↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/240

-月日が傷を癒すはず- Part 3

 部屋に戻った一人と一匹は早速机の上に置かれた数多くの資料に目を通そうとする。しかし、端末を開いたルフトジウムは目を見開いた。


「なんだよこれ……。

 上層部の奴ら、資料がこんな状態でどうやって俺達が彼奴等を見つけられると思ったんだ……?」


 苛立ちを隠そうともせず、ルフトジウムは端末を壁に投げつけた。乾いた音が響き、彼女は部屋の中を行ったり来たりと歩き回る。カンダロは、床に落ちた端末を拾い上げ、さっと画面に目を走らせると「ふむ」と小さく唸った。


「うーん…今まで色んな資料を見てきましたが、今回は輪をかけて酷いですね。

 不鮮明な写真が数枚と、最後の目撃情報、身体的特徴……。

 性格や嗜好の分析もありますが、案の定殆どが真っ黒に塗りつぶされています。

 なんとも古典的な情報統制のやり方ですね」


 端末のファイルに入れられていたのは指示書が一ページと、“AGS”が現在掴んでいるはずの捜索対象の情報だ。通常、捜査任務で渡される資料は少なくとも十ページ以上はある。だが、今回は解像度の粗い写真が数枚と、ほぼ全面を黒で覆われた文章のみだった。


「ふざけてやがる。

 本当にふざけてやがるよ。

 どいつもこいつも…」


 吐き捨てるように呟くと、ルフトジウムは怒りを抱えたまま座布団を広げ、その上に倒れ込む。ポケットから端末を取り出し、SNSを開く。楽しそうに写る同僚や友達の写真に機械的に既読を付けながら、ルフトジウムはそっとダイレクトメッセージを開いた。そこには三カ月前で更新の止まったハルサからのメッセージが大切そうに保存されている。


『約束、果たせなくてごめんっス。

 振り返らず、命令があったら撃って下さい。

 どうか、元気で。

 今までありがとうございました』


「お前、本当に一体どこいっちまったんだよ……」


ため息をつきながら最後に撮った写真を見返す。映画館での一枚を皮切りに一緒にご飯を食べた写真や、ルフトジウムの家でお泊り会をした時の写真が次々と流れていく。


「ルフトジウムさん。

 少し、いいですか?」


「あん?」


起き上がったルフトジウムが視線を向けると、カンダロは端末を机に置き直し、腕を組んでいた。


「“大鎌の獣人”程のターゲット、もし彼女が都市にいるならば街中のカメラに映るはずです。

 それなのに出てきた情報がこの複数の写真…。

 “サンレスキャット”が噛んでいるかもしくは――」


「企業の監視網から外れた所にいる可能性が高い……か」


「その通りです。

 僕個人的な見解ではありますが、今回は“サンレスキャット”が関わっている可能性は極めて低いと考えられます」


ルフトジウムは興味を引かれたように身を起こす。


「へぇ~?

 なんで分かるんだよ?」


「もし、“サンレスキャット”が絡んでいるなら、こんな写真が一枚でも残るはずがないですから」


「そういう判断基準かよ……。

 お前、あいつの実力を過剰に見過ぎているんじゃねぇのか?」


ルフトジウムは腕を組んで唸る。


「僕が“サンレスキャット”の実力を過大に見積もっていたとしても、ターゲットが企業の支配地域にいたとするともう少し情報があってもおかしくないはずです。。

 この情報過多な社会で姿を消す方法なんて、そう多くはありませんから」


一瞬、納得しかける。しかし、どうしても捨てきれない可能性があった。


「けどよ。

 もし“サンレスキャット”が徹底的に証拠を隠滅していて、たまたまこの数枚が逃れただけだとしたらどうするんだよ?」


カンダロはあっけらかんとして、自身の持つ端末のSNS画面をルフトジウムへと見せつけてきた。


「ありえませんよ。

 先ほど僕はこの写真の一枚をSNSにアップロードしました。

 既に五分経過していますが、消される気配がありません。

 “サンレスキャット”がいるのならこの投稿は直ぐに僕のものだと気が付いて連絡してくるはずです」


「おま、何して――!?」


「安心してください。

 公開範囲は限定的なものです。

 今消しますから……ほら」


「変な所で肝が据わっているというかなんというか…。

 まあいい。

 こうなったらあとは虱潰しに探すしか無さそうだな」


「そうですね。

 明日から大変になります。

 今日はもう家に帰って休みましょう」


ふと時計を見ると、もう午前五時を回っていた。定時など、とっくに過ぎている。


「集合は本日の一九時前後でどうですか?」


立ち上がり、防弾コートの袖に腕を通すカンダロ。その背中を目で追いながら、ルフトジウムは低い声で問い掛けた。


「カンダロさんよ。

 お前、ハルサの事で何か俺に隠してるだろ」


「…………」


 彼女の横に立ったまま、カンダロはしばらく沈黙した。その態度は言葉を選んでいるというより、口にした瞬間に後戻り出来なくなることを理解しているようで、逆に逆にルフトジウムの神経を逆撫でした。


「言えねぇのかよ?」


「……もう黙ってる必要もなさそうですね。

 こうして正式に任務が来た以上、隠しても仕方ありません。

 ただし、これは最上級の機密事項である事に変わりはありません。

 どうか他言無用でお願いします。

 この部屋には盗聴器も監視カメラもないですが、一応場所を変えてもいいですか?」


「…話してくれるなら俺はどこでもいい」




    ※    ※    ※




 二人は待機区画の外に出て、清掃ロボットがまとめて置かれている一角へ移動した。待機区画の外は慌ただしい。人の往来や装備を点検する音、通信の断片が慌ただしく流れているにも関わらず一人と一匹が立っている一角だけは切り離されたように静かだった。


「……今回の任務で貴女を前に出す以上全てを話しておきます」


仰々しい態度にルフトジウムは拳を握りしめる。


「おう、やっとかよ。

 三ヶ月もの間いつ話してくれるものか悩みあぐねていたぜ」


 ルフトジウムの視線は鋭い。それは警戒ではなく、カンダロの覚悟について測っているようだった。三ヶ月もの間、ルフトジウムをヤキモキさせただけの価値がある情報じゃなかった場合すぐに手が出るだろう。


「今だからこそ言います。

 知らないまま負わせるほうがきっと危険ですから」


「そうかよ。

 勿体ぶらずにさっさと言えって。

 並大抵の事じゃあ別に俺は驚かねえぞ」


短い促しにカンダロは息を整え、静かに口を開く。


「あの獣人は通常の戦力評価に収まるものではありませんでした。

 マキミ博士の最終研究……おそらく“鍵”と呼ばれている対象。

 はっきり言います。

 ハルサさんは“天使級”でした」


カンダロの言葉は淡々としていた。だがその中身を聞いたルフトジウムの頭の中はまさに真っ白としか形容できない状態に陥った。


「………」


「貴女があれだけの重傷で、あれだけの敵に囲まれていたのにも関わらず生きているのはあの時ハルサさんが貴女を全力で守ったからです。

 これが事実です」




               -月日が傷を癒すはず- Part 3 End

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。