し、国家に仇なすとなれば即決即断で帝国騎士団なりが討伐に来る。その時、総人口の少ない吸血鬼における小さな派閥でしかない拡大主義者がどうなるか考えるまでもない。

 族滅だ。一人残らず処断される。

 そんなことがわかっているから今までの拡大主義者もひっそりシンパを増やしていたのだ。

 それをどこぞの馬鹿が破ったのだろう。

 見慣れない服装や顔立ちをした元人間達を見て、思わずため息を吐く。


「警告する。時間帯、および通常とは異なる村落への侵入から敵勢力として対応させてもらう。このまま引き上げるのであればこの件は報告のみに留める」


最終通告だ。これで引き上げるなら急いで吸血鬼自治区側に連絡して話をつけてもらえば済む。

 このまま戦闘を続けるのであれば、こちらも覚悟を決めなければならない。

 吸血鬼集落を滅ぼすかもしれない戦いに関わること、をだ。

 さて、この言葉をどう受け取るかで相手のスタンスが分かる。

 賢いならそちらの方がいい。でなければ。


「………坊主は殺せ。他は生け捕りだ」


最悪だ。こいつらは()()()()()()()だ。

 うんざりした気分のまま最終通告が無意味だったことを認識する。

 先頭に立っていた一人が踏み込む直前で錫杖を振り下ろす。

 硬く重たい金属製の先端が相手の頭に減り込み、一撃で殺害せしめた。

 吸血鬼特有の再生力を期待しているようなら無駄だ。普通の吸血鬼でさえ、頭部を大きく損壊したら半分は死ぬ。亜種、劣化吸血鬼なら即死してしまえば再生も発動しない。

 加えて、戦闘経験が乏しいのだろう。咄嗟に動けたのは指示出しした男だけだ。

 腰の剣を抜こうとするも、膂力と行動の正確性は別だ。

 ベルトに固定していた剣の鞘が外れ、抜ききれずに剣が降られる。

 鞘付きの剣で何ができるというのか。

 錫杖で受け流すと、返す一撃で再び頭を叩き割った。

 前方にいた二人が立て続けに屠られたというのにまごまごと行動を躊躇うとは。

 ぬるい。

 森の奥からは複数の足音が増えた。増援なら厄介なことになる。


 だが、その気配が一瞬で途絶えた。


 気配の薄い何かが近づいてくる。木々の間を抜けて出てきたのは一人の男。

 まるで貴族のような簡素ながら品のいいスラックスとシャツという恰好をした2m近い長身の男。顔立ちはやや険のあるものの、傷痕や怪我の様子もない綺麗なものだ。

 だが、その手にぶら下げている剣、片刃の山鉈に似た刃物が震えたように思った瞬間、男の一人がすとんと膝から崩れ落ち、呼吸の寸断より短い時間で意識を刈り取られていた。

 現状を理解できない者たちが男に顔を向ける。

 すると、男から近い順番で全員が地面へ倒れていく。

 亜種吸血鬼


「あー、悪いが、吸血鬼の、住んでいるところはあちらでいいか?」

「は、はい。あちらが、吸血鬼の居住区で」

「そうか、助かった。この吸血鬼もどきはしばらく起きん。あとは好きにしてくれ」


そう言って剣を鞘へ戻した男は立ち去る。

 まるで魔法のような手際に対して呆気にとられていると、その気配も姿も森の闇へ消えていった。

 あれは、何だ?

 そう不思議に思うが、ともかく、この亜種吸血鬼を拘束しなければと教会へ急いだ。




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