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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第五章 同じ阿呆なら踊らねば損
50/59

■49■ オルガン編 第12話『吸血鬼医療財団という前フリと』


 吸血鬼医療財団ヴァンパイアメディカルファウンデーションという組織がある。

 かつて、人種、ドワーフ、エルフ、魔族、獣人などの血を無差別に吸い、死傷者を出した魔族、吸血鬼ヴァンパイアであるが、吸血活動に比例して他種族から弾圧されることとなる。吸血鬼の本能的な行動であるところの吸血衝動と呼ばれるものは、魔力の補給、他種族を吸血鬼へ転化する為の繁殖行動の一種、食欲の一種としての飢餓反応などであるとされている。

 特に、三番目の飢餓反応というものが厄介で、飢えが満たされる為には魔力自体が多い血液か、魔力が十分に摂取できるまで多量の血液を摂取しなければならないのだ。それも、魔力の総量が多い吸血鬼が満たされるほどの、だ。

 真祖や古代種と呼ばれるほど高位の吸血鬼の場合は、マナやオドと呼ばれる大気内、空間内に満ちる無形のマナを摂取できるが、中位、または低位と呼ばれる者達はそうはいかない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 そして飢餓衝動を制御できないような相手、身内を殺すような相手を他種族が許すわけがない。

 結果、中位までの吸血鬼と他種族が殺し合いをすることになる。

 吸血鬼暴動や吸血鬼戦争と各地で呼ばれる戦いだ。

 しかし、吸血鬼の飢餓衝動を種族特性にして自己統制できない病理だとする者達が居た。

 カドゥケウス教会、宗教組織の一つにして医療の神カドゥケウスを奉じる一派だ。

 そこで生まれたのが献血を利用した血液の利用制度。つまり血の盟約ブラッド・アグリーメントである。

 種族間抗争をやめ、吸血鬼以外の種族は血液を提供する。代わりに金銭利益を得る。

 そして、その金銭報酬は吸血鬼達によって支払われる。

 この約束が決まったおかげでどちらが滅ぶかまでの生存競争は終止符が打たれたのだ。

 金銭報酬の支払い、医療制度の管理、違反者の取り締まり。

 それらを担うのが吸血鬼および他種族で共同運営されている財団、吸血鬼医療財団ヴァンパイアメディカルファウンデーションである。

 無論、吸血鬼側には、それを快く思っていない派閥もある。

 金銭的な支払いを行えず、血の盟約制度を利用できない価値観の異なる吸血鬼。

 そして、吸血行為を一種の狩りとみなし、その行為を禁止することに意義を唱える吸血鬼。

 最後に、制度を理解できる知性や啓蒙のない吸血鬼。

 これらは、他種族に害を成した時、財団に狩られることになる。

 すべからく。平等に。


  ■  ■  ■

 

 さて、そんな地位も名誉も金も誇りもない吸血鬼の逸れものがいたとしよう。

 吸血鬼という種族そのものは、魔力に優れ、膂力も人種と比べ物にならないほど強い。代わりに日光に弱く、銀製品に強いアレルギーがあり、同族の血に触れると焼き合う、流水の上は特定の手順を踏まないと渡れない、など、位階が下がるほど弱点が増える。

 高位の吸血鬼? 夜は生み出すものであるし、川は退けるものである。いわゆる存在の強度が違うので、自然現象が彼等を避けるくらいにはなる。それこそ神性存在に近しきものになるのだから。陽光ですら大敵との戦闘中でもなければ魔力の遮蔽力場をまとって自動で無効化してしまう。

 さて、話は戻るが低位の吸血鬼でも人種の農民くらいなら勝てる。

 いや、勝てる場合もある、と言っておこう。

 残念ながら前提条件の次第になるのだ。

 例えば帝国、中央のみならず貴族が治める各地の中心部くらいなら戦闘技能を持たぬものも少なくない。ただ、辺境であれば、村人の半数は戦闘技能を備えていると考えなければならない。

 金色の眼、悪神の加護に汚染された存在、魔物や魔獣、モンスターの類はそこら中に湧くのだから。

 一応、吸血鬼も亜人として認められているのだが、他所の村を襲った時点で単なる犯罪者、山賊や盗賊でしかないのだから、大抵はその場で叩き殺される。

 わざわざ衛兵に引き渡すほどの温情は期待できない。そもそも、襲った側にかける慈悲などない。

 ちなみに、帝都でそんなことを考えたらどうなるかといえば。


「馬鹿が。吸血鬼の誇りも失ったか」

「ち、血を、吸って、何が悪い」


 冬を前にした肌寒い秋の曇り空の下。

 黒こげの断面を晒し、上半身だけになった吸血鬼と思しき男が、同じく吸血鬼と思われる男に掴まれ、晒し者のように衛兵詰所の前でぶら下げられている。

 弱々しく反抗するものの、一切の身動きが封じられている。


「問題をすり替えるな。他人の健康財産けつえきを襲おうとして、惨めに負けて、こうやって衛兵に突き出されるだけの犯罪者だ。戦って吸いたければダンジョンに潜って悪神の加護を受けた亜人とでも戦ってみればいいし、そもそも血が吸いたいなら財団の手を借りるだけで済む」

「吸血鬼が、他者にこびへつらうなど」

「古臭い。しかも嘘くさい。当ててやろうか? 最近の事情も理解できない、金を用意しようにも手段がない、頼れる知り合いもいない、知り合いが居たとしても古い価値観をふりかざして相手にもしてもらえない、それで安易にどこかで人を襲って逃げるなり脅迫するなりしてしまえばいいとでも思ったわけだ。なんとも身勝手で浅い考えだな。それとも、自分より弱い奴を言いなりにできると思いたかったのか? 吸血鬼云々と何も関りがないな。それは単なる強盗だ。馬鹿めが」

「畜生、畜生ぅ………」


食べ歩きというか、オープンカフェのテラス席でハンバーガーに齧りついていたオルガンは、驚きにあんぐりと口を開いたままそれを見送った。

 一瞬、連行側の吸血鬼が、こちらに視線を向けた気がしたがおそらく気のせいだろう。赤い眼に銀色の長い髪をなびかせる颯爽とした立ち姿といい、さぞや名のある吸血鬼だったのだろう。

 帝都は今日も平和だなぁと思いつつ、お腹の満たされたオルガンはそのままアパートに帰ることにした。

 さて、そんな彼に、アパートの管理人夫妻の旦那、獣人のアガレドガ氏から声をかけられた。


「あぁ、なんか、エルフのなんとかさんって人がお前を尋ねてきているが」

「あれ? お名前は?」

「確かエブリンさんだっけか。かあちゃんがすぐ戻るからって呼び止めて、今はうちで長々と世間話さ」

「わざわざありがとうございます」

「いいって、むしろうちのかあちゃんの長話に付き合ってくれて助かってるくらいさ」


朗らかに笑う管理人に頭を下げるも、なんの用事かとオルガンは首を傾げた。

 昼頃の吸血鬼捕縛騒ぎといい、どうにもきな臭い予感がしたが。




 さて、帝国内の司法制度における、亜人や宗教についてのスタンスについて。

 基本的には帝国法の侵害がない範囲では許容される。

 吸血鬼の吸血行為であれ両者合意のうえであれば食事行為や性行為。非合意であれば傷害、強盗、強姦などの各犯罪行為として取り締まられる。宗教的な場合は教義上の食人行為や人身御供の類は、基本的に認められていない。勿論、なんらかの理由が存在する場合に特例で許可される場合もある。

 認められる場合も、感染症予防の一種として亡くなった人の血液を医療的に処置して飲む習慣のある地域や、人身御供とはいうものの病気や事故で死没した人を神に捧げる葬儀などであったりする場合などがこれにあたる。

 人を殺して亜神だの邪神だのに捧げようとしたら帝国の兵士が強行停止および捕縛に出張ってくる。最悪、その場の関係者が族滅、親族含めて皆殺しにされたとしてもおかしくないくらいの刑罰に相当する。

 さて、ともすると不寛容、または不平等とも言われそうであるが、実際のところ他種族他民族国家であるところの帝国であり、これでもかなり常識的な扱いだ。

 宗教も種族も自由であるが、かといって越権や法律侵害、国家運営の阻害は許さない。

 貴族だろうと官僚だろうと帝国法に抵触すれは犯罪。

 種族的宗教的事象を理由に他者の人権を蔑ろにすれば犯罪。

 年齢性別問わず、情状酌量の余地や更生の予知がなければ断罪。

 それが基本である。

 一例を説明すると、執行猶予期間中に再犯をした高齢の犯罪者が即日で死罪、申請のない祝祭を勝手に街中で初めて傷害事件を発生した宗教関係者も重罪として禁固刑、種族的特性から他種族の女性に求婚したところを婦女暴行未遂で取り押さえられた事件は憲兵側に減俸措置と、ある意味、病的なまでに平等なのだ。

 だが、そういった帝国法だからこそ生まれる問題がまたある。

 現場人員の不足だ。

 例えば、中位以上の吸血鬼を捕縛しようと試みる場合、同じ階位の同種族、または銀等級の冒険者による措置か、装甲猟兵、騎士団、一般の衛兵一個小隊以上が吸血鬼用装備で捕縛にあたるというルールがある。

 安全マージンという意味もあるが、種族差や力量差による戦力比というのはそれくらい難しいものなのだ。そういった場合、帝国政府の外部協力者であり、帝国領地に住む各種族との間で連絡役を務める人々に協力が求められることがある。

 種族間連絡会や多種族間協議会、またはもっと単純に『お喋りたちトーキー』と呼ばれる。亜人によっては口語会話による情報伝達がそもそも文化としてなかったりするものまでいるので、連絡会がないと色々な意味でお互いに困ることになるだろう。

 さて、そん連絡会であるが、帝国と亜人集落、亜人社会との間で折衝にあたる他、問題があった場合の情報共有や、種族間トラブルの抑止や仲裁に動く場合もある。運営資金の半分が帝国、また半分が各集落から提供されているのはそこらへんの事情も絡む。


「それで、吸血鬼社会では今、独立運動の予兆があると」

「帝国側へ相談や協議もせずにね。土地の平穏を他所の国から守ってもらってる、という理解すらないのは、ちょっと勉強が足らないわねぇ」


 獣人達が好んで飲む発酵茶葉の香りを楽しむエブリン嬢は、暖かなカップを掌で包むように持っている。吸血鬼医療財団からもわかる通り、吸血鬼は貴族制を採用し、かなり高度な社会体系をもつ亜人である。同時に、個々人のスペックが高い為、自主性を重んじる気風も強い。

 それが悪い方に作用すると、自主性や独自性という単語で誤魔化して、自分勝手に社会性を手放してしまう者も現れる。

 独立、まぁ、帝国内で自治領を構えたい、ということであったり、帝国から出奔して新たな土地で建国を志す、または帝国領土の一部割譲を目的に主権運動をする、このくらいのことであればオルガンにも解り易かった。


「その人達の目標は?」

「人間の支配と隷属、吸血行為による眷属化」

「どうやって?」

「吸血鬼集落周辺から徐々に帝国内に浸食、いずれ帝政の支配だったような」

「いや、さすがにそれは無理があるんじゃ」

「それ以上のビジョンはないんじゃない?」

「………え? 支配って言うと、武力的蜂起しての侵略って意味ですよね? 帝国へ」

「そのつもりなんじゃない? 勝てるとは思えないけど」

「こ、高位の吸血鬼さんが出てくるとか?」

「出てこないだろうし、出たとして帝国全戦力ぶちこまれたら族滅されかねないわよ?」

「え? 可能なんですか?」

「そりゃ昔は勝ったし、今回も勝つんじゃない?」

「じゃ、なんでそんな方法で?」

「勝てると思ってるのよ。本人達()()は」


理解不能である。

 吸血行為による眷属化によって戦力を増やし、帝国本土を侵略。

 眷属化を加護や祝福による対抗措置で解除、聖別武器および太陽神の加護による術式での反撃。

 無力化された吸血鬼の鏖殺。

 宗教連合の仲介により吸血鬼と帝国間で休戦協定。

 それが100年以上前にあったことらしい。

 そもそも高位吸血鬼は戦争そのものを好まない。超自然的な存在に近しくなっていることで、情動が希薄化していることが多いし、人間的な社会性を維持している場合は、大昔にあった暴れたらもっと怖いやつが反撃しにくるという大戦争当時の記憶とかあるのでこりごりだそうな。


『吸血鬼? 知るか死ね』


絶対にあの人クロウならそう言ったろうし、そうやって自在剣でぶった斬りにいったのだろう。

 高位だろうが超級だろうが敵対者に容赦するほど優しくないのだから。

 それこそ悪神クラスでもなければ対等以上に持ち込めるだけの技量があった。

 逆に言えば。

 高位が出てこない状況で、吸血鬼の陣営がどうやって帝国に勝つつもりなのか?


「状況を正しく認識してないんじゃない? 吸血鬼の集落から100年も出てなかったらそんなもんよ」

「なるほど。それで、帝国側は?」

「一度、連絡会で翻意を促すよう交渉してもらえないか、だって。まぁ、しないならしないで、大隊規模の人員を派遣して交渉失敗と同時に攻め込むくらいは考えているでしょうけど」

「帝国ですねぇ」

「帝国だもの」


行動前に情報が洩れている時点でお察しである。

 実行動の予兆があった段階で関係者は根こそぎだろう。

 そしてその場合は若い吸血鬼の大半が死傷することになるだろう。

 帝国としては国民の自由に文句はない。ただし、国家、そして国民に損害を与えるのであればその限りではない。

 こういった細かな気遣いというのは、正直言ってオルガンは苦手だ。

 皆仲よくすればいいはずなのに、よくわからない理由で戦いたがることが理解できない。

 それを理解しようとも考えずにぶん殴れるのがクロウで。

 もっと大きなトラブルで押し流してしまえるのがグレネットだ。

 中庸、平和主義、それらの言葉は耳障りこそいいが、明確な目的がないと戦うことすら躊躇してしまう自分は『どっちつかず』でもあるのだと理解はしている。

 誰かを守る、ならスッと理解できるし覚悟できる。

 ただ、騒ぎを起こそうとしている人間を守るっていうのは、どこか違うし、かといって仲裁できるだけの


「僕に、何ができます?」


その言葉に悩むような、戸惑うようなそぶりをするエブリン。


「なんか、一発で吸血鬼が黙るような手段って、ない?」


それはまぁ。

 なんというか、簡単というか、一発でぶち壊せるものなら脳裏によぎった特大のものが。

 

「劇薬でよければ、一瞬で終わる、と思います」

「劇薬?」

「同じ種族の、友達に頼みます」

「それ、誰?」

「元々の名前はあるきまわる者ヴィアトーレム、今の名はクロウ。ズミルニの息子にしてシャブタイの弟」

「え? それって剣祖トレム?」

「トレムは当時の渾名の一つですね」

「渾名?」

「ヴァイアン、ヴァントー、トーレム、トレムス、トウム、ヴィアットーレ、ビクトール、ヴィクティム、そんな感じで呼ばれることがあったと思います。種族によって発音が難しいとかで、呼ばれ方も様々でしたし」

「なにか、他の偉人というか、伝説にぶつかりそうだからとりあえず置いておくとして」


ちょっと顔色が悪くなったエブリンが再度問う。


「その人、強い?」

「少なくとも高位の吸血鬼に囲まれてもまず負けないくらいは」


それだけは間違いなかった。

 


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