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-初めての友達- part 2

 その言葉にはいつも割と冷静なハルサの方が度肝を抜かれた。獣人としての立場をハルサは弁えていたから尚更ビックリしたのだ。一般の家庭なら「獣人と遊んではいけない」とか「獣人はただの人間の召使いだから関わってはいけない」といった教育が施されている家がほとんどだ。むしろ小学校で獣人は人間の奴隷なのだから積極的に関わることはせず、距離感を保って接するように、と基本的な教育として習うぐらいだ。それすら知らないという事は……。


「友達……!?

 何いってんスかお前!?」


「え、だ、ダメか?」


今度は相手がびっくりする番だった。まさか強い反発が返ってくるとは思ってもみなかったという事だろう。


「ま、まぁ、別にいいっスけど……」


だからハルサはあわてて次の言葉を紡いだ。その返事を聞いたとき


「やった!

 俺、タダシゲって言うんだ!

 お前は!?」


少年、タダシゲの顔はぱあっと明るくなった。


「ハルサ……。

 私の名前はハルサ、っス」


とっさに嘘の名前を教えて、リスクを回避しようとしたハルサだったが、嘘の名前を考え付いて教えるよりも早く本当の名前が口からこぼれ落ちていた。


「ふーん、いい名前じゃん!

 気に入ったぜ!」


へへへ、と鼻の下を擦り何故か得意げなタダシゲはハルサのことを足先から頭先までじっくりと眺めてきた。ハルサはふと見られる事に対しての居心地の悪さを感じ、アメミットを二人の間に立ててタダシゲの視線を遮る。


「しかしこのご時世にモノクルなんて付けてるやつがいるとは思わなかったよ!

 なんでそんなんつけてんの!?」


「これないとよく見えないっスから……。

 単純に片目が悪いんスよ、私」


ハルサは自分の容姿にケチをつけられたような気がしたが、笑っている少年の顔にはそんな悪意は一片たりとも浮かんでいない。もしこれが大人だったらハルサは喧嘩を売られたと思って突っかかっていっただろう。


「それで……。

 なんで私と友達になりたいなんて思ったっス?」


「別に理由なんてねーよ。

 暇だったから遊び相手欲しかっただけだし。

 それに初めて見た顔だからよ。

 きちんと喋れる獣人はお前が初めてだから余計に友達になりたかっただけだよ」


タダシゲはそう言ってハルサの横に座った。更にゴミの臭いがきつくなりハルサは鼻呼吸から口呼吸に切り替える。一応友達と言ってくれた初めての人間を傷つけたくはなかった。


「そっスか……。

 でも私達獣人っスよ?

 わかってるんス?」


「そんなん、どーでもいいよ。

 関係ないじゃん。

 なによりお前、めっちゃかわいい美人のねーちゃんと一緒にいたしな!

 いいよな~!!!

 思いっきり俺のタイプ!

 つーか、ハルサが成長したらあんな風になるってなんか想像がつかねーな」


少年はハルサの体をじーっと見ながら、そんな一言を投げかけて来た。間に置いたアメミットの陰に隠れるようにしてハルサは自分の体をもう一度隠しながらタダシゲを軽く睨み付ける。


「いきなりめっちゃ失礼っスね!

 姉様狙いなら許さないっスよ!」


「へへ、ジョーダンだよそんなに怒んなよ!」


タダシゲは悪びれる事もなへへへ、と笑う。純粋で何の悪気も感じないその笑顔にハルサは怒る気にもならず、あげた拳を下ろす。


「同い年の知り合いができてめっちゃ嬉しいよ。

 なぁ、ハルサはどこ出身なんだ?

 共通語もめっちゃ上手いし、それに珍しい髪の毛の色してるじゃん?

 目の色なんで右と左で違うの?

 大野田重工のコートどこで買ったんだ?

 そんでもってその手に持ってんのは何?」


「待って、待ってっス!

 そんな一気に答えられないっス!」


 マシンガンのように飛んでくる質問に圧倒され、ハルサは両手をタダシゲの目の前で振った。タダシゲはやっちまったと言う顔をして頭をかき、もう一度質問をハルサに繰り出した。


「ごめんごめん。

 改めて……じゃあ一個目から!

 ハルサはどこ出身なんだ?」


「――獣人が何処から産まれてるのか知らないんスか?」


「知らないよそんなん。

 生き物なんだからお母さんとかいるんだろ?」


ハルサは本当の事を言うべきか、嘘を付くべきかで迷った挙げ句、嘘で「本社都市っス」と答えた。全てを説明する義理はないと考えたし、本当のことを教えたら彼はきっとハルサの事を軽蔑すると思ったからだ。


「本社都市!?

 大野田重工の!?

 話は何回も聞いてるぞ!

 本当になんでもあんのか!?」


好奇心に満ち溢れた彼の顔を見てハルサは若干の罪悪感に胸を締め付けられながらも嘘に嘘を重ねるために頭をフル回転させる。ハルサが知っている本社都市などごく一角、アイリサ博士の家の周りだけだった。


「それは――」


ハルサが答えようとしたとき、町中に大きなチャイムが鳴り響いた。本社都市でも流れる、定時を知らせるチャイムだ。タダノリは立ち上がると二、三歩程歩きハルサを見ながら言う。


「やべぇ!!

 とーちゃんとかーちゃんが帰ってくる時間だ!!

 なー、ハルサ明日暇だろ?

 明日お昼くらいから遊ぼうぜ!」


「はぁ、いいっスけど……」


「じゃあ一時にここな!

 また明日な!!」


タダノリは猛ダッシュで走り出し、あっという間に角を曲がって見えなくなった。ぽつんと残されたハルサはスーパーの入り口を見て、姉がまだ買い物から帰ってきていないのを確認するとボソリと呟いた。


「友達……っスか」






               -初めての友達- part 2 End

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