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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第四章 踏み出しは緩やかに
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■39■ クロウ編 第19話『ゴーレムの材料集めに霊峰へ2』


 霊峰カトマドゥは、中腹からその光景が激変した。

 岩と背の低い木々、そして荒れた急斜面ながらも道の続いていた中腹までと違い、目の前には道もなく、岩肌は尖り、空気は次第に吸い込むことすら困難なほどに薄くなる。雪も降れば、人を軽々と吹き飛ばす突風が気付けば嵐に変わっている。

そのうえで巨大な妖鳥や山肌を駆ける獰猛な獣が襲ってくるのだ。

およそ常人が登れるような場所ではない。

 それでも往来があるというのだからとんでもない人間が霊山の山岳寺院に棲んでいるのは間違いない。話によると古いドワーフの末裔やら、山岳部族の秘された種族やらがいる山村が岩壁をくりぬくように存在しているらしいが、こんな場所で居住できるとはどんな奇跡を使っているのだろうか。

 とはいえ、巨人にして剣術の祖に連なる者、あらゆる難敵を打倒した鋼の種族は伊達ではない。

 神々が用いた魔法より劣るが魔術すら扱い、さらには地理を把握した現在では巨人体を用いずとも大陸をまたぐほどの歩法を扱うクロウにとって、環境も、魔獣も、然したる障害物ではなかった。

 絶壁であろうと凹凸があれば猿より巧みに駆け上り、凹凸も乏しければ五指で岩壁を貫いて踏破してしまうのだ。さらには、岩肌に刻まれた薄く削れた跡、雪の積もりの変化から往来の痕跡を発見し、こんな霊峰に人の手が入っていることに気付く。


「……なるほど。山中にトンネルを隠してあるな」


どんな技術で掘り進めたかも定かでないが、明らかに、人が通れる隠し通路が用意されている。ただし、秘されたものであるのは間違いなく、手順などを知らなければ通るどころか発見することすら叶わないのであろうとあたりをつけた。

 そういった場所に横穴をあけて勝手に使うのもよろしくなかろうと、クロウはそのまま山をずんずんと登っていく。登山ルートや気圧、吹雪などは些事だ。人の大きさをした神秘の塊にとっては世界有数の危険地域だろうとその程度だ。

 むしろ、吹雪があれば魔物を蹴飛ばす必要もないし、険しい道であれば他と遭遇することもないだろうと、容赦なく進んでいく。

 そのうえで山頂に近付くにつれ乱れ狂う魔力と暴風に加えて凍てつくほどの寒気が吹き荒れている。移動どころか呼吸すら阻害される状況では空からこの霊峰に近付くのは不可能に近いい。そもそも、山頂に至るには山中の隠し通路を知らない人間はどうやって上がっていくのかまったくわからないくらいの難所だらけであったが。

 しかし、三日ほど昼夜問わず登り続けた頃、クロウは魔力が遮蔽されている場を察知した。

 あまり山を荒らさぬように気を配ったことと、落石やら雪崩、岩壁の崩落などで斜面から投げ出されそうになったことで迂回したこともあり、時間こそかかったが、それが山岳寺院を守る結界であることを確信したクロウは、少しばかり迷う。

 勝手に入って壊れないといいのだが、と。

 異物の排除や特定手順を踏まない相手の除外や拒否の術式があった場合、その条件に該当しないクロウが侵入しようとしたところ、結界が反応してしまうかもしれない。そうすると、彼の備える神性という名の高密度な力と、山岳寺院とその近辺に存在する集落を覆うこの結界がぶつかりあい、ともすればパリンと結界が割れてしまうことが考えられる。

 悩みどころである。


「ふぅむ」


魔術で探査や調査してもいいが、それだけでも異常と判断されたら迷惑かけることになりかねない。


「仕方ない、本来なら挨拶の一つでもするのが礼儀かもしれないが、避けていくか」


こうして。

 山頂に至る唯一のルートであるはずだった山岳寺院の最奥、秘神殿からの登山道を無視して、大嵐の中を抜けたクロウ。

ついには岩壁に存在していた高密度の風属性の宿る砂礫を発見した。

風により削られ、山の地形によって吹き溜まりに落ちた黒く小汚い砂や岩を。

 それを革袋に詰め込むと、ほっとした顔で空を見た。

 暴風と寒波に包まれていた大嵐からもはなれ、今は雲よりも遙か高い場所。

 山頂。

 遠く太陽が輝く様を眺めるのは、全身を泥と、雪と、魔物の血に汚した一人の青年。

清廉で極限まで薄い空気は心臓を凍らせようとするほどで、空は透けるような透明に近い青さで広がっている。

気付けば、伝説にすら数人しかいない登頂者と同じ場所、霊峰の頂点に、クロウは到達していた。

何かがこちらを見ている気配もするが、接触するつもりもない様子なのでこちらも無視する。

あざやかで、虚飾もなく、世界そのものである光景を前に、しばらく、クロウは景色を眺め続けた。

そのまましばらくの休憩を挟んだクロウは、場を荒らさぬよう山頂から跳び下りた。

そう。

何の躊躇もなく、世界一といって過言のない霊峰の一番上から跳び下りたのだ。

謎の視線が度胆を抜かれる中、風に乗って身を躍らせたクロウは空中を滑るように山から立ち去って行った。

ちなみに、あれは単純に山を吹き下ろす風に脱力した身体を放り込んだだけなので、山の環境などには一切影響を与えることはない。

ただし。

その後、霊峰にある山岳寺院では、結界内部、山岳寺院最奥の山頂へ至る山岳道すら使わず山頂へ登った痕跡が発見されしばらく騒ぎになるが、霊峰に住まう神性存在から事実を知らされ鋼の種族のことを知ることとなり、それでまた一騒動起きるのであるが、それはまた別の話である。

 こうして、ごくごく狭い範囲に騒ぎをもたらしながらも、クロウの材料採集は一週間もかからずに終わった。



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