■02■ 序章3『動き出す3人』
鋼の種族、その目覚めた三人の若者。
あるきまわる者。
石くれ。
暴れる風。
彼らは始祖たるアイガイオーンから数えて孫の世代にあたる。伝説として今も語られている祖父が山を均し、龍を叩きのめし、海を押しのけて歩いていた神に近いほどの強者であったのと比べれば、百分の一程度の力もないだろう。
それでも、伝説、ともすれば神話の時代に生きた存在である。
人間どころか、年若い龍であれば簡単に打ちのめすほどの強さを持つ。
そんな存在が好き勝手に歩き回っていいものかという躊躇いは未だある。
しかし、寝床にも戻れない。
どうしたものかと巨漢の青年達は思案する。
そのうち、石くれが最初に立ち上がった。
「ドワーフの国に行ってみようと思う。妻の、その後が知れればと」
その言葉に頷き、暴れる風も立ち上がった。
「帝国へ向かうよ。今の時代の文化も学びたいし」
最後に、あるきまわる者。
「あー、なら、龍の領域に、俺は行ってみよう」
方針の決まった三人に、テティスは再び呼び掛ける。
『じゃあ三人に新しい名を与えましょう。これからのことは、まぁおいおい考えなさい。あまり神界から干渉すると、よからぬ存在を刺激しかねないから私としての導きはこれが最後ね』
「あー、世話になりました。感謝します」
『どういたしまして。貴方の名前は鴉。どこまでも飛ぶクロウとしましょう』
あるきまわる者。新たな名をクロウ。
「俺も感謝を」
『いえいえ。それでは貴方の名前は花崗岩としましょう。硬い石、グレネット』
石くれ。新たな名をグレネット。
「あの、ありがとうございました」
『いえいえ。貴方の名前は風琴。奏でるもの、オルガン』
暴れる風。新たな名をオルガン。
そして三人は旅立つ。
クロウ。
グレネット。
オルガン。
彼らの行く末を知る者は、おそらくまだいない。
序章完結です。
以降は各人の視点にて物語は進行致します。