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-朱と交わろうが白であれ- Part 23

 生きて帰れない可能性の方が高い。

 だが、覚悟は決まった。

 

 ハルサは体の内側で作り出される“熱”が全身を駆け巡るのを感じつつ、静かに熱い息を吐いた。ラプトクィリは少しの間沈黙していたのが、大きなため息をつき赫赫と戦意を燃やす現実をまるで知ろうとしない小さな狼の説得を試みる。


『はぁ~…いいかにゃハルにゃん。

 敵の物量の説明はしたのにゃ??

 実際に見てみたのかにゃ!?

 とても一匹でどうにかなる量じゃないって何度も言ってるのにゃ!!!

 さっさと現実を見ろにゃ!!!!』


「そ、そうっスけど――!」


強い口調にたじろぐがここで引くわけにはいかない。


『そうっスけど、じゃねえのにゃ!!!

 もしハルにゃんが死んだらボクはツカにゃんになんて言い訳すればいいのにゃ!?』


「………」


 あっと言う間に返す言葉も無くなってしまったハルサはただ閉口する。ハルサはハルサで、こんな辛い現実に一匹だけで残されるツカサの身を全く案じていなかった訳ではない。先のことを考えても仕方がないというざっくりとした思いで蓋をしていただけだ。しかし、彼女の中で燃えている戦意は何度か冷や水をかけられたものの、消えてはいなかった。ハルサはルフトジウムの傷口に当てていたタオルをバスタオルで胴体ごと包むようにして縛り、固定する。


『だからこそボクはハルにゃんにここで逃げてほしいのにゃ!!

 理解したのにゃ!?』


「……ラプトの言うことは分かってるっスよ。

 理解しているつもりっス」


『だったら――!!』


「でも!

 私は、私は助けたいんス!

 カンダロの車までルフトジウムさんを連れていけばいいだけっスよね!?

 やってみせるっス!

 だから早く最適ルートを出してくれっスよ!!

 私なら出来るっスから!」


ハルサはラプトクィリの言葉に言葉を被せ反論を封じる。しかし、そんな彼女の言動はいよいよ本気でラプトクィリを強く苛立たせたらしい。


『ハルにゃん!!

 この頑固のアホチビウルフ!!!』


「アホチビ…!?」


突然の罵倒にハルサは固まる。


『てめぇ、マジでいい加減にしろにゃ!!

 現実を舐めすぎなのにゃ!!

 このボクが少しでもマシな結末を迎える為にお膳立てしてやってるのに、てめえらと来たらあり得もしない楽観的な未来ばっかり所望しやがって!!

 物語でしかハッピーエンドはあり得ないって学んでこなかったのかにゃ!?

 欲しいものが全部手に入るなんて御伽噺の中だけにゃ!!

 何かを手に入れたかったら何かを捨てないといけないのが現実にゃ!!

 いい加減、現実を見ろにゃハルサァ!!!』


「そ、そんなのやってみないと――」


ハルサはしどろもどろになりながらも何かを発言しようとする。そんな狼の手を冷たい物が包み込んだ。


「も、もういいぜ…ハルサ……」


ルフトジウムの手だった。どうやら彼女にもラプトクィリの罵詈雑言は聞こえていたらしい。瀕死の山羊は重い目を開け、しっかりとハルサの手を握っていた。


「え…?」


「お、俺を…置いて……いけ…。

 お前だけで…ゴホッゴホッ、生きて…くれ…」


ルフトジウムの眼差しは本気だった。ハルサの小さな体では抑えきれない騒乱が胸の中に満ちる。彼女はルフトジウムの手を両手で握り返し、ついさっき約束した事を伝える。彼女の声には涙にも似た湿っぽいものが混ざる。


「ルフトジウムさん、一緒にご飯食べに行くって約束したじゃないっスか。

 またデートもしたいって言ってくれたじゃないっスか!!

 こんな所で終わるなんて我慢できないっスよ!!」


「は、はは……。

 ぜ、全部……やりてぇな……ァ……。

 クソっ……!」


 口から血を吐き出し、せき込みながらもルフトジウムは起き上がろうと体に力を入れる。しかし、いくら彼女と言えど肺に穴が開き、大量に出血している今動くことは出来なかった。


「体が……鉛みてぇに重てぇ……!

 こんな時に……!」


「動かなくていいっスから!

 これ以上血を流したら――!」


『ハルにゃん!!!!

 もうそんなこと言ってる時間が――!!』


 ラプトクィリの悲鳴と、どこかでガラスが割れた音が重なる。銃声と共に部屋を照らしていたLED蛍光灯が割れ、視界が奪われ、闇が部屋を包み込む。狼の目を持つハルサにとって暗闇は問題ではない。どちらかと言えば瀕死のルフトジウムは当たり前として、訪れそうになる別れに感傷的になっていたハルサも危険に対する反応が一拍遅れてしまった方が問題だった。敵襲、という二文字が頭に浮かび慌てて身を起こしたハルサの頬を熱い銃弾が掠めた。


『対戦闘用獣人制圧部隊の奴らにゃ!

 相手が悪すぎるのにゃハルにゃん!!!』


「くっ――!」


 続いて放たれた何発もの銃弾が彼女達を襲う。ハルサは銃弾を躱した勢いで身を屈め、持ち主の血がべったりと付着した手で暗闇の中赤く光っている電源灯を頼りに、デバウアーを拾うと逃げ込むつもりで品定めしていた柱の裏側に投げた。アメミットで飛んでくる銃弾を防ぎつつ、ルフトジウムの襟を掴み、ここ一番の筋力を使って彼女の体ごと飛躍する。


「俺は…置いていけ…って…!

 ハルサ…!」


「しっかり口閉じてないと舌噛むっスよ!?」


銃弾を躱しつつ何とか柱の裏側に入った彼女はルフトジウムをその場に寝かせ、壁に刺さっていたデバウアーを抜き、マガジンの残弾を確認する。柱の陰から一瞬だけ顔を出し、何とか敵の位置を把握しようと行動する。敵は発砲炎が見えない特別な銃を使用しているだけでなく、どうやら暗視ゴーグルまで持っているらしい。ハルサがチラリと顔を出した瞬間に、柱を削り取る勢いで銃弾が叩き込まれたからだ。


「クソッ、ラプト!

 出口の選定を頼むっスよ!」


『そこから一番近い出口は――えーっと…!』


「出来るだけ早めに頼むっスよ!?」


『これが嫌だったからさっさと行けって言ったにゃに!!!

 こんの、アホクソガキにゃ!!』


何も聞こえないふりをして、ハルサはデバウアーをルフトジウムに差し出した。


「ルフトジウムさん、これ。

 出来るだけ守りながら戦うっスけど、いざって時はお願いするっス」


「……ば、バカだな…お前は……。

 わーった…よ…気ぃ……つけろよ……な…?」


 返事をするかのように笑って見せたハルサはデバウアーをルフトジウムの手にしっかりと握らせると、アメミットを持って柱の陰から飛び出した。


「くそっ、うざってぇっス!!

 バカみたいに銃ばかり撃ってきやがって!」


 堰を切ったかのように雪崩れ掛かってくる銃弾をアメミットで必死に防ぎつつ、ハルサは大きな獣の耳をぴくぴく忙しく左右に動かしながらかすかな発砲音と息遣い、金属や布の擦れる音を頼りに敵の位置を把握していく。どれだけ存在を隠そうとしていても部屋のあちこちから敵の気配は漂っており、戦闘用獣人のハルサはそれらを敏感に察知しつつ、自分達二匹が既に完全に包囲されてしまっている現実を目の当たりにした。


『ルフトジウムさん、大丈夫ですか!?

 撃たれたって聞きましたけど!?』


『カンダロ、今忙しいにゃから少し静かにしておけにゃ!

 位置だけさっさとボクに転送しろにゃ!』


『えっ!?

 あ、はい!?』


包囲されているなら包囲網を食い破るしかない。狼らしく、孤高に戦ってやる。


「そこっスね!?」


 ハルサは全速力で走りながら俊敏に壁を駆け上がると、物資の裏に固まっている二人をまず始末することにした。二人の間に降り立ち、すかさず片方を目掛けてアメミットを振り下ろす。銃を横にして攻撃を防ごうとした敵の胴体が左右に分割されて絶命する。噴き出した血がアメミットに付着し、蒸発するじゅっとした音と共にハルサは残り一人に向かって指を立てる。


「さあ、さっさと逃げないと悪い狼に食われるっスよ!?」




                -朱と交わろうが白であれ- Part 23 End

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