■34■ クロウ編 第15話『ゴーレム作成概論』
かつて大いなる星辰の神と、大地母神が交わった。
星辰の神が名をシュハラ、地母神の名をガイア。
神々の交わりにて鋼の種族が生まれ、シュハラは天空より遠い場所へ還った。
シュハラが舞い上がることで天空という概念が生まれ、ガイアは新たなる夫としてウラヌスを得た。併せて、数多の天空の神々が生まれ、様々な地母神と結びついていく。
貫かれた空に明星が輝き。
数多の交わりにより大地は天と繋がった。
世界は新たな局面に達したと、後に神話では伝わっている。
文字に残す、文を作る、章を綴ると、記録に残すことをクロウとエルフ達が文化として定着させたことで、この世界では神話の時代、それも最初期から様々な記録や作品がこの世に遺されている。神話の時代から現代まで血を繋いでいるエルフやドワーフ、魔族といった種族の影響も大きいが、それらの記録によって発展してきた技術もある。
いわゆる、魔術式と呼ばれる魔力の制御技術だ。
おおよそ魔術式という概念でくくられたこれらは、元を正せばこの世に満ちる魔力という現象再現性、または構築性の存在する一種のエネルギーにおける最小単位を操る技術のことだ。
そして『式』と称されるようになったのは、口頭や筆記やまたはその他の記録方式で、魔力を操作する方程式、または数式でまとめることで効率化を図ったからだ。
そして魔力とは、精神や時間や空間に遍く溢れる因子や粒子や素子を繋ぐ存在感結合子であり、精神や意識と呼ばれる概念への訴求力を持つ場所からの指令に反応する性質を持つ場所や空間など『界』を保つための存在であるとされている。
別の世界ではまた別のものが存在しているとされるが、そういったことは神にでもならない限り観測どころか認識すらできないだろう。
世界中の存在を結びつける可能性の素子、それが魔力だ。
神や神に等しい存在の持つ神性や、神通力と呼ばれる力は更に事件が異なるものとも呼ばれるが、大きな違いは然して無いとクロウは考えている。意志の力で直接いろんなものを改変できる力、それが神通力やら神性、魔力くらいの認識だ。
そもそも、前述の魔術式と魔力の関係やそれぞれの意味だって、元々はエルフや他の神性が話している時の仮説として唱えていたものだ。
そこらの心理を掴んだ存在は大抵が本物の神様になったので、実際のところがどうなのかはクロウも知らない。いや、興味が薄いといった方が正しい。
つまるところ、接着剤はくっつけば接着剤だし、水は飲めれば水だ。
役割を果たす要素であれば、それ以上のことは興味が湧いた時にでも考えればいいのだ。
さて、そんなクロウであるが、ここ最近新たに制作しているものがあった。
ゴーレムである。
かつて泥と人間の血で象り、魔術的な刻印で制御した人型。
そういったものを寄せ集めた現代知識と龍という材料と、神性を持つ存在の加工が集まった場合、どういったものになってしまうのか。
たまたま、買い物に出た時に近くを歩くどこかの家中の使用人を見た時、ふと、彼は思いついてしまったのだ。
なんというか、そのせいで何かが生まれてしまおうとしているあたり、神性をもつ時代の存在だが。
まず龍の鱗を縦横1cm四方の正方形にカットする。生半可な聖剣や魔剣でも切断しきれない鱗を。
次に、鱗の表面に、髪の毛より細い溝で刻印していく。先程も言ったように、傷つけることすら困難な鱗に対し、自在剣を針より厚みが薄い細工刃に変形させ、カリカリと彫り込んでいく。
その紋様が肉眼では判別困難なほど複雑な幾何学模様、古代共通語の綴りを使った魔術式と様々な線を用いた魔法陣を組み合わせ、回路を描いていく。
その『魔術回路が刻まれた鱗』がまず20枚ほど。
次に、黒い樹脂製の1辺50㎝ほどの板を製造。
そこからミスリル合金を同質量の常温液にする。
これは地属性の魔術式による干渉と錬金術の応用だ。
魔力導体として非常に優れた媒体であるミスリルであるが、通常は極高温まで高められる大型特殊反射炉か、レイラインを用いた龍脈炉、またはドワーフの一部のみが製法を受け継ぐ霊山炉、あとは火龍の肺と高位の錬金術を組み合わせた最上級錬金炉などでしか作れない。
それを、己の神性によって支配下においた金属とすることで、錬金炉を用いなければ不可能な工程を省略しているのだ。
樹脂盤にミスリルによる魔術式を定着させ主要部分を鱗、集積魔術回路を組み込む。
モザイク画のように魔力回路が組み合わさっていき、膨大な式の組み合わさった魔法陣が完成した。
表面を龍の鱗の粉末と地属性クリスタルを混合させた透明のケースで覆い、ケース内部空間の固定化。これでケース自体が破損しない限り、魔術式の励起を覗いた全ての環境影響を排することができる。
丸一日、それらの作業に費やしていたクロウは、晩飯にするかと地下にある工房の椅子から立ち上がった。
台所に立とうと、一階へ戻ると、何か家の前が騒がしくなっていた。
客かと思い玄関を出る。
するとそこには、青い顔をした魔術師らしき男と、何か困惑した顔のアシャが門のあたりに立っていた。
「あぁ、こんばんは。今から食事にしようと思っていたがもしよければ」
「あ、はい。是非。ところで何かこの方々、ご用事がある、とかで」
「それは失礼した。何か御用が?」
早々に門へ招き入れたアシャとクロウは二人、門の前に立っていた青い顔をした男を見る。
男は、唇を震わせながらもクロウを見た。
「あの、貴方は、何か、魔術的な儀式を、行っておられましたか?」
「いや、多少の工作をしていたくらいだが」
「ど、どのような?」
「手遊びですよ。他所に迷惑をかけるようなことでもないのでご安心を。それでは」
一礼したクロウは、アシャの背を押しつつ踵を返した。
取り残された男は、門に手を置くも、なにかを考えるそぶりのあとそのまま立ち去っていた。
「いいの?」
「よくわからないですし、流石に夕食時は遠慮してもらいたいので」
「夕食は?」
「なにか焼こうかと」
「鳥?」
「そのつもりでしたが」
「じゃあ、スープ作るから」
「ありがとう」
意外というか、なんというか。
存外に、二人の距離は縮まっていた。
芋のスープと鳥肉のソテー、そして柔らかい白パンというごくごく普通な食事。
意外な手際の良さにアシャが驚くまでがワンセットである。
それもそのはず。
鋼の種族とは、腕力自慢でありながら器用さも兼ね備えている。
そうでなければ生活もままならぬからだ。
岩盤を叩き割る腕力を始終発揮するようでは日常を送ることなどできるはずもない。
ほんの吐息一つで家を吹き飛ばしかねないのだ。それこそ彼等は、力を可能な限り制限して振舞える。
単純に全力を10とするなら、龍の若者達に稽古をつけている時ですら100分の1といったくらいである。人間を相手にする時は1000分の1以下に抑えている。でなければ、剣を使うどころか腕の一振りで都市を吹き飛ばしてしまえるのだ。
神代に生きた種族を軽んじてはならない。
とはいえ、我を忘れるほどに憤怒するほどになればその加減も期待できない。
その日、人類と鋼の種族の戦争になるだろう。
下手をするとその日が人類の終焉になるだろうが。
マグマも氷河も気にせず泳ぎ、神格の攻撃を凌ぎ、大陸の重さと同じくらいの伸縮自在、次元だろうが時空だろうがおかまいなしに断ち切る剣を振るい、巨人にもなれる存在。
それが鋼の種族だ。
古龍どころか始祖代の龍であるヴリドラ老ですら戦えば相討ち覚悟になるのだから、人類の何割を犠牲にして倒せるか。
まぁ、その前に残り二人が止めるだろうから、最悪の事にはならないだろう。
ただし、鋼の種族全てを敵に回した場合は神々の仲裁でもなければ諦めるしかない。
今のところ、芋スープすすって、パンに齧りついているので、大丈夫そうだが。
「このパン、美味しい」
「あぁ、裏の通りで、ドワーフの親父殿が焼いていて」
「今度案内してもらっても?」
「勿論」
愛と平和というのは実に素晴らしい。
今日も今日とて、神代の戦士が実に自堕落に生きていられるのだから。




