■00■ 序章1『目覚める3人』
鋼の種族。祖はドワーフ、エルフと並ぶ古き血脈であり、人族が生まれる遙か昔から存在する亜人の一つである。人の形を得て、人の血に連なる以前の種族、故に亜人。あまたある可能性の一つ。
彼らは文明の萌芽をもたらす金属の技をドワーフと共に生み出し、古代種族における大戦争を己の力で生き抜いた最も強き戦士であったという。魔法は通じず、その身体は巨人であり、大地であり、祖は神々に連なるほどであったと。
『だというのに、なんと嘆かわしい!』
古き森、大樹海の片隅でそう叫ぶのは巨大な女神像である。
樹木に覆われるように全身を支えられ、半ばまで木の根に隠された女神像が、それこそ人族の母親のように大きな声で嘆いていた。
その前に胡坐を組んで座るのは鋼の種族の末裔達。
泥にまみれた簡素な上下を着たいずれの青年も、背が高く筋肉がみっしりと詰まった身体をしている。身長としては人族と同じくらいで今の単位では2mほどだろう。
鋼の種族は戦いと老いを除けば不死に近い者達である。老いについても眠りの間年老いることなく、戦いにおいても心臓と頭が無事であればそのうち再生する。そんな埒外の強度を備えた身体をもつ、かつての古き時代において戦乱を戦い抜いた一族達は、他の種族との諍いを厭ってこの大樹海の奥地で深く長き眠りについていた。
そんな一族の中で、かつての記憶すら失うほど眠っていた当時の若き戦士達が彼等である。わざわざ大樹海で眠っていたというのを、この女神像によって覚醒され、起こされたのだ。
『鋼の種族はものぐさで怠惰! 今の者達はそんなこと知りもしないでしょうね! そのせいで幾つの技や知識が失われたか! 己の身体一つで戦場を均し、天地を貫くほどの巨剣でドラゴンすら叩きのめした一族が、まさか延々と眠ることで徐々に大地と同化し、そのまま滅ぼうとしていたとは!』
その言葉で若者達、たった三人の青年達は過去を僅かに思い出す。
『我々はあまりに巨大であり、僅かな数であろうと他の者達を押しのけてしまう。然したる想いもないのであれば、いずれ世界に満ちていくであろう他の者達の幸福を願い、眠ってしまおうではないか』
これは、大いなる真祖、族長であるアイガイオーンの言葉だ。
それに同意を示した者達は眠りについた。
他の道を選んだ者達はその体躯を当時のドワーフ、エルフ達と同じくらいに変え、いずこかへ旅立っていったという。
ちなみに比較的新しい世代であった三人の青年も、身長はおおよそ人族と同じくらいである。無論、自らの体躯を操る技は、血肉に染みついて覚えているが。
『貴方達は、この私、海神テティスが導きます。滅ばずに済むよう、その力が絶えず済むよう』
三人は顔を見合わせた。
続いた言葉にはお互いにしかめっ面をしながら。
『そして貴方達は花嫁を探すのです』
なんとなく三人の感情はその場において一致していた。
面倒くせぇ。
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