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-大陸間弾丸鉄道- Part 14

「かかったな、浅はか下劣獣野郎がァァァアア!!」


 ハルサが刺し違え上等で叩き込んだ一撃を、敵は軽くジャンプしながら身体を捻って躱して見せた。戦闘用義足に仕込まれた強靭なバネを使用したジャンプは常人の跳躍をはるかに超えて、ハルサの攻撃から易々と回避した。地上から六メートル程も跳び、そこから見下ろしながら機械で出来た喉からガラガラとした笑い声をスピーカーから発する。


「そんな!?」


「悪いなァ~!?

 お前の事だから絶対にそう来ると読んでたんだよなァ~~!!

 チョロすぎるぜェエ〜〜!!」


 空中に浮かんだ敵の体は直ぐに重力に引かれて落ち始める。重さだけで軽く二百キロもの重量を超えるであろう敵の足の裏からは棒のようなものが二本展開される。棒の先端はただただ鋭くなっておりまるで掘削用のドリルのように何かを削り取るための刃のようなものがびっしりとついてた。


「大野田重工の戦闘サイボーグや戦車をぶっ壊すためのとっておきだァ!!

 てめぇの頭蓋に“これ”を喰らわせてフィニッシュと洒落込むぜェ~~!!!?!?」


 思ったよりも戦闘のダメージが大きいハルサは、やっとのことでねじ込んだ一撃が避けられてしまったショックからか目を伏せ、“砂漠の虎”のボスの方を見ることもなくただ呆然とアメミットを握りしめているだけだった。敵の足の裏についているドリルが義体の重量も込みであの高さからハルサの体にかかった場合、いくら戦闘用獣人の肉体に防弾使用のコートを着ているとはいえ薄くて小さな体は軽く貫通され内臓は傷つき致命傷になるのは素人ですら簡単にわかるレベルだ。


「楽しかったぜェ!!

 あばよ!!!!」


完全に動きを止め、目の前の小さな狼の頭を脚で踏み砕く未来を見ていた敵は勝利に胸を震わせ、今回の襲撃で出た損害をどうやって補填するのかを既に考え始めていた。まさに絶望ともいえる状況だったが


「そう来ると読んでたのは私もっスよ」


言って顔を上げたハルサはにやりと笑っていた。


「はァアァ?」


 自信満々に自分の勝利を確信していた敵にとってその笑いはまるで地獄の狼にも見えたことだろう。ハルサはぺたりと地面に伏せ自分のケモミミを両手で折り、アメミットを傘のようにしながら何か大きな音からの防御姿勢を取っていた。その行動に敵は疑問を覚えたがすぐに理解した。そして自分が迂闊にジャンプしてしまったことを後悔し、今の今までハルサがどうして列車砲を背にしないような立ち回りをしていたのかを飲み込んだ。


「今っス!!」


 その言葉と同時に強烈な閃光が機械の目に突き刺さる。敵の視界に入ったのは列車砲の砲門から放たれた巨大な一発の砲弾だった。ジャーグの心臓機関が死に物狂いで貯めたエネルギーを消費し、砲弾は秒速二千五百メートルという音速を遥かに超える猛スピードで砲門を飛び出すと微かに湿気を纏った空気を切り裂いて真っすぐに狙った標的へと向かって突き進んだ。敵の装甲列車を破壊するために発射された砲弾はアメミットなど話にならない程の威力を持っていた。

 当然、進路上にある“砂漠の虎”のボスの義体程度、砲弾にとって何の抵抗にもならなかった。砲門から吐き出されたばかりの砲弾はその速度を少しも緩めずに敵の義体に突き刺さるとまるで豆腐に箸を刺したように簡単に貫通する。戦闘用の高価な部品がふんだんに使われた義体がバラバラに砲弾がぶつかった所から消えていく。


「はァ……!?」


 まるで水風船が爆発したように青い人工血液を全方向にまき散らし、敵の義体は頭部と脚部の一部だけを残して文字通り跡形もなく消えた。砲弾はそのまま敵の装甲列車の刃へと真正面からぶつかる。列車を簡単に食い散らかす刃ですら砲弾を止めるには十分な強度を持っておらず簡単に貫通を許してしまった。刃の後ろに構えていたのはアメミットの対物ライフルですらダメージを入れられなかった装甲版だったが、今回は砲弾のぶつかった所がまるで液体のように変化し、砲弾自身も潰れながら装甲を食い破って突き進み装甲列車の第二機関部へ簡単に到達した。中で働いていた盗賊の手下達はその砲弾の認識すら出来ずに砲弾が爆発した際に出た炎に全身の肉と義体を焼かれて命を失った。


『やったのにゃハルにゃん!』


「なんとか……作戦成功っスね……。

 ふぃー……」


 ハルサは自分に人工血液がかからない様に傘のようにしたアメミットを杖のようにして立ち上がるとぶるぶると頭を振って大きなため息を一つついた。敵の人工血液は辺り一面に飛び散っていて、アメミットの傘から外れていた所は例外なく真っ青に染まっている。


『敵装甲列車の停止を確認したのにゃ。

 ボクの作戦はばっちりだったってことにゃ~!』


「私とジャーグにはかなり負担が大きかったっスけどね……」


『そう言わないでほしいのにゃ~。

 これ以外方法はなかったんだから仕方ないのにゃ!』


「しかしまぁ、よく砲弾が入ってたっスね」


『前線で五日前まで使われていた代物らしいからにゃ。

 装填されたまま自走装置が破損、そのまま運搬された……のかにゃ?』


「まあ別にどうでもいいっスよ。

 とにかく計画通りに行って何よりっス」


 ハルサは自分のコートについているゴミを払いながら爆発、炎上する敵装甲列車を眺めた。大きな穴が開いた正面装甲からは内部の様子が簡単に窺い知れる。穴から見えた内部は火で真っ赤になっていた。ハルサを苦しめた戦車砲は爆発と同時に根本から大空へとロケットのように高く打ち上げられ線路脇へ粗大ごみとして横たわり、小さく設けられていた窓は残さずに割れていた。たまに花火の爆発するような音が連続して鳴り響く。中に蓄えられていた弾薬が引火しているのだ。


「おー、すごいもんっスね」


あの中は地獄のような光景が広がっているんだろうな、と小さく思いながら灰色の狼は地面に落ちている敵の首に近づいていく。首はハルサが近づいてくるのを見るとまるで恐れたように目を閉じようとする。


「……まだ生きてるんスか。

 大したもんっスね」


「……………」


 パクパクと生首だけになった敵は口を開くがその口から声は出ない。声帯はすでに砲弾によってばらばらになっているからだ。ハルサは敵だった男の頭についていた突起物を引っ張って持ち上げると、燃え盛る装甲列車の方を向けてあげた。


「綺麗っスよね。

 こういうのが見たかったじゃないんスか?」


「…………!」


「何言ってるのか分かんないっスよ」


そのままハルサは首を置いてアメミットの電源を切るとコートのチャックを閉め、ずれていたモノクルの位置を直す。


「………………」


「心臓もないしそろそろ意識が遠のいてきたっスかね?

 祈ればいいじゃないっスか。

 祈ればお前の神様が助けてくれるっスよ」


「……………」


 辛うじて残っている肉体――脳を生かしておけるだけの電力はもう敵の頭部には残っていなかった。きっとその視界には燃え盛る装甲列車の光景と話しかけるハルサの声だけが最後に聞こえていたことだろう。


「最後にこの景色を見れてあいつも幸せだったんじゃないっスかね」


ハルサは死んだ頭部をゆっくりと足先で転がす。一度勢いのついた頭部は屋根の傾きで更に勢いづいて他のゴミと同じように線路上へと落ちていった。






              -大陸間弾丸鉄道- Part 14 End

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