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-角が折れた日、初めての出会い- Part1

午前四時二十二分。


 出勤まであと五時間程しかないというのに、ルフトジウムは全く眠れなかった。無理もない。自分の所属する『AGS』という企業の顔に泥を塗ったのだから。

AGSは大野田重工と、カテドラルレールウェイといった二つの大企業以外に百を超える会社の警備を受け持ち、場合によっては都市の警察のような仕事まで任されているセキュリティ会社だ。他のセキュリティ会社とも装備、警備、兵士の練度は一線を画している。また、金さえ払えば中身が何であろうが、しっかり守り切ることを重視している企業の性質が故に、今回の失敗はルフトジウムの頭を大きく悩ませていた。何より、自分のパートナーである人間の男、カンダロ・ヤタネカの面目も丸潰れだ。


「クソッ、なんで俺はあん時ぬいぐるみを………。

 はーあ……最悪だ……」


 洗い立てのスーツの香りのするベットの上でゴロリと寝返りをうってルフトジウムは枕に顔を埋めた。ヤギの可愛いぬいぐるみがその衝撃で跳ねる。


「ああ、クソが……!

 絶対に捕まえて汚名を返上してやるからな……!」


 忌々しい原因を作ったぬいぐるみを抱っこして、窓から入ってくる都市と月明かりの青い光だけが部屋の中をうっすらと照らし、ルフトジウムはため息を一つついて、鏡に映る自分の角を触った。

 山羊の獣人であるルフトジウムは整った顔立ちをしていたが、特徴的な立派な角が頭蓋骨から直接生えていた。彼女自身もその角を誇りにそして自慢に思い、日々手入れを欠かさずにしていたし、同僚の他の獣人からも褒められたり羨ましがられていた。しかしその自慢の角も今となっては左側はほぼ根本からへし折られ、血の滲んだ包帯を巻かれていた。

何が起こったのかは前日の深夜……約二十時間程前に遡る。




     ※ ※ ※




 大野田重工第十四工業都市にあるAGS支社のロッカールームにて、ルフトジウムとその相棒のカンダロはだらだらとダベりつつ、出勤の準備を整えていた。


「倉庫に眠るガラクタを依頼主の元まで守るだけだろ〜?

 なんで俺達がぁ~?」


「まあまあ任務を選ばないでくださいよー。

 これも立派な仕事なんですからー!」


「そりゃお前にはいいかもしれねーけどさ。

 俺としてかなりツマンナイんだよな。

 入社して間がないあまちゃんの世話をさせられる俺の身にもなってみろって。

 ずーっと優しい任務ばっかりで腕が鈍っちまうよ」


「仕方ないでしょ!

 じゃんけんでグリズリー姉妹とダイズコンビに負けちゃったんですからー!」


 殆ど真っ白な髪の毛を真ん中分けして、薄い青の入ったカール状の美しい角を持つ山羊の獣人、ルフトジウムは文句を相方のカンダロにぶちまけた。青いコートに青いシャツ、青いズボンに赤いネクタイは彼女の仕事着だ。ほとんど同じような服をカンダロも着用していて、F部隊に所属する人間と獣人は青い服を着るように義務付けられていた。その見た目から青虫など嫌なあだ名で呼ばれることもあったが、ルフトジウムは特に気にしていなかった。所詮口だけの弱虫だ。F部隊は他の部隊と違い、多少なりの荒事も引き受けている。その事実に、彼女も、F部隊員も誇りを感じていた。


「ズルすりゃーいいじゃねぇかよ」


「できる訳無いじゃ無いですか!

 万が一バレたらグリズリー姉妹に殺されちゃいますよ!」


 ルフトジウムとカンダロペアはAGSのF部隊に所属する結成から二ヶ月が経とうとしている新米コンビだ。ルフトジウムは既に三年程この会社のF部隊の任務をこなしてベテランの領域に入っていたが、肝心の手綱の握り手であるカンダロはまだ二十三歳の若造だ。


「そこを上手いことやるんだよ。

 人間の学校ではそういうことは教えてくれないのか?」


 身長百八十センチにもなるというのに体はヒョロヒョロで、エネルギーライフルを持つと未だに重さでふらついている。強いクセの黒い髪の毛と、薄いブラウンの瞳、垂れ目の彼は他の物からライオンとあだ名されたこともある見た目だったが肝心の中身がヘタレで、翌日には子猫、翌々日にはそんなあだ名も消えてなくなった。


「教えてくれてたらこの体たらくにはなってないです……」


「やれやれこんな意気地なしが俺のペアとはね。

たまにはやってみせろよお前もさ」


 ルフトジウムはコートに銃弾を防いでくれる薄い合金板を詰め込むと、壁に埋め込まれている武器保管ケースから鋏の形をした武器を取り出した。“デバウアー”と名のつけられたその武器はAGSに所属する獣人が持つ有名な武器だ。その刃は加熱されると二万度に迫るほどの熱を持ち、さらに刃の反対側にはアサルトライフルの機構が組み込まれている。近接によし、中距離によしの万能武器だ。ネックになるのが二十キロ近い重さだが、人間より遥かに強い獣人にはそんなもの問題にはならなかった。


「武器チェック……弾は入ってるな。

 充電もよし……それに機関部も問題なし……。

 おいヘタレ何時まで準備してんだよ、行くぞ」


ルフトジウムは武器を片手に持つとその先でカンダロのお尻をツンツンと突いた。カンダロはその身に防弾チョッキを纏うと鬱陶しそうに一歩離れた。


「もー!突っつかないで下さい!というか、ルフトジウムさん社用車の鍵は?

 持ったんですか?」


「は?

 俺が運転すんの?

 ヤダよ面倒くさい。

 お前がやれよ」


「もー……!」


二人はロッカールームから出ると真っ直ぐに地下駐車場に向かい、鍵に書かれた番号と同じ社用車に乗り込むとカンダロはエンジンをかけた。


「燃料は大丈夫そうです。

 えーと忘れ物は……」


ポケットからメモを取り出しそうな勢いのカンダロの行動を遮ってルフトジウムはバックのポケットから大好物、アスパラガスを取り出して口に入れた。


「ねーよ。

 早く行こうぜ」






          -角が折れた日、初めての出会い- part1 End

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