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-角が折れた日、初めての出会い- part3

 一番後ろの車両に二人は程なくして難なくたどり着いた。列車が線路を走る音以外に聞こえる物音は無く、窓から入り込む月明かりと、小さな豆電球だけがぼんやりと車内を照らしている。懐中電灯をカンダロに任せ、ルフトジウムは積み上げられた木箱の文字を読んでいた。


「めっちゃ緊張してたんですけど別に何もなさそうですね……」


「緊張する程の事じゃねーよ。

 ギャランティに所属する傭兵でもない限り重工のこんな足元までとても来れないだろうさ。

 だからこそこの任務を新米のお前に任せたとも言える」


 ルフトジウムは小さくふむむ、と唸るとデバウアーの刃を木箱に突き立て下に引いた。木箱の壁が破れ、中から可愛い山羊のデフォルメされたぬいぐるみが穴からポロポロと出てくる。


「え!?ちょっと何してるんですか!?」


カンダロの驚いた視線がルフトジウムの開けた木箱の穴とやたら整った綺麗な顔を行ったり来たりした。


「別に武器だけじゃねーんだなこの列車に乗ってるの。

 普通に売れなかった商品とかも積載されてるみたいだぜ。

 あっちの木箱とか飯が入ってるみたいだしな」


「いや、そういう事じゃなくて!?

 なんで穴開けて……怒られますよ!?!?」


「怒られなんてしねーよ。

 どうせ処分するものの箱が壊れたぐらいで。他のやつに奪い取らせないなら別に何やってもいいんだよ。  

 そういう仕事なんだからこれぐらいで騒ぐなって、ほら」


ルフトジウムは三十センチ程の山羊のぬいぐるみを拾い、目を白黒させているカンダロに投げつけた。


「結構、俺は可愛いと思うけどお前はどう思う?」


「まぁ、かわいいっちゃかわいい……ですけど。 

 欲しいかって言われたらいらないです」


「そうかぁ~?

 普通にかわいいし欲しいけどなぁ……。

 俺一個持って帰ろうかなコレ」


カンダロはぬいぐるみを扉の横にある机に置くと、エネルギーライフルを再チェックしはじめる。ルフトジウムはその光景を見ながらヤレヤレと、まだ地面に落ちているぬいぐるみを拾うために屈んだ。その目を離した一瞬、この一瞬がルフトジウムの一生残る屈辱を作ったのだ。


「うわぁ!!」


「!?」


一瞬視界に映った小さな黒い影。その陰がカンダロの体を強く推したのだ。


「何者だてめえ!」


ルフトジウムはそう吠えながらデバウアーを掴み、侵入者に向ける。その切っ先から体を逸らし、小さく煌めく小刀のようなものが侵入者から放たれ、唯一の光源だった豆電球が割れ周囲が一気に暗くなる。カンダロの持っていた懐中電灯の明かりも消え、辺りを走り回るドタバタとした音が近づいて遠ざかる。


「っくそ!

 カンダロ!無事か!?」


「あ……な、なんとか!

 っちょっ君!

 子供!?

 ――やめ、こら!!

 やめろ!!!」


ガチャッという金属音と、無機質な警告が列車内に鳴り響く。


『危険なため走行中は扉を開けないでください。

 危険なため走行中は扉を開けないでください。

 危険なため走行中は扉を開けないでください。

 危険なため走行中は扉を開けないでください』


積み込み用の大きな扉がゆっくりと左に開いていく。侵入者が開けたようだ。ごうっと風が吹き込み、砂ぼこりが列車の中に立ち込める。ルフトジウムは目を細めつつ、ハルカンダロの状況を把握しようとした。


『危険なため走行中は扉を開けないでください。

 危険なため走行中は扉を開けないでください。

 危険なため走行中は扉を開けないでください。

 危険なため走行中は扉を開けないでください』


しかしその時ハルカンダロは小さな陰によって既に扉から外に落とされそうになっていた。扉の外は汚染物質で汚れた大地。更に線路は標高五百メートルの崖の上に出来ており、もし列車から落ちたら例え獣人といえど命はない。


「カンダロ!」


彼の体はもう半分以上外に出ており、辛うじて木箱の釘に引っかかった上着がカンダロを列車に繫ぎ止めていた。


「僕よりもその侵入者を!!」


「バカな事言ってんじゃねえよ!!」


戦闘用獣人としての血が燃え、ルフトジウムは一気に黒い影の小さな侵入者との距離を詰める。デバウアーを降りかざしその刃の猛熱で空気が膨張する。


「どこの誰だか知らねぇが……!」


鋏状になっている武器、デバウアーが侵入者を左右から挟撃したが、侵入者はとっさに身を屈めるとルフトジウムの左から奥へと抜けた。その姿を追うためにルフトジウムはデバウアーを左右に分けると両腕に一本ずつ持ち、アサルトライフルにもなるこの武器の弾をばら撒いた。影は弾を避ける為に後ろに下がり、木箱の後ろにその身を隠す。十秒あれば助けることが出来ると、ルフトジウムは確信してきた。そして今がカンダロを助けるチャンスだ。


「おい!!

 俺の手を掴めカンダロ!」


「はい!!」


デバウアーを床に突き刺し、楔にしたルフトジウムは体を固定し、ハルカンダロが伸ばした手をしっかりと掴んだ。そして列車内に彼の中々に大きな体を引きずり入れるために力を込める。


「ぜってー離すなよ!!」


「ルフトジウムさん!後ろ!!」






          -角が折れた日、初めての出会い- part3 End

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