11:20~
[場所:ラーメン屋肉肉――客席]
[時間:午前11時20分]
[人:〈船頭〉〈探偵〉]
「ん、ぅ……」
あら目覚めた、と〈船頭〉は気が付いた。テーブルの上に乗せた眼鏡の女の子が身じろぎしている。結局ろくに店内を調査もできないまま。これならもうちょっと〈不良〉と〈爆弾〉のふたりに残っていてもらえばよかったかもしれない。タイミングが悪かった。
「んぐぅ、」
「あ、」
声を上げてももう遅い。寝返りを打った女の子は「うわっ!」という声とともにどんがらがっしゃん。机から転がり落ちて、眼鏡も外れた。あらあら、とパタパタ足音を立てて〈船頭〉がそこに駆け寄る。
「大丈夫ですか~?」
「い、いちちちち……。私が何をしたの……。ここはどこ、私は誰……」
ぶつけたのだろう箇所を撫でている涙目の女の子を、よしよし、と〈船頭〉は撫でる。ありがとうございます、と言いながら女の子が眼鏡を探す素振りを見せたから〈船頭〉は拾ってやって、
「あ、ど、どうも……」
女の子は、〈船頭〉の顔を見て、
「ぷひィっ!!!」
とんでもない声を上げて、鼻水まで噴出した。
ナパパパパ、と奇怪な音を立てて女の子は座ったまま、高速で後退る。ガタガタ震えながら〈船頭〉に向かって、
「は、〈水龍〉……! なんで、なんでここに……!!」
あら、と〈船頭〉は思う。この仕事を始める前の、古い名前だ。後輩のひとりだろうか、とその顔をよくよく覗きこんでみると、女の子はさーっと顔の色をなくして、ものすごい勢いで土下座した。
「ゆ、許してください!! ほんの出来心だったんです!!」
何の話だろう、と〈船頭〉は不思議に思っている。顔は見たことがない。特に謝られるようなことも、とりあえずのところされていない。強いて言うなら胃洗浄に手間がかかったくらいだけれど、倒れている人がいれば当たり前にする処置だ。
ちょっと落ち着いて、と言おうとして、
「あ、空き巣しかしてないですから! 私! あ、組んでたのは〈刑事〉です!! そいつが私をそそのかしたんです! 普段は私、学校で普通に学生やってるだけの普通の人間なんです! だから助けて、命だけは!!」
殺さないでぇ~とオンオン泣き始めたのでようやく気付いた。昔、〈船頭〉はこのあたりで勝手に治安を良くしていたことがある。今はやっていないけれど、その頃の自分を知っている相手ならこんな風に泣き崩れることもあるのかもしれない。特に、後ろ暗いところが多少でもある人間は。
そっと、〈船頭〉は彼女の首に手を添えた。〈船頭〉は体温が低い。あったかい首だな、と思った瞬間に眼鏡の女の子はびたり、と動きを止めた。
「……もうしませんよね?」
「こ、殺さないで……」
「もう、しませんよね?」
「しません!!! 一生しません!!! だから殺さないで!!!!」
〈船頭〉は実を言うと、あまり暴力が好きではない。得意と好きは全く別の話だ。だから一番の友達は暴力性の欠片もない〈星空〉だったわけだし、彼女を壊した『赤い雪』のルート上にいる人間は全員根絶やしにしてやらなければ気が済まない。もし仮にそうしないままで気が済んだとしても、物の道理としてそうしなければならないだろうという理性的な判断もある。この街は間違っている。間違っている街ではときに間違った手段で何かを成し遂げなくてはならない。
嫌だなあ、とは思うけれど。
「じゃあいいですよ。反省してくださいね」
「はひっ、はひぃいいいい!!」
ふと思った。
〈不良〉にも同じようなことをしてやれば強盗をやめるだろうか、と。
まあでも、正直言ってこのレベルの悪事なんて誰でもやってることだし、どうでもいいといえばどうでもよかった。空き巣なんかよりずっと悪いことを、自分だってしている。盗みと殺しならどう考えても殺しの方が重い。盗みの結果として人の命が大量に失われる、という場合を除いて。
「ところであなた、気絶してたんですよ」
気を取り直して、〈船頭〉はこれまで彼女にあったことをかいつまんで話した。ここのラーメンには『赤い雪』と呼ばれるドラッグが混入していたこと。あなたがそれを食べ過ぎたために昏睡していた、ということ。店主は殺しておいたからそれでスッキリしてほしいということ。
ガーン、という顔を彼女はした。
「だ、騙された……。〈刑事〉のやつ!! おすすめとか言ってこんなところ教えやがってぇ~~~!」
妙に甲高い間抜けた声で彼女は自分の憤慨をアピールする。〈船頭〉が、こっちの連れのひとりが勝手にあなたの電話を使ってその人に連絡した。まもなく迎えに来るだろう、ということを話すと、とんでもない、と彼女は首を横に振った。
「し、知りませんあんなヤツ! 絶対、ぜぇーったい知っててここのこと喋ったんだ! 許せない! あんなやつ顔も見たくありません!!」
そうですか、としか〈船頭〉は言いようがない。だって、自分には何の関わりもないところで起きた仲違いだから。それなら体調に問題がなければさっさと家に帰った方がいいんじゃないですか、と言おうとしたところで急に彼女が、
「あ、あの!! 〈水龍〉!!」
「……はあ。今は〈船頭〉ですけど」
「〈船頭〉!! 私と組みませんか!? あんなヤツ、捨ててやります!!」
「え?」
「私、こう見えて各所から引っ張りだこなんです!!」
彼女はすっくと立ちあがると、さっきまでの弱気はどこへやら。胸を張ってこう言った。
「私は〈探偵〉! ごく普通の女子高生でありながらありとあらゆる裏社会から頻繁に頼られちゃうスーパーガールです!」
「うーん。なんか今日は変な人との遭遇率が高いですねえ」
「ホントなんです! ホントのようなウソの話! 違った逆だ、ウソのようなホントの話! 私、こう見えてかなり依頼料とか取って仕事しちゃってるタイプなんですよ!」
ふうん、と〈船頭〉は頷く。ないでもなさそうだ。頭がちょっとばっかしパーでも能力が強い、というタイプならそういうことになりうる。試してみようか。そういうタイプなら結構ぺらぺら能力を喋るはずだ。
「どんな能力なんですか~?」
「もちろん、手がかりから人を探す能力です! その手がかりの量によって必要時間は変わっちゃうんですけど、百発百中! どんな人間だって見つけてみせますよ! 面識のある人間ならリアルタイムで居場所の把握だってできちゃいます」
ああ、なるほど。人間レーダーね。
確かに裏社会で引っ張りだこになりそうな能力だ、と思う。そして使い捨てられるタイプ。この手の情報型で脇が甘い性格というのは不幸だ。陰謀戦が始まったときに宙ぶらりんだったりしたら真っ先に殺されるタイプ。誰かが常に守ってないと命はないし、一度そっちの業界に足を突っ込んだら死んでも抜けられないだろう。
「でもそれ、時間かかるんでしょう?」
「と、思うじゃないですか! でも、チッチッチ。そいつが大間違い! みんなそう思ってますけどね。〈刑事〉から三十倍の時間をかけろって言われてただけで、本当の私はもっとすごいんです! あいつがガメついからムッダーに時間かけてましたけど、〈船頭〉が私と組んでくれるなら大歓迎! もちろん通常速度、いやいや能力フル活用で倍速で人を見つけちゃいますよ! ……あ、いやごめんなさい。倍速とかムリです、調子コキました……」
ふぅん、と〈船頭〉は頷く。その〈刑事〉っていうのがこの子の手綱を握ってたんだ、と。有用な情報戦力は扱いに困ることもあるから、弱く見せてたわけだ、と。
拾い物といえば拾い物なのかもしれない、と思いながら〈船頭〉は試しに聞いてみる。
「じゃあこれ、『赤い雪』って言うんですけど」
厨房で見つけた、その容器を差し出しながら。
「あなたが盛られていたクスリです。私、このクスリが心底気に入らなくて、関係者皆殺しツアーをしてるんですよ。もしあなたさえよければ、これの入手経路とか割り出してもらえませんか~?」
「手がかりは?」
「これだけです」
うむむ、と〈探偵〉は渋い顔。まあこんなもんか、と〈船頭〉が『赤い雪』を下げようとしたところで、
「それは……この名探偵の力を以てしても、特定に一時間はかかっちゃいますね……」
「え?」
その手を、止めた。
あわわわわわ、と〈探偵〉は慌てる。
「いや、でも! 頑張れば五十九……五十八分で終わるかも!」
う、うぅうううう、と涙声で、
「す、捨てないでくださいぃ~~~。拾った責任を取ってください! 私、やればできるんです! もっといっぱい役に立ちますから、舎弟にしてください、守ってください、あの鼻持ちならない〈刑事〉をぶん殴ってやってください、吠えヅラかかせて足蹴にしたいんですぅ~……」
「一時間で、いけるんですね?」
「ごめんなさいぃ~……」
「いけるんですね?」
「い、いけます。遅くてすみません……」
にっこりと、〈船頭〉はここ二年の間で、もっとも嘘の薄い気持ちで笑えた。
たぶん、このあともっと、心の底から笑えるようになる。
「いいんですよ。〈探偵〉。私はあなたを見捨てません。一時間なんてのんびり船に乗っていればすぐですよ」
さあ、一緒に行きましょう、と〈船頭〉が〈探偵〉の手を取る。〈探偵〉は一瞬ぽかんとしたあと、喜びにぶんぶん首を縦に振る。
もしも私が大統領なら、と〈船頭〉は思っている。
今日を記念日に設定しよう。どんな記念日がいいかな。
殺人記念日?
[場所:野外――市長邸宅付近]
[時間:午前11時35分]
[人:〈刃〉〈人形〉]
「あ、あの――」
〈人形〉は、〈天使〉に引き連れられるままだった足を止めて、とうとう言った。〈刃〉は答えない。でも、きっと振り向いた。
「い、いいんですか。本当に。私を、警察に引き渡してしまって……」
我ながら、と〈人形〉は思う。我ながら何を言ってるんだ、と。ストックホルム症候群もいいところだ。それとも囚われのお姫様病? 急性駆け落ち中毒?
連れ去られておいて、いざ元の場所に戻してもらえることになったらこっちが引き留めるなんて、まったく理屈に合っていない。自分で自分の内心の混乱に恥ずかしくなる。
「いい」
と〈刃〉は短く言った。
「お前は『神の血』ではない。仮にそうだったとしたら――あの女があんな無差別に攻撃を撒き散らすはずがない」
「で、でも、私だって気付かなかっただけかも――」
「本当にそう思うか?」
口を噤んだ。〈人形〉にだって、わかっていた。あの一瞬。〈医者〉は自分の存在を何となく知覚していたのではないか、と。どうやってかはわからない。〈天使〉の能力で透明になってまでなお、あの母親は自分のことを見つけたように思えた。
「――深く考えるな」
〈天使〉の声が、さっきよりずっと、顔の近くで聞こえた。
屈んでいるんだ、とわかる。自分に声を、伝えるために。
「幸福と平穏から目を逸らすな。この街には――それ以外のものが、多すぎる」
幸福と、平穏。
後者はともかくとして、前者は。
自分には。
「〈市長〉の娘だ。警察に引き渡せば身の安全くらいは保証されるだろう。そうしたら、待っていればいい。この馬鹿げた騒ぎが終わるのを」
いいな、と訊く声はそれでも。
父と母のものより、ずっと優しかった。
何かを、〈人形〉は言いたかった。
けれどそれが、目の前の、透明な人を困らせるだけだとわかっていたから。
「は、」
はい、と頷こうとして。
轟音。
「――――なんだ?」
〈人形〉が見つめる方向を、きっと〈天使〉も見ている。
市長邸宅が、あるはずの方向。
[場所:野外――市長邸宅跡地]
[時間:午前11時35分]
[人:〈爆弾〉〈不良〉〈刃〉〈人形〉〈冒涜〉]
エアバッグって知ってっか?
俺の命の恩人。
「あーのーさぁああああああ」
「……いや、悪かったって……」
めちゃくちゃパッフパフのそれに顔を埋めながら、助手席で俺は言ったね。〈不良〉改めて〈クソヘボドライバー〉に。
「さっきさあ、『車運転できる?』って訊いたときお前言ったじゃんね!? 『任せとけ! この街の暴走爆走疾風怒濤とは俺のことだ!』って!! なんだよこの有様はよぉ!?」
「謝ってんだろーが!! いつまでも過去のことでネチネチ言ってんじゃねーぞ!?」
「ごめんで済んだら警察いらねーだろうが!!」
「いらなくなってんだからごめんで済んでんだろーが!!」
あれ、そーなの? 確かにこの街全然警察機構が機能してないと思ったんだよね。それってごめんで結構済んじゃってるからってこと? なんかそれってすげーね。許しの心ってやつ? もしかしてこの街って超倫理先進特区とかそういうのに指定されてたりするわけ? おい俺が混乱してるあいだにフッツーに車から降りようとしてる〈不良〉。ちゃんと聞こえてるからな。何が「暴走爆走疾風怒濤の部分は嘘じゃねーからいいだろ……」だよ。ふざけんじゃねーぞ。俺は絶対に忘れねーからなお前がハンドル握りつぶして「ぶ、ブレーキが壊れちまった!!」とか叫んでたあの瞬間の顔。最高に笑えた。だから許した。俺も超倫理人間だよ。
「にしてもマジ? この景色」
俺もエアバッグから脱出して車から降りて、まずはそのことについて言及することにした。
「更地じゃん。もしかしてこの街って最高でもホームレスにしかなれねーとか、そういう感じ?」
「いや、このあいだまでは結構でっけー家が建ってたんだぜ。燃やされたのかな」
うーん諸行無常。どこまでも更地、ってわけじゃないけど半壊した家が目の前に建ってる。ここに住むやつって絶対露出狂だと思う。風呂とかスッケスケなの。一階建てなのに。まあいいや。火事場泥棒でもするか。いや火事場泥棒っていうのもあんまり聞こえがよくないか。トレジャーハンターでいいや。ほら、偉人の死後そいつの居宅を漁るのってロマンあふれる行為だからさ。俺のことはこれから探検家って呼んでくれても構わないぜ。
「んじゃ〈不良〉、スコップ」
「ねーわ、んなもん」
「んじゃどうすんだよ」
「手で掘るしかなくね?」
チンパンジー以下。お前知ってる? 人間様って道具を使うことでその貧弱極まりない肉体で自然界を生き残ってきたんだよね。瓦礫に埋まってない範囲のものを俺はちらちら見てみた。おっ、拳銃があんじゃん。んじゃこれで車の給油口でも撃ってみるか。たぶん盛大に爆発して一気に瓦礫除去できるっしょ。
「せーの」
「待て待て待て!」
「なんだよ」
「帰りの足がなくなる」
「またどっかで拾えばいいじゃん。てかこんだけエアバッグ出てたらもう前見えねーし無理だろ」
「ああ……それもそっか。あ、でもちょっと待て」
言って、〈不良〉はするすると俺から遠ざかった。
「よし、いいぞ」
「何その距離」
「いや、近くにいたら爆発に巻き込まれんだろ。想像力ねえの?」
確かに。
というわけで俺も〈不良〉の近くまで下がってみた。
んでそっからバンバンバン、全部外れてチュンチュン音が鳴った。
「へったくそだなあ、貸してみ?」
バンバンバン、チュンチュンチュン。俺たち、西部劇じゃ生きていけないみたいだな。〈不良〉が拳銃を地面に投げ捨てた。そして叫ぶ。
「飛び道具なんてな、本物の人間のやることじゃねーんだよ!!」
「そのとーり!! んじゃもっと簡単に使える飛び道具探そーぜ」
「おう」
んでわちゃわちゃそのへんの瓦礫を掘り起こしてたら、掘った場所がよかったのかな? なんか結構ボロボロ面白いもんが出てきた。手榴弾みたいなやつとか、冗談みたいなでかさのロケットランチャーとか。あんまりにも多すぎてちょっと持てないくらい。手榴弾とか飲み込んで胃袋の中にでも入れておけば持ち運びに便利かな? そりゃこんなん使ってドンパチやってたら更地にもなるわ。俺もうこの街が怖いよ。
俺から言った。
「手榴弾とロケランどっち使う?」
「そりゃロケランだべ。こっちのがおもしれーもん」
「その快楽主義……イイネ!」
でも俺らバカだから使い方知らねーや。たぶんセーフティとかいうやつ外せばいいんしょガチャガチャガチャ。うわいまバキッつった! 本当に大丈夫? まあいっか。別にさ。俺たちどこまでだっていけるよな、ふたりなら。
「こんな感じ?」
「じゃね?」
「あと引き金を引くだけ?」
「じゃね?」
どっちがやるか。ジャンケンポンで決めることにしたよ。俺が勝ったんだけど、勝った方がやるのか負ける方がやるのか決めてなくてちょっと揉めそうになった。だから勝った方の特権で俺が決めた。俺がやるよ。だってなんか面白そーだし。スッとしそうだし。
「んじゃいきまーす」
「おいこっち向けんな!」
「は? 別に敵意じゃなくてただ貧弱だから照準があっちへフラフラこっちへフラフラしちゃってるだけなんですけど?」
まるで俺が意図的に殺人を犯そうとしているかのように。人聞きが悪い。んなことしないよ。ただでさえ人間なんて間接的に自分より弱い立場の人間を殺して生きてるようなものなんだから。このうえ直接殺すなんてゴメンだね。スーパーで鶏肉は買うけど、鶏を銃殺しろって言われたら嫌だろ? え、嫌じゃない? ……うーん。よく考えたら嫌じゃないのかも。
「じゃあいっか!」
「よくねえよ、バカ!! 向こういけ!!」
「任せな! じゃあいきまーす!!」
「だから向こうむけクソジャンキー!!」
聞こえへん。
カチッ、と引き金を引こうとしたところで。
「おぉ?」
止まった。いや、セーフティを外せてなかったとか、そういう感じじゃなくて。なんか力で。ギリギリギリ。あの、これってもしかして誰かに掴まれちゃってます? 残念ながら俺って霊感とかないから何をされてるかわかんないんだけど。もうちょっと頑張ってみようかな。えいっ、えいっ。
「……やめろ。お前が考えているより強力な武器だ」
「ウワァーーーーーーーッ!!! ルネ・マグリットの絵みたいな人が出てきたァーーーーーッ!!!」
ルネ・マグリット。見たことある? インターネットが好きなら絶対一回は見たことあると思うぜ。ちょっと調べてみな。ほら、顔のない男が出てきただろ? いま俺の目の前にいるのもそんな感じ。全身真っ黒スーツ着て、顔だけマジで透明な人。なんすかこれ。もしかしてアレ? 異世界によくある獣人とかエルフとかそういうのの括り? ルネ人?
「ゆっくりそれを手放せ。洒落にならない威力が出るぞ」
「洒落にならないものが見たくてこれやってるんですけど……」
「もしお前がそれを使った場合、おそらく肩の骨が折れる」
「君ってもしかして俺の友達になるために生まれてきた人なのかな? なんか運命的なものを感じるな……」
置いた。そりゃそんなこと聞いて肩の骨折ってでも撃ちてえ!とはならないよ。もしそうなるんだったらセーフティの外し方とか絶対元から知ってるし。だって撃ちたくて撃ちたくて仕方なくて日常生活に不安を抱えてるレベルの人じゃないとそうはならないから。
「親切なオニーサン、お名前は?」
「…………お前たちはここで何をしている?」
「見てのとおりですけど……」
沈黙が返ってきた。あ! ひょっとしてルネ人ってやっぱり顔がないからあんまり見ることに特化した生態をしてないのかな? じゃあちゃんと説明しなくちゃな。何事も自分の尺度で測るのはよくないや。
「はしゃいでました」
「…………」
な、って〈不良〉のこと見たら知らんぷりしてんだけど。何あいつ。それで誤魔化せると思ってんのかな。思ってんだろうな、バカだから。
「……ここで何があった?」
「いや、来たときからこんなんでしたけどね。俺らもさっき門柱に車ぶつけたりはしましたけど。なっ! 〈不良〉!!」
「おいバカ!! 名前呼んでんじゃねえよバカ!!」
「なんで?」
「名前覚えられたら後で面倒だろーが!」
「そのときは名前変えればいーじゃん」
「確かにそうか。お前、賢い!!」
「…………」
あっ、目の前のルネ人が若干引いてるのがわかる。なるほどね。この人は結構常識があるってわけだ。こりゃますます少数派の人種な可能性が増してきたぞ。今のところ死体含めて五人見てきたけどこの世界でまともな人間なんて六人目で初めてだ。あ、いや職安の職員含めたら七人目か。あいつもどっちかって言うとまともだったな。職業意識が低いだけで。まあ職業意識の高低が果たして人間性にどのくらいの保証を与えてくれんのかは甚だ疑問なとこだけど。
「あ、あの……」
「?」
女の子の声がした。
声はすれども姿は見えず。もしかしてとうとう寝る前以外にも幻聴が聞こえるようになっちまったのかな?と不安になってたら、スーッと突然、ルネ人がもうひとり出てきた。ルネ人オニーサンの服の袖をちょこんとつまんで。あら、もしかしてご兄妹かしらん?
「ここは、私の家なんです」
「……そうなんだ。大変だね。今日からホームレスだ」
なんかこの街ってあまりにも悲しいことが起きすぎるよなあ。こんないかにも可愛い声した女の子が今日から住所不定無職だってさ。こっちのオニーサンがしっかりしてくんなかったらもうダメだよね。でもこっちのオニーサンまともな神経してそうだからちょっと難しいのかもしんない。わるーいやつとかに捕まっていいように使い潰されちゃったりするんでない? ところで俺ってこのあと就職活動とかすることになんのかな。なんかあまりにも今日を生き延びるのが精一杯で何にも考えらんないんだけど。
「何があったか、知りませんか?」
「……うーん。て言っても、本当に俺ら来たばっかなんだよねえ……。〈不良〉! なんか知ってる?」
「お前と一緒にいたんだから知るわけねえだろ」
「だよねえ。あ、じゃあニュースで調べてみよっか!」
実を言うと俺って子どもが大好き! なんでかって言うと大人が嫌いだから。未来のある生き物の方が好きだから。これまでに出来上がった反吐が出るような社会を破壊してほしいから。だから子どもには問答無用で優しくすることにしてるんだ。大人の愚かさって心底ムカつくけど、子どもの愚かさはまあいずれ成長するだろうハッハッハとか言って自分の怒りを誤魔化せるしね。俺って神様だから人の正しさとか愚かしさとか簡単にジャッジできちゃうんだよ。残念ながら自分の人生だけはよくわからないまま進んで行っちゃったんだけど。
「知ってるかな? 世の中にはニュースっていうものがあってね。誰かが代表して人が知りたいことを調べてくれて、それを金取って配信したりして生計を立てたりしてるんだ」
「はぁ……」
「〈不良〉! 携帯投げて!!」
「は? ああ……」
とんでもないノーコン野郎だよ。ものすごい大暴投したのをルネ人のオニーサンがぱしっとジャンプしてキャッチしてくれた。ワオ。ありえない話かもしれないんだけどさ、この人ってとてつもなくいい人?
「……この街で報道に期待するな」
「え? ひょっとしてオニーサン見かけによらずネットで真実とか見つけちゃう系の人? もしかして教科書に載ってない新たな歴史観とかに目覚めちゃってるタイプ?」
「違う。この街の報道は機能していない、ということだ。純粋に」
へえ。そりゃ楽しみ。早速調べてみよっかな。携帯ぱっかーん。おいこいつメール九十九件溜めてんだけど。携帯持ってる意味ねーじゃんな。まあいいや。どうせ架空請求とか食らってるんだろ。インターネットに勝手に繋げて、あれこいつパケ死とかする世代なのかな。まあいっか俺の金が減るわけじゃないし。そういえば俺十五万貰っておいてまだ〈船頭〉のオネーサンに渡した一万しか消費できてないんだよな。覚えてる? 人から貰った金を素直に使えるやつと使えないやつだと使えるやつの方が人生が上手いみたいな話。俺って人生ド下手なのかなあ。ていうか携帯の通信速度エグい遅さなんだけど。ナメクジちゃんですか?
「おっ、出た出た……あの、最新ニュースのタイムスタンプが十八時ってなってるんですけど」
「ああ。二日前のな」
「うーん。俺ってこういうの詳しくないんだけど、もしかしてこの街の報道の人たちって全員亀の血を引いてたりする? それとも情報の遅さに誇りを持ってるそういう部族の方々?」
「今日は日曜だ」
「うん」
「だから報道記者は休みを取ってるんだよ」
「そっか。オニーサンこの街で生きてて悲しくならない?」
「……外から来た人間か? お前は」
Oops! なんか俺いまポカやっちゃってない? 俺って午後三時のテロ犯行時刻まで捕まっちゃいけないっていう縛りで今この暮らしをやってんだよね(覚えてたかな?)。でもほら、異世界から来たなんて言ったら何とも怪しい感じがしてきちゃうじゃん? この街ってなんかすべてが物騒だし隠しとくのが無難――ってよく考えたら俺もう〈船頭〉のオネーサンに「俺っち異世界から来ちゃったんすよね~ワハハ」っつっちゃってるわ。しょうがないじゃん。なんかお喋りしたかったんだから。
「そうっすよ~~~~ん」
「……能力は?」
「ひ・み・つ」
ねえなんかヤバい雰囲気がオニーサンから出てるって。いや俺の愛らしい受け答えにメロメロになっちゃったとかじゃなくてさ。普通に殺気が洩れてるって。バトル漫画じゃないんだからそういうのやめてほしいよねえ(ねー)。
「……まあいい。今はそれどころじゃないからな。お前らが来たときにはすでにこの状況だった。それで間違いないな?」
「っすよ~~~~~ん」
「そうか、わかった。……俺たちはもう行くが、お前ら、その武器には触るな。素人が触っていいような武器じゃない」
素人が触っていいような武器って何があるんだろう。ブラックジャックとか? 袋に砂詰めて殴るやつ。あれってずっこいよなあ! 作んの簡単すぎない? まさに素人向けって感じ。あとは雪の日に軒下にできた氷柱とか? あれでぶっ刺すと後で溶かせば簡単に証拠隠滅できちゃうらしいよね。俺もいつか殺人事件を起こすときはまずそのイージーモードから始めようと思ってるもん。
「えー。オニーサンはこれの使い方知らないの? お金払うからレクチャーしてほしいなー。だってほら、向こうのあのいかにもなワルガキいるでしょ。あいつあんなバイク乗りみたいな顔しといて機械音痴なんだもん」
「おい聞こえてんぞ!!」
「聞こえるように言ったんだよ」
「悪いが、俺も知らない」
「そっかー。まあ、オニーサンってなんか優しそーだもんね。知らないか! 武器の使い方なんて!!」
アッハッハ、と笑っていたら、向こうから高速で二メートル越えのおっさんが突っ込んできた。おっとっとちょっと待って! 俺のことを頭がおかしい人間だなんて思わないで! 本当に事実なんだよ。スピードスケートみたいな感じで二メートル越えの大男が突っ込んできたわけ。すごいよね。この街ってなんでもありだ。
「〈人形〉!」
「あぶなぁあーーーーーーーいッ!!!!」
「きゃっ――!」
そのおっさんがもう一直線にルネ人の女の子に突っ込んでいくわけ。いやー、もうこんな場面さ、割り込むしかないでしょ。俺って子ども大好きだしさ。ついでにほら、正義感とか常にメラメラ燃やしちゃって平熱が三十七度くらいあるし? こんな場面見たらつい庇っちゃうんだよね。おかげさまでルネ人のオニーサンが咄嗟に妹を庇おうとしたのをキレーに邪魔する形になっちゃった。あっはっは。俺の美しい心に免じて寛大に許してねっ。
というわけで、俺はルネ人の女の子と一緒に二メートル越えのおっさんに浚われることになっちゃいました。まあ、ふたりで浚われるなら大して怖くもないよね。お化け屋敷だってふたりで行けばあんまり怖くないし。ところでさっきオニーサンが言ってた〈人形〉って君の名前? 君いまみるみるうちに顔からルネ感が抜けて素の顔が出てきてるんだけど、もしかしてお人形さんみたいに可愛いからそう呼ばれてるのかなあ? だとしたらちょっとあのオニーサンって危ない人なのかもね。人ってみかけによらないもんなんだなあ。これからよろしくね。
ところでこのおっさん、すごーく見覚えのある顔をしてますね。
あれひょっとして、君ってあのサディスト女一号の下僕男一号?
[場所:野外――水路上]
[時間:午前11時45分]
[人:〈船頭〉〈探偵〉]
「わわっ、なんですかこれ!」
「フルーツジュース。飲んだことないですか? ほら、あそこの屋台の」
「し、知ってます!! あのいっつもお店の前でキレーなお姉さんたちがたむろってるからなかなか行けない……。え、い、いいんですか!?」
「もちろん。そのために買ってきたんですから。だいぶ水分も出しちゃいましたし、その手の能力って糖質も結構使うでしょう。補給してください」
「あ、ありがとうございます!! ……あの、お姉様はお飲みにならないんですか?」
「うーん。私、実はあんまり屋台ものって好きじゃないんですよねえ。家で浄水器使って料理してるからなのか、なんだか独特の臭みがある気がして……。だから気にしないでください」
「はひっ! いただきます!!」
ずごごーっ。
[場所:ラーメン屋肉肉――裏口]
[時間:午前11時45分]
[人:〈刑事〉〈医者〉]
「お」
「あら」
お互いに目を合わせて、まず一言。先にドアノブを掴んでいた〈刑事〉は、そのままの〈医者〉の恰好を頭から爪先までじっと見た。
「結構派手にやったな」
「あなたこそ。ズタボロじゃない」
ほらスーツもこんなによれて、と汚れを払うように〈医者〉が背中を叩くのに、〈刑事〉は元からだよ、と呟く。
扉を開けた。
「あー……」
「あら。本当に死んじゃったのね。〈肉殺〉」
床に倒れ込んだ〈肉殺〉の撲殺体。〈医者〉が屈みこんで息のないことを念入りに確かめている横で、〈刑事〉は冷蔵庫を開けて人肉を取り出す。ラッキ、と零した。
「こっちは気付かれなかったらしいな。まだ俺たちもツイてる」
「そう? 〈肉殺〉が死んじゃったら直接戦える人、いないじゃない」
「ばーかナメんな。大体〈肉殺〉は遠距離戦に全然対応できねえし大したやつじゃねえよ。元プロだし口が堅いから入れてただけだ」
だいたいが、と〈刑事〉は、
「戦闘なんかお前がいりゃそれでジューブン」
「あら」
〈医者〉が〈刑事〉の背中に抱き着く。それを〈刑事〉は一瞬だけ抱き寄せると、やんわりと押しのけて、客席の方へ向かっていく。
「……食った後が残ってる」
「あれ、言うの? まだ遠くまでは行ってないな、ってやつ」
「ドラマの見過ぎ。空皿なんて大して手がかりになんねーよ。俺ん家のシンクに突っ込んである皿が二日前のなのか三日前のなのかすらわかんねーんだから」
「呼んでくれればいいのに」
「家にまで不倫は持ち込まない主義でね」
ガチャリ、と〈刑事〉がトイレを開ける。もちろんここにも、誰の姿もない。ふぅん、と鼻で息を吐いて、
「挑発するだけして逃げたのか。面倒な……誰だ? このへんで俺たちに気付きそうなのは」
「『赤い雪』のこと?」
「それもある。だけどそれ以上に、こっちに気付いてた節がある」
こっち、と〈刑事〉は手に持ったままの人肉を指す。
「ただのラリパッパだったら楽でいーんだけどな。……ま、仕方ねえ。手がかりもねえし。〈探偵〉を持ってかれてんのはちょっと厳しい状況だが……」
「ねえ、〈探偵〉って女?」
「ガキだよ、ガキ。で、女のあんたには頼みたいことがあるんだけど」
ふ、と〈医者〉が笑うのに、〈刑事〉は見向きもしないまま、
「死体の場所を移す。〈肉殺〉がいない場所に置いておいてもあぶねーだけだしな」
「いいけど……どこに?」
「あんたのホーム。病院」
「いいの? 私だって二十四時間あそこの見張りができるわけじゃないけど」
「当面だよ。新しい保管場所は別で考える。でもまあ、あんたならあそこをしばらく城にできるだろ。――ここまでは? 車?」
ええ、と〈医者〉が頷く。ん、と〈刑事〉が手を出せば、そこにキーが乗る。
「ちゃっちゃと運んじまおう。手伝ってくれ」
「え……。嫌よ、私。力仕事」
「アホ。〈肉殺〉の死体でも使えばいいだろが。もう死んでんだから」
「あ、」
そういえばそうね、と〈医者〉は〈刑事〉について厨房に戻って、それから〈肉殺〉の死体に手をかざす。電極を刺されたカエルの死体のように〈肉殺〉が痙攣して、ゆっくりと起き上がってくる。
「でも、」
と〈医者〉が言った。
「『赤い雪』がバレたっていうのは、どうするの?」
「どうすっかね……。ほとぼりが冷めてからシラ切ってもいいけど、手っ取り早いのは勘付いたやつら皆殺しだな。……すっと〈探偵〉がいねえのがやっぱネックか。〈交換〉が死んだっていうなら紹介も利かなそうだし……」
はああ、と〈刑事〉が深く溜息を吐く。その背を、〈医者〉の痩せた平たい手のひらが撫でる。
「せっかく上手くいってたのにな……」
「なんとかなるわよ」
「……ま、そうだな。落ち込んでても仕方ねえ」
〈刑事〉は冷凍庫を開く。二重底の下を探る。凍り付いた少女の頭部を両手に挟んで、グッと持ち上げる。重たそうにそれを腹のあたりに抱え込んで、こう言った。
「なんとかなるだろ。――この街のやつら、みんなバカだし」
[場所:野外――車道上]
[時間:午前11時50分]
[人:〈不良〉〈刃〉]
「……あの、もしかしてなんすけど」
助手席に座りながら、〈不良〉は運転席の顔のない男をちらりと横目で見て、おずおずと切り出した。
「あんたって、〈完全〉? ……〈星空〉の兄貴の」
「さあな」
絶対そうだよなあ、と〈不良〉は思っている。
正直言って、〈不良〉は大して〈星空〉のことに詳しくない。〈星空〉は優等生だったし、おしとやかだったし、〈不良〉からしてみれば雲の上の存在みたいなものだ。強いて言うなら〈船頭〉の友達だから、という理由で知っているだけで、姉の友達とか、その程度の距離でしかない。
けれど、〈星空〉の兄のことも知っていた。姉の友達の兄みたいな人間のことまで知っていたのは、実はこっちも〈船頭〉と仲がよかったから。傍から見ていてそういう仲なのかなと思ったこともある。〈船頭〉と〈星空〉のふたりを並べてどっち側に分類するのかと訊かれたら間違いなく〈星空〉側に分類される男で、嫉妬する気も湧かなくなるような完璧な人間だった。
顔は見えないけれど、声がその〈完全〉にそっくりで、こうして隣にまで来れば、どうも仕草まで似ている。
でも、とちょっとだけ思う。
こんなに余裕のない人だったっけ。
「――あっちの男はお前の連れか?」
「へっ!? あ、そうっす!!」
「何者だ」
「いや、俺もよくは……。〈船頭〉――あ、〈水龍〉の姐さんが連れてきた客だってことくらいしか」
「客?」
「いま姐さん、ゴンドラの仕事してるんすよ。――あっ、やべっ!」
パンパン、と〈不良〉は自分のポケットを叩き回ったあと、あ、と声を上げて、
「あの……携帯貸してもらってもいいっすか? 姐さんのとこすぐ戻るつもりで出てきちゃったんで、一報入れたいんす。さっきのあいつが俺の携帯と一緒に持ってかれちゃったから、いま手元になくて。えーっと、〈完全〉……じゃなくて……」
「……〈刃〉でいい」
〈刃〉がスーツの懐に手を入れて、携帯を投げてよこす。うわっち、と〈不良〉が何度かお手玉してそれを受け取った。
「って、番号わかんねえ……」
「…………」
ぼそり、と〈刃〉が十桁の数字を呟いた。え?と〈不良〉が訊き返せば、もう一度教えてくれる。やっぱり〈完全〉じゃねーのかこの人、と〈不良〉は思ったが、それ以上はツッコまなかった。同じランク帯のバカが相手ならともかく、姿を隠そうとしている目上の相手にはどうやって接したらいいかよくわからなかったから。
果たして、電話は繋がった。
「――あ、もしもし。姐さんっすか? すんません、携帯ちょっと手放しちゃって……。人の借りてるんす。はい、あの、」
ちら、と〈不良〉は〈刃〉を見る。〈刃〉が無言で首を横に振るので視線を戻して、
「あ、知らない人のっす……。はい。あ、で、ちょっとトラブルになっちまいまして。はい。なんか変なおっさんが来て、あいつのこと浚っていっちまって。いや、マジですよ。マジっす。幻覚じゃないっす。で、今ちょっと人と一緒に追いかけてます。……あ? あ、そうです。女の子と一緒に拉致られて、今携帯貸してくれてる人はそっちの子を追いかけてます。……あ、代わります?」
〈刃〉がまた首を横に振る。
「……すんません。運転中だからって。はい。……え、そっちに合流した方がいいっすか? いやでも……。あ、はい。わかりました」
すんません、と〈不良〉は〈刃〉に向かって、
「姐さんの方で〈探偵〉?っていう情報系の能力者抱えてるらしいんすけど、どうします? 今調べてるのが終わったらそっちで調べちゃった方が早いだろうって」
「――――わかった。合流する」
「りょーかいっす。――あ、姐さん? 合流で決まりました。場所教えてもらっていいっすか? はい。ロックブリッジの、はいはい、はい……」
車は走る。




