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鋼の種族は花嫁が欲しい  作者: ザイトウ
第二章 それぞれの生活
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■12■ クロウ編 第4話『鋼の種族はそもそも恋人を作れるのか』


 アシャ・ディータ。巨人族と龍種のハーフで、御年180歳。人間年齢換算でちょうど十分の一にあたるので18歳だ。ともすれば眠る時期や長さを考えればクロウと同じ世代である。

 現在は服飾工房で働き、工房では1、2を争う腕前。


 ウリスルシャナ・ボーディガン。古龍種、御年360歳、人間年齢換算不可。古龍種なので、下手をすれば数千年生きるが、まぁ、然程精神年齢は離れていないだろうとは思われる。

 現在は龍の領域における農地管理担当者の一人。

 元々は領域の外、通常世界における滞在場所の一つ、霊峰にある龍の街ビダイアの駐在武官を務めていた。一時期、魔族との抗争になりかけた竜人族との仲裁に入った際、山の崩落事故を起こすだけの武威を示した。


 イジャンカ・ハルワタート。神族の末裔。御年17歳。かつて人族と交わった神族の末裔であり、通常世界にて宗教戦争の引き金となりかねたところを龍族が保護し、龍の領域で暮らしているといった過去を持つ。身体的にはほぼ人族。

 現在は領域内の雑貨店に勤めている。 


 この三人がヴリドラより声を掛けたところ、顔合わせも構わない、場合によっては所帯をもつことも検討すると口にした面々である。


「ひとまず、全員と顔を会わせてみればよかろう」

「は、い」


ヴリドラは、目の前のクロウに有無を言わせずそう告げた。


 アシャ・ディータは忙しそうに六つの手を動かしていた。巨人の血を継ぐ者には四肢の数が多いものも少なくない。クロウは特にそのことに対しては思うところがないようで、綺麗な刺繍の入った布を、まるで手品のように縫い上げていくその所作を見ていた。

 結い上げた灰色の艶やかな髪に褐色の肌、黒曜石のような眼。

 随分な美人さんだなと、巨人族の血筋にしては自分より頭二つほど小柄な相手を見やる。

 細いわりに骨格はしっかりとしていて、か弱そうには見えない、胸元はカボチャと見まがうほどに豊満に盛り上がっていた。

 ただ、忙しそうな様子をしばらく眺めたクロウは、短く「また改める」とだけ耳元で呟くと、工房を出ていった。


 ウリスルシャナ・ボーディガンは、大きな農園を見下ろす小山の上で何かの書面に記述をしていた。おそらく、農園の管理記録と思われるが、クロウが目に見える位置に近付くと、即座に顔を書面から上げた。

 金の髪を短く揃え、顔立ちは氷のような鋭さがあった。

 腰の剣に手を添えていたが、しばらくして手を離す。

 長身である。ともすればクロウと同じほどの。

 筋骨隆々といった様子ではないが、手足の先まで力が満ち、武人の空気が微かに感じ取れた。軽装とはいえ革の全身鎧をまとっていたので、さすがに細かな体型まではそれ以上わからなかった。

 僅かに重心を代え、即座に戦闘態勢に移れるよう残身を忘れていなかったが、近寄ってくるクロウが剣の間合いの手前で足を止めたことで、その残身も解いた。

 今回もまた「忙しいようなので失礼する」と口にして、クロウは一礼ののちに立ち去った。


 イジャンカ・ハルワタートは戸棚の商品を整理していた。

 身の丈はクロウの胸元より下、ありていに言って人族としても小柄だろう。

 まるで人形を思わす精緻な容貌をしており、栗色の長い髪と、華奢にすら見える細い手足をしていた。

 店の戸口に立って、中に入ろうとしたクロウであるが、その瞬間に振り返ろうとしたイジャンカに対し、身を引いて隠れた。

 難しい顔をしたクロウは、何も言わずにその場を立ち去った。


 ヴリドラ宅、向かい合う二人。

 クロウは苦い顔をして、ヴリドラは何かを察した顔をして黙っている。


「あれは、ない」

「いや、その、申し訳ない……」


難しい顔で天井を見上げたクロウは、深い溜め息を吐き出した。


「一人目、まぁ、そもそも興味がなかったんじゃないか? 俺に。

 二人目、終始怯えていたぞ? こちらが近付いたら死ぬと思って覚悟していた。

 三人目、一番いかん。神性持ちが神の末裔になんぞ接触したら『宜しくない』ことになる」


 ヴリドラとしてもここまでのことになるとは思っていなかった。

 鋼の種族という存在は、それこそ戦闘時を除けばある程度の良識を備えた存在だということをヴリドラは解っている。

 否、それだけしかわかっていなかった。

 彼等はその強さ、神性や存在感の大きさから、常日頃から戦闘を除いて存在感や気配を抑えるようにしている。

 そうしなければ、周りが怯えて生活や交流すら出来なかったからだ。

 その為、武術的素養や第六感が特に秀でた者でもなければ存在感が希薄に感じられてしまう。当人に興味と言うか、意識があまり向かないのだ。目にも映らない、というより、目の前にいてもなんとも思わない。

 逆に、武術的素養や感覚的な才能が一定以上に達していると、その存在の強大さを知覚してしまい、まるで自身より数百倍も巨大な獣を目の前にしたような生物的恐怖感を感じてしまうのだ。隠された脅威に動けなくなりかねないほどに。

 そして、秘された力、神性という力は、居るだけで他者に影響を与えてしまう。例えば神の末裔や巨人族の先祖返りなどがそれにあたる。そういったものを本意でなくとも促進したり煽ったりしてしまう。

 グレネットであれば、存在感の知覚は外見的な華やかさのおかげで一定以下に薄れない。

 むしろ、隠せないし目立ち過ぎるくらいなので、内在的威圧感も発揮され辛い。

 オルガンの方は、生来の人懐っこさというものがある。それが存在感を和らげてくれる。

 だが、クロウに関しては容貌的な緩和も性格的な緩和もない。

 神代の時代でしか生きられないような、生粋の鋼の種族なのだ。

 まぁ、種族的特性以外は、付き合いさえ深めればある程度の緩和は出来る。

 ただ、今回のような状況だと、


「ちなみに、訓練に来ている者については?」

「あんな小さい子供達に反応したら性的倒錯者(ロリコン)だろう?」


前途多難そうである。


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