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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第五章 同じ阿呆なら踊らねば損
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■48■ オルガン編 第11話『奇縁とは突然の』


 喜劇と悲劇は紙一重でしかないとは誰の言葉だったか。泥酔仕掛けていた女性が正気に戻ったあとの話を聞いたオルガンの感想はその一言であった。いまや、パーティションで仕切られた半個室に痛烈な沈黙が流れていた。

 帝国騎士団所属のこちらの女性、名をサネドリカ・エンリケさん。ご年齢を27歳。エンリケ家という貴族家の頂上で、下に弟と妹が二人の三兄弟。現在は帝国騎士団のうち一つで副団長を務め、日々、帝都の平和を守っているという立派な方であった。


「お酒の席での失敗が、きっかけだったの」


数男前、騎士団の集まる忘年会の席で、たわむれに腕相撲大会が開かれた。

 高齢の老騎士なども参加して和やかな雰囲気であったが、お酒に慣れていなかった若き日のサネドリカ嬢が参加したことで事態は一変。

 若手有望株の青年が、次々とで撃破され、しまいには脱臼するものまで出た。その騒ぎがきっかけで現在も同期の中では『腕折りのサネドリカ』という異名が残っているという。


「その一件のせいで、貴族社会でも敬遠されて縁談話もとんと縁遠くなって、こうやって街の合コンに出席すればこんな状況」


軍服とその立派な外見に気圧されて話し掛けてくる人すらいないという。

 逆にサネドリカから声をかけようとしても男女問わず距離をおかれて一時間ともなれば、さすがにどんな女傑でも心が折れるだろう。


「その、元気出してください」

「安易な慰めはよしてくれ。みじめで、たまらなくなる」


なんともはや。

 そのうえで以前の席で声をかけてきたかと思えばホテルに誘おうとしたり、胸を揉まれそうになったりと散々だったらしい。むしろ、そんな真似をこの状態の彼女にやろうとした人間はどんな強者だったのだろうかと感心したくらいである。ちなみにきちんと逮捕済だそうだ。

 一部の合コンでもそういった男女関係の悪事を働こうとするので、こういったきちんとしたイベントの際だと入出場の際も係員なども眼を光らせているらしい。 

 闇となればとことん深いのだ。どんな場所であっても。


「このまま売れ残れば、弟や妹の縁談にも差しさわりが出てしまう可能性がある。私のことだけなら我慢できる。納得もする。だけど、二人にそんな思いをさせるのだけはと」


その言葉にオルガンが思い出すのは自身の姉。

 優しく慎み深い自身の姉とは似ても似つかないが、それでも彼女も兄弟のことを考える立派な姉なのは間違いない。

 自己犠牲なんてものではなく、ただ、誰かの為に。

 鋼の種族でありながら、癒えず亡びかねない大きな傷を負った時の自分だって、そこまで大それたことは考えてなかった。

 いつだってそういうものなのだろう。

 オルガンは彼女を見る。

お酒の匂いの残るサネドリカの瞳は淡く輝き、とても魅力的であった。

 あとうなじも綺麗だった。ここ重要。

 後になって振り返る、この時の自分はどうかしていたのではないかと。


「あの」

「何?」

「年齢が、だいぶ上でも、貴族の冠がなくても、いいかな?」

「誰か紹介してくれるとでも?」

「いや、ね」


一呼吸吸い込んで、ゆっくり口に出す。


「僕が、立候補してもいいですか?」


眼を丸くして、ぽかんと。

 サネドリカは出来の悪いジョークを聞いたような顔をしていた。


「あ、けれど、庭師とかそういった職業がお嫌いでなければ、ですが」


この言葉に「うっそだぁ、どこぞの憲兵隊か騎士団の所属じゃないとこのガタイは」とぺたぺた身体を触られながらけたけたと笑いを浴びることになるが、イリーシャン侯爵家付庭師という単語を聞いた途端に顔色が蒼くなっていた。一体どうしたのか。


「貴方もしかして、襲撃事件の時にもいなかった?」


どうやら変なところでオルガンの名前は有名になっていたらしい。

 しかし、主題はそこではないと、こちらの顔を見て気付いたようだ。


「あの、私、さっき言ったみたいに、もう27歳、くらいで」

「自分も鋼の種族と言って、正式な年齢は、たぶんもっと上になるかも」

「ち、ちから! 力ものすごく強いの!」

「僕も力はある方なのであまり気にしなくて」

「酒癖悪いのです、悪いのですけど」

「あぁ、そこはまぁ、お互いに気を配れば」

「………悪いっていうのは、否定してくれないの?」

「公共の場でああいった、げっぷまで、しているところをみると」

「………あぁぁぁぁぁぁぁぁ」


なにやら自己嫌悪と戦っているご様子だが、あれはダメだと思う。


「今度、素面の時に、食事しましょう」

「はい、ではそのデート次第で、ということで」

「え?」

「連絡先を、はい」

「あ、どうも。私も、これ」

「確かに。それではまた」

「あ、はい。また」


足早に立ち去るオルガンの顔が史上稀に見る赤さだったことはここだけの話である。

 残されたサネドリカも、冷えた水を飲みながらしばらく黙考することになる。


「ええ? えぇ? ぇぇぇぇぇぇぇ?」


なおも悩むサネドリカは、結局、それから一時間くらい個室を占拠した。

 マルクマン? やけ酒して翌日の仕事に遅刻してきたので察してあげましょう。

 ちなみにグレネットに今回の件を話そうものなら「あぁ、傷心してお酒に酔った女性ね、そうか、うん」という実に生温い反応が返ってくるだろうが、この件が他二名に知られることは当分ない。


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