-角が折れた日、初めての出会い- part2
「これ全部廃棄する武器と弾薬なんですか!?
重工もかなり勿体ないことしますね~~!
全部まだまだ使えるだろうに!」
本日の現場には八両編成の短い貨物列車が既に到着して、ルフトジウム達を待っていた。いくつかの箱は蓋が取り除かれ、中身が見えている。中身は銃だったり、砲弾だったり様々だったがどれも三世代ほど前の規格で例えゲリラやテロリストでも使っている奴はいないだろ。
「少しはうちに回してくれても良さそうなもんだけどな〜……」
「そういうわけにもいかないんだろうよ。
第一どれもこれも古すぎる。
貰ったところで誰も使いたくねーよこんな埃っぽいガラクタシリーズ」
列車の貨物車両には沢山の鉄の箱や木箱がすでに積まれていて、その全てに大野田重工のマークが入っていた。今回AGS本社から送られてきた指令は、廃棄される予定の武器をテロリスト集団から守り、無事にリサイクルセンターに到着するのを確認せよとの事だった。
さっきまでこの地域には黒い雨が降っていたのか地面に黒い水たまりが所々で来ていて、化学物質の嫌な臭いがルフトジウムとカンダロの鼻を馬鹿にした。
ルフトジウムは車から弁当と弾薬をおろしてカンダロに放り投げる。遠くに見える工業都市の摩天楼を眺め、カンダロはため息をつこうとしたが列車の車掌が早く乗るようせかしてきた。
「ルフトジウムさーん!
車掌が早く乗れって……」
「ああわかったよ。
一働きして、さっさと帰って寝ようぜ」
カンダロは少し緊張の面持ちで、ルフトジウムをこまねく。ルフトジウムは自分の武器をしっかり握るとカンダロと同じ真ん中の車両に乗り込み、仮で設置された小さな椅子に腰を下ろした。直ぐに機関車のブレーキが解除され、大量の蒸気を吐き出しながら列車が前進をはじめる。発車から二十分もすると列車は都市部の外れを抜け、環境汚染物質にま、汚れ切った大地、が姿を現した。
カンダロにとって列車での護衛任務はこれが初めてになる。今まではビルや銀行など動かないものの護衛が主だった為か、その顔には緊張が明らかに見て取れた。到着まで三時間程度の短い行程だが三時間も神経を張り詰めていたら途中で集中力が途切れるに決まっている。
「見回りの時間まであと五分ですよー。
そろそろ行きます?
まだゆっくりします?」
「あと五分あんだろ?
面倒だし行かなくてもいいと思うけどまぁいいか。
なあ、一個聞いてもいいか?
お前さ、恋人はいんのか?
いや、人間ってのはそういうパートナーを作んのが普通って聞いたからよ」
緊張し続けるのは流石に可愛そう、という思いからルフトジウムは質問を投げかけていた。世間話は緊張を解すのに役に立つ。
「なんですか藪から棒に。
いませんよ。
いたらこんな夜勤断ってますよ」
「それもそうか。
他の連中に聞いたら恋人がいない奴はヘタレって言ってたが、じゃあお前はいわゆるヘタレなのか?
今までいた事は?」
その質問で明らかにタジタジしはじめたカンダロは、ルフトジウムから目を逸らした。そして照れたように口を尖らせて
「…………に」
「ん?なんだって?」
「小学校の時に……」
消えそうな声でそう言った。思わぬ答えに思わずルフトジウムは一泊置いて、吹き出した。本当に根っからの初心で、ヘタレらしい。なんというかカンダロらしいとルフトジウムは笑いながら思う。
「小学校!?
笑わせるじゃねーか!!
ジョークのセンスは一人前だな!」
むっ、と少し眉をひそめたカンダロは銃を握りしめて立ち上がる。どうやら少し怒ったらしい。無理もない。
「僕早速ですけど見回りに行ってきます。
ルフトジウムさんは?」
一人で行こうとするカンダロの腕をルフトジウムは掴んだ。一人だと何かあった時に困る。
「まぁ待て怒るなよ。
悪った悪かった。
緊張してるようだったから揶揄っただけだって。
一人で行かせるわけ無いだろ。
ペアで行動するのがAGSのモットーだからな。
一応もう一度装備の確認をしてから行こうか」
ルフトジウムも武器を持って立ち上がり、伸びをする。ガタンと車両が揺れ、箱の中の武器が音をたてた。
「そうですか。
じゃあ早く用意してくださいよ!」
「直ぐだから待てって!」
ルフトジウムはデバウアーを起動し、そのステータスランプが青色になったのを確認するとスタンバイモードにし、マガジンにエネルギーと銃弾がしっかり入っているか見る。
「よっしゃ、行くか」
デバウアーを手に持ちルフトジウムはカンダロの肩を叩いた。
「……さっき笑ったじゃないですか?
逆にルフトジウムさんはどうなんですか?」
不貞腐れたガキのようなカンダロの質問はルフトジウムを簡単に呆れさせた。
「お前……マジで言ってんのか?
それとも仕返しのつもりでバカにしてんのか?」
「というと?」
どうやら真面目に本気らしい。ルフトジウムはせっかく持ったデバウアーを横に置くと、背中を木箱に預けて腕を組む。何も知らないこいつにそこら編全てを教える必要があるようだ。コンビを組んで時折感じていたルフトジウムの違和感は、どうやらこいつの無知からくるものらしい。
「そもそもAGSの戦闘用獣人は繁殖用獣人のフェロモンが効かないように殆どが同性愛者、もしくは去勢されてんだよ。
当然、俺も含めてな。
つかそもそも獣人が恋人なんか作るわけねーだろ。
人間じゃねーんだから」
「え、そうだったんですか!?」
獣人はあくまで製品であり、人権のある存在ではない。製品が勝手に増えられたら当然企業としては困る。だからこそ獣人は値段に関わらず、繁殖の面ではリミッターのようなものをかけられていることが多い。当然ながら獣人同士で肉体関係を持つことはかなり稀で、発情期などという精神も心も体も不安定になるような物も存在しない。
「なぁ、カンドロ。
お前、もしかして俺達獣人を人間と同じだと思ってんじゃねーだろうな?」
ルフトジウムも例に漏れず、同性愛者に設定されている。いざとなったら繁殖用獣人と交尾させ、需要を満たすためなのか去勢はされていないが。カンダロは自分の青いコートに付いた木くずを手で払い、ルフトジウムの問いに唸るような返事を返す。
「それは……」
「もし同じだと思ってんなら直ぐに改めた方がお前のためだぜ?
俺達は商品、そして消耗品なんだからよ。
人間様の命の何億倍いや……比べ物にならないくらい安い命なんだ。
危なかったら盾に使っても誰も文句も言わねーし、非難もしねーよ。
当然俺もそれはわかってるしグリズリー姉妹だって、ダイズコンビだって、チームバチカの連中だって分かってる。
わかってねーのはお前くらいだ」
「……………すいません。
昔から人間に囲まれて生きてきてたのでそんなこと全く知らなくてその……」
「別に謝るほどのことじゃねーよ。
なんつーか、皮肉だよな。
こういう事は人間の学校じゃ教えねーか。
いや、それでも普通気がつくよな?」
「獣人を街中で見ることはあっても関わりが全然無くて……。
この会社に入ってやっと触れ始めたんですよ。
なんで、そういうことです……」
「創造物の俺達は人間の事をよく知ってる。
だけど、創造主は創造物の事を知りたいとは思わないもんだよな。
俺達獣人はペットもしくは、それ以下の存在だもんな」
カンダロの表情は何も知らない自分の不甲斐なさを悔いているようだった。少し言い過ぎたと反省しつつルフトジウムはデバウアーを持ち上げると言葉を紡ぐ。
「まぁいいよ。
気にすんな。
直ぐに俺が何を言ってんのか分かるときが来る」
「そう……ですよね」
エネルギーライフルを肩からかけ、カンダロもようやく準備が出来たらしい。最後尾から一緒に見回る為に二人は移動を始めた。
-角が折れた日、初めての出会い- part2 End
読んでいただきありがとうございます~!
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします~!