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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第三章 安寧と奔走と自由と
27/59

■26■ クロウ編 第11話『ダメ男の道楽的才能』


 書庫の住人、本狂い。ろくに表に顔を見せないクロウの評判がそうなるまでそれほどの時間は必要でなかった。そもそも、龍族の大半が己の鱗だの血だのを一定量、通常の物流流通に乗せれば生活に困らないだけの金銭も手に入る。そもそもの衣食住に関しても娯楽的な目的がなければ必要とせず、究極的に言えば一般社会と隔絶した存在であるので、働く頻度が少ない程度ではなんとも思われない。

 一部の技術職や真の龍を目指す者達が練習や研鑽の為に日々を費やしているが、そういった趣味や目的がない者にとって龍で過ごす時間というのはあまりに長い暇潰しになるだろう。

 日々を貴族や特権階級まがいの享楽にふけるというのも手ではあるが、同じような行為を繰り返すというのは、そこに変化や目的がない限りはどんなことであれ飽きが来るのだ。

 その点、読書や研究という魂にまで染みついた趣味を持つクロウは飽きたら別の分野に手を出していくだけで、史学、文芸、錬金術、料理から狩猟、果ては薬学まで面白そうなことがあれば書面に書き付け、何冊ものノートを書き記していた。

 さすがは書と記録文化をエルフと喧嘩しつつ生み出した者といえるだろう。

 さて、そんなクロウであるが、今日は今日とて、芋などを使って料理をしていた。

 一口サイズに切りそろえた芋を油で揚げていき、塩などを振る実にシンプルなポテトフライであった。黒茶と呼ばれる発酵茶を冷やし、揚げたての芋を齧る。ほくほくとした触感とカリカリとした表面、実によくできたものだと自画自賛するほどであった。

 一山ほどこさえていたポテトフライをつまみに、真新しい冒険小説を読み耽る午後、油で汚れた手でページに触れないよう、器用に片手で小冊子のページをめくっていると、いつぞやと同じように裏口からヴリドラ老が顔を出した。


「ほ、美味そうじゃの」

「あぁ、もしよければ」

「貰おうかの。ふむ、揚げ加減もよいし塩も効いて美味いのう」


家のテラスで無骨な木製椅子に座り、もそもそとポテトフライを食う龍と鋼。

 別段今日は用事もないらしく、芋を食いながらヴリドラ老は世間話を口にする。


「おまえさんとこの同族二人、それぞれ目的地に着いたようじゃぞ。オルガンと名乗っている方は帝国の貴族屋敷で庭師見習い、グレネットと名乗っている方は、冒険者なんぞをやりながらドワーフ国の王女と親しくしているそうだ」

「あぁ、グレネットに関しては、おそらく子孫に会えたんだろうな。あいつ、ドワーフ王国にとっては始祖代の存在でもあるからな」

「なるほどなるほど。帝国の方はこれといった事件もなく平和なようであるが、ドワーフ国の方はちときな臭いようでな。なんでも、ダンジョンの奥に、アーティファクトが取り残されて、魔力異常の原因になっておるそうでの。グレネットはそれに関わる気はないようだが」

「よほどのことがなければそうだろうさ。アレは女か身内が関わらなければ基本的に排他的だ。容姿の所為で苦労した分、他人と関わり合いになるのが俺とは違った意味で苦手だからな」

「オルガンの方は、これといったトラブルもないようだが」

「人好きのする性格だからな。そう困ることもなかろうさ」

「ふぅむ、神代の時代に生きていた者がそこらを出歩くようになれば、そこそこの騒動になると思うとったんじゃがのう」

「わざわざ世の中を乱そうなんぞ思っとらんからな。よっぽどのことでもなければ大人しくしてるものだろう?」

「よっぽど? たとえば?」

「そうだな」


本を閉じたクロウが視線を上げる。


「仲の良いやつが攻撃を受けるか、納得の出来ない理不尽なことを目撃するかした時だな」

「それは、そうじゃろうのう」


身体の大きさのみならず、存在感や気配をある程度抑制や操作してみせるという生粋の戦士達である。その実力のほどを理解していない不作法な人間が絡めば、どれだけの事件や事故が起きるのやら。

 くわばらくわばら、簡単には手の届かないそれぞれの場所にいる二人と、その周りのことを祈り、ヴリドラ老は短く目をつむった。

 そして。


「ところでの、アシャ嬢ちゃんとの仲はどんなもんだの?」

「…………さぁな」


近所の爺のような興味の示し方をしたヴリドラ老に、クロウは沈黙を選んだ。

 ただ、芋を揚げて頬張っていたその瞳が、僅かばかり色を変えたのにヴリドラ老も気付いていたが。


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