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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第四章 踏み出しは緩やかに
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■43■ グレネット編 第10話『盲目領とオークション 2』


 盲目領。腐敗と怠惰と不徳の象徴。

 そう聞き及んでいたグレネットであるが、領に着いてしばらくした今、感想は少しばかり変化しつつある。まぁ、いい方向に向いたということはほぼほぼないが。

まずうるさい。

 始終どっかで発砲音と喧騒と怒声、あとは何かが壊れるような破壊音が重なり、聞きたくもない男の吐息から女の嬌声までいたるところで騒音に満ち溢れている。紹介された宿の壁が厚く、窓が二重ガラスであることを本当にありがたく思うくらいだ。

 あとは、湖の真ん中に浮かんでいるおかげか、水だけは不自由しない。それに加えてだが、言われているよりも内部はある程度の秩序が存在している。

 まず、盲目領は幾つかのエリアというか、縄張りに区分されており、その中をマフィアやギャングと呼ばれる非正規営利組織、俗に言う反社会組織とか犯罪者集団が一定の秩序やルールを敷いて運営している。

 組織として一番小さいのがあのフレドリカ嬢の率いるフォルテ一家。元々が、最大規模を誇る盲目領の主、ジョセフ・ザ・キングの組織であるキングファミリーの下部組織だったそうだが、とある盲目領内での大規模抗争時の解決に際して中立を表明、以降、独自勢力として活動しているらしい。キングファミリーにも一目置かれ、いわゆる仲介屋や仲裁役として一定の立場を得ているという。

 他の主だった組織としては、南方民族で構成された『オプシディアン・ダリー』、極東移民による傭兵団『スサ』、元聖王国民の集う『沈黙教会』、違法銃器売買を生業にしている『錬金術師総会』などらしい。

 意外と事情通なジョンソン。

 彼に近場の食堂で昼飯を奢りながら話を聞いた限りでは、そういったことらしい。


「仲裁屋である俺等は情報が命って口を酸っぱくして言われているからな! 客人にあたるあんたへの事情説明も仕事のうちさ」

「助かる。ところで、今回のオークションの主催は?」

「キングファミリーさ。あっこは頭一つ組織力も武力も抜けているからな。こういった他勢力も参加するしきりをする時は、キングファミリーがまとめてもらわないとどうにもなんねぇ。それに、先代のキングは荒っぽい人だったが、今のキングはヤクだの賭博だのにもルールをきっちり敷いているし、むかしよりゃ話がしやすい人って話だぜ」

「ふむ、そうなるとオークション自体は信用できそうかな」

「まぁな。よそだと金だけもっていかれて商品が偽物なんてザラにあるからな。そういった時の為に俺等が仲介を引き受けることも多いんだよ!」

「よくできてるな」


まったくよくできていると、心中でグレネットは感心する。

 悪徳の街という評判通り、たしかに治安はよろしくない。だが、その中でも一定のルールが存在し、都市自体が破綻しないようにバランスをとられている。対外的にも何らかのツテやしがらみがあるのだろうが、よく組み立てられたものだと思う。

 誰が作ったかしらないが、この無法の箱庭があるからこそ治安が保ちやすい国なんかもあるのだろうな。

 例えば聖王国みたいな。


「しかし、この国の魚は大きいな」

「湖の魚は餌が豊富だから肥えやすいんだってさ」


エサ。餌。

 どこかで悲鳴が上がったかと思えば、湖に大きなものが落ちる音が聞こえる。

 確かにこの湖なら、魔獣だろうがお魚だろうが食事に困ることはなさそうだ。

 おおまかに中央部、そして北川全体が『キングファミリー』の縄張り。

 色街の主要部のある西側が『オプシディアン・ダリー』の縄張り。

 商業施設や酒場なんかのある南側が『沈黙教会』と『錬金術師総会』などの縄張り。

 それに比べれば東側が『スサ』や『フォルテ一家』など、小規模ながら一定の権力のある集まりが居を置いているという。

 おそらく沈黙教会は確定で聖王国の紐付きだ。名前からしてそれを隠そうとしていない。

 逆に言えばオプシディアン・ダリーは南の民ということで聖王国の影響は低そうだ。

 キングファミリーは、まぁ、平たく言えば中立だろう。街の維持に聖王国側の介入をある程度受け入れているが、かといって、完全に掌握されないだけの能力を持ち得ている。

 下手に暴れてしまうと、そこらへんのバランスを一瞬で破壊しかねない。

 大人しくオークションにだけ参加して早々に引き上げるべきだろうなと、グレネットは苦いお茶を飲み干しながら結論付けた。


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