-大陸間弾丸鉄道- Part 7
新しく迫り来る戦闘ロボットを薙ぎ払い、ハルサは敵装甲列車先頭の動力室を目指して走る。ラプトクィリは元の列車の室内からマップと行先だけをハルサに送信している。当然、ハルサが装甲列車内部に侵入しているのはバレているため警備の戦闘用ロボットが次から次へと送り込まれてくる。
「キリがないっス!
なにか回り道とかないんスか!?」
戦うことで自分の体力がゴリゴリと削れていくのをハルサは自覚しながら物陰に隠れ、戦闘用ロボットの索敵から自分の体を隠す。静かにじっと動かずに待ち、機会を窺って一体、また一体と静かに大鎌で敵を撃破していくことで体力の消耗を抑えているがそれにも限界がある。
『探してるけど……!
そもそもが列車だから外に出るしかないのが現状なのにゃ!
壁をくり抜くぐらいなら――』
敵ロボットの銃弾のリロード、もしくはバッテリー交換のタイミングを狙って大きく息を吸い、呼吸を整えながら物陰から顔を出しアメミットの対物ライフルで敵の隠ぺい物ごと戦闘ロボットの胴体部分に収まっている電子頭脳を撃ち抜く。
「くり抜くぐらいならこうやって倒した方が楽っスね」
『そりゃそうにゃ。
それに回り道している余裕なんてないのにゃ!
あと二両進めば動力車にたどり着けるのにゃ。
そこで運転士を始末するか脅すかして列車を停止させれば任務完了なのにゃ』
「じゃあ進むしかないじゃないっスか」
廃熱から少し赤みを帯びている対物ライフルの銃口から立ち上る硝煙を手で払い、弾倉に再び弾を装填して物陰から飛び出す。その瞬間に頬の横を銃弾が掠め、ハルサは思わず顔を引きながらアメミットを盾のようにしながらロボットとの距離を詰めていく。
「邪魔なんスよ!
しつこいし!
鬱陶しいっス!」
ロボットの懐に勢いで潜り込み、床に小刀を突き刺して体の向きを無理やり曲げるとアメミットを横なぎするように振り回し相手の脚部をまず奪い取る。ジャンプして避けようとするロボットの鋼鉄の脚にアメミットの灼熱の刃が当たり、当たった所の金属が蒸発していく。バランスを一瞬で失い倒れこむ戦闘用ロボットの頭を蹴り飛ばし、ハルサは先へ進もうとした――刹那、装甲で覆われているはずの鋼鉄の壁を突き破って巨漢が飛び込んできた。
「うわぁ!?」
『にゃあ!?』
驚いて大きな声を出したハルサに驚いたラプトクィリも大声を出してその声にまたハルサがびっくりして三本の狼の尻尾がボサボサに膨れ上がる。装甲でガチガチに固められているはずの装甲列車の中に倒れこんできたのは敵のボスと戦っているはずのジャーグだった。
「む、貴様なぜここにいる?」
すっかりボロボロになりながらもこっちを見たジャーグは人工皮膚が捲れ、その下にある金属のパーツ達がむき出しになっていた。目も腕にも銃弾が撃ち込まれた跡があり、その穴から人工血液の青い液体が流れ出していた。ボトボトとこぼれる人工血液の量は尋常ではなく、ハルサはその量にドン引きしながらも言葉を返す。
「それは私のセリフっス……。
一体どういう状況でこっちにまで飛び込んでくるんスか……」
ぼさぼさになった自分の尻尾を撫でつけてハルサはアメミットを構えつつ、ジャーグに向かって口を尖らせた。
「相手の攻撃を避けるためにはこうするしかなかった。
それだけの話だ。
さっさと行け」
「てめぇよそ見していていいのかぁ!?
あぁ!?!?」
別の列車にいる“砂漠の虎”ボスが壁に開いた穴から姿を表し、かかってこいよと言わんばかりに人差し指をクイクイと動かす。ジャーグはすかさず立ち上がりハルサのほうをちらりと見ると
「とにかく急げ。
俺はまだ死にはしないが反乱している乗客達が危ない」
そう吐き捨て、床を捲れ上がらせる程の跳躍力であちらの列車へと移って行った。敵のボスは肩から伸びるチェーンソーのようなものがすでに根本からへし折られており、さらに肘から見えるマシンガンのようなものの銃身も曲げられてはいたがそれでもなお戦う意思を見せており、その手にはすでに太い鉄パイプのようなものを持っていた。ジャーグも腕の根本からまるで杭のような武器を生やしそれを構える。
「なんか滅茶苦茶じゃないっスかあいつら」
化け物同士の戦いを眺めているような感想を抱いたハルサは思わずそれを口に出していた。
『ハルにゃんも大概滅茶苦茶だけどにゃ……』
呆れたように呟くラプトクィリだったが、とりあえず息を整え再び走り出したハルサはそんんなボヤキに反応する時間はなく無視して動力車へと急いだ。
※ ※ ※
「中々やるじゃねえかよォ……!
目標証言の為に生かしておいてよかったぜ…!」
「…………」
黙りこくったジャーグは自分の体に診断プログラムをもう一度走らせた。各部に仕掛けられたセンサーが損傷と使用可能な兵装のレポートを脳に直接送り込んでくる。四つの仕込み武器を入れていた右腕の機能はほとんど停止しかけており、人工血液の止血はナノマシンによる修復で何とか間に合ったものの総量の十五パーセントを喪失していた。あと八パーセント喪失すると唯一残っている肉体の脳へ栄養を送るだけの血液が足りなくなり失神してしまうだろう。
「なあ、返事してみろよ!」
「お前と話すことなど、ない」
何度殴っても倒れない“砂漠の虎”のボスはまさに不死身と言っても過言ではない体をしていた。機械で補強された心臓に何トンもの力を込めても千切れることのない四肢から繰り出される攻撃はジャーグの体を指で摘まむだけで千切る事が可能なほどの高出力だ。にも関わらずそんな敵に対してジャーグは少しの恐れも抱いていない。むしろ凪にも似た精神状態から繰り出される冷静な分析が一歩、また一歩と敵の精神を追い詰めていることは間違いなかった。
「そうかよ!」
ジャーグはそのまま返事もせず、一言も喋らず自分の腕の根本から生えている杭の先端を相手に向けて突進する。
「うおおお!!!」
その攻撃を避けようともせず、真正面から受け止めたボスはそのまま身を捩じるとジャーグの杭を列車の壁へと受け流す。それと同時に杭の先端に仕込まれた小さな穴から猛烈な熱エネルギーが流し込まれ、上質な木で出来た壁を一瞬にして灰に変えた。
「やっぱりなァ……。
お前、身体への負荷は半端じゃないぜそれはよォ……!
そこまで死に急ぐか??」
「俺はお前を殺せればそれでいい」
その一言を聞いたボスの顔は本当に、心の底から嬉しそうだった。
「お前なら俺を殺せるかもなぁ!?
復讐が本当に人を殺せるのか俺に教えてくれ!!」
※ ※ ※
『この先が動力車にゃ!』
「一気に行くっスよ!」
ハルサは走っているスピードを緩めずに弾を二発、分厚い扉の鍵の部分に撃ち込んで破壊すると勢いを借りて思いっきり扉を蹴り飛ばした。多脚戦車の脚すら蹴り飛ばすハルサの蹴りを受けた扉が拉げ、金具が外れると何キロもある鋼鉄の板が空を飛ぶ。
「動くなっス!
動いたら速攻殺すっスよ!」
先頭車両には一人の運転士がいたが、扉を蹴り飛ばして入ってきたハルサを見ると銃を懐から抜き出しすぐに発砲した。ハルサの言う通りに従うつもりはまるで無いらしい。
「聞く耳持たずっスか。
流石は盗賊団っスね……!」
飛んできた銃弾をアメミットで弾いたハルサだったが、跳弾した銃弾は壁に当たって再び跳弾するとハルサが狙っていないにも関わらず運転士の胸に命中してしまった。信じられないという表情でハルサを睨みつけてくる運転士にハルサは少しだけ首を振って自分のせいじゃないと伝える。
「ラプト?
私、もしかしてなんスけど、やってしまったかもしれないっス」
『にゃ!?
またかにゃ!?
何をしたのにゃ!?』
まるで金魚のように口をパクパクさせて倒れていく運転士は死ぬ前に何かのボタンを押し、そのまま床に倒れこむと出血と呼吸困難でビクビクと体を仰け反らせて絶命した。絶命とほとんど同じようなタイミングで運転室にいても分かるほどのブレーキ音と、スピード落ちた時特有のGがハルサの体をわっ、と包み込む。
「や、やったっスね!?」
頭の上にはてなを浮かべながらもスピードが落ちた装甲列車を見たラプトクィリから嬉しそうな通信がハルサに飛んでくる。
『な、なんかよく分らにゃいけど装甲列車がスピードを落とし始めたのにゃ!
ハルにゃん作戦は成功したのにゃ!
さっさと帰ってくるのにゃ!』
-大陸間弾丸鉄道- Part 7 End
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