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-初めての友達- part 1

「はぁ、あの子たち大丈夫かな……」


 本社都市中心部から少し離れた所に少し大きめの豪華な和風の家がある。森と四本の鳥居に囲まれ、一年中遺伝子調整された桜が花を散らし、二日に一度、家事アンドロイドと獣人が屋敷の整備を行っているおかげでとても綺麗に保たれているこの屋敷には一人の赤毛の女性が住んでいた。豪邸といっても差し支えないその一角、唯一明かりが点いている部屋にその女性はいた。


「マキミ博士の形見、でしたっけ?」


壁のスピーカーから聞こえるのはいくつものプロテクターを挟んだ機械的な音声だけだったが、赤毛の女性は気にもしないようだった。


「そう。

 あのタラシでどうしようもないバカ男の忘れ形見。

 だからこそ引き取っちゃったんだけどね」


「アイリサ博士。 

 感傷に浸っておいでですか?」


 赤毛の女性の名前はアイリサ・ハルカ。大野田重工に勤める博士で古代遺跡技術の採掘、分析を担当しているそれなりに地位のある、所謂できる女性だ。そしてツカサとハルサ姉妹が今現在住んでいるこの大きな家の持ち主でもある。アイリサ博士は窓の外の赤い巨大な鳥居を眺めつつ、お茶をすすった。森の奥には本社の巨大なビルがいくつも聳え立っていた。


「感傷に浸りたくなんてないけどね。

 ……あんたがそう言ったからでしょ。

 人間なんだからそりゃ少しくらいはセンチメンタルな気分にもなるわよ」


「理解しかねます」


「冷たい人間ね、貴方も」


カタカタと叩いていたキーボードをしまい、アイリサ博士は椅子から立ち上がると横においてあるフカフカのベットに横になった。


「あー、ダメ。

 集中できないわ。

 今日はやめる」


アイリサ博士はメガネを取って目頭を揉む。目の疲労と睡眠不足からくるクマがひどい。


「ずっと気もそぞろでしたもんね。

 早くお休みになられてください」


「そうね、そうする。

 またいつもの時間にそちらからかけてきて。

 最近は電脳の世界も監視が厳しいから本当に気をつけて。

 私からの依頼はギャランティに届いたか確認して。

 それと……」


「わかってますって。

 あの二人は我々が責任を持って見守るのでご安心を」


「頼んだわよ」




      ※ ※ ※




 大野田重工第百二十四工業都市。

大野田重工と戦争状態にある他の大企業『A to Z』との最前線にこの都市は位置していた。ならず者や、犯罪者、負け組のサラリーマンが路地裏に集まり、戦争で投棄された街に都市役所ですら管理できないようなスラム街があちこちに作られていた。

 かつてA to Zの都市だった下層都市の道路にはゴミが溢れ、耐えがたいほどの悪臭を放っている。昔の都市の上に大野田重工が新しく都市を建設した為、この都市は歪な二重構造を持っていた。シールドで守られた上層部には身分の高い工場長や、市長を始めとした人間が住み、更には軍隊の司令部が置かれ、下層のゴミ溜めには獣人と薬に溺れた人間が戦争に引っ張り出されるのを怯えて待っている正に地獄のような都市だったが、隠れ蓑には丁度いい。

 今住んでいるアイリサ博士の家が暫く重工の監視範囲内に入るとの情報を聞きつけた傭兵組織『ギャランティ』直々のお願いで、二人は一時的にアイリサ博士の家から出ることになったのだ。

 ギャランティは企業に傭兵を派遣する事で利益を得ている中立な組織の一つで、アイリサ博士、そしてマキミ博士に大きな貸しがあるようだった。細かいことはさておき、ギャランティもツカサとハルサが他企業の手に落ちるのを望んではいないらしい。ギャランティの派遣したエージェントが隠れ蓑に選んだ選択肢の一つがこの最低な都市だったというわけだ。


「めっちゃ遠かったっスね……」


下層都市中央駅から外に出た二人を出迎えたのは異国のような雰囲気と、寂れきった街、そして空を覆う巨大な鉄板とそれを支えるためのいくつもの柱だった。


「でも沢山景色が見れて良かったじゃない?

 列車は常に暖房が効いてて暑いくらいだったけどシャワーもついてて私は不満点はないわよ〜。

 獣人ってバレない様に耳と尻尾を隠すのがなにより一番大変だったわね」


 ギャランティが直々に手配した列車のチケットを使って『カテドラルレールウェイ』と『ダンガンセントラル』の列車を乗り継ぎ、二日ほどかけて二人はようやくこの街へと辿り着いた。

 この街でエージェントが用意したポッカリと穴の空いた――要するに巨大兵器の砲弾が着弾した跡の残る建物に監視が外れるまでの一ヶ月ほど住むことが決まり、二人はインフラがまだ生きている空き部屋をアパートの中から探し出すことに成功した。


「めっちゃラッキーっス!」


「ええ、そうね」


「普通に住むぐらいなら悪くないかもしれないっスね姉様!」


「服まであるなんて……。

 運が良かったわね私達」


 そこのタンスには過去住んでいた住人の服が丸ごと綺麗に残っていて、住む所と着るものは困らない環境を手に入れた二人が次に手に入れるのは食料だ。




     ※ ※ ※




そんなわけで、下層都市のスーパーマケットを二人は到着して直ぐに訪れていた。

 

「一緒に来る?」


「行ってもつまんないからいいっス。

 晩御飯は姉様に任せるっスよ」


「やれやれそんな調子じゃ料理もまだまだ出来そうにないわね。

 どうやって嫁に行く気なの?」


「絶対無理っスね。

 家族ごっこは獣人には必要ないんスよ」


「連れないこと言わないの」


 ツカサの誘いを断り、姉が寂れたスーパーに入っていくのを見守って、人間と話すのが苦手なハルサは入口横に置かれたボロボロなソファーに座って姉が出てくるのを待っていた。

 背の高いビルに日光は遮られ、真昼だというのに薄暗いこの辺りの街は人通りも殆どなく、折れてひしゃげた標識やたくさん落書きされた壁だけがかつては沢山いたであろう人間の痕跡を残していた。共通語で書かれた文字からこの辺りはかつての住宅街だったことが伺い知れる。比較的街の中では高い場所に位置しているおかげで都市の外に広がる砂漠の様子まで見ることができるが、その眺めはいいものと言うよりも戦争の最前線であるが故の緊張感を漂わせていた。

 そんな時にハルサは一人の人間の男の子にがじっとハルサを凝視してくるのに気がついたのだ。ハルサが大野田重工の幹部から奪ったコートを着ている事なのか、それとも肌見放さず布でぐるぐる巻きにして携帯しているアメミットが珍しいのかは不明だが、年頃の少年の興味を引き続ける何かがそこにはあったらしい。


「………なんスかジロジロ見てきて。

 見せもんじゃないっスよ」


その視線に耐えきれなくなってハルサはついに少年に話しかけた。


「な、なぁ!

 あんた俺と同い年ぐらいだろ!?

 そうだろ!?」


無邪気に少年はハルサを見て白い歯を見せてニカッと笑った。


「はぁ……?

 なんスかお前……?

 私が同い年かどうかは分かんないっスけど……」


 男の子はハルサよりも少し背が高く、ボロボロの服を着てその体にはゴミの臭いが付いていた。髪の毛は丸刈りだがかなり痩せており、戦争孤児、もしくは負け組サラリーマンの家に産まれた子供だろうか。汚らしい見た目に反して真っ黒なその瞳孔はギラギラと輝いていた。


「俺は今年十三歳になるんだぜ!

 あんたは?」


「えー……っと……?」


ハルサは自分の指を折って数を数えると


「私もそんなもんスね。

 多分」


と返した。少年は嬉しそうにハルサに近づきその手を取ると


「いいじゃん!

 なぁ、俺の友達になってくれよ!」


と言ってきたのだ。


「はぁ!?」






               -初めての友達- part 1 End

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