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-朱と交わろうが白であれ- Part 20


「ハルサ、やっと出口だ!

 おい、もっと速度上げろ!」


「いや、足の長さが!

 長さが違うっスから!

 ルフトジウムさんが早すぎるだけっスから!!」


 マキミの亡霊がまだ話しかけてくるのではないかと内心怯えつつも、もしまた出てきたらアメミットで消せばいいだけだと変な方向へ割り切ったハルサは、再びルフトジウムの暖かく優しい手を握っていた。爆速で狭い廊下を駆け抜けるルフトジウムに半ば引きずられるようにただまっすぐに目的地を目指す。“出口”とルフトジウムやラプトクィリが呼んでいるのは彼女が侵入時に開けた壁の大きな穴の事で、デバウアーで溶かした穴の淵はまだ膨大な熱を持っているのかゆらゆらと陽炎を作り出していた。


『二匹ともマジで急ぐのにゃ!

 誇張抜きでやべぇのにゃ~~~!!!

 ああ、こっちも塞がれたのにゃ!

 迂回ルートの検索を――』


けたたましい警報は近隣住民全員をたたき起こす程の音量で鳴り響き、赤色に回るランプはこの施設が緊急事態下にあることを直接的に告げていた。


「なんだよ!?

 情報を共有しろ、ちゃんと!!」


一匹で大騒ぎしているラプトクィリにイラついたルフトジウムが噛みつく。


『否応無しにお前らはそのやばさを理解するのにゃ!!

 いいから少しでも早く出口から出る事だけを考えるのにゃ!!

 くそっ、こんな大事になるとは思ってもみなかったのにゃ!

 想像よりも“重工”の動きが速いにゃ~…!

 カンダロとボクが脅威度を見誤ったとしか――いや、でも……』


 まだラプトクィリの言う“やばさ”について何も飲み込めていない二匹は共に頭の上に?マークを浮かべていたが、出口から何も考えずに飛び出した瞬間ラプトクィリの言っているやばいという意味を、ルフトジウムは直感で理解することが出来た。


「うぉ!?

 やべぇ隠れろ!」


「んぐぇ!?」


急ブレーキをかけた山羊の背中に狼は激突し、変な声を出す。ルフトジウムはハルサを背中に張り付けたまま再び壁の中に戻りそこで荒く息を吐き出した。


「ちっ、そういうことかよ…!」


 ほんの一瞬しか外を見ていないルフトジウムの目に飛び込んできたのはまさにラプトクィリの言う通り“やばい”状況だった。穴の外には大野田重工の誇る大型六脚歩行戦車を始めとし、戦闘用アンドロイド、さらには耐獣人制圧用部隊の飛行ドローンや兵隊がひしめいておりたった二匹を探し出す為のサーチライトが建物の壁を舐めるように移動していた。


「顔色が変わる外には敵が居るんスか…」


「流石に厳しいぞ……」


ハルサはルフトジウムの背中と壁の間から這い出し、外を覗こうとしてルフトジウムに止められる。むくれるハルサを手で制止し、ルフトジウムは唯一今頼ることが出来るラプトクィリに連絡を繋ぐ。


「おい、“サンレスキャット”!

 敵の数そっから分かるんだろ?

 警備が手薄な場所とか無いのかよ?」


『そう言ってくるとと思ったのにゃ。

 今映像を分析にかけて数えてるからちょっと待つのにゃ。

 えーっと…。

 げ、六脚制圧用歩行戦車が居るのにゃ。

 それも四台。

 それと、四脚歩行戦車が十四台。

 戦闘支援車両が十台に、戦闘用アンドロイドが五百体前後…。

 戦闘ヘリが三機に…対戦闘用獣人制圧部隊が二部隊投入されていて…。

 誇張抜きでこの階層の部隊が全部ここに集まってるかもしれないのにゃ。

 だから壁をぶち抜く方法は良くないって申告したのにゃ~…』


「今更言ってもしょうがねえだろ。

 カンダロは車回せそうなのかよ?」


『こちらカンダロ。

 車は入手してますよ!

 …ですが、警備が厳重すぎて二キロまで近づくのが精一杯です。

 何とか一メートルでも近づけるようにしますけど――!

 すいません、時間を下さい』


「今車一台で突っ込んできたらそれこそ自殺行為だ!

 絶対無理だけはするなよ!?

 もし万が一俺達がダメだったらお前だけが頼りになるんだからな!!」


穴からサーチライトの光が千切れて飛び込んできて、どこかへと消えていく。ラプトクィリの情報操作により敵は二匹が今どこにいるのか把握は出来ていないようだったが、蟻の子一匹逃がさない厳重な警戒態勢を潜り抜けるビジョンはまるで見えないままだ。ハルサは横でルフトジウムの会話を聞きながらぼそりと小さい声で呟く。


「もしかしてこれが罠だった可能性って……」


「知らん。

 けど、俺達の行動パターンを読んでここまでの準備を済ませておく奴なんて――」


ルフトジウムは奥歯を噛みしめ、脳内に浮かぶ人物を参照していく。そして思い当たる人物が一人。


「カナシタか?

 出来るならあいつぐらいだな」


ハルサはその名前に聞き覚えがあった。


「カナシタ…?

 カナシタって、タカタホ・カナシタっスか!?」


ルフトジウムはハルサが彼を知っていることに驚き、思わず聞き返す。


「知ってるのかよ?」


「知ってるっス!

 ずーっと研究所でご主人の助手をしていた奴っスよ!

 なんか意味不明で不気味な事言ってくるっスから、私も姉様もあんまり好きじゃなかったっスけど。

 眼鏡かけていて、色白で、玉ねぎみたいな頭してる奴っスよね?

 あいつは確か研究員だったはずっスけど、なんでルフトジウムさんが知ってるんス?」


ハルサの浮かべているカナシタの姿図と、ルフトジウムが浮かべている姿図が完全に一致する。


「そいつが今“AGS”にいるからだよ。

 俺の上司で、なんか事あるごとに消臭剤かけてくる嫌な奴さ」


ハルサはアメミットをぎゅっと握りしめて、大きく息を吐き、ルフトジウムの目を見ながら言葉を紡ぐ。


「多分、同一人物っスね。

 そして私が探している人物でもあるっス。

 私達が手に入れて来た情報による仮想では、あいつがご主人を殺した犯人っスから」


そういいながらハルサは殺意を込めて目を細めた。ルフトジウムはそんなハルサを見ながら情報収集に挑む。


「お前とどういう関係なんだ?

 話せるところだけでいいから話してくれよ」


「え、一時期は同棲してた…?」


「はぁ!?

 ちゃんと話せ、一から!」


「え?

 わ、分かったっスよ!?」


 ハルサはカナシタについて知っている情報をルフトジウムに伝える。カナシタはマキミがまだ大学生だった時からの後輩だった。マキミの事を心酔しており、就職先、そして配属先までも徹底的に先輩の後ろを付いて走っていたのだからその尊敬度は本物だったと言える。二人は常に同じ場所、同じ研究を続け、マキミが“大野田重工”の要職に付けたのもカナシタの補助があってこそだと言えた。当然彼らは二十年を超える付き合いとなり、プライベートでも深い仲になっていた彼は、自宅の改装を行う半年ぐらいではあったがマキミの家の一角を借りて住んでいた事がある。その時にハルサとツカサはカナシタに出会っており、お互いに面識があった。食も衣類、寝具、歯ブラシにまでこだわりが強い男で、ツカサに対して何かと文句をつけることを好んでいたが、マキミの前だけではその限りではなかった。ハルサはその態度の切り替えの速さに虫唾が走ったのを覚えている。

 彼は出会った時から獣人の事を何故か好んでいないようで、ツカサとハルサの事を邪険に扱い、事あるごとに暴力を振るっていた。ツカサは服で隠れる所を何度も打たれていたし、ハルサは腹部を蹴られた事もあった。マキミに言おうものなら何をされるか分からない二匹は、ただただ耐えるしか出来なかった。あの半年間は正に悪夢そのものだった。ハルサが人間嫌いなのは彼が要因となっている所も大きい。


「なんだよ、同棲ってそういうことかよ。

 焦らせやがって」


「え、それ以外なんかあるんスか」




                 -朱と交わろうが白であれ- Part 20 End

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