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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第四章 踏み出しは緩やかに
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■35■ 閑話2 『六腕の乙女』


 アシャ・ディータ。巨人族と龍種のハーフで、御年180歳。人間年齢換算でちょうど十分の一にあたるので18歳だ。ともすれば眠る時期や長さを考えればクロウと同じ世代である。

 現在は服飾工房で働き、工房では1、2を争う腕前。

 アシャ・ディータは忙しそうに六つの手を動かす。常と同じ服飾の仕事の為だ。

 糸を繰り、布を断ち、一着の衣服を仕立てる。

 巨人の血を継ぐ者には四肢の数が多いものも少なくない。

 彼女も両親の血を受け継ぎ、六つの腕を備える。

彼女は今日も、まるで芸術品じみた綺麗な刺繍で飾られた布を用い、まるで手品のように縫い上げていく。


父を巨人たるアマン、母を龍たるアリアンナ。

巨人族と龍種の混血。

アシャは六つの腕と、褐色の肌、灰色の髪、黒曜石のような眼で生を受けた。

兄弟は三人。兄が一人、姉が一人、妹が一人。

兄と姉は龍種の血が強く発現し、龍体に変じることができる混血龍となった。

妹はどちらの血の発現も薄く、やや大柄な人族に近しい体躯の女性として育った。

残るアシャだけが、巨人の血を最も色濃く継いだ。

それとて、身長は2mを超えることもなく、巨人族としてはひどく小柄だ。

細身なわりに骨太ではあるが、そこまで力があるわけではない。

もっとも、人種と比べれば倍は腕力があるだろうが。


 今日の仕事は龍の奥方様に依頼された衣装作りである。龍種の方は、鱗や、尾の位置の関係から人の身体を模している時も幾らかの細工を肘や膝に首筋周り、尾の付け根に行って行わないと座りが悪いとよく言われる。そういった細かな仕事の上で、シルエットに滞りがないよう形作る。

 龍族は煌びやかなものを好むが、服装に関してはまったく別だ。

 己を飾るものに彩りや大きな飾りを入れることは好まない。

 己を魅せる、と言う意味では、他の種族と同じく拘りをもつのだ。

 首元まで覆う赤いドレスに銀糸の刺繍で華を描く。

瀟洒で不意に目を惹くような艶やかさには加減というものが重要なのだ。

 六つの掌を器用に動かせば、時間はそうかからない。

 蜘蛛より繊細に、蜜蜂より大胆に。 

 仕事が終わってほっと一息つくと、時間はまだ夕方よりだいぶ前だった。

 昼ご飯を食べ忘れたことに落胆するが、今日は誼のある男性の家を尋ねようと思う。


 クロウ。鋼の種族の青年。

 元々はヴリドラ老の紹介であり、写し絵を見た時も然程の感慨はなかった。

 年齢も年齢だし、悪人でもなければ文句もないつもりだった。

 ただ、今の仕立屋仕事を続けさせてもらえるような人だったら万々歳だ。

 家に入れ、子供の世話だけをしろ、そう願う男も少なくない。

 特に龍の男性は保守的な面が目立つ。かつては、授かり辛い時期もあったからだという。

 そういった心配事はともかく、初見は残念ながら相手に気付けなかった。

 仕事中だったこともあるが、なんというか、気配が掴み辛い人であったとアシャは思い返す。

 耳元で「また改める」と、そう声をかけられる瞬間まで気付けなかった。

 その後、便りも再訪もなく別の人と良い具合になったのかと落胆したが、たまたま店に訪れたヴリドラ老にそのことを尋ねたところ、なんとも言い様のない困った顔の上でそういった相手はまだいないことを告げられ、もしよければ改めて会ってみないかと言われた。

 返事をしたのは、自分でもよくわからない。

 なんとはなしに興味が湧いたというか、どうにも彼の存在が頭から離れなかったのだ。

 理由はよくわからない。

 そのまま何時の間にやら家を得ていた相手は、庭先で優雅に本などを読んでいた。

 身長は2m近くあり自分より頭一つか二つ分は高い。そのくせ、前と同じように存在感のようなものが薄く保たれている。

 かつての神代に生きた鋼の種族の生き残りと、そう聞かされた相手。

 ただ、偉ぶったところもなく、礼儀作法にも通じ、丁寧な名乗りには驚いた。

自分も同様に返したものの、すぐに口調は砕けたものに変わった。

なんというか、職人さん、といったイメージがした。

基本は自身の興味があるものの研鑽しかやらない。龍種の位が高い人々に近い気質。

 仕立屋仕事ということにも偏見どころか興味津々で、仕事をする時の話をしてもかなり楽しそうに聞いていた。

 どこか人に不慣れな猫のような青年だったが、憎めない魅力があった。

 なんとはなしに、また会う約束して以降、仕事さえ問題なければ夕食を共にすることも増えた。

 そのおかげで、仕立屋裏にある自分の部屋が、少しばかり湿っぽいことをなんとなく理解した。不潔なわけではないが、どうにも、味の薄い、生きているという感覚の薄い、遊びのない部屋なのだと。

 今日は芋のスープを煮ている時、不意に声をかけられた。


「もし、よければこの家に住みませんか?」


思わず目が丸くなった気がした。


「部屋は余っています」

「考えておき、ます」


もしかして、同棲のお誘い?

 そう思ったものの聞き返すことはできず、そっと顔を俯かせる。

顔色がばれないようにするのに苦労した。

 敬語がとれるようになったら、もう一度聞いてみようと思う。



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