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-初めての友達- part 5

「ただいまっスー!

 姉様ー!」


「あらおかえりハルサ。

 どうだった?」


ニコニコ顔で帰ってきたハルサをツカサは暖かく出迎えた。時間は午後六時。だいぶ暗くなった街に戦火を逃れて生き残った街灯がぽつぽつと明かりを灯している。


「ご飯食べる?

 それとも先にお風呂かしら?」


「ご飯ス!」


 読んでいた小難しそうな本を置いて、ツカサはお茶を入れていたカップをシンクまで運んでそれを洗いながら尋ねた。ハルサは持っていたリュックを降ろし、椅子の上に前後反対に座り、背もたれに顎を乗せてツカサの顔を見ながら今日あった出来事を話し始めた。


「姉様聞いてっス!

 私今日、バスっていう無料の乗り物に乗ったっス!

 電車は何回も乗ったことあったんスけど、バスは初めてだったから少し怖かったっス。

 バスに乗ってたどり着いた丘の上から見た景色がめっちゃ綺麗だったっスよ!

 姉様も一緒に今度行こうっスー!

 なんかタダノリ曰く……あ、タダノリっていうのは――」


 赤と白のコントラストの美しい街の事、その街中での人々の活気。新鮮な果物が売っていてはじめてラスガーニャという見たことも聞いたこともない甘く酸っぱい不可思議な果物を食べたという事。変な大きな重工の兵器を観たということ。産まれて初めて人間のような生活をしたことをハルサは意気揚々とツカサに話していた。それを聞きながらツカサは自分が経験できなかった生活をハルサを通じて経験しているような気分になり、自然と自分の顔がほころんでいくのを感じた。


「あらあら、そうなの。

 よかったわね、ハルサ」


「まだあるっス!

 他にも……」


ハルサは特段口数が多いわけではない。基本聞かれれば喋るといった程度の普通のレベルだったのだが、ハルサがこれほどまで自主的に沢山話したのはツカサが知る限り今日が初めてだった。


「行き方も覚えてきたっスから次は姉様も連れていけるっス!

 街の人達は重工の人みたいに差別的じゃなくて……」


 そこから更に丸々十五分ぐらい話し続けたハルサがやっと話し終え、ツカサはぼんやりと流れるがままに洗っていたコップを食器乾燥機に立てかけて作り置いていた味噌汁に火を入れた。そして冷蔵庫に置いていた味を染み込ませた魚を高火力オーブンの中に入れ、タイマーをセットした。


「うー……めっちゃ話したっス……。

 喉が痛いっス……」


「でも本当に良かったわね。

 私はそういう経験、余り無いから……。

 はい、お水」


ツカサはコップに水を入れハルサに手渡した。ハルサはそれを一気に飲んで、椅子から降りてリュックを元あった通りに片付ける。少しだけ俯き、憂いを帯びた顔をしたツカサだったが、ハルサはそれに気がつく様子はなかった。


「ねー姉様」


「?」


ハルサは別部屋の畳の上にゴロンと寝ころんだ。付けていた片眼鏡を外し、大きく息を吐いて壁に立て掛けてある自分の大鎌を眺めているようだ。


「人間っていっつもああいう風に暮らしてるんスね。

 いいなーって思ったっス……。  

 別に今の生活が嫌いなわけじゃないんスよ!

 姉様がいてくれるし……!

 純粋に好奇心っス!

 私達ってああいう生活は出来ないんスかね……。

 ご主人の所でも、今のアイリサ博士のとこでも良くしてもらってるのは承知してるっス!

 私も気に入ってるっスけどやっぱり……その、違うじゃないっスか。

 人間じゃないっスから」


「ハルサ……」


 大鎌の横に置いてある天井に届きそうなほど镸薙刀はツカサの物だ。ハルサは立ち上がると自分の大鎌を手に取り、巻かれている布をゆっくりと外した。電気の明かりを鈍く照り返し、アメミットの銀色の刃が輝く。ハルサの武器である大鎌アメミットはハルサが人間らしく生活できない象徴とも言えた。ツカサはその光景を見て少し胸が詰まる思いだったがあえて何も言わず、ふっくら焼ける鮭を眺める。


「冗談っス姉様。

 私達は見つけなきゃいけないっスから。

 私達がせめて生き物として無事に生きれる場所を」


「………そうね。

 そして見つけなきゃいけないわね。

 私達の博士を殺した犯人を。

 必ず見つけ出して仇を打たないといけないわ。

 なんせご主人は後まで私達には教えてくれなかったから」


ハルサは大鎌に再び布を巻いて抱きしめる。


「マキミ博士……。

 会いたいっスね姉様」


 ハルサが大昔に番犬として飼われていた時にマキミ博士から貰った武器アメミット。それを自らの手で取り返し、戦って仇を討つと決めたのはハルサだった。ツカサはその時どうしようか迷い、自らの手で戦うということは選択しなかった。


「そうね……」


今でもチラつく赤い炎のあの光景。幸せが形を保って目の前に存在していたあの時。


『逃げろ……。

 お前達は……せめて……』


ツカサの脳内にうっすらと浮かぶ記憶は、ハルサが大鎌を壁に再び立てかけたごとんとした音で中断される。目が覚めたツカサが鮭を見るとちょうどいい頃合いにふっくらと焼けていた。ツカサは炊きたてご飯が入った炊飯器を開けて、ハルサを呼びつける。


「晩御飯にしましょうかハルサ。

 食器を用意して頂戴〜!」


「はいっス!」




     ※ ※ ※




「ふーん。

 そうか、まだ全然見つからない……ね。

 それで?

 ギャランティはなんて?」


『まだなんの返事もないですよ。

 あそこはあちこちに入れ込んでるし、規模も大きいですから我社からの圧力もまるで意味を成しませんね。

 実質八番目の大企業と言っても過言ではないぐらいですから。

 そこに逃げ込まれたとしたらだいぶ厄介ですね。

 可能性がないわけではないですがだいぶ違法的な手段を使うことになるかもしれません』


「全く……。

 頭痛がしてくる程の悩みになるなこれは。

 困りに困ってるよ、君たちのお陰様で」


『聡明な貴方でも困るんですか?』


「ふん、そりゃね。

 私だって人間なんだから困ることくらいあるよ。

 元はと言えば君――重工がマキミ博士を始末……いや“解雇”したときに見逃したからだろう?

 違うか?

 しっかりしてくれよ本当に」


『う……。

 それを言われると何も言えなくなりますね……。

 ただこの件が公になることはほとんどないと思いますからそこは安心してもいいかと』


「あたり前だろ!!

 あってはならないことなんだよこれは。

 まあとにかくとりあえず、君の要請は却下かな。

 我社の部隊をこれ以上捜索に出すわけには行かないから。

 その代わり、AGSに依頼して探させろ。

 列車の件で彼処は借りがあるだろう?」


『……畏まりました。

 そのように致します。

 それではまた、一週間後の提示報告時に』


「早く探し出して報告してくれたまえよ。

 我が社だって一枚岩じゃない。

 近々反対勢力とやり合うことになるだろうからな」


『畏まりました』




               -初めての友達- part 5 End

一話前、お話間違えてましたごめんなさい~!!

許して!!!



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