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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第三章 安寧と奔走と自由と
32/59

■31■グレネット編 第7話『圧倒的に簡単なダンジョン問題解決方法』


 ドワーフ王国王都では、アーティファクト事件に端を発する騒動が起きていた。近接ダンジョンでの魔力活性化、ダンジョン内環境の激変、そして、解決する為に訪れた召還師が行方不明になると、混迷は次第に深まっていった。


「ダンジョン内で、マグマに封鎖された場所が増えたぞ」

「火蜥蜴が増えた。サラマンダーもいた」

「炎のジンがいたぞ。あんなの、ダンジョンでも最下層付近のやつじゃないのか?」


ダンジョン隅のテーブルで周囲の話を聞いていたグレネットは悩む。

 自分だと被害が出る可能性もあるのでなんともならないが、クロウならどうか?

 ただ、下手なことされると混乱に拍車をかけたうえで解決していき、その後にもっと問題が出てきそうな気がするのが怖い。知識もあるし有能ではあるが、基本的に諸事情を考慮しないのだ。あいつは。

 オルガンはこういったことは得意でないだろうし、年若いあいつに迷惑かけるのも躊躇われた。

 行方不明の召喚師を探すとしても、地の気配を読み解くだの、探索術式を敷くだの、そういった技能は苦手なのだ。鋼の種族でも多芸なのが、やつと、その兄貴だったシャブダイくらいだろう。

 やはり、知恵だけでも借りてみようと、クロウを頼ることにした。

 鋼の種族のとある男が、剣を用いた信号のやりとりを編み出した。

 空間を渡るだの、剣で大気を揺らすだの、大半の者は理屈など理解できないがやり方はすぐに覚えた。彼等にとって自在剣は三つ目の手で、神経の通った肉体の一部であるからなんとはなしにすぐ把握してしまった。

 行動が王宮にばれないよう、一時的に借りた宿屋の一室にて、大体の方向である北に剣を向けて、拳で強く叩いた。

 こぉんという短い音と共に、増幅された剣の振動が、どこぞへ飛んでいった。

 しばらくの時間を置いて、同じような振動が返ってきて剣がうわんうわんと震えた。

 それぞれ「来られるか?」と、「行く」という短いやりとりである。

 近くの酒場で個室を借り受け、半時ほど待っていると「お連れ様がおいでです」という店員から声掛けに応じると同時、クロウが音もなく部屋に入ってきた。

 人の気配や魔術式の気配がないところを擦り抜けて、街の傍まで『歩いて』きたのだろうと然して気にもしなかった。そういったことは得意な男なのだ。

 ただ、オルガンなんかは下手をしたら街の外壁を踏み抜きかねないので、呼ぶ時は注意しようと密かにグレネットは想った。

 簡素なスラックスにシャツ、そしてベストと、どこぞの若君のような洒落た格好であるが、腰には常と同じく片刃の自在剣が吊るしてある。知らぬ者が見れば騎士か貴族とでも思われそうだと、グレネットはため息を吐く。

 適当に二人は料理を頼むと、グレネットはエール酒、クロウは冷えた水に口をつけた。


「すまん、世話をかける」

「いい。ところで、何かあったか?」


そこでアーティファクト事件に端を発する騒動について、グレネットは現状をクロウに語って聞かせた。


「召還師が行方不明になって数週間。現状、国を支える柱でもあったダンジョンは危険度を増して休業や、別の場所へ移動する冒険者も増えた。一部のダンジョン産である資源が止まっているのもまずい」

「アーティファクトをなんとかしないと、いかんと」

「あぁ。ただ、正直、自分が出張ると」

「鋼の種族として事件に巻き込まれること、周囲に影響を出ることを懸念して動くのを迷っていたと」

「正直、自分はそういったことが不得意だからな、何か手段はないものかと」

「ふむ」


廊下に人の気配を感じたクロウが僅かに黙る。

 店員のノックに返事を返し、持ち込まれた料理の配膳が終わって店員が去ると、不意に口を開いた。


「原因だけならすぐにどうとでも出来るが、どうしたら影響が出ないかまでは、正直わからん」

「……というと?」

「あー、召喚師は殺されているだろうから探すのは無駄だろうな」

「まぁ、おそらくな」

「マグマの中というのはネックだが、アーティファクトを拾ってくるというだけなら、俺が潜ってとってくればいいだろう。まぁ、この場に俺がいるのを知っているのはさっきの店員とお前くらいだから、地下まで急げば半日もあれば終わる」

「ただ、突然アーティファクトが除去されたことを、どう説明するか、だな?」

「そこらへんのことはお前がなんとかしろ」

「え?」

「ちょっと行ってくる」

「ちょ、待っ」


気付けば料理を平らげていたクロウがそのまま部屋を出ていった。止めようとはしたもののタイミングを外されたグレネットが立ち上がる時には、既に店内からクロウは立ち去っていた。

 追いかけると泥沼になるのはさすがに解っていたので、仕方なく自分も料理を平らげると店を出た。

 半日後、ダンジョンから魔力の気配が薄れたことに気付いてしばらくすると、昼間と同様、散歩から帰ってきたような気楽さでクロウが戻ってきた。


「やる」


テーブルにごろりと転がされたのは、おそらくアーティファクトと思しき造詣の歪んだ何かの遺物。マグマの影響か、何か所かに焦げた痕跡はあるものの、中核となる宝石らしき部分には傷一つなかった。


「ダンジョン自体の不活化と、今回の騒ぎを利用しようとした馬鹿はお前で頼む。そろそろ晩飯時だから帰る」

「……あぁ、世話かけたな」


結局、厄介ごとの始末は自分がやらなければならないのか。それも特大のものを。

よっぽどのことがない限りにクロウに頼むべきではないと再認識したグレネットは、テーブルの上に転がるアーティファクトを恨めしそうに睨んだ。




 アーティファクトについては残念ながら解決策が思いつかず、早々に王宮を頼ることにした。知人の伝手を頼って解決したことをぼかしながら伝え、回収したアーティファクトに関してはドワーフ王国を通して返還手続きをとって欲しいと。

 王宮では、アーティファクト回収ということで大きな騒ぎになった。

 保管については王が責任を持つと、宝物庫へ一度収蔵されるそうだが、妙に焦ったような様子をした国軍の将軍が、視線を彷徨わせているのが印象だった。あれは追い詰められている、というより、何かの兆候を探っているような様子だった。

 アーティファクトによるダンジョン活性に伴う騒ぎを助長した相手を、か。

 おそらく王宮内に、その関係者がいると考えているのか。

 その視線がこちらに定まり、何かを決意したような表情をしたのが非常に嫌だった。

 これは、お鉢がまた回ってくるな。

 そこで一計を案じることにした。


「国王様、一つ懸念していることがありまして」

「ふむ、何をですかな? グレネット殿」

「今回の件、精霊の悪戯に端を発しております。また宝物庫から宝を持ち出されては一大事、備えをしておくべきかと」

「具体的には何を?」

「さすがにドワーフ国の宝物庫、精霊とはいえ簡単には侵入できないでしょう。ですが、人が魅了の術などで誑かされる可能性があります。アーティファクトのことを知るこの場のお歴々には、制約の魔術を用いては如何かと」

「ほう、内容は?」

「宝物庫よりアーティファクト持ち出すは王の許可を必須とすること、そして、アーティファクトの騒動にて二心ないこと」


その言葉を聞いた瞬間、外務大臣を務めるドワーフとしても一際太った男が手を挙げた。


「さすがに全員ともなりますと時間もかかります。幾つかの組にわけて行いましょう」

「うむ、その通りだなオルドネン外務大臣。まずは出入りの多いお主らから先に行おう」


オルドネンと呼ばれた外務大臣の顔が引きつる。

 動きの速い近衛兵が即座に制約の儀式を担える神官を連れて来たのが決定打であった。

 青い顔で震えるオルドネンは、その罪を自白することとなった。




 ダンジョン産出物の規制に伴う外国からの輸入拡大、自身の権益の増大。

 聞いてみれば実にさもしい野心であった。このような小虫が国を食い荒らすものなのかと、グレネットは思わず唸る。チャンスがあったから飛びついたというのだから、えてして小悪党というものは度し難いと思う。

 捉えられた外務大臣は極刑、関係者にも影響の大きさから重たい沙汰とされるだろう。

 ただ、王宮内の力学など欠片も興味のないグレネットは早々にその場を後にした。

 騒動も片付いたし、そろそろ頃合いかもしれぬ、と。



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