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-踊り子と真実と猫と鈴- Part11

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 ギャランティ支部の建物の奥に設営された取調室は分厚い鉄板が床と壁、天井を当然のように覆っていた。鋼鉄の床に固定された机が一つと、これまたしっかりと床に固定された椅子が三つあり片方の椅子にはサイバネを出来るだけ取り外されたミヨツクが座らされていた。


「手足のサイバネティックは取れたんですけど胴体内部のは取れませんでした。

 検査をしましたが普通の人工臓器と変わりありません」


アイリサ博士にギャランティの拷問官が報告する。


「分かった」


ほとんど素体だけになったミヨツクは殴られたり蹴られたりしたのかすでに体がボロボロになっており、まだ生身の部分である舌を噛み切って死ねないようにそれ専用の器具も口の中に突っ込まれていた。


「我々の質問はただ一つだ。

 まあお前もう薄々気が付いているだろうが……。

 マキミ邸をまさかお前が知らないわけないよな?

 襲撃を受けたあの日の夜、お前は一体どうしてあの時警備を緩めたんだ?」


拷問官がミヨツクにただ問いただす。しかしミヨツクは応えようともせず世迷言を吐き出すのみだ。


「どこの誰だか知らんが俺を捕まえて“企業”が黙っていると思うなよ!!

 絶対に潰しにくるぞ!!!

 どこの勢力なのか知らねえが絶対に――ウガァアアアァアア!!」


金属製の椅子から流れ出した高電圧の電気ショックを与えられたミヨツクの体が震え、雄々しい悲鳴があがる。


「絶対に許さねえからなァァアアァ!!」


 舌を固定されているにも関わらず、ミヨツクは声帯に搭載されたスピーカーから流暢に共通語を吐き出し、罵詈雑言を拷問官に投げ続ける。拷問官は少しイライラしているのか何かあるたびに電気ショックのスイッチを押していた。


「黙れ。

 与えられた質問にだけ答えろ」


 ハルサとアイリサ博士はその様子をただ何もせずただ眺めているだけだった。何か役に立つ情報が出てこないか、マキミ博士が死んだ理由を一つでも探れないか。二人の思いはそこに集まっていた。


「あの日、マキミが死んだ日だ。

 お前はどうして警備の体勢を緩めた?

 どこからの指示だ?」


「へ、へへへ……!

 はっ!

 答える義理はねえな~!!

 教えたくもねえなぁ~!」


 電気ショックをいくら受けようが太々しい態度は頑として変わらず、ミヨツクはにやにやと笑っていた。しかしその表情からは余裕が薄れてきており、電気ショックの苦痛で出た汗滝のような汗がミヨツクの額から流れ出していた。ここをタイミングと測った拷問官がいよいよアイリサ博士の知りたい情報に手を付ける。


「先ほどお前は“企業”と言ったな?

 マキミを失うのは重工にとっても損失だったはずだ。

 なんといっても遺跡研究所の副所長だったお方だ。

 どうして重工がそのような指示を出した?

 一体何のために?」


 ミヨツクはそれを聞くと大声を出して笑い始めた。その笑い声は何も知らない奴を馬鹿にし、コケにし、罵倒するような笑い声だった。


「ふざけやがって……!」


 それをスピーカー越しに聞いたアイリサ博士は咄嗟に立ち上がるとオペレーターを押しのけ、対象に電気ショックを流すボタンを連打していた。強烈な電気ショックが再び流れ、ミヨツクの体が強張る。


「博士!

 ボタンから手をどけてください!!

 そのままだと死んでしまいますよ!?」


オペレーターがアイリサ博士をほぼ突き飛ばすようにしてやっとアイリサ博士はボタンから手を離した。いつも綺麗に纏められていた赤髪ははらはらと零れ、その目には涙すら浮かんでいた。


「博士……」


 ハルサも釣られて椅子から立ち上がろうとしたが、これ程までに平静さを失ったアイリサ博士を見た衝撃で動けずにいた。いつも毅然とした笑顔と態度で姉妹に接し、悲しみや哀れみをまるで感じさせない美しい女性はそこにはいなかった。

 かなり長い電気ショックでぐったりしたミヨツクだったが、低く嘲るような笑いはまだ続いていた。


「クックック……。

 まだ“ソコにいる”のかよ……。

 へへへへへ………」


「どういう意味だ?」


 拷問官が問いただそうとしたが、ミヨツクの視線はもう拷問官には無かった。彼の視線は間違いなくガラスの向こう、アイリサ博士とハルサがいる部屋に向いていた。その瞳は偶然かもしれないが、間違いなくアイリサ博士の瞳を捉えていた。


「なあ、いるんだろ?

 アイリサさんよ」


ガタン、と椅子が壁にぶつかり大きな音を立てた。ハルサが横を見るとアイリサは立ち上がりフラフラと壁に背中を預けていた。ハルサも背中にぞわり、とした悪寒を感じへたり込んでしまったアイリサ博士の手を肩に回して立ち上がるのを促す。


「お前……何を?」


「俺は“お前”には話してないんだよ。

 アイリサと話をしてるんだ。

 マキミの敵討ちか?

 はっ、ご苦労なこったな」


アイリサ博士は完全に士気を挫かれていたが、持参したコーヒーをグイっと一気に飲み干し自分に気合を入れ、いつもの気丈な態度で振舞おうと努める。その勢いで取調室のマイクに手をかけようとしたが、部下がそれを阻止した。


「博士、危険です。

 あの男がどこと通じているのかも分からない今、博士自身がお話になったら自ら答え合わせをしているような物です。

 ここはプロの我々にお任せください。

 お気持ちは分かりますが、この支部全員の命も掛かっていることですので」


「そう、そうね……。

 分かったわ……」


ミヨツクはアイリサ博士からの返事を待っているようだったが残念ながらその返事は無い。代わりに拷問官の冷たい言葉が返ってくるだけだ。


「アイリサさん?

 何のことだ。 

 錯乱状態にでも陥っているのか……?

 まあいい。

 素直に質問にだけ答えればそれで貴様の役目は終わりだ。

 解放して自由にしてやる。

 だからさっさと問いに答えろ」


「はっ、俺を? 

 自由に?

 そいつは無理な相談だぜ」


そういうと拷問されている側にも関わらず笑いっぱなしのミヨツクはまた大口を開けて笑った。逆に気圧されているのは拷問官の方だ。このようなパターンは彼の経験上余りなかったに違いない。


「我々には貴様と取引をする準備がある。

 貴様さえ望めば……」


「へへへ、“もう時間切れ”、だ。

 ははは……!」


「何を……?」


「せいぜい頑張る事だな、クソビッチ!

 ノーヒントで正解にたどり着いて見せろ。

 研究者、だろ?」


そう言ってゲラゲラと笑うミヨツクの体がまるで空気を入れた風船のように一気に膨らみ始めた。


「おい!

 身体検査はしたんじゃないのか!?」


「検査の結果では何も……!?」


どうやらサイバネに置き換えられた体の内臓部分に何か異変が起こっているようだ。内部機械の暴走により血管が浮き出し、ミヨツクの顔の形が崩れ始める。それでもミヨツクは笑っていた。


「これ……!?

 博士、逃げるっスよ!」


危険を感じたハルサがアイリサ博士の手を取ってその怪力をもってして博士ごと猛スピードで廊下へ逃げる。


「あ、ハルにゃん一体……」


廊下の外にはラプトクィリがいて抹茶を飲んでいたが凄い形相で出てきた二人を見て目を白黒させた。ハルサ達に続いてオペレーターや拷問官も部屋から脱出しようとする。


「廊下の角まで走れっス!!」


「へ!?

 にゃ!?」


ハルサがラプトクィリとアイリサ博士を連れて部屋のすぐ近くにある廊下を曲がって伏せた瞬間、爆発の轟音と、衝撃波、灼熱の空気が取調室から溢れだし支部の廊下を駆け巡った。伏せた三人の体の上にパラパラと小さな瓦礫と埃が降ってきて、緊急事態を示すサイレンが施設内部に流れると消火用の二酸化炭素ガスが取調室内部で噴射される音が聞こえてくる。


「……危なかったっス。

 だ、大丈夫っスか、博士?」


「え、ええ……。

 ありがとうハルサ……」


「なんだったんだにゃ?

 何があったんだにゃ一体……?」


 思ったより爆発の威力は大した事なかったのと、廊下の窓が割れ衝撃波や爆風が外へと逃げたおかげで三人ともかすり傷程度で済んだ。ハルサはアイリサ博士が五体満足でそこにいてくれることにほっとし、胸を撫で下ろした。




               -踊り子と真実と猫と鈴- Part11 End

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