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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第四章 踏み出しは緩やかに
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■40■ クロウ編 第20話『かつてのマルドゥク神の話とゴーレムの誕生』


 息子が父親を殺そうとし、母親が世界を滅ぼすくらいに怒った。

 その罪から次代の主神として数々の困難と闘った神がいたという。

 神代の頃の話である。

 息子の名をマルドゥク。父がアプスー、母がティアマト。

 その頃の大地は形を定めておらず、虚空であり不定形であり、有形にして無形だった。

 各所で天地創造が始まり大地が生まれる頃、ティアマトは自らの二つに分け、己の在り方を世界の元素と自身の魂の二つにわけることで一度目の死を迎えた。アプスーの手により別たれた魂が新たな身体を形作り、蛇体であったティアマトは美しき女神の姿に転じた。

 残った遙かに巨大な一度目の亡骸は、大地と宙を作る為の材料とされ、住みよい世界が形作られた。

 そして時を経てしばらく、アプスーとティアマトより生まれた数多くの子らは、より神性の濃い場所、母神より別たれた巨大な力の貰える場を求めて喧嘩を始めた。あまりの騒がしさに一度はアプスーが神性の溢れる源泉もろとも騒がしい子らを全て叩き潰してしまおうとしたが、それをティアマトが宥め、若き神々は命を救われる。

 ただ、父神アプスーを横暴と断じ、騙し討ちにて殺そうとする子がいた。

 それがマルドゥクである。

 しかして騙し討ちはアプスーにより気付かれ、マルドゥクは父母により散々に打ち据えられる。その痛みに泣き喚き、謝罪を幾度となく繰り返したことでマルドゥクは許されたものの、その罰として争いや騒動の仲裁者として以降は働かされることとなった。

 弟であるキングー神と共に東西奔走することになる数々の難行は、今も尚、多くが伝説として語り継がれている。

 二人の兄にあたる現世統括を行っていた三大神アヌ、エンリル、エアの引き起こす騒動や災厄を、彼等は幾度となく解決し、時には父母たるアプスーとティアマトと共に彼等を打ちのめすことすらあった。

 後年には神界へ旅立ったエアが大神となったことと入れ替わりにマルドゥクが主神をしばらく務め、神代の最期に起きた悪神による被害を食い止める為に戦った一人となる。実際の討伐はまた別の種族が成し遂げたのだが、世界の崩壊を防ぐ役割を果たしたのち、生き残ったマルドゥクも神界に旅立っていく。

のちに遺された文献では一部を誤って解釈し、父母神を超えた偉大なる神と宗教上でもてはやされることとなるのだが、この父母神による叱責のくだりが明るみになったことでその権威は失墜し、マルドゥクの神殿はしばらく荒れることとなる。

 ただし、続けて調停神としての実績が改めて発見され、再び尊敬されることとなるが。

 しかしてそれも今となっては昔。

 四度の討伐を経て悪神も滅び、神から英雄へ、英雄から民へと世界は引き継がれていった。

 時代は既に、遍く人間達の時代であると。

 そう神々は見守っている。




 さて、そんな世界で好き勝手しているクロウであるが、材料が揃ったことでゴーレムの完成は間近である。さて、ここで遙か過去から連綿と続き、それこそマルドゥク神も一度は悩むこととなった話がある。

知恵と意志を備えたゴーレムは民なのか。

マルドゥクはかつて、兄たる神であるエンリルより『天命の粘土板』と呼ばれるものを預かる。この粘土板は生けるもの全ての個人情報が記載されるとされ、あまりに膨大な情報量を前に、エンリルも扱いに困り、マルドゥクも一人では管理しきれないものであった。

莫大な情報量であると同時に、ここに記される『生けるもの』という線引きすらあまりに不鮮明だったのだ。草や石、水や炎、光や風、神性に満ちた頃にはどこからどこまでが『生命』でどこからどこまでが『現象』であるかすら明確でなかったのだから。

全身が風だの石だの火だのによって出来た存在が無数に居たのだから仕方ないだろう。

マルドゥクとて権能によって嵐を操り、嵐そのものにも成れたあたりで、生きている者というくくりがどれだけ複雑だったかわかる。

結果として、マルドゥクはエンリルやキングーなど幾人もの兄弟と相談し、ひとまずの目安を決めることだ。

意思疎通でき、増殖できるものは『生命』とすることにした。

さて、それではゴーレムはどうなるのか?

翻って増殖、自己の複製は己のみでは出来ない。だが意志を備えることはできる。

そう、クロウが行おうとしているレベルの事となると、それはまさに、新たな生命の想像に等しいといえよう。そこには創造主としての責任と、自らがこの世にそぐわぬ者を創造する危険性が混在している。

まぁそれは通常の繁殖だろうと同じことなので、とやかく言うことでもないのかもしれないが。

ともかく『霊峰の黒砂』と呼ばれる風属性としても最高峰の素材が躯体に合成され、ついにゴーレムの要素が揃った。

水晶の瞳、石膏のような皮膚、頭髪の存在しないマネキンを思わす滑らかな身体に、かつての古王が彫像からガラテアという女性を生み出した時の様に。

神性という魔力より世界を形成する要素に近しいものを媒介にして宿った、新たな魂が、ついには無機質な身体を突き動かす。

水晶の瞳に光が宿り、クロウそっくりな、黒い瞳孔を備える瞳に変化する。

 人形と鉱物生命体の中間、今、ここに新たな命を宿したゴーレムが生まれた。

 

「わた、しは?」

「アルタイル、お前の名はアルタイルだ」


遥か天空に描かれる巨大な鷲。

 その名を与えられたアルタイルは、今日、生命を得た。



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