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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第一章 旅立ちから
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■03■ グレネット編 第1話『大樹海に最も近い街』


 どうしてこうなったとグレネットは思う。

 何度目かわからぬ独白と共にブロードソードサイズの自在剣を振るった。


 ことの始まりはドワーフの国を目指して大樹海を出たばかりの頃。

 簡素な上下の布服に腰に革ベルトで剣を吊った青年は一週間ほどで大樹海の脱出に成功していた。そもそも、彼等の眠っていたのは大樹海でも深部にあたる位置。北に抜けるのが一番近いが、そこは渦潮の多発する極寒の海、東側は樹海に隠された深淵の穴(アビスホール)が存在する危険領域。

残るのは西と南。

西は大樹海から最も近い街が存在する。

ただし、奥地からだと樹木の迷路という距離と戦わなければならない。

鋼の種族として『元の身体』に戻れば二歩か三歩で森を超えられるだろうが、ただでさえ不安定な大樹海に刺激を与えるべきではないと、三人ともその点は自重している。

かくして、歩き、跳び、登り、樹海の中を駆けずり回り、西を目指して直進したグレネットは、ついに樹海の外へ到達した。

 たったの一週間で大樹海の深部から脱出したのだから、それだけでも鋼の種族の強靭さが常識外れであることが解るのだが、跳び出したタイミングというか、場所があまりにも悪かった。

 そもそも鋼の種族が大地に吸収される過程で、局地的魔力飽和という世界的な危機が発生していながら、その異常に気付くものがいなかったは何故か。

それは大樹海という世界的に見ても異質な場所、しかも深淵の穴の近くであったことで関知されなかったからだ。数千年以上、彼等の眠りが妨げられなかった理由もそこに起因する。

その大地の安寧が海神テティス、彼女の父がアイガイオーンの兄弟だったという縁をたぐりよせ、僅か三人であるが目覚めさせることに成功し、魔力飽和による魔力の実体化、魔神や亜神の新生や降臨を防ぐことに成功した。つまりそれは、一か所に留まっていた魔力が、空気の抜ける風船のように周囲へ散っていくということだ。

そして、中から噴き出した風というのが旅立った三人。魔力は、その進行方向に流れ、魔物やもっと大きな流れなどが誘導されてしまうのである。

結論を言おう。

大樹海最接近の街、ベームベームは、魔獣の暴走(スタンビート)を受けていた。

 そこに慌てて駆け付けたグレネットが、自在剣で魔獣の群れを叩き斬っているわけである。



 身の丈5mばかしの狂獣ミノタウロスを一撃。

 この世界にも亜人、魔人と、種族に事欠かないが、悪神の加護を受け、魔物になり下がった者達は等しく誅滅される。悪神の加護を受けたものの特徴は一つ、その瞳が金色であること。 

ただし、瞳を持たぬもの、または人族においてはこの限りではない。

 人族に関しては悪神が殺される頃にはまだ、存在していなかったからという理由がある。

 その為、悪神とは関係なく人族の瞳は金色ともなるのだ。

 逆に、人族との混血を含め、亜人が悪神を信奉する以外で瞳が金色になることはない。

 そういった約定があるのだ。古い古い、血の中に宿った約定が。

 そういった事情から、グレネットは容赦なく、躊躇なく、次から次へ金眼の亜人とそれ以外の魔獣だの魔物だのを叩き斬っていく。それこそ、小山の如き巨人の末裔たるサイクロプスから王の末裔たるミノタウロス、樹海の傍という魔力溜まりが多発するところに生きる強力な魔獣達を剣撃一閃でずんぱらり。

 鋼の種族が肉体に備える自在剣は、大きさを問わず持ち手の振るえる重量へ『自在』に変化する。魂に紐づいた身体の一部である為、念じるどころか呼吸と同じ感覚で大きさも重量も、場合によっては剣の発揮する性質や特性すら自由自在である。

 巨大な岩盤と同じ重さの剣を叩きつけられれば、無事で済む魔物はまずいない。

 下手をしたら街の外壁や大地ごと断ち割ってしまうので、ブロードソードのサイズにした自在剣でもって魔物達をグレネットは屠っていく。

 逆に魔物の爪も、牙も、腕を払いのけ、剣でさばいていくだけで防いでしまう。

 鋼の種族の皮膚は鋼の語源となったほどに硬い。そもそも鋼の種族という名は古ドワーフが鍛鉄の技、鋼の生成を生み出したのち、アイガイオーンが第一子を儲けた時、一族を成した時に送られた名でもあるのだ。

 時に『神鉄』や『真実の金属』とも呼ばれる鋼の種族の身体は、生半可な攻撃では欠けるどころか痺れることすらない。

 始祖の代において、龍の吐息で熱せられ、神に至った存在の鎚を受けて尚退かずに立っていた者こそ鋼の種族達なのだから。

 ともかく、そんなグレネットの活躍から優勢であることを察した冒険者が街を囲む外壁の上から跳び下りてくる。剣槍斧と己の得物で突撃していく面々に対し、後続を焼き払っていた魔術師が閃光の魔術式を空に上げる。

 おそらく、危機を脱したことを告げる信号だろう。

 街の中から聞こえる歓声を背に、そこらの岩に腰掛けたグレネットは剣に革帯を巻き付け、腰に戻した。

 鞘はない。そもそも自在剣はグレネットが命じない限り何も切れず鉄より軽いなまくらでしかないのだ。彼自身の身体も、普段はおおよそ人族の2倍程度の重さに留めてある。

 その重さも、体術でゆるく分散しているので、彼がそれほどの体重と気付く者も少ないだろう。

 戦いは終わった。

 そもそもが大樹海の外、外延にある森などから逃げ出して来た比較的に階位の低い魔物ばかりである。被害こそ出たが、グレネットが剣を振るわずとも解決した程度の魔物達である。

 とはいえ、あとはこの後の身の振りからだ。

 血と泥にまみれたグレネットに対し、開いた門から走り出てくる僧侶の一人が声をかけてくる。


「大丈夫ですか? 随分と軽装なのに、あんな無茶をして」


さすがに魔獣の攻撃を己の手足でいなしたとは思っていないのだろう。信仰する神によってもたらされる神聖術を準備していた僧侶の男性が彼を見て驚く。


「まさか、無傷?」

「あぁ、攻撃はいなしていたからな。他の人間を見てやってくれ」

「わ、解りました。とりあえず、魔獣暴走の協力者は街で申請してください。報奨金も出ますから」

「悪いが今の騒ぎで身分証も財布も全てなくなってしまったのだが」

「あぁ、それは不運ですね。行政か教会で仮の身分証を発行しましょう。詳しい身の振り方はそのあとで」

「助かる」


グレネットは、随分と文化が発達したものだと、どこか他人事のように思った。



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