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-角が折れた日、初めての出会い- part final

 眠れない夜は永遠に続くものではない。時間が経つと朝は来る。それを望もうが望むまいが。眠れないと思っていたルフトジウムだったが気が付いたらぐっすり眠っていて、うるさいベルの音で目が覚めた。寝不足であることに変わりはないが、いつも通りに準備をして、すぐ横にある支部に出勤する。すでに腹は括っていた。F部隊部隊長のダイから怒られる覚悟も決めてきた。昨日一日で自分が負けたという事実に目を背けることが出来ず、はやく怒られてすっきりしたかった。


「だっりぃなぁ……」


頭の重量バランスが崩れていることで気だるさを訴える身体を無視し、飲み終わった缶緑茶を玄関横のゴミ箱に投げつけ、ルフトジウムは玄関に入りすぐ横にあるエレベーターで八階に向かう。エレベーターの扉が左右に開いたとき、さっそく飛んでくるであろう罵倒に備えるため肩をすくめたルフトジウムだったがそんなことはなかった。グリズリー姉妹もダイズコンビも、バチカチームの連中も誰もバカにしてこない。違和感を覚えつつ、部隊長の部屋に入ると中ではダイとカンダロが喋っていた。


「お、来たか来たか。

 早速お前に言わなきゃいけないことがあるぞ」


「へ?

 一体何なんですかね?」


ぽかんとするルフトジウムだったが、ダイとその横に立っているカンダロの表情がニコニコしていることから悪いことじゃないことは察せる。


「昨日の任務だが、依頼者の虚偽の申請が判明してな。

 本来ならC部隊に任す程の高難易度の任務だったことが分かったんだ。

 だから今回わが社の落ち度は無し!

 お前は守れなかったものが多数あったが二人でよくやったとむしろお褒めの言葉を頂いたぞ」


「なんだよそれぇ~……」


ルフトジウムはほっと胸を撫で下ろした。出勤前の気だるい感情は全て無駄だったということだ。そりゃカンダロもダイもニコニコしているわけだ。本来なら超絶エリート、AGSの上から三番目の実力を持つC部隊の仕事だったのだから。


「夜中ずっともじもじしてた俺がバカみたいじゃねーかよ……」


「ガハハハ!!

 なんだお前もそういう事気にするようになったのか?

 成長したな!?!?」


「うっさい!!

 俺だって悩むし、考えるんですよ!!」


ダイの揶揄いにルフトジウムはムキになって反論した。全くもってこの人は……。カンダロはそんな二人をニコニコして見てたが、二人が落ち着いた頃合いに新しい話題を切り出した。


「ルフトジウムさん。

 もう一人……僕たちのチームに戦闘用獣人が加わることになったんですよ」


「お、マジで?

 やったー楽出来じゃん!

 ラッキー!」


「もー!!貴女っていう人は!」


「人じゃねーし」


「ごほん。

 サイント、入ってきていいよ」


ドアを開けて入ってきたのは細めの華奢なうさぎの獣人だった。綺麗な金髪に所々ブチのような茶色の模様が入っている。少し長めの金髪で片目を隠していて、身長は百五十一センチぐらいだろうか。どこか自信のなさそうな雰囲気は間違いなく新米を感じさせる。全体的に細目だが出るところは出ている。持っている武器はルフトジウムと同じデバウアーだがセットで鋏にしているわけではなく一本しか持っていないようだ。


「え、えっと……。

 サイントって言います……。

 頑張ります……。

 よろしくお願いします……先輩!」


彼女は頭を下げると、ルフトジウムから目を逸らした。


「というわけで新しいお前の同僚だ。

 しっかりと面倒見てやれよルフトジウム!

 ガハハハハハ!!」


せっかく楽が出来ると思っていたルフトジウムだったが、新入りの登場にがっかりした。


「なんで俺ばっかり新人をー……」


「それだけお前のことを信用してるってことだよ。

 ガハハハ!」


「それと、コレ。

 昨日徹夜で作ってきたんです」


カンダロが渡してきたのは折れた角の断面図をカバーする為の鉄の飾りだった。赤色の紐の飾りがワンポイントで着いていて、かわいい。


「一応折れた角と同じ重量にしています。

 これで頭の違和感も多少は取れるかと」


「お、どれ付けてみるか……。

 うん……悪くない……!」


鏡を見て、確認する。折れた角の醜い断面図が綺麗に隠れ代わりにひらひらとかわいい赤色の紐が垂れ下がっている。


「気に入った。

 ありがとうなカンダロ。

 それとサイント……だっけ?

 これからよろしくな」


「はい、先輩!」


「じゃあ解散だな!

 さっさと出ていけバカどもガハハハ!」


部屋から出てカンダロとサイントに先に部屋に戻るように伝え、ルフトジウムは洗面所に行った。


「くそっ情けねえ……」


怒られてすっきりしたかったというのに逆に褒められる展開にルフトジウムの心はぐちゃぐちゃになっていた。いくらC部隊レベルの仕事だったとはいえ、タイマンで獣人に負けたことに変わりはない。鏡に、そこに映る自分の姿はただ角を折られた、戦闘に負けた戦闘用獣人の姿だった。かわいいリボンで負けを取り繕うだけの無様なその姿にルフトジウムは苛立ちを覚え思わず壁を殴っていた。腹の奥から沸き起こる苛立ちと憎しみは全てあの日の夜あった獣人に向かった。


「絶対にやり返してやるからな……。

 覚えてやがれあの野郎――!」






               - 角が折れた日、最初の出会い - End

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