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-山羊の恋、新たな事件- part6

「一号!三号!

 この高飛車な山羊を殺せ!

 もう値段とかどうでもいい!

 こいつだけでも殺せぇぇええ!!」


 ほとんど裏返った声と物騒な言葉遣いでヒステリック気味に男が叫び、そのままの勢いで手に持っている黒光りする銃口をルフトジウムへと向け、引き金を引いた。男の持つ銃のバッテリーに蓄えられたエネルギーが整流器を通り、一定方向への指向性を持たされ、ライフリングがエネルギーラインを整えるとエネルギーは青白いプラズマ弾となって銃口から放たれた。


「っち、エネルギーライフルかやっぱり。

 あーもう面倒だなぁ」


ちらりと辺りを見渡しながら体を左右に振り、狙いを定められないよう動きながら一瞬で身の回りにある障害物を眺め、エネルギー弾を防ぐことが出来るものを探すがどれも不十分だと判断したルフトジウムは地面に倒れている猪獣人の体に右のデバウアーを突き刺し、ぐいっと持ち上げてエネルギー弾から身を護る盾として使う。エネルギー弾は銃弾よりスピード、威力が劣り、肉体のように水分を十分に含んだものを傷つけは出来るものの中々貫通することは難しい。しかし、確実にルフトジウムは自由に動けなくなってしまった。それこそが男の作戦だった。


「ブッコロス!」


「イタクナイ!

 ダカラゴクナ!」


猪獣人の体重は軽く見積もっても百五十キロを超える大巨漢だ。そんな奴の身体を盾にしているのだから当然ルフトジウムの動きは鈍る。エネルギー弾と猪獣人二人からの攻撃を防ぐためにジワリと壁際に移動するルフトジウムだったが避ける為の空間を自ら消し去るその時を男は待っていた。


「やれ!

 おまえら!

 二号の敵をとれ!」


男は銃からバッテリーを投げ捨て、新しいバッテリーを差し替えるとまた銃撃を開始する。


「そういう事か……。

 妙な所で知識はあるんだなこいつら」


 ルフトジウムが獣人を盾にして銃弾を防いでいる隙に、両脇から斧を大きく振りかぶった獣人二匹が勢い良く飛びかかってきた。微かに血が付いている斧の刃がギラリと光り、空気を切る鋭い音と共にルフトジウムを真上から襲う。その一撃は車を簡単にねじ切れるほどの威力、しかも二匹。男は勝ちを確信し、高笑いする。


「ヒャハハハ!!死ね!!

 お前みたいな化け物でも二匹なら余裕だぜ!!」


「シネ!!」


「イノレ!」


二匹の獣人は更にジャンプすることで斧にその体重を乗せ威力をかさ増しし、持ちうる中でも最大に力を込めて大斧をルフトジウムに目掛けて振り下ろした。なんとも形容し難い金属と金属が激しくぶつかる音が一瞬響き、余りの勢いで生じた衝撃が道路に積もっていた土埃を巻き上げる。この路地を照らしていた街灯がバチバチと光ったり消えたりを繰り返す。その光の中立ち尽くす二匹の猪獣人の姿を見て男は確かな手ごたえを感じ、銃撃を止めた。


「やったぞ!!!

 ざまあみやがれ!!!

 おいお前ら!

 あいつが持っていた武器を持ってこい!

 きっと高く売れるに決まってる!」


立ち尽くす二匹に向かって男はドキドキする心臓を抑え、命令する。いつもならすぐに動く二匹だったが今回は違った。


「……ウゴカナイ!」


「は?」


「ウゴカナインダヨ!! 

 フクダンチョーサン!」 


破損した部分を自己修復で直した街灯が、セーフモードで再起動する。一瞬暗くなり、そして直った街灯は白く現状を映し出し、男は悪夢にも思えるほどの光景を目の当たりにした。


「……少しは頭を使ったって事か。

 悪党の癖に――いや悪党だからこそか?

 けど、残念だったなぁ!?」


 白く投光される街灯の中に浮かび上がる山羊の角と真っ白な髪の毛。ふふ、と笑うルフトジウムは、恐怖から腰を抜かしてその場に動けなくなる男を目を細めて強い目つきで見据えた。左手に持ったもう一つのデバウアー刃は二匹の振るっていた斧の刃をその高熱を発揮して溶かし、その刃は斧のど真ん中にまで深く切り裂いていた。


「ウ、ウゴカナイ……ナニガオコッテ……?」


「動いてたまるかよ。

 今の俺は全力なんだぜ?」


工業用獣人のフルパワーは一匹で車一台を持ち上げる。それだけの力を持った二匹分の攻撃を、二匹の獣人が繰り出す大斧の一撃を、ルフトジウムは左手一本だけで支えるデバウアーで受け止め切って見せたのだ。


「う、嘘だ……ろ……?」


「まるで悪魔を見るような眼で見やがって。

 悪いな、俺は少し“特別”なんだよ。

 ただ単純に相手が悪かったのかなぁ?」


これこそが戦闘用獣人の強さでもあり、高価な理由でもある。一時的にだが筋力のリミッターを好きに外せるルフトジウムのような特注の戦闘用獣人は、工業用獣人の腕力ですらまるで敵わないのだ。


「コイツ……!

 ツヨイノカ!?」

 

「おい引っ張んな。

 まだ話してるだろ、ったく邪魔だなぁ。 

 いつまで未練ったらしく使い物にならなくなった斧にしがみついてんだよ。

 さっさと離れろ、三流風情が!」


そう吐き捨てるとルフトジウムは右手のデバウアーの先をぐるんとを後ろに向け、すかさず引き金を引いた。パパパパ、という発砲音が立て続けに鳴り響きデバウアーの銃口から発射された銃弾が後ろにいた猪の獣人の頭に突き刺さる。


「なんだそれ……!

 銃にもなんのかよ!!」


「ならないとは一言も言ってねぇけどなぁ。

 でも銃弾高いんだよなー。

 だからあんまり使いたくねえんだよ」


「フクチョ……サ……」


チリンチリンと硬化アスファルトに空の薬莢が落ち、なんとも軽い音をたてる。たった今一つの命が潰えた音にしては少し軽すぎるぐらいだった。


「キョーダイ!!

 ウオオオオ!!!」


怒り狂った残りの一体は斧の持ち手を離し、そのままルフトジウムに掴みかかる。


「よせ!

 やめろ!!!」


 ルフトジウムは咄嗟にしゃがみ、その攻撃を避けると左のデバウアーにくっついていた大斧を地面にこすり付けて残った部分まで高熱で溶かし切り引っ剥がした。あれだけの衝撃だったというのに、大鋏はびくともしていないない。大斧を吹き飛ばしたその勢いを借りて、左のデバウアーを右のデバウアーに重ね一つの大鋏にルフトジウムは戻す。


「ウガアァアアアア!!」


攻撃を避けられた獣人はすかさず体勢を立て直し、再び掴みかかってきた。猪の本能で目の前にある敵に一撃をかましたいその一心なのだろう。


「こっちだぜ、ウスノロ」


ルフトジウムは今度は大きくジャンプすると、突撃してくる猪の頭に手をついてぐいっと身体を捻りつつ一回転し、猪獣人の背後に着地した。鋏の形をしたデバウアーをすらりと持ち上げ、刃を左右に大きく開き刃と刃の間に猪獣人の首を挟み込む。高熱で猪獣人の皮膚が焼け、焼肉とはまた違う少し変わった匂いが辺りに拡散する。


「ほんとつまんねえ奴らだな」


「一号!!!

 やめてくれー!!!」


「オレ……ドウナ……」


まるで紙を切るのと同じように驚くほど簡単に猪獣人の首と胴体は別れた。本当に鋏で紙を切るときの音、チョキン、という音が驚くほど似合う、それほどまでにあっさりとした最後だった。ぼとん、と猪獣人の首がアスファルトの上に落ち、男の元にまで転がる。


「あ、あぁあ……」


「あー、肉が焼ける匂い……。

 最悪。

 俺は草食なんだよ」


肩についていた埃を払いルフトジウムは男の前にデバウアーを突き立てる。アスファルトすら軽く貫通したデバウアーの刃から蒸気が昇り、油の焼ける匂いがデバウアーから漂ってくる。


「なあ俺達今調べてることがあるんだよ。

 お前、知ってるといいな?」




        -山羊の恋、新たな事件- part6 End

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