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-大陸間弾丸鉄道- Part 12

 戦車砲の砲門から発砲の光がチカリと網膜に飛び込むと同時にハルサは右に飛ぶ。先ほどまでハルサがいた所の鉄板に大きく穴が開き、貫通した砲弾が列車内部で起爆し荒れ狂った爆風が窓ガラスを粉々にぶち破って外へと逃げていく。


『大丈夫かにゃ!?』


ラプトクィリが心配そうにハルサの安否を確かめてくる。ハルサは爆発した部品が目に入らないよう自らの腕とアメミットで簡易的に盾を作り、咳き込みながら答える。


「わ、私は大丈夫っス!

 というか、私が大丈夫なうちにさっさと列車砲をどうにかするっスジャーグ!」


『分かっている……!』


 装填を完了している機関銃が黒煙が晴れると直ぐにハルサ目掛けて放たれ、小さな狼はアメミットの加速用弾薬を使い大鎌に引っ張られるようにしてその体の向きをくるくると変え銃弾を避ける。そうして機関銃が稼いだ時間の間に自動装填装置のおかげで迅速に装填が終わった戦車砲が再びハルサに狙いを定め、キリキリとその砲身を回す。


「まだっスか……!?」


 防弾コートのお陰で機関銃弾を被弾しても致命傷にはならないものの、強い衝撃が二回ほどハルサの腕を襲い被弾したことを伝えていたものの、アドレナリンが出ている為かまだ痛みを感じない。ちらりと後ろを見て列車砲の状態を確認するが全くもって状況は変わっているようには見えず、回転する刃が何か硬いものに当たったのか一瞬だけその動きを止めたが直ぐにまた動き始める。


「ちょっ!?」


ちらりと後ろを見たハルサが視点を戻すと、戦車砲が既に砲弾を放っていた。慌てて左へと飛び込むようにジャンプして伏せたハルサの真横を直径七センチもの太さの砲弾が掠める。砲弾が三十センチ程離れた真横を通った瞬間に生じた風切り音がキーンと強くケモミミから入ってきてハルサの脳を揺らす。


「うっ……」


脳が揺れた衝撃で吐き気がこみ上げてきたハルサだったが、何とか堪えて持ち直しアメミットを盾にするようにして機関銃の弾を弾きながら遮蔽物へと移動する。


「はぁ……はぁ……」


 体全体を使って息をしながら何とかスピードを緩めずに遮蔽物の影に隠れることに成功すると、ホッとしたように深く息をつき空を見上げる。

 ハルサを外した砲弾はそのまま天井と床を貫通すると地面の線路を掘るようにして爆発した。爆発の衝撃で列車は真ん中から持ち上げられるような形になると同時に、一発目の爆発で生じた亀裂が大きく押し広げられるとその亀裂は天井から床にまで達した。爆発で持ち上げられた車体が重力に従って線路上に落ちてくるとその衝撃で列車は簡単に真ん中から千切れる。


「わ、わ、わ、わ!?」


その真上に息を整えるために張り付いていたハルサの小さな体も当然一緒に吹き飛ばされ、慌てて小さな狼は天井の暖房機器にしがみ付いた。線路に落ちた列車の車体は三つに分裂し、立ち上がったハルサはグラグラと揺れる床を走ってなんとか前列の車両の連結器にしがみつく。


『何が起こったのにゃ!?

 一体なんの音なのにゃ!?』


「な、何とかセーフっス……。

 戦車砲っスよ、ラプト!

 早くしてくれっス!」


連結器をよじ登るとすでにバラバラになった列車を喰らい尽くした装甲列車の二門の機関銃がハルサに狙いをつけていた。


「あ……やべっス」


 機関銃が弾をバラまき始めるよりも少しだけ早くハルサは腹筋を縮めて、その小さな体をバネのようにして連結器からジャンプすると柵になっている部分に自分の脚を絡める。そのままアメミットの柄を隙間に突き刺すとアメミットの柄を足場にして一気に天井へと再び駆け上る。


「私だけ負担デカすぎないっスかね……!?

 ラプトー!」



      ※    ※    ※



「まだなのかにゃ!?」


「…………」


 ラプトクィリは列車砲の基部に張り付いたまま制御パネルの下に陣取っているジャーグを急かす。ジャーグは何も返事を返さず目の前の作業に集中していた。ラプトクィリは自分では何もできない現状に無力感を抱えつつ、ジャーグが自分の胸の装甲部を開き義体の動力パーツを列車砲の基盤に繋ぐのをただただ眺めることしか出来なかった。


「大丈夫かにゃ……」


最後尾の車両が爆発し、ばらばらにはじけ飛んだ列車の部品が黒煙と共に夜の闇に消えていくが、その上でジャンプしている小さな狼を見つけラプトクィリはその豊かな胸を撫でおろす。


『私だけ負担デカすぎないっスかね……!?

 ラプトー!!』


「耐えるのにゃ、ハルにゃん。

 もう少しらしいのにゃ」


 途切れない銃声と戦車砲の発砲音だけがラプトクィリとジャーグに届き、ハルサが熾烈な環境にあることを教えてくれるがあの忌々しい銃声が立て続けに響いているということはハルサが生きているという証明になる。ラプトクィリはそわそわと落ち着かないそぶりで自分の尻尾の毛並みを整える。


「出来たぞ」


ジャーグはそういうと列車砲の基盤の横に背中を預けて座ると、面倒そうに基盤を指さした。


「やっと出来たにゃ!

 ここからはボクの仕事にゃね。

 列車砲の制御は直ぐにお前に渡すのにゃ!

 少し待つのにゃ!」


 ラプトクィリも自分の義体になっているケモミミからコードを伸ばして列車砲の基盤に繋ぐと、列車砲のコンピュータとラプトクィリの電脳が接続される。ラプトクィリはそのまま設定やセキュリティを眺め、この兵器がシステム上は動かせる状態にあることを確認すると制御を乗っ取るためにクラッキングを仕掛けた。

 旧式の列車砲には簡単なプロテクトしか施されておらずラプトクィリはいとも簡単に文字通り一瞬でその制御を把握すると全ての権限をそのままジャーグとラプトクィリに書き換え、自分のコードを切断した。


「これで準備は完了したにゃ。

 ジャーグ。

 あとはお前の心臓が耐えれるかどうかにゃ」


「ああ、分かっている。

 好きに使ってくれ」


 ジャーグは目を瞑ったままラプトクィリの相手をすると、自分の胸板を叩いてみせた。


「全権限を共通の管理者に書き換えて……。

 よし。

 じゃあボクが今からお前の義体のコントロールをするのにゃ。

 少し頭が痛くなるとかあるかもしれにゃいけど安心するのにゃ。

 お前が再び起きる頃にはもう全部終わってるにゃ」


淡々と説明しながら一つづつラプトクィリは自分のコードを列車砲の射撃管制の基盤に繋ぎ直し、動力炉としてジャーグの義体を登録する。列車砲にエネルギーを吸い取られ始めたジャーグの義体がぐったりとしはじめ、数多く光っていたステータスランプの光が消えていく。ラプトクィリはもう一本のコードの先をジャーグの胸部装甲の奥にあった端末に繋ぐと左耳のマイクを口元へと下ろした。


「猫……頼んだぞ…」


ジャーグの鋼鉄でできた頭蓋から電源が落ち、脳細胞を辛うじて維持できるだけの微かな電気だけを残して残り全ては列車砲へと注ぎこまれていく。


「動くといいのにゃけど……」


そう呟きながらラプトクィリが旋回の命令を下すと、錆びついた列車砲の砲塔はまだ油が残っているのか静かに回り始めた。前を向いていた長い砲身がゆっくりとだが確実に後ろへと旋回していく。


「やったのにゃ!」


 ここまでは順調だが問題は発射だ。ジャーグの義体は軍事用に作られた高出力型だったが、薬室内にエネルギーを貯めるためにはオーバーロードする他ない。それでもかろうじて一発発射することが出来るかどうか……。ラプトクィリは静かに動かなくなったジャーグの顔を見る。そして銃声を聞き、冷たい夜の風を胸いっぱいに吸い込んだ。


「じゃあ出力を上げるのにゃ。

 ハルにゃん、そろそろにゃ!

 射線から退避するのにゃ!」





      ※     ※     ※





『ハルにゃん、そろそろにゃ!

 射線から退避するのにゃ!』


「それが……。

 うまいこと出来たらいいんスけど……ね……」


 ハルサは自分の頬から流れる血を拭い、ラプトクィリからの無線に苦悶の表情をしながら答える。ハルサの睨みつける視線の先にはボロボロだった義体を全て変えたのであろう“砂漠の虎”のボスが両手に特大剣を持ってすっと丁寧な背筋で立っていた。


「逃がさねえぞォ…」


「最悪っス……。

 ここであんたの登場っスか……」


ハルサは敵のボスの後ろで微かに列車砲が動き始めたのを視界の端で捉える。スタミナも削られてほとんどなくなったハルサの不意を打つようにして目の前に立ちはだかってきた敵のボスは剣同士をがりがりとこすり合わせて火花を散らせる。


「行くぞ狼ィ!!!

 どっちが本当に強いのか確かめようじゃねぇかぁ!!!!」





                -大陸間弾丸鉄道- Part 12 End

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