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【コミック全4巻発売中】100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。  作者: ゆいレギナ
小噺

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89/97

ヤンデレとはなんですか?②

コミカライズがピッコマさんにて始まりました!

 ♦ ♦ ♦


「――というわけで、これが最後ね」


 そう言いながら、僕は三十回目の壁ドンをする。

 そして、そのまま兄上の顎を掬った。


「もう僕のそばから離れないでよ。でないと……どこかに閉じ込めてしまいたくなるだろ?」


 何が悲しゅうで、自分の兄にそんなことをしなければならない。

 しかも、兄上の方が背が高いんだぞ? 自分より背が高い男相手に、背伸びをしながら顎クイとか……ああ、病みそう。デレはない。ただただ病みそう。


 それなのに、兄上は「ふむふむ」と頷きながら質問してくる。


「顎を持ち上げる時は何度くらいが理想だろうか?」

「え、分度器で測れと?」

「ぜひに頼みたい!」


 最近ルルーシェがさ、よく『僕が兄上を殺そうとしている設定』を心配してくるじゃない。あれ、今なら許されると思うんだ。『実の兄に顎クイをする羽目になった挙げ句、分度器で計測させられたから』って、十分動機になると思うんだけど……ダメ? ダメかな、ルルーシェ。


 すでにカーテンの向こうがキラキラ眩しい。

 こんなバカバカしいことで徹夜とか、そりゃあないでしょって。


 ――今日の剣の訓練、多少力が入りすぎても仕方ないよね。


 こんなことになった元凶(ルルーシェ)と過ごすお昼休みを楽しみにしながら、僕は分度器を取り出した。




 そんなこんなで、今日は久々に兄上と同じ馬車で通学する。

 馬車の中でもさ、ヤンデレの角度を極めるんだって。……どうなんだろうね、努力のヤンデレ。そんな養殖のヤンデレを喜ぶ女性なんているのかな? まぁ、天然のヤンデレを喜ぶ女性も、個人的にはどうかなって思うんだけど。


 そして、校門のところでルルーシェを待つのは兄上の日課だ。周りの生徒も今更驚かない。物珍しそうな目で見られるのは僕の方だ。


「今日はザフィルド殿下も一緒に、特別な催し物でもあるんですか?」

「あー……、いつもの兄上もね、別に何かを催そうとしているわけではないんだよ」


 そう、別に誰かに見せようと思って、兄上も毎日プロポーズしているわけじゃない。もちろん今日のヤンデレも、だ。てか、毎日白昼堂々恥を晒して、将来の国王的心象に悪影響は出ないのだろうか。ま、僕には関係のない話だけど。


 そうしてその辺の生徒らと適当に談笑していると、ルルーシェが登校する。

 ちなみにレミーエ嬢はもっと早く登校していた。ばっちり兄上に「今日こそ頑張ってくださいね!」「あぁ、任せてくれ!」とエールを送っていたところを見るや、とても順調に友好を深めているようである。色恋と欠片も無縁な爽やかさに、少しばかり羨ましく思ったくらいだ。


 そして、いざ本番。


「ルルーシェ! 今日こそ俺の思いのたけを聞いてほしいっ!」


 声高々に名前を呼ばれて、さすがのルルーシェも立ち止まる。

 そして彼女が挨拶をするよりも前に、兄上はルルーシェの前に迫り……生唾を飲み込んでから、彼女に尋ねる。


「き、きみの顎をクイッと持ち上げてもいいだろうか?」

「ダメです」

「…………」

「ダメですわ」

「ど……どうしてもか?」

「どうしても、絶対に、ダメです!」

「………………すまなかった」


 そして兄上はトボトボと僕の元へやってきては、項垂れるように頭を下げてくる。


「ザフィルド。あんなにも協力してくれたのにすまなかった。不甲斐ない兄で申し訳ない」


 いやぁ、兄上。こういうのは本人に聞いちゃダメだよね?

 ダメって言うに決まってるじゃん。しかも相手はルルーシェだよ?


 だけど今更それを言っても仕方ないし、兄上の役に立ちたいと思うわけでもないから。


「まぁ……ドンマイ」


 僕は投げやりに兄上の肩を叩いておくことにした。


 ♦ ♦ ♦


「ルルーシェさまぁ。今朝のことですけど……」

「語尾が伸びてる!」

「ひぃっ!」


 その日の放課後も。ルルーシェ様の鋭い指摘に、私はとっさに肩を竦めた。

 ……と、そんな日常茶飯事はいいんだけど。


 私は気を取り直してルルーシェ様に尋ねる。


「サザンジール殿下のご厚意をあんな無碍(むげ)にして宜しかったんですか?」

「無碍?」

「だって……ルルーシェ様のために慣れない口説き文句を覚えてきたって噂ですけど」

「わたくしは、それでレミーエさんを口説いてもらいたかったんですけどね」

「へ?」


 私が目を見開くと、やっぱりルルーシェ様から鋭い指導が入る。

 だけど、珍しくルルーシェ様は嘆息した。


「わたくしだって、ひとりの女よ」

「……はい」

「あんな『今から口説きますよ!』と畏まられると、たとえ殿下相手じゃなくても困るわ」


 その拗ねたような顔は、ただの同い年の女の子で。

 思わず、私は口角をあげた。


「それなら、今度私がヤンデレチャレンジしてみてもいいですか?」

「誰に使うわけ?」

「それは秘密です」




 結果――その数十日後にルルーシェ様が居なくなってしまったから、私がヤンデレをご披露するタイミングはなかったんだけど。


 だけどルルーシェ様。いつかまた空の上でお会いした時、覚えていてくださいね。あの時より、私の想いはもっとも~っと重くなってますから。


 ま、今会いに行ったら怒られてしまいそうなので。

 まだまだ会いに行く予定はありませんけれど。



【ヤンデレとはなんですか? 完】

ピッコマさんにてコミカライズが先行配信されています。作画は雷蔵先生。ルルーシェをとってもかっこ可愛く描いてくださっているので、ぜひご覧になってみてください!

コミックスもそのうち発売される…予定です。

その時はまたお知らせに何か書きますね。


また、それにあわせてわたしも新作始めてみました。

ルルーシェが好きなら絶対気に入っていただける作品かと。

『ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる~猫系天才魔術師さま、惚れても無駄よ。1年後に私は消滅してしまうから~』

https://ncode.syosetu.com/n9868hy/


また、その主人公違いの短編もあります。

『800年前の悪女に憑依されたど底辺のわたし、1年後に完璧で幸せな人生をリスタートします!』

https://ncode.syosetu.com/n8701hy/


下にリンクも貼ってありますので、ぜひ読んでみてくださいね。

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こちらの作品が気に入ったなら、絶対好きだと思います!
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