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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第四章 踏み出しは緩やかに
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■38■ クロウ編 第18話『ゴーレムの材料集めに霊峰へ1』


 材料が足らない。

 ゴーレムの完成途上においてクロウは手を止めた。基本構造、主機関、根幹魔術回路と、大まかなものは出来たのだが、小さな要素が思ったより不足している。このまま組めないことはないが、組むと品質において若干の低下が懸念されるような諸要素。

 魔術回路における諸々の媒介が足らないのだ。錬金術ででっち上げるにしても、バランスを欠くなどとはクロウにとっても好ましくない。

 完璧主義というわけではないが、何の道具であれ万全を好む。

 魔力触媒として希少で高効率の材料だけ集めればいいものが出来るわけではないのだ。


「要素的に言うと、地属性と火属性は十全以上、水も基準値は超えた。あとは、風属性か」


五大元素、地、水、風、火に加えて第五元素。魔術学上ではエーテル、ダークマタ、フォルス、神性、原初要素などいくらでもいうが、そういったものの総合的なバランスを組み込もうとしているのがクロウのゴーレムである。

 属性に介在しない材料として純化したミスリルで骨格や諸要素を作成。

精錬した土で大まかな素体は作ったことで、地属性としての魔術親和性は高い。

火属性は、回路材料に咥えた龍の鱗が火龍のものであったのでこれも高い。

先日、討伐したエターナルフォースブリザード・ゴーレムの素材を使って骨格のコーティングと魔術回路の防護膜を作ったところ、水属性も高いレベルで融和性を得た。

あとは風と、風龍の鱗などを使おうとしたが火龍素材と反発。

龍に関する因性が上がり過ぎても困るので、別材料が必要となった次第である。


「風、風か」


魔力媒介として実は一番難しいと言われているのが風属性である。

まず、水、地のような固体でも液体でもない気体の存在であるし、火属性と違い、発生のメカニズム上、媒介として高い風属性を備えたものが限られる。位階の低い素材であれば、一部の高山植物や風穴の石、竜巻の被害にあった地域の瓦礫などだ。

素材としての位階、魔力媒介としての品質が高いものと入手難易度は跳ね上がる。

まず、風龍の鱗、髭、羽。これは最高位の一つである。

次に、一部の聖域、霊山や禁足地にある結晶化した属性石。

他に、高位魔獣や神獣、飛行石、精霊石なども挙げられる。


「ふむ、少し出かけるか」


目覚めた三人、現存する鋼の種族でも一番好き勝手をやっている男は、今日もまた、散歩に出かけるような気軽さで旅装を整え龍の領域の外へ一歩踏み出した。

 世界を歩き回る鋼の種族の御業、一歩でまったく別の場所に到達する神技。

 風の気配が濃い場所を目指して歩いたところ、巨大なる霊山が目の前に聳えていた。


「ここか」


まずはと人の気配を辿り、近場の街に行き着いたクロウ。

 霊山の麓にある街の名はカトマドゥ。霊山への登山者や、山の奥にある『秘された山岳寺院』を目指す者、あとは、山岳にある希少素材を求める冒険者達が数多く逗留する場所であった。


「この時期になると一株が金貨の山に化ける希少植物や、巨体の魔獣、あとは霊山の気に寄ってくる龍種なんかも居てね、冬の前の時期だってのに何処もおおわらわだよ」


雑貨屋のおばちゃんに話し掛けると、慣れた様子で携帯食や包帯を紙袋に放り込み、その間にも町の様子を話してくれる。

 霊峰シューニャ・アーラヤ山は、大陸を遮る霊峰にして最も高い山の一つとされる。

 アーラヤ山は、その中腹までに山岳部族による小さな村が幾つかあるものの、その峻厳さから中腹から山岳寺院までは道もろくにないという。山岳寺院の僧侶達は、独自に山岳内部を通る洞窟などを知るというが、それとて複雑な経路と出入り口も定かでない為、簡便には使えないという。

 ただ、山岳寺院より上、頂上に近いあたりには、先程の話にも出たような一株でお屋敷どころか国が買えると言い伝えられるような希少植物などが存在し、高位冒険者ですら命を落とすほどの危険だろうと、山に挑戦する者は後を絶たないらしい。

 そんな人々の上を巨大な影が過ぎる。


「帝国の巨大飛空艇だ」


 驚きの声と共に巨大な船影、空を飛ぶ船を指さして行商人の男が叫んだ。

 飛空艇とは空を移動する数少ない手段の一つ。

 元々は帝国と聖王国の間に位置する小国で開発された技術で、それを国同士の同盟という形で利権を得た帝国が自国式に改造し、国内に配備した歴史を持つ。

 小国側の飛空艇が培養炉という独自技術で小型の高速艇が多いのに対し、帝国側は蒸気機関および魔力転換炉複合式という大型の複合内燃機関を用いることで、飛行の安定性と大型船体の維持に特化した形になっている。

 大型飛空艇は、まるで鯨のような巨大な胴体で雲を貫き、そのまま西へ去っていった。

 おそらく、霊峰上空にある乱気流を躱す為に、山脈を迂回することで麓の上空を通り過ぎていったのだろう。

 遅れて大きな突風が吹いたが、住民は慣れた様子で風避けや荷物の影に逃れていた。

 背負い鞄に食料を詰めた旅装のクロウも、荒い風を気にも留めず、そのまま山道へ向けて歩き出す。

 麓に到着した時と同様、空間をまたぐように歩行してしまえばすぐにでも上層に行くことも出来るだろうが、なんらかの要因で誤りが起きると、霊峰の山頂につまずいて山脈全体に激震を起こしかねないゆえの自重である。

 荒れた山道とはいえ、精々が急斜面と岩場、高所に狭路といったところ。

 落下したところで死なないし落石は跳ねのけるし、そもそもが大地はすべからく鋼の種族の足場だ。疲れることも稀な神性を有す肉体は、難所をひょいひょいと進んでいく。高山病も極寒もへっちゃら、魔物なんぞ蹴飛ばして終わり。

 中腹の村には、翌日の早朝に到達していた。

 元々は山間民族達が交易する為に行商や職人が集まる市だったそうだが、そのうち市を求める人間の宿や天候の荒れた日に放牧の馬や家畜の預かりをやる厩舎が出来て次第に村として規模を広げた過去があるという。

 希少植物、山間部の樹木、他は民芸品などもちらほらと見掛ける。

 斜面の別の場所では古い宗教を崇める国もあるので、民芸品の中には宗教用の法具にあたるような品まであった。

 他の面々と一緒に村に一件しかない食堂に座ると、小麦粉を固く焼いたパンに、山岳部の魔物を焼いた骨付き肉を頬張る。麓で換金した金銭も使え、ほっと胸を撫で下ろしていたクロウは、熱く苦い黒色の薬草茶をご馳走になっていた。


「すると、兄さんはもっと上に行くので?」

「あー、山岳寺院の本殿が山頂のすぐ下くらいにあるんだったか、その周辺にある素材が欲しいんだ」


それぞれの集落で伝わる民族言語は独自性が高く同じ部族以外には通じない為、村で話す言語は訛りこそあるものの共用語だ。元々はクロウ達が交易や条文形成の為に現代に至る歴史の中で広げた言語である為、大陸の大半では通じる。


「ここまで一人で来るだけでも大したもんなのに、更に上か。こっからだと魔物の類は更に強くなるし、命だけは落とさんようにね」

「ありがとう。悪いが、あわせて保存食か何かはあるか?」

「干し肉と堅パンならあるけど高いよ?」


人の悪そうな笑顔をする食堂の女将に、クロウも僅かばかりぎこちなく笑った。

 多めに肉を入れた紙袋を手渡し、硬貨を受け取った女将は驚く。

 ぴかぴかの磨かれたような銀貨だったからだ。

 思わず顔を上げると、さきほどの背中は表通りの人込みに紛れてすぐに見えなくなってしまった。


「……ありゃ、何かの神様だったんかな?」


思わず呟いた彼女の手の中では、変わらず銀貨が鈍い輝きを放っていた。



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