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-角が折れた日、初めての出会い- part6

「何も知らないなら邪魔しないで欲しいっス」


そう言って侵入者は目を細めた。侮蔑を含むその表情にルフトジウムは食い下がろうかと考えたがすぐにその考えを改めた。まぁいい、とルフトジウムは胸の中で吐き出す。カンダロが応援を今頃要請してくれただろう。あと十分もしないうちに本部から部隊長とグリズリー姉妹といった化け物の中の化け物が来てくれる。そうすれば形勢逆転だ。この獣人を捉えてバッググラウンドを洗いざらい暴いてやる。あわよくばこの子AGSに入れて鍛えれば相当な戦力に――。

ドロリとした感触がまたルフトジウムの左目を襲う。血だ。反射神経でルフトジウムは思わず左目を閉じてしまった。そしてそれが唯一の彼女の隙になってしまった。ゴロン、と何かが転がる音が閉じた左目の方から聞こえる。訓練で嫌になるほど聞いたその音は種類はわからないが間違いなく手榴弾の一種だった。


「しまっ――!」


強烈な閃光と爆発音が残るルフトジウムの右目と耳を潰した。スタングレネードの一種と思われるそれは大野田重工が破棄する予定だった武器の一つだろう。侵入者はいつの間にかそれを手に入れルフトジウムに気付かれないように所持していたのだった。


「待て!!」


ドン、と強く突き飛ばされルフトジウムは床に転がった。ガラン、と鉄の板のようなものが何かにぶつかる音と共に列車内に風が新しく吹き込む。左目の血を拭い、右目がようやく見えるようになった時にはすでに侵入者は列車の壁を持っていたであろう大鎌で大きくくり抜き姿を消していた。溶けた鉄が静かに滴り落ち、あの大鎌の刃の威力を静かに物語っていた。


「くそっ……逃がしちまったか……」


ずるずると痛む体を引きずって背中を壁に預けたルフトジウムの耳にターボジェットエンジンフロートの耳障りな音が聞こえてきた。やっと増援が来たらしい。ぽっかり空いた穴からルフトジウムは味方に手を振ると限界に近付いていた意識を静かに手放した。




     ※ ※ ※




 目が覚めた時、ルフトジウムの顔を心配そうにカンダロの情けない顔が覗き込んでいた。


「起きた!

 先生!

 目が覚めましたよ!

 よかった!!!」


「あーハイハイ。

 ならもう大丈夫だから騒がないでね。

 他の獣もいるからね」


開き切った瞳孔に蛍光灯の無機質な光が眩しく刺さる。カンダロは嬉しそうにルフトジウムの側の椅子に座ると目をキラキラさせて話しかけてきた。


「ルフトジウムさん!

 よかったーてっきりもう目覚めないかと――」


「うるせぇぞ……」


 無機質な白い家具と壁、天井からここが医務室であることをルフトジウムはすぐに察知した。いつもここに放り込まれている同僚を分厚いガラス越しにバカにしていたから分かる。ルフトジウムが廊下の窓を見るとその向こうに案の定こちらを指さして笑うグリズリー姉妹の姿が見えた。それにダイズコンビも。いつもはあいつらを嘲る立場だったがいよいよやり返されたのだった。


「お前、怪我はないのか……?」


「おかげさまで無傷ですよ……。

 よかった本当に生きていてくれて安心しました……」


ムカつく姉妹から目を逸らして、ルフトジウムはカンダロの顔を見た。その顔はどこか申し訳なさそうでそれがまたルフトジウムの苛立ちを産む。


「生きてるのになんて湿気た面してんだお前……」


「ちょっと色々あって。

 自分の不甲斐なさに腹が立ったというかなんというか……」


「はあ」


ルフトジウムはそうボヤキながらも体を起こした。頭の重量バランスが崩れて、自然と右少しだけ首が傾いてしまう。


「うおお、変な感じだこれ……」


「まだ寝てなきゃダメ……ってわけでもないか。

 戦闘用獣人よねあなた確か。

 ならいいのか。

 二日もすればきれいに治るわね。

 はい治療完了証明の紙。

 ここにサインしたら退院だから」


獣人を専門で診察しているいわゆる初老の獣医がルフトジウムのカルテを捲りながら眼鏡を外す。ルフトジウムはお礼を言うと退院の手続きを取るためにボールペンを手に持った。


「あなた山羊……よね?」


自分の名前を紙に書き終わり、バインダーを獣医に返すと獣医が確認の意味も込めてか何の血が入っているのかを聞いてきた。


「あ、ああはい。

 そうですけど?」


「残念だけど角はもう治らないかもしれないわね」


「ああ……やっぱり?」


予期してはいたが改めて言われるとその事実の大きさがどっしりとのしかかってきた。生まれた時から一緒に大きくなってきた存在なだけにそれが無くなるということはにわかには信じがたい。でもまぁいい、角一本で人間の命が一つ守れたのだから。それに二人とも生きている。

――そうルフトジウムは心で割り切ろうとする。


「それにその断面、鉄か何かで保護した方がいいわよ。

 今は包帯でカバーしてるけど神経がむき出しになってるのよ。

 雑菌が繁殖するしなにより貴女の弱点にまたなりうるから」


「――了解です」


「鹿の獣人ならまだ生え変わったんだけどね……。

 力になれなくてごめんね」


「いえ、気にしないでください……。

 自分で選んだことなんでこれは。

 それに……。

 それに戦闘用獣人に負けた戦闘用獣人なんで俺は。

 では……また……」


 医務室から出るとすっかり支部は夜勤の人間と獣人で溢れていた。いまから出勤するもの、帰ってきたもの、疲れ切って眠っているもの様々だったがどいつもルフトジウムにとっては顔なじみだった。だからこそ片方の角を落とした彼女を見て全員がびっくりしていた。


「え、角どうしたの!?」


「おい大丈夫かよ!

 お前ほどの獣人がなんでそんなことに!?」


「いよいよお前も角無い組の仲間入りか!

 歓迎するぜ~!」


全員が質問攻めにしてくるが、それをはいはいと適当に躱し、生返事だけ残してルフトジウムとハルカンダロは支部の外に出た。しっとりした空気も夜なのにすっきりと乾いてしまっていた。


「雨が止んだか。

 大体俺が寝てたのは二時間ぐらい……ってとこか?」


「そうですね、だいたいそれぐらいです。

 あ、そうだ。

 F部隊長からの命令ですが今日はこのまま直帰しろとのことです。

 細かいことは明日改めて聞くと」


カンダロは命令を伝えると、あったかい缶有機緑茶をルフトジウムに差し出した。


「おサンキュー。

 はー………。

 俺、ドヤされんのかな~。

 でもまぁ、生きてるわけだしいいか。

 人間は守ったんだ商品はともかく……うん。

 俺はそう考えないと明日が怖い」


早速缶の蓋を開け、一口飲む。甘ったるい有機緑茶のにおいと味がルフトジウムに一息つかせる。


「なあカンダロ。

 負けちまったんだよな、俺は」


「え……?」


パトカーのサイレンの音がどこか遠くで響いている。星を見たかったのに空に飛んでいる宣伝用広告気球のギラギラとした明かりが星を掻き消していた。


「いや、何でもない気にしないでくれ。

 ああ、つっかれたな~!

 帰って寝るぞカンダロ!」


「はは………。

 次は……次こそは僕もルフトジウムさんの力になれるように頑張ります。

 情けないことに今回僕……いや何でもないです。

 ではまた明日!」


「おう。

 また明日な。

 缶緑茶ありがとうな。

 明日一緒に怒られようぜ」






          -角が折れた日、初めての出会い- part6 End

ありがとうございます~!

頑張って更新していくので応援よろしくお願いいたします~!!


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