■47■ オルガン編 第10話『帝都で合コンというパワーワード』
合コン。正式には合同コンパニーと呼ばれる集まりで、現在帝都でも一般的な文化になっているという。元々は帝都学生における同じ寮やクラスなどに属する者が互いに親睦を深めるために酒席をともにする習慣が発祥で、転じて、学部や年齢を超えた交流の為の場、という軽いイメージで広まったらしい。
ちなみにマルクマンも帝都で学生やっていた頃に参加経験があるらしい。
「最近だと街角合コンとか、商会主催で婚活合コンというものがあってだな、そのうちの一つに参加しようと思って」
「それは、一人だと参加し辛そうですね」
「だろ?」
とある休みの日。そのイベントに参加する二人は街中で集合していた。
小綺麗な恰好をしろということで、オルガンもスラックスとシャツという恰好をしている。ただ上背があるので、清潔な格好に綺麗な立ち姿だけで様になるのは流石である。
マルクマンも同じような格好に革のベストとベレー帽という洒落た格好をしていた。
商社の所有するイベントホールの受付で入場料を払うと、代わりに名前と職業を記載する名札を渡された。受付の記述スペースでペンを走らせると、貴族家付庭師という職業が名札に書かれた二人が入場していく。
「会場では基本単独行動で。ただ、何か困ったことがあったらすぐに呼べ」
「は、はい」
「でかい図体してビビるなって。じゃあ、頑張れよ」
会場の人込みに消えていく背中を見送ると、給仕役から受け取ったジュースを片手に壁際にゆっくり移動していく。
今回は地元商会が主催する立食形式の合コンで、商品コマーシャルを含む為に入場料含めて割安だということでマルクマンが探してきてくれたイベントだ。実際に、料理や一部の物品には商品説明が記載されており、その広告目的の分だけ安いのだろう。
幾つかの新商品や料理に目を輝かせる人もいるので、商品が目的の人もいるらしい。
そうやって会場を観察する間、気配を意識的に隠し、壁の花に徹する。いや、徹してはいけないのだがまだ踏ん切りがつかなかった。
会場全体で人数は100から200人といったところか。主だって、地域が近い人間か、強い目的の有る人間が早々に集まっている様子がある。ただ、友達同士なども入場後にすぐ別々になる様子も散見された。
ただ、どうやら知り合いはいないらしい。
時間も正午を過ぎ、お腹の減ったオルガンが料理の並ぶテーブルの一つへ近付く。
並んでいる料理は肉や魚、穀物などが幾つかのグループに分けられている為、好みの料理をすぐに見つけられた。食事の趣味嗜好が合うのは確かに話のきっかけに出来そうだから、よく考えられているな、とも思った。広い帝国とはいえ食べ物の好みは地域ごとに分かれていることも多い。
辛みの強い肉類をフォークで口に運んでいると、ぱたんと、テーブル上で空の酒瓶が倒れる音がした。そこそこ度数の高いものが入っていたであろう、重たい瓶が倒れる音が。
「げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇふ」
なにか地獄の底から響くようなゲップの音に思わず視線を動かす。
そこには何かやさぐれた様子の美女が蒸留酒を空にしていた。
開場から一時間でこれは明らかにおかしいだろうとオルガンは顔をひきつらせる。
「だ、大丈夫ですか?」
「………寄るな。ほっておいてくれ」
背の高い女性であった。2mはあるオルガンと比べても頭一つか二つぶんくらいしか違いがない。細身だが華奢といった印象もなく、むしろ、戦闘職特有の針金のように細く強靭な手足が想像できる骨格をしていた。
ただ、男性と見間違えることはない。
胸元は大きく、強張ってこそいるが切れ長の瞳をした美しい顔立ちをしているからだ。
恰好が簡易礼装の女性用軍服というのもまた驚きだが、そんな相手が何故に合コンの最中に飲み潰れかけているのかがわからない。
「端に休憩スペースがあります。休まれてください。付き添いますから」
「そう言ってかどわかすつもりなんだろう? 男なんてみんなそうだ」
「偏見がすごい。ともかく、少し落ち着いて」
軽く肩を抱くような恰好で誘導する。そう力をかけているつもりはないが、重心を軽く動かされた女性の方は驚いた顔でオルガンを見た。
仲良くなった人が集まりやすいように壁際に用意された簡易の個室の一つに、彼女を座らせた。用意のいいことに備え付けの水差しまであった。
「とりあえず水をどうぞ」
「………すまない」
何がどうしてこうなったのか、オルガンもまた、合コンの闇に飲み込まれようとしていた。
※本件について特定のイベントやモデルはありませんのでご注意ください
※作者に聞いても存じ上げません




