-踊り子と真実と猫と鈴- Part2
「あらあら似合うじゃない!」
「そりゃそうっスよ。
私っスよ!」
「当然似合うに決まってるにゃ!
ボクの設計はピカイチにゃ〜♪」
「褒めただけなのになにかしらこの……。
こいつらムカつくわね」
拳を握りしめるアイリサ博士をよそにハルサは右手に持っている新しいモノクルと左手に持っている古いモノクルを見比べる。
「元々持ってるやつとの違いが分かんないんスけど……」
「流石ギャランティトップクラスのメカニックね。
あの写真からよく作ったわね」
「あれだけで十分にゃ♪
ボクの力にかかればこんなんビフォーブレックファーストにゃ!」
「あの、なんなんスかこれ?
違いが全然分からないんスけど!
ねー、博士~!」
困惑するハルサは横で設計を絶賛しているアイリサ博士とラプトクィリに抗議する意味でもアイリサ博士の袖を引っ張った。椅子に座りながら自画自賛しているラプトクィリが持っているプラスチックの空箱には先ほどまでモノクルと首輪がセットで入っていた。元々のデザインと瓜二つの二つはハルサの気持ちに配慮してくれたのだろう。
さっきまで風呂と寝るとき以外何年も付けていた古い首輪を自分の首から外し、ハルサは首輪についている傷だらけの金色の紋章とその真ん中についている赤い小さな宝石を人差し指でなぞる。ひんやりといつも冷たい首輪は変わらずひんやりと冷たい触覚を保っていた。
この首輪とモノクルはハルサにとてもとても思い出深いもので、これらを簡単に新しいのに変えるつもりはなかったのたが、余りにもアイリサ博士とラプトクィリがニコニコとその様子を眺めているので不承不承ながら承諾した。アイリサ博士曰く身を護るのに必須になるらしい。
「で、これは何なんス?」
古い首輪から新しい首輪に紋章を移し替え、ハルサはそれを改めて自分の首に付けた。新しい首輪はピッタリとハルサの細い首と一致した。付け心地も古いものとそんなに変わらない。
「ギャランティからの仕事は危険な仕事が多いにゃ!
ギャランティの事は分かっているにゃ?」
「えっと……?」
ハルサは首を傾げてアイリサ博士を見た。
「おいおいマジにゃ?
そんなことも知らないのにゃ?
話してないのかにゃ?」
「……話してないわね」
「こいつらマジかにゃ!?
まぁいいにゃ。
人間とケモミミの四つの耳の穴かっぽじってよーく聞くといいにゃ!
ボクも所属しているギャランティは……」
“ギャランティ”はこの世界を仕切る七つの大企業である“大野田重工”、“ロバートロボティクス”、“A to Zオートメーション”、“ドロフスキー産業”、“安心第一食産”、“ショウヤン製薬”、“トゥモローテクニカブル”に続く八つ目の勢力として全世界でも幅を利かせている。この勢力の特徴はどの企業とも取引がある、ということだがそれは後述する生業のお陰だ。
この世界を支配している七つの大企業は常に“遺跡”とも呼ばれる技術の宝庫や、資源、人材等様々な要因が複雑に絡み合いあちらこちらで醜い戦争を繰り広げている。そんな企業間での戦争に金を受け取って強い部隊を派遣する事であっという間に成長したのが傭兵を生業とする“ギャランティ”だ。ギャランティの傭兵は極めて練度が高く、企業の兵士にすら匹敵するので人員不足に陥りやすい前線には仕事がゴロゴロ転がっている。要するに“保証”という名前の通り企業の保証になっているわけだ。
また相打ちを避けるために金払いのいい企業側に付くのもこの勢力が急成長した理由の一つだろう。元々無名だったこの勢力は十年前にドロフスキーと安心第一食産の戦争に加担し、ドロフスキー産業の超巨大兵器撃破に功績をあげた。そこから売れに売れ、ここ十年で巨大な勢力になったというわけだ。大企業もギャランティのことを無視するわけにはいかず、戦争する際にはギャランティの不参加を約束を約束させたいが為に不参加料金としてお金を払わされている。
組織が巨大なものとなった今は全ての企業から疎まれつつも無くてはいけない存在、それがラプトクィリとこれからハルサが所属するギャランティというわけだ。
「そんなギャランティとアイリサ博士がなんで繋がってるんス?
しかも私とツカサ姉様まで気にかけてくれるなんて……」
「細かい所は知らんにゃ。
そこら辺はミセスアイリサにでも聞けばいいにゃ」
ラプトクィリはそういうとハルサの首元に手を伸ばし首輪のうなじ側についている小さなボタンをぽちりと押した。
「な、何をする――!?」
驚いたハルサだったが咄嗟にでた自分の声がまるっきり違う奇怪な声に変っているのに気が付いて更に驚いた。
「なんなんスかこれー!?」
「にゃははは!
驚いたかにゃ!?
ちゃんと動いてるし流石ボクだにゃ!
それはまあ簡単に言えば変声機にゃ。
さっきも言った通りギャランティは基本金さえ貰えれば何でもするにゃ。
当然それは犯罪行為も厭わないにゃ。
そして大野田重工支配地域には"AGS"という有能な警備会社があるように他の会社にもそういう警備会社は存在するにゃ。
ここまで分かるにゃ?」
「ん、え、あ、はいっス」
完全に上の空だったハルサは、急に聞かれて慌てて返事を返した。しかしラプトクィリにはバレていた。
「まあお前でも分かるように要約するとお尋ね者になりたいわけじゃないにゃ?
なら顔と声を隠せって話にゃ!
犯罪者になったら街頭カメラにも補足されるし、電車にも乗れなくなるし、ツカサちゃんと一緒にあるくことすら出来なくなるくらい面倒になるにゃ。
隠れるにしても逃げるにしてもアイリサ博士に迷惑がかかるし、そうなったらもうその企業の支配地域にはいられなくなるにゃ。
まぁ、ハルサの毛並みは別に特徴的なものでもないにゃ。
だから顔と声さえバレなければ大丈夫にゃ」
「そういうもんなんスかね?」
「そういうもんにゃ。
獣人全てを調べ上げるなんてこと、当然ながら無理に決まってるにゃ。
登録義務なんてものはあってないようなもんだしにゃ。
そういう意味では"獣人"の我々はやりやすいにゃ。
あっ、そうそう。
モノクルの方はホログラムが出るようになってるにゃ。
例えば……」
ラプトクィリはそっと手を伸ばしてモノクルの縁を一周なぞった。するとモノクルから狐仮面のようなものが出力され、それはすぐに顔を覆うような大きさになる。
「おお、やるわね!?」
「めっちゃ大変だったにゃこれ。
でもアイリサ博士のお眼鏡に叶ったみたいで嬉しいにゃ♪
ちなみにこれどんな顔にも変えれるにゃ。
後で好きなの選ぶといいにゃ」
ハルサはラプトクィリからモノクルを受け取ると自分の左目に装着した。様々なUIがバラバラと表示され周辺の地図や、暗視モードなどといったものが表示される。
「なんスかこれすごいっス!
「仮面が表示されてる時は左下に小さくアイコンが出るようになってるにゃ。
任務に入る前にこの仮面をオンにすることを忘れるなにゃ。
ああ、そうそれとアメミットと連携出来るようにもしておいたにゃ。
対物ライフルの照準補正にきっと訳に立ってくれると思うにゃ!」
ラプトクィリはウインクをしてにこっと微笑んだ。
「ありがとうっス……。
なんかわりと行けそうな気がしてきたっス!」
「にゃはは。
ああ、そうそう。
早速だけど任務があるにゃ。
任務については車の中で話すとして……。
まずボクはツカにゃんに挨拶してくるにゃ!
挨拶から帰ってきたら早速任務に取り掛かるから準備しとけにゃ!」
-踊り子と真実と猫と鈴- Part2 End
ありがとうございます~!!!!!!!
続くのでどうかよろしくお願いします~~!!!