おひげをつけたい令嬢の話
コミック3巻発売記念のSSです。
さすがにもう100日のあいだに入れられるエピソードが思いつかないため、
時系列や細かいことは無視してお楽しみください。
ちなみに白馬のジョセフィーヌ、小説1巻の発売時の限定特典だったしおりからDLできるSSで主役だったお馬さん(オカマ)です。なので乗馬用の白馬ですが馬車馬もできます。だってオカマは最強ですからね。何も問題はありません。
それは、神様との他愛無い雑談中に聞いたお話でした。
『聖夜……ですか?』
『そう、サンタクロースという真っ赤な服を着たオジサンが、トナカイに乗って子どもたちにプレゼントを配るっていう伝承がある国があって――』
なんですか、それは!
とっても楽しそうではありませんかっ!
というわけで、ルルーシェ=エルクアージュ。
やってみたくなるのは淑女の嗜みとして当然です。
衣装を用意するのは簡単でした。
エルクアージュ家は公爵家。貴族の道楽として、服の一着や二着仕立てたところで、何も問題はございません。デザイナーさんは不思議な顔をしておりましたけどね。「しっかりお金は払いますわよ」と十分な紙幣をテーブルに出せば、大喜びで急ぎの作業を約束してくれました。
次にトナカイとソリですわね。
トナカイという動物は他国から取り寄せねばならないため、ここは馬で代用することにしましょう。まずはお試しですから。対価効果というものは大事ですわ。きっと白馬のほうが夜に映えるでしょうから、殿下の愛馬ジョセフィーヌをお借りしましょうか。
ふふっ、ジョセフィーヌに理由を話したら「任せなさいっ!」といなないて
くれましたわ。多分。対価はもちろん人参です。お父様が作ってくれた逸品を喜んでもらえて、わたくしも嬉しいですわ。
「で、俺の馬に乗るのか? ルルーシェが?」
「はい、そのあいだはエルクアージュ家の馬をお預けしますので、急用がございましたらそちらを利用していただければと」
「いや、それはいいんだが……夜に、ルルーシェが、ひとりで乗馬するのか!?」
もちろん、飼い主の許可も得なければなりません。
サザンジール殿下の了承はすぐに下りると思ったのに……何か不都合がございますのかしら?
「そうですが、なにか?」
「危ないだろう!!??」
わたくしは公爵令嬢。人並み以上の乗馬の嗜みくらいございます。
ただ御者の経験はございませんが……わたくしとジョセフィーヌの仲ですもの。友情パワーでそんな些末な問題は簡単に乗り越えてみせましょう。
だけど、殿下はわたくしの弁明を一切聞かずに言い切ってしまいました。
「ルルーシェのサンタに、俺はなる!」
「わたくしのサンタクロースはいらないのです。わたくしがサンタクロースになりたいのです」
「ダメだ。絶対にダメだ!」
「お許し下さらないのでしたら、ジョセフィーヌは諦めますわ……」
「そういう問題じゃない。そもそもルルーシェが夜更けに一人で馬に乗ることが問題だ! 護衛をつけるつもりはないんだろう?」
当たり前じゃないですか。
どこに護衛をぞろぞろ引き連れたサンタクロースがおりますの?
ま、実際のサンタクロースも見たことがないのですが、神様から聞いたお話のイメージからは遠ざかりますわね。本当はソリで空を飛びたいくらいなのに。
結果、サザンジール殿下も同行するということで落ち着くことになった。
誠に不本意ではございますが、仕方ありません。
残るプレゼントの用意も、何も問題なく終わりました。
だってわたくしは公爵令嬢ですから、金銭に糸目は――以下略。
「ところで、誰にプレゼントをあげたいんだ?」
放課後のプレゼント選びにまで同行したサザンジール殿下からの問いかけに、わたくしはにっこりとお答えしました。
「わたくしのかわいい子たちですわ!」
そして、作戦決行の夜。
あいにく、この日はキンと冷えるものの、雪は降ってくれませんでした。
神様も気が利きませんわね。こういうときくらい、奇跡を起こしてくれてもよくなくて?
「雪が降らなくてよかった。滑ったらジョセフィーヌが可哀想だからな」
「そのくらい問題ないのに。でもそんな優しいところがしゅきッ!」
ともあれ、なぜか殿下も赤い衣装を着ています。しかも真っ白いおひげ付き。正直あまり似合っておりません。というか、どこの世界に仮装する王太子がいるのかしら?
ちなみにジョセフィーヌの首に着けたベル付きリボンはかわいいですわ。
「ルルーシェは……何を着ても似合うな」
「当然ですわ。仮にも未来の王妃ですもの」
「ふはっ……そうか。それならよかった」
そんなこんなで、先に馬に乗った殿下が手を差し伸べてくださいます。
最初は馬車の中にいるように言われたのですけどね。こればかりはとお断りしました。殿下ひとりに寒い思いをさせて、わたくしだけ毛布に包まっているなど、言い出しっぺとして恥ずかしいでしょう?
「こうして……ふたりで馬に乗るのも久しぶりだな」
「……そうですわね」
「それじゃあ、まずはレミーエの家からだな!」
さすがに無断で屋敷に忍び込むのは、ラピシェンタ王国の法律上、犯罪です。王太子とその婚約者が、堂々と違法行為を行うわけにはいきませんわ。事前に親御さんに事情を説明し、本人にバレないようにこっそり入れていただきます。
レミーエ嬢は着心地の良さそうなパジャマを着ていました。呼吸はしっかりしておりますが、まっすぐ天井に顔を向けたまま、一切動く気配がございません。この姿勢の良さを普段から活かしてくれたら、だいぶわたくしとの放課後の勉強会もラクになると思うのですけどね?
「レミーエには……この上級教本十冊セットでいいんだな?」
「えぇ。これでますます上流の淑女へまっしぐらですわ!」
ふふっ、殿下、そんなに渋い顔をなさらないでくださいまし。
そのうちの一冊に、実は純金細工を施したしおりが挟んでありますの。花と妖精を模した、とても愛らしい逸品ですのよ。その価値をレミーエさんが気づいてくれるか定かではありませんが……それも教育の一貫です。わたくしはきっと喜んでくださると信じていますわ。
さて、お次に向かうのはかわいい弟ルーファスのもとです。
お師匠さんは相変わらずわたくしに手厳しいですけど、ちゃんと宿舎に入れてくださるところが、わたくしの見込んだ方ですわね。
ルーファイスは丸めた毛布をぎゅっと抱きしめるという、とても可愛らしい寝姿でした。この姿を今すぐ絵に描いてもらいたいものですわ!
……と、ニヤニヤしている場合ではございません。
ルーファスに贈るのは、新しい筆と絵具セット。このくらいは家族から支援してもよろしいでしょう? と師匠さんに目を向ければ、「年一回だけですからね」という苦言付き。あらあら、誕生日のときも多めに見てもらいたいのですけど……そこは今後、要相談ですわ。
「これってルルーシェではないのか?」
殿下の目に止まったのは、開きっぱなしのデッサン帳。女性の色んな角度の表情を練習しているようだが……たしかに、わたくしと面影が似ているかもしれません。
いつまで経っても、姉離れのできない弟を持つのも困りものですわ。
誕生日のプレゼント交渉は、お父様も引き連れて気合を入れないといけませんわね!
そして、最後に向かうのは殿下たちの屋敷。
つまりはザフィルド殿下です。
「俺のわがままに付き合わせてすまんな」
「今夜は一蓮托生ですもの。どんとこいですわ」
ザフィルド殿下もまた、ベッドの上でぐっすり眠っていらっしゃる。
横を向いた無難な寝姿だけど……どこか違和感を覚えるのは気のせいかしら?
「ザフィルド……剣術のグローブなどで喜んでくれるだろうか……」
「大丈夫だと思いますわよ。質のいいものですし……サザンジール殿下とわたくし二人で選んだのですから。わたくしたちの目に狂いがあったら、指導者に問題があるということですわ」
わたくしの指導責任者はもちろん、王妃殿下でございますわ。
その息子であるサザンジール殿下も、母君への信頼は厚いご様子。
「そうだな」と苦笑しようとされたときでした。
「ルルーシェ……だいすき……」
「なっ!?」
思いがけないザフィルド殿下の寝言にわたくしがたじろぐと、サザンジール殿下がわざとらしい咳払いをする。
「ど、どんな幼いころの夢を見ているんだろうな。ほら、起こしてしまうかもしれん。早く出よう」
サザンジール殿下に手を引かれ、わたくしは早々にザフィルド殿下の寝室を後にした。……扉を閉める直前に聞こえた舌打ちも、気のせいでいいのですよね?
なんだかんだで、もうすぐ陽が昇りそうですわね。
なかなか有意義な夜だったのではないでしょうか。わたくしが白い息で自分の手を温めてると、サザンジール殿下がその手に何かを嵌めてくださいます。
……これは、かわいらしい桃色の手袋ですわね。
「さ、先程サンタクロースが、ルルーシェに渡してほしいと……」
「……あら、それなら直接渡してくださればよろしいのに」
「か、風邪気味だと言っていたな! 俺が無理やり早く家に帰したのだ!」
「なるほど……さすが殿下、お優しいですわね」
ふふっ、相変わらず殿下は言い訳が苦手のようですね。
それでも、ここはさらりと受けてあげるのが淑女の嗜み。
「それなら、最後にこちらもサンタクロース様にお届けいただいてよろしいでしょうか?」
「これは……」
わたくしが取り出したのは、ちょっとした包み袋。
中に入っているのは、お母様と一緒に作ったベラベッカというお菓子です。
お酒に漬けた洋ナシやドライフルーツ、ナッツ類をパン生地で繋いだもので、スパイスも効いているから身体もあたたまるかと思いまして。味はエルクアージュ家一同が保証しましわ。
「サンタクロースさんには、薄くスライスしてから、あたたかい飲み物といっしょにお食べくださるようお伝えくださいね」
すると、殿下は嬉しそうに目を細めてくださった。
「……あぁ、感謝する」
「あらいやだ。わたくしはサザンジール殿下ではなく、サンタクロース様に差し上げるのですよ?」
「あぁ、そうだったな!」
ジョセフィーヌが「見てらんないわ」と拗ねたようにいななく。
だから、わたくしが「おつかれさま」と隠してあった人参をあげると、彼女はとても威勢よく一口で食べ切った。
そうして、わたくしの聖なる夜は終了です。
『て、自分には何もくれないの!?』
『わたくし仮眠をとったら学校ですもの。明日パーティーしましょうね』
『えっ?』
文句を言った早々、きょとんと目を丸くした神様に、わたくしはにっこりと微笑む。
『あなた様には、どんちゃん騒ぎに付き合ってもらいますわよ!』
だって、昨日聞いた話には、聖夜にはパーティーを開くというではありませんか。もちろんそこまでしっかり体験してみませんと。
その御相手として、神様以上にわたくしを楽しませてくれる相手がおりまして?
《おひげをつけたい令嬢の話 完 》
コミック3巻発売中です。作画はもちろん引き続き「雷蔵先生」!!
今回のカバーも美麗すぎる!
小説版よりもレミーエの成長が感じられる1冊になっていると思います。
電子のみの発売となりますが、
下にAmazonのリンクを貼っておきますので、お手にとっていただけると嬉しいです。
また別の宣伝となりますが、
少し前からウェブトゥーン(タテ読みマンガ)の原作をしていたりします。
上記の作品が、
コミックナタリー様主催の『タテ読みマンガアワード2024』
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よければ1回だけもポチッと応援いただけますと嬉しいです!
https://tateyomi-award.natalie.mu/vote_domestic.html
(下にリンクも貼っておきます)
上記サイトの上から3つめにありますので、どうぞよろしくお願いします!
こちらも黒髪の悪役令嬢が、金髪の王子様を馬にしたりしています。
まあ、悪役令嬢といえばお決まりですからね←
我ながら面白い作品になっていますので、ぜひぜひ読んでみてくださいね!
毎週土曜日更新、LINEマンガ等で連載中です!!






