ヤンデレとはなんですか?②
コミカライズがピッコマさんにて始まりました!
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「――というわけで、これが最後ね」
そう言いながら、僕は三十回目の壁ドンをする。
そして、そのまま兄上の顎を掬った。
「もう僕のそばから離れないでよ。でないと……どこかに閉じ込めてしまいたくなるだろ?」
何が悲しゅうで、自分の兄にそんなことをしなければならない。
しかも、兄上の方が背が高いんだぞ? 自分より背が高い男相手に、背伸びをしながら顎クイとか……ああ、病みそう。デレはない。ただただ病みそう。
それなのに、兄上は「ふむふむ」と頷きながら質問してくる。
「顎を持ち上げる時は何度くらいが理想だろうか?」
「え、分度器で測れと?」
「ぜひに頼みたい!」
最近ルルーシェがさ、よく『僕が兄上を殺そうとしている設定』を心配してくるじゃない。あれ、今なら許されると思うんだ。『実の兄に顎クイをする羽目になった挙げ句、分度器で計測させられたから』って、十分動機になると思うんだけど……ダメ? ダメかな、ルルーシェ。
すでにカーテンの向こうがキラキラ眩しい。
こんなバカバカしいことで徹夜とか、そりゃあないでしょって。
――今日の剣の訓練、多少力が入りすぎても仕方ないよね。
こんなことになった元凶と過ごすお昼休みを楽しみにしながら、僕は分度器を取り出した。
そんなこんなで、今日は久々に兄上と同じ馬車で通学する。
馬車の中でもさ、ヤンデレの角度を極めるんだって。……どうなんだろうね、努力のヤンデレ。そんな養殖のヤンデレを喜ぶ女性なんているのかな? まぁ、天然のヤンデレを喜ぶ女性も、個人的にはどうかなって思うんだけど。
そして、校門のところでルルーシェを待つのは兄上の日課だ。周りの生徒も今更驚かない。物珍しそうな目で見られるのは僕の方だ。
「今日はザフィルド殿下も一緒に、特別な催し物でもあるんですか?」
「あー……、いつもの兄上もね、別に何かを催そうとしているわけではないんだよ」
そう、別に誰かに見せようと思って、兄上も毎日プロポーズしているわけじゃない。もちろん今日のヤンデレも、だ。てか、毎日白昼堂々恥を晒して、将来の国王的心象に悪影響は出ないのだろうか。ま、僕には関係のない話だけど。
そうしてその辺の生徒らと適当に談笑していると、ルルーシェが登校する。
ちなみにレミーエ嬢はもっと早く登校していた。ばっちり兄上に「今日こそ頑張ってくださいね!」「あぁ、任せてくれ!」とエールを送っていたところを見るや、とても順調に友好を深めているようである。色恋と欠片も無縁な爽やかさに、少しばかり羨ましく思ったくらいだ。
そして、いざ本番。
「ルルーシェ! 今日こそ俺の思いのたけを聞いてほしいっ!」
声高々に名前を呼ばれて、さすがのルルーシェも立ち止まる。
そして彼女が挨拶をするよりも前に、兄上はルルーシェの前に迫り……生唾を飲み込んでから、彼女に尋ねる。
「き、きみの顎をクイッと持ち上げてもいいだろうか?」
「ダメです」
「…………」
「ダメですわ」
「ど……どうしてもか?」
「どうしても、絶対に、ダメです!」
「………………すまなかった」
そして兄上はトボトボと僕の元へやってきては、項垂れるように頭を下げてくる。
「ザフィルド。あんなにも協力してくれたのにすまなかった。不甲斐ない兄で申し訳ない」
いやぁ、兄上。こういうのは本人に聞いちゃダメだよね?
ダメって言うに決まってるじゃん。しかも相手はルルーシェだよ?
だけど今更それを言っても仕方ないし、兄上の役に立ちたいと思うわけでもないから。
「まぁ……ドンマイ」
僕は投げやりに兄上の肩を叩いておくことにした。
♦ ♦ ♦
「ルルーシェさまぁ。今朝のことですけど……」
「語尾が伸びてる!」
「ひぃっ!」
その日の放課後も。ルルーシェ様の鋭い指摘に、私はとっさに肩を竦めた。
……と、そんな日常茶飯事はいいんだけど。
私は気を取り直してルルーシェ様に尋ねる。
「サザンジール殿下のご厚意をあんな無碍にして宜しかったんですか?」
「無碍?」
「だって……ルルーシェ様のために慣れない口説き文句を覚えてきたって噂ですけど」
「わたくしは、それでレミーエさんを口説いてもらいたかったんですけどね」
「へ?」
私が目を見開くと、やっぱりルルーシェ様から鋭い指導が入る。
だけど、珍しくルルーシェ様は嘆息した。
「わたくしだって、ひとりの女よ」
「……はい」
「あんな『今から口説きますよ!』と畏まられると、たとえ殿下相手じゃなくても困るわ」
その拗ねたような顔は、ただの同い年の女の子で。
思わず、私は口角をあげた。
「それなら、今度私がヤンデレチャレンジしてみてもいいですか?」
「誰に使うわけ?」
「それは秘密です」
結果――その数十日後にルルーシェ様が居なくなってしまったから、私がヤンデレをご披露するタイミングはなかったんだけど。
だけどルルーシェ様。いつかまた空の上でお会いした時、覚えていてくださいね。あの時より、私の想いはもっとも~っと重くなってますから。
ま、今会いに行ったら怒られてしまいそうなので。
まだまだ会いに行く予定はありませんけれど。
【ヤンデレとはなんですか? 完】
ピッコマさんにてコミカライズが先行配信されています。作画は雷蔵先生。ルルーシェをとってもかっこ可愛く描いてくださっているので、ぜひご覧になってみてください!
コミックスもそのうち発売される…予定です。
その時はまたお知らせに何か書きますね。
また、それにあわせてわたしも新作始めてみました。
ルルーシェが好きなら絶対気に入っていただける作品かと。
『ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる~猫系天才魔術師さま、惚れても無駄よ。1年後に私は消滅してしまうから~』
https://ncode.syosetu.com/n9868hy/
また、その主人公違いの短編もあります。
『800年前の悪女に憑依されたど底辺のわたし、1年後に完璧で幸せな人生をリスタートします!』
https://ncode.syosetu.com/n8701hy/
下にリンクも貼ってありますので、ぜひ読んでみてくださいね。






