閑話 元誕生日令嬢の独白①
コミックス2巻発売記念!
……ということで、昔に書いてお蔵入りさせていたSSを投稿してみました。
本編の2年くらい前のおはなしです。
わたくしが社交界デビューを迎えた際は、当然我がエルクアージュ家で華々しいパーティが開かれたの。お母様が大層張り切ってくださって、様々な意趣を凝らしたパーティは来賓の皆様も『さすがは異国の美姫』と喜んでくださっていたわ。
なので、そのパーティの終わりに――わたくしの将来の義母となる王妃様が言いましたの。
『ルルーシェの来年の誕生日パーティは、わたくしが主催するわ。だってこの子は、わたくしの娘でもあるんですもの。当然でしょう?』
えぇ、笑顔の奥にバチバチとした敵意が見えましたとも。
肝心のお母様は『まぁ、ルルーシェ。良かったわね~』と呑気なものでしたが。
というわけで。今宵はわたくし、ルルーシェ=エルクアージュ十四歳の誕生日パーティは、王宮で開いていただくことになりました。
誕生日にパーティを開くのは、貴族の習わしのようなもの。家の地位を見せしめるためだったり、交流を持ちたい相手を招く口実にしたり、純粋にお祝い目的なだけでないことに、今更ながら文句を付けるほど、わたくしも幼くないつもり。ダシに使われることも、令嬢の役目のひとつですもの。
それでも、王妃様の見栄に付き合わされるのは疲れますが。
「何回、衣装合わせをさせるつもりかしら……」
直前ギリギリまで(王妃様が)こだわりにこだわり抜いたドレスは、本当に豪奢で立派なものでした。金糸で丁寧に織られた輝かしい布と、繊細で編まれたレースのドレスは、これ一着で一財産と呼べる代物でしょう。当然、衣装というものはドレスだけで終わるものではない。
あと一時間足らずで始まるというのに、未だアクセサリーに悩んでいた王妃様がブツブツと「たしかあっちにあのネックレスが」と自ら取りに行ったわずかな隙。当然わたくしは見逃しません。こうして王宮の裏庭で凝り固まった肩や背中を伸ばしていた時でした。
「どうしよう……どうしよう……」
「ん?」
ヒックヒックと啜り泣く声は、きっと子猫でしょう。子猫ということにいたしましょう。
だって、今から次期王妃の誕生日を祝うパーティだというのに、その来賓客である少女がアンダードレス姿でうずくまって泣いているはずがありませんから。
当然、今日の来賓客は全員、頭に叩きこまされている。
歳はわたくしと同年代。正確に言えば一つ年下で、ついこの間社交界デビューを迎えたばかりだという伯爵令嬢だ。深い緑色の髪は隣国の方に多い特徴で、肩で揃えた短く艷やかな髪型も、隣国だからこそ許されるもの。
そう――彼女は隣国からのお客様。名前はマール=イスホーク。彼女の兄、ツェルド=イスホークが今年我がラピシェンタ王国に留学に来たばかりで、彼女は旅行がてら兄に同行してきたのだという。そして幸か不幸か帰国直前に、わたくしと同年代だからと招待を受けてしまったらしい。
まぁ、どんな事情であれ。隣国の伯爵令嬢がこんな夕暮れに、アンダードレス姿で泣いていていいはずもなく。わたくしは彼女の前にしゃがみこむ。
「こんな所で、どうしましたの?」
「あ、あーたは……?」
「わたくしはルルーシェ=エルクアージュ。一応、本日のパーティの主役ですわ」
本当の主役は主催の王妃様、という事実はさておいて。
わたくしの顔は知らなくとも、名前は覚えていたのだろう。隣国とは言語が少々異なりますから、まだこちらの言葉には不慣れなようですわね。そんなただでさえ不安だったであろう彼女は「ヒィッ」と喉の奥を鳴らして、ますます小さく縮こまった。
「ごめん……わーた、決してルルーシェ様を侮辱してぇわけじゃ……」
「誰もそんなこと思っていませんわ。そんなことより、誰にやられたの?」
「え?」
「だから、あなたのドレスを奪った犯人よ」
まさか隣国のドレスが、そんな貧相なものであるわけなかろう。隣国は王妃様の出身国。ラピシェンタ王国よりも大きく、豊かであると聞きますからね。
令嬢のアンダードレスだから、勿論簡易ワンピースのような代物。だから肌の露出がそう多いわけではないけれど、この時分は肌寒いでしょう。とりあえず王宮の中に入れて、王妃様に説明して代わりのドレスを……そう思案しながら尋ねれば、彼女は言う。
「な、名前は知らねぇ。亜麻色の――」
「あぁ、ララァ嬢ね」
思わず漏れたわたくしのうんざり声に、まんまるとした頭部が可愛らしい彼女は、これまた丸い瞳をますます丸くしていた。
まぁ、驚くのもわからなくないわ。この国に亜麻色髪の令嬢なんて山程いるもの。そもそも彼女は髪色とすら言ってないしね。
だけど、どうせララァ嬢よ。ララァ嬢に決まっている。
海外からの来賓に恥をかかせたとして、わたくしを貶めたいのでしょう? そんなトラブルが公になったら、主催者の品位と管理能力が問われるもの。
いやぁ、相変わらず可愛らしいおひとだわ。今日の実質の主役はわたくしじゃなくて、王妃様だってば。王妃様を敵に回すなんて……本当にその不屈の精神だけは大好きよ。
だからお望み通り、今宵もわたくしが遊んでさしあげますわ。
わたくしは未だ目に涙を浮かべるマール嬢に、にっこり微笑む。
「安心して。あなたに恥はかかせなくてよ?」
そして、わたくしは自らのドレスを脱ぐ。






