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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第二章 それぞれの生活
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■14■ オルガン編 第4話『貴族付庭師見習い』


 自在剣。鋼の種族の得物であり、身体の一部である。産まれながらに備える機能であるが、この剣を自らの手と、指とすることが出来た時こそ、鋼の種族としての成人にあたるのだ。

 その剣は伸縮自在、形でさえ選ばない。

 多くのものは習慣的に剣とするが、それとてクロウは片刃の山刀とし、グレネットは飾り気一つないブロードソード、そしてオルガンは普段だと細身の長剣としている。

 だが今、オルガンの腰にあるのは刃の長い庭園鋏へと姿を変えた自在剣であった。


「あんたが新しい庭師見習いか」

「あ、はい。オルガンと申します」

「ではオル、これからお前の指導にあたるのは、三年ほど先輩のマルクマンだ。態度の次第によっては区役所に申し送りして帰ってもらうこともある。励めよ」

「よ、よろしくお願いします」


口数少なげな庭師の棟梁に頭を下げるオルガン。

 そう、オルガンは、帝国貴族の庭園管理を務める庭師見習いとなっていた。




 話の経緯はそう複雑ではない。

 区役所直轄職業安定所担当員であるところのツリメー嬢によって、荒事を嫌い、穏当な性根、大柄だが所作に粗暴なところがない点、地属性の魔術式や剣術のさわりを知ると申し出た才能を鑑みて、幾つかの候補を彼に提示した。

 一つは帝国区役所中央部管轄の清掃員。

 一つは鍛治ギルドの鍛冶師見習い。

 一つは貴族屋敷の庭師見習い。

 それぞれ、清掃員は帝都管理上行政監督下で安定した収入にはなるが労働条件上常に人手不足、次に鍛冶師見習いは募集条件こそ緩いが過酷な環境から常時募集となっているもの、庭師に関しては最近になって募集要請のあった新しい依頼である。

 その中でオルガンが選んだのが庭師見習いである。

 そのまま職員であるツリメー嬢の説明に従って紹介状を手に訪れたのがイリーシャン侯爵所有の帝都駐在邸宅。黒い屋根が特徴の大邸宅である。

 庭園の広さも帝都で有数とのことで、下手をすると迷宮のように迷ってしまいそうな様相であった。


「いいかい? イリーシャン侯爵のこの庭園は、侯爵領における花卉栽培(かきさいばい)の見本市でもあるんだ。だから、勤め人の数も多いし、幾つかの花や樹木には選任の庭師がついていることもあるから覚えておく必要がある」


先輩にして指導役として名乗られたのは、マルクマンという金髪の偉丈夫だった。背の高さこそオルガンより頭一つ低いが、しっかりとした立派な体躯で、まるで大樽に手足が生えたような頑強そうな男だった。

 隣にはマルクマンの同期でアルバガッドという男もいる。こちらは小太りで焦げ茶色の髪と口髭の男。どちらも外見のイメージとは違い口調も丁寧で、深い見識を感じさせるのだから面白い。

 今度はアルバガッドの説明によると、イリーシャン侯爵領では、主に希少な植物の管理栽培と、草花を取り扱う花卉栽培業の二本柱で利益を得ている侯爵領であり、花卉栽培の見本としてこの庭園に人を招くことも多いのだという。

 その為、この庭園には専属の魔術師を含めて常駐する庭師は20名を越え、その特性上、音質栽培から水耕栽培、季節外のものを維持する為には魔術的な設備も使うということで、通常の庭師が扱わないような設備や技術も多数存在するという。


「そのせいで、一般の庭師が手を加えるとどんなトラブルが起きるかわからない。普段は侯爵領で育てた人間のみで庭園を管理しているのだが、今年の梅雨に起きた水害で公爵領から離れられない人間が増えて、こうやって帝都の行政に頼んで人員に都合をつけてもらっている」


そう事情説明をしめくくったアルバガッドは三つのことを厳命した。

一つ目、指示がない植物には触らない。

二つ目、魔術的な素養から気付いたことは全て報告する。

三つ目、防犯上、夕方以降に作業は行えない。

一つ目は、魔術的な管理などを含めた独自技術に関係するので、作業に猫の手さえ借りたい状況である今だとしても、指示以上のことは行って欲しくないとのこと。

二つ目は、庭師と魔術師の素養を兼ね備えた人間は少ない為、魔力漏れや魔力溜まりを発見した場合は、指導役か他の先輩に声をかけて欲しいとのこと。

三つめは、保安上の理由で、御屋敷付の召使と庭師以外は夕方を目安に屋敷への立ち入り禁止になるということ。過去には、貴族令嬢への贈答目的で庭園の希少花を持ち去ろうとした慮外者がいたそうな。

ともかく、そんな形でオルガンの仕事は始まった。



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