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■01■ 序章2『今を知った3人』


 鋼の種族。かつては『歩く山脈』、『つるぎの人』、そして『約束する者』と呼ばれていた。かつての始祖達による大戦争において、その終戦の契機となったのが鋼の種族と、祖龍との和解である。

 未だ遠く天と地の間には知性を持ち始め、獣から脱した種族が生まれ始めた頃。

 山岳を蹴散らし、雲を吹き飛ばし、それでもなお昼夜問わず戦い続けた者達がいた。

 いかなる山よりも大きく、どんな獣よりも獰猛な一体と一頭。

 片方は黒い装鱗を備える龍。その名をイグロン。

 片方は鋼の皮膚を持つ巨人。その名をアイガイオーン。


『我が同胞が殺された! 我が家族が殺された! これを赦してなるものか!』

『お前が俺の子を殺した。お前が俺の子の友達を殺した。だが、俺はもう赦したい』


自在剣と呼ばれる大剣。鋼の種族が生まれ出でた時より備える三本目の腕。

その切っ先を下げ、アイガイオーンは彫像じみた鋼の顔を曇らせる。


『死んだ者を悼みたい。墓をこさえて、こんなことは、もう止めたい』

『………おぉ! おぉ! おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


イグロンは泣いた。それから再び爪を振ろうとはしなかった。

 それから龍と鋼は約束をした。お互いに殺し合わぬよう約束を。

 この約束をきっかけに、大戦争は収束していく。

 故に鋼の種族は『約束する者』とも呼ばれているのだ。

 生まれた時より携えた自在剣。

 断つこと焼くこと穿つこと叶わぬ鋼の皮膚。

 約束を司る始原の言葉。

 いかなる場所も踏み越える歩み。

 それらを備えているからこそ鋼の種族の名を冠していたのだ。

 やがて戦乱から多くの種族と、知恵と、技術と、決まり事が生まれた。

 人と言う種の始まり。ドワーフの鉄の技。エルフの森と風の知恵。不戦の誓い。

 古い古い時代、歴史の始まりの頃、今となっては伝説となった世代である。


 そして今。


  巨大な女神像の前に、その始祖代から数えて孫にあたる三人の男達。

 全員が巨躯を誇り、まるで鋼線を束ねたような細く硬い筋肉を身に纏っている。黒髪も、灰色の肌も、柔らかくも鈍い光沢を放っていた。


「あー、テティスさん、一つ、聞いても?」


最初に口を開いたのは、寝ぼけ眼を歪めた青年。眼つきが悪い所為か、あまり人相がよろしくない。


『貴方は?』

あるきまわる者(ヴィアトーレム)

『そうですか、あるきまわる者(ヴィアトーレム)さん、古い名前は力をもつので、通り名を用意した方がいいです』

「考えておこう。だが、我々が好き勝手にあー、そのー、嫁探しなどしたら、おそらく世に迷惑がかかるぞ」

『それが? 生きて、他者と関わり、命を謳歌するとはそういうことでしょう? 大いなる力を備えながら何もせず、ただ眠ることを最後に望んだ貴方達がおかしいくらいです』


そこで二人目の青年。怜悧な容貌の美男が口を開いた。


「なぁ、そもそも何故俺達を目覚めさせた?」

『貴方は?』

石くれ(ラピス)

『そう、石くれ(ラピス)さん、始祖以外の大半がこの大樹海で眠った所為で周辺の魔力が飽和しかけています』

「つまり?」

『世界のバランスを崩しかねない魔神だの、この世を崩壊させる亜神だのが、貴方達の所為で自然発生しかねません。貴方達は別のところにいってください』

「……俺達が迷惑になっていたのか」

『元々は大地の魔力として世界に還元されることで正常性が保たれていました。ですが、大樹海という場が安定してしまったことで、魔力溜まりが出来るようになってしまったこと、あわせて樹海によって隔離された深淵の穴によって『ひずみ』が生じて、その影響を受けているという事。それも、いままでは樹海に住む者達が管理してくれることで平和は保たれていましたが、その一族もここ数百年で数えるほどまでに減ってしまっています。深淵の守人として行っている本来の仕事も、そういった事情の絡み、貴方達の影響で難しくなっているのですから、まさに大迷惑なのですよ』


心底傍迷惑だという口ぶりに三人が短く黙り込む。

 その空気を払おうとしてか、三人目、二人に比べると少し歳の下、柔らかい頬をしたまだ少年と呼んでもよさそうな顔立ちの彼が口を開いた。


「あ、僕は暴れる風(テンペスタス)、たくさんいた一族の中で、僕達が選ばれた理由って?」

『選んだわけではありません。私の声で目覚めたのは、貴方達三人、たったの三人だけだったのです。地表に近い位置にいたのか、それとも自意識が強かったのかは私にはわかりませんが』

「なぜ貴方が呼びかけを?」

『現世に影響力がある世代の神で、貴方達に縁があるのが私しかいなかったからです!』

「へ、へぇ。それで、これから始めるのがなんで嫁探しなの?」

『若い男なら番が欲しいものでしょう? 目的としてちょうどよさそうだし』

「目的?」

『貴方達に、そのまま死んでもらうと、死んだ場所がまた困るのよ。仮にも神代に縁を持つ世代が死んだらそこがまた新しい聖地やら魔力溜まりやらになるもの。だから、家族を作って、血を継いだうえで天命をまっとうして欲しいの。古い存在は魂を分けていくもの。貴方の始祖や親のようにね。そうやって死んだり、もし再び眠りについたりした時に影響が出ないように』

「そう、なんだね……」


さも当然と言わんばかりの口調に三人が顔を見合わせる。

 この女神の考えはわかった。この場で再び眠りにつくべきでないことも。

 ただ、石くれ(ラピス)が首を傾げつつ再び口を開く。


「自分はかつて既婚者だったんだが」

『知らないわよ。神性の譲渡や分割が行われなかった理由があるのか、まったく別の要因で蓄積されたものがあったのか、ともかく、目覚めた貴方は今も神性を備えているわ。もう一回お相手を探しにいきなさいな。どっちにしろ、このままここに居られると迷惑なのは一緒なんだし』

「お、おう」


結局は、ここから出ていけ、という事情は変わらない。

 この場に眠る人数を減らさねば、悪影響が出るのだから。

 そして目覚めたのはたった三人。


「だとしても、この時代のことが何もわからん。何処へ行く?」

『行先の候補なら考えてあるわ。

 一つは、ドワーフの国。元々、始祖の頃からの友であるし、貴方達の事もきちんと伝わっているはずよ。おそらく友好的に接してくれるでしょうし、排斥される可能性は低いでしょうね。まぁ、それも立ち回り次第にはなるだろうけど。

 二つ目、この時代でも指折りの大国である帝国へ向かうこと。異種族に対する差別も少ないし、技術的な水準も高い。この時代のことを広く理解するなら、帝都でしばらく学ぶのもよいとは思うわ。ただ、お金を稼ぐ手段をきちんと考えることね。

 三つ目、龍の領域。貴方達と同じように力ある種族である龍種が隠れた世界よ。イグロンが存命かはわからないけど、古い約束があるから、貴方達も居心地は悪くないはずよ。ただ、争いになったらどうなるかはまったく想像がつかないわね。世界は滅ぼさないでよ?

 逆におすすめしないのは聖王国と呼ばれる国に行くことね。人族以外への排斥も差別も国ぐるみであるから居心地は最悪でしょうね」


 選択肢はとりあえず三つ。

 三人は、目覚めて最初の選択をすることになる。


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