第13章 その9 これがホントのガクエンサイ! 前篇
その9 これがホントのガクエンサイ! 前篇
「やったね~クラリスの嬢ちゃん!」
クレオさんがわたしの背中をバンバン叩くのは、正直痛いんです。
彼女なりの親愛の表現なのはわかってますけど。
「クレオ。フェルノウルくんが迷惑してるよ。」
「いいえ、教官殿。迷惑なんて。」
「そうだよ、クソ兄貴。女の友情に口はさむな。」
友情ですか?
男装が似合い過ぎてるクレオさんとの友情は、ちょっと誤解されそうです。
短すぎる紺色の短髪の上に乗っかった茶色のベレー帽は、女子のチョイスではありえないのです。
「クレオさんのおかげです。ヘクストス・ガゼットであんなに取り上げてくださって、おかげでホントは二回目なのにこんなにお客さん入って・・・ありがとうございます!」
学園内の人口密度はいまや史上空前のレベル。
今年始まったばかりの「学園史」ですけどね。
門から敷地内まで、ヒトであふれてます。
思い思いの屋台に群がる人たち、そもそも校門の絵や装飾に見とれている人たち。
野外演習場の一角に陣取った特設本部からも、そんな光景が見えます。
なんだかワクワクします。
「おねえちゃん!」
え?
「クラリス、ホラ、この子。先週の・・・」
デニーが頭を撫でてる小さな男の子は!
「うん!おねえちゃんたち、このまえはきょじんからたすけてくれてありがとう!」
「ううん。あなたもパパとママをちゃんと守ったんだね!エライね!」
わたしもデニーから男の子を取り上げ高く抱き上げます。
「はははは、おねえちゃん、ちからもちだね!」
うっ、それはちょっと乙女に対する褒め方がなってないのです!
「クラリス、子ども相手にムキにならないの。ね~。」
「ね~。」
横から入ってきたリルが、今度はその子と見つめ合って、一緒に笑ってます。
なんだか悔しいです。
さすがリルは妹が多いせいか、子ども相手に慣れてる感じ。
わたしも苦手じゃなかったんですけどね。
最近は子どもみたいな大人の相手ばかりで。
でも、時々こんな風に、先週の「巨人災禍」で会った人たちがやってきて、あいさつしてくれます。
なんだか、初めてみんなのお役に立てたって実感がわいてきます。
ちょっとだけ心配してた天気も、とっても気持ちいい快晴です。
とても冬が近いとは思えないくらいの、今日はお祭り日和なんです。
「もうクラーケンはネタ切れだ・・・普通の「たこ焼き」ならまだあるよ~。」
「売り切れゴメン」のノボリの通り、あっという間にこの始末。
先週でかなり売ってしまいましたから、仕方ないんです。
でもジーナが呼び掛けてるように、策はちゃんと用意してありました。
「どうや、正解やったやろ?」
胸を張るエミルです。
在庫不足のクラーケンだけじゃなく、ちゃんと他の食材で補うことまで考えるとは、さすがです。
本物の「たこ焼き」も好評で、他の有名屋台に引けを取りません。
「タコ2・・・お待ち。」
「リト、もっと景気よくしろよ!お前の黒髪は地味なんだから!」
焼く手際は特訓したんですけどね。
さすがにそっちまでは。
「そうよ~ちゃんと笑ってあげれば、リトはかわいいし。あたしの半分くらいはファンができるかもよ~♡」
「ファラさ~ん!たこ焼き10個!!」
「は~い♡」
「あんたは、たこ焼きとは別のモン売ってんだろ!」
「アルユン、スマイルも商品になるのよ~♡」
・・・人気の理由はソレもあるんでしょうか?
行列の男子率が怪しいのです。
「フェルノウル!」
え?
レリューシア王女殿下!?
そんなに勢いよく本部に入って来られて?
側近のエリザさんとオルガさんがあわててます。
「あなたのお師様は?フェルノウル師はどこにいるのですか?」
意外過ぎます。
それ聞きますか?
なんだって、あの人のことを?
「だって、あんなに楽しかったこと、初めてでしたから!」
「「「楽しかった!?」」」
思わず叫ぶエミルとシャルノとわたし。
実はさっきから一昨日の件を、お客さんからもいろいろ詮索されて、いい加減ウンザリしてたんです。
なんかもうご近所さんはウスウス察してる感じで。
叔父様、前科多すぎです。
ですが・・・確かにあの時、王女殿下は無音の来賓室で笑っておられたのです。
目を丸くして、でも、とってもおかしそうに。
「以前、アントという少年に質問されました。キミは何をしたいんだいって?それからずうっと考えていたのです。そして、やっと一つだけ・・・わたしは、笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣きたいのです!それが魔術を使うことでも、そうでなくても、父や師匠の顔色を気にしないで自分の感じた通りにふるまいたいのです。ですから、大人になってもイヤなことはイヤだって、あんなにはっきりと、言葉だけじゃなく、目でも行動でも示せるあのお方に感動しました!」
これはいけません。
王女殿下は進む方向を大きく間違えている気がします。
これはいろんな意味で叔父様に責任をとっていただきたいんですけど。
アントの時の分も。
「王女殿下。叔父様はまだ・・・そのぅ・・・衛兵隊の駐屯所からお戻りになっておりません。」
途中からは周りに聞かれないように小さい声です。
「・・・まだなのですか・・・わたしはすぐに帰らせていただいたのに。」
そこは身分のなせる何かというか、張本人は別というか、日ごろの行いというべきなのでしょうか?
「・・・一昨日の一件では周辺も巻き込んでしまいましたし・・・衛兵隊も簡単には返してくださらないでしょう。」
王女殿下とコソコソ話をするわたしは、とっても奇異の目で仲間から見られちゃってます。
デニーなんか、なんかメガネが光ってますし。
あ?
オルガさんがイライラしてます。
「・・・そうですか。」
残念そうな王女殿下をエリザさんがお連れしていきます。
「そうそう。父は今日、お休みです。ですから、代役はわたしが行います。」
正午の式典で予定していた大公殿下のご挨拶の件です。
なんとなくこうなる気がしていました。
大公殿下、先週はお忍びで来ていらしたし、一昨日の後では気まずいでしょうし。
キ~ン!コ~ン!カラ~ン!・・・・キ~ン!コ~ン!カラ~ン!・・・
正午です。
広い野外演習場にも全く収まらない人たち。
ですが、その人たちも一緒です。
わたしたちは、一週間前の「巨人災禍」で亡くなった方々を悼み、今、黙とうをしています。
幸い、わたしが個人的に知ってる人は全員無事でした。
ですが、中にはクラスメイトがよくいくお店の人や昔の知り合い、それに城壁の外で戦った兵隊さんとか、やはり犠牲になった方がいらっしゃいます。
驚くほど少なかったと誰もが言っても、それは「ゼロ」を意味するわけではないのです。
「・・・・・・・・・わたし、レリューシアが、父サーガノス大公になり代わり、王家を代表して、犠牲になったみなさんのご冥福を折ります・・・。そして、あの日巨人と戦い、多くの人命を救ったエスターセル女子魔法学園、パントネー魔法女子学園、ヘクストス女子魔法学校、冒険者養成校魔法科のみんな!本当にありがとう。みんなにはいくら感謝の言葉をつらねても足りないほどです。」
みんな・・・王女殿下は敢えてそういう「トモダチ」めいたお言葉を使っていらっしゃるのでしょうか。
王女殿下が・・・あれ?
こっちを見てます?
「みなさん。或いは、みなさんの中にも、先週の「巨人災禍」からの復興半ばの今、こんなお祭り騒ぎを行うことが不謹慎だとお思いの方がいるかもしれません。しかし、わたしは知っています。このエスターセル女子魔法学園の生徒、教官方がこの一週間どれほど復興に尽くしてくれたのか、なにより、あの日、どれだけの勇気でどれほど多くの人を救ったのか・・・。そのみんなが、行うガクエンサイ、これこそが復興の象徴です。だから、ぜったい応援したいって、一人の人間として、そして同じ年の仲間としてわたしは駆けつけたのです。今日お集まりのみなさんもきっと同じ気持ちだと思うんです。」
少し格式から脱線した言葉遣い。
ですが、そのお心はこの場のみなさんに伝わったのです。
なによりわたしに、わたしたちに・・・。
実は、わたしたちの中にも、わずか一週間で再開する後ろめたさや不安があったのです。
不謹慎って言われないでしょうか、やるにしてももっと後の方がいいかもって。
でもこれ以上待てば冬になり、雪が降る。
それでは来たくても来られない人が増えるんじゃないかって・・・。
でも、今の王女殿下のお言葉で不安がなくなりました。
やっぱりやってよかった、ガクエンサイ。
「ですが・・・ふふふ。みんな、この後、堂々と雌雄を決しましょう!勝負は別です!勝たせていただきます!」
なんと、王女殿下の必勝宣言です!
学園中から、おおおおって歓声が上がります。
みんな委縮しないでしょうか?
少しだけ気になります。
しかし歓声に紛れて聞こえてくるのは
「こっちこそ負けないぜぇ!かかって来いやぁ!」
「この脳筋!ま、そうだけど。」
「ファラも負けないよぉ♡」
「ん。」
「あたいだって!」
「レンも!」
「戦隊長閣下、この悪知恵参謀にお任せを。」
「デニーやる気やな。また閣下言うとるで。」
「いいじゃありませんか、みんな、頼もしいですわ。」
「ボクは恐れ多いんだけどなぁ・・・でもみんなやる気なら、いっか。」
こんな頼もしい言葉の数々。
わたしも負ける気なんかサラサラありませんけど。
ん!?
ふと気配を感じ視線を向けると・・・もう一人。
無言で闘志を燃やす人がいます。
わたしをにらむジェフィが。
なんだか青白い炎をまとっています。
「幻視」の才能はわたしにはあまりないんですが、それでもそう感じさせる何かが、ジェフィの周りから漂ってくるのです。
しかし、わたしは負けじと彼女をにらみ、そして右拳を上げるのです。
それに応じるかのようにジェフィは左手を掲げ、そして踵を返します。
その間、彼女のいつもの微笑みはまったくありませんでした。
ですが、その挑むような顔こそが彼女本来のもの。
わたしはそう確信してしまうのです。
そして・・・作戦通りで大丈夫かしら・・・そんな不安がよぎります。
あわただしい昼食は、サンドイッチとミルクだけで済ませ、会場設営に走り回るわたしたちです。
人型の模擬標的2体を演習場中央に並べます。
競技用のラインをひいて、大きな対戦表を張り出して。
「戦隊長閣下!これで準備も完了いたしました!」
すっかり下士官口調に戻っちゃったデニーです。
開戦前ともなれば、仕方ありませんけど。
そんな中、「拡声」係が園内にアナウンスを始めました。
「1300より、野外演習場にて、市内4校による魔術対抗戦が行われます。魔法学校の生徒たちが繰り広げる、華麗な魔術の戦いをぜひご覧になってください・・・繰り返します・・・」
これは、あの日と同じ「拡声」原稿なんです。
一瞬だけ一週間前のことが頭をよぎりました。
でも大丈夫。
もう今日は最後まで終わらない。
「・・・じゃ、制式戦闘衣になったら集合です。急いでね!」
「「はい!戦隊長!」」
敬礼までして、声をそろえる仲間たち。
もう、みんなもそのつもり。
今日は勝つまで終わらせない!
「いいですか!初戦はルーラさんたちの冒険者養成校魔法科の方々です・・・デニー!」
「はい、閣下!みなさん。相手は冒険者です。年齢制限はありますが、正直言えば、個々の魔術士レベルは我々より高いはず。なにしろ実戦経験が多いんです。ですが・・・以前の偵察や先週の共同作戦の際にも確認した通り・・・」
デニーが相手の情報をみんなに伝え、作戦を指示します。
一週間前にできていた作戦を更に焼き直してます。
真剣に聞き入るみんな。
デニーが話し終わると、わたしはみんなの顔を見ながら、ゆっくりと話します。
「いいですか、みんな。他に何か最終確認に必要なことは・・・ないですね・・・ではいきます!いいですか、必ず勝ちますよ!」
「戦隊長!準備完了です!」
「それでは・・・エスターセル女子魔法学園、出陣します!」
「「「はい!戦隊長!!」」」
わたしたちは、左手に持ったワンドを頭上に掲げ、そして大きな円を描くように回転させながら行進します。
歩きながらもみんなの動きは一緒です。
少しのずれもありません。
そのまま多くの観客が見守る中、演習場に入ります。
そして指定位置に着くと、右肩の位置で、ワンドをピタリと止めます。
行進も制止。
もうわたしたちの心も動きも完全に一つです。
観客は大きな声援で迎えてくれます。
ルーラさんたち冒険者のみなさんは、そんなわたしたちの行動を半ば笑い半ば圧倒されています。
服装ばかりか動きもバラバラ。
意思統一に難あり、です。
やはり集団戦はこっちのもの。
教官の中には、わたしたちの示威行動が魔術戦の役に立つか疑問視されている方もいます。
実は直接魔術戦のご指導を担当してくださったエクスェイル教官はそのお立場でした。
「エス魔院では、だれもやらないです。直接魔術に関わらない無駄なことは」って。
しかし「集団で戦うにあたり、味方の士気を上げ、敵を威圧し、観客を味方にする上で有効」というイスオルン主任の意見。
それに「魔術とは空間に意志を刻む行為だ。仲間の同調性を高めることは集団の魔力の周波を近づけ、強めることになる。要は仲良くやりなさい。」というどっかの講師の助言。
そんな助けもあり、最後には承認してくださいました。
もちろんその練習は時間外の自主的なモノ。
ですがその成果は先週の巨人戦で実証済み。
わたしたちは、観客に加え、次の試合を控えたライバルたちに注視されながら、戦闘位置に移動します。
「対抗魔術戦の基本的な戦術は、波状攻撃にあります。組織的に効率よく攻撃呪文を加え続けることです。」
あれは11月に入って間もないころ。
講義室でエクスェイル教官が、エスターセル魔法学院で行っていた時の、伝統的な戦術をご教示してくださっています。
「一般的な軍の制式術式なら「魔力矢」が推奨されていますが、この場合は「火撃」が最も有効です。一撃の威力が違いますし、この競技方法では戦闘条件に左右されません。」
他に精霊魔術、水系の「酸」や土系の「素材劣化」を使って敵の標的を弱らせる搦め手もありますけど、あまり有効ではない、とも。
「いろいろな術式を使うということはそれだけ覚えなくてはいけませんし、その手間があるなら魔力を底上げしたり詠唱技術を磨いたりした方が効率がいいというのが軍の主流です。そのための制式術式ですし。」
後は、速射性が高い簡易詠唱・略式詠唱と、威力を練った通常詠唱の組み合わせだそうです。
例えば簡易詠唱は一見、有利ですが、一撃ごとの威力は弱いし、行使し過ぎればすぐに魔力はカラになります。
使いどころが難しい・・・実際には、そう言えるほど使える学生はいないんだそうですけど。
一方通常詠唱であれば術者ならだれでも使えますが、ここぞのタイミングで連射が効かない。
結局チーム内でだれが何を使えるのか見極めて、攻撃のタイミングをしっかり指示することが重要だとか。
「教官殿、質問があります。防御魔法は使わないのですか?」
シャルノが思うのは当然ですけど
「同じ防護魔法は、重複して行使できません。だから最初一番得意な術者にかけさせはするが、それで終わりかな。しかも、今回は複数の試合を行うから、魔力は効率よく使わないといけないです。」
そんな基本的な戦術を聞きながら、わたしたちはその後、更に議論と練習を重ねていきました。
加えて、相手校の特徴を考慮し、これまで作戦を考えて続けてきたのです。
審判は試合をしない他校の教官殿2名が行ってくれます。
一応、試合前に、アイテムやポーションの持ち込みなど、不正がないか検査されます。
その後、互いに横一列の横隊になり、にらみ合います。
さすがに専門職の冒険者さんです。
ほとんどがわたしたちみたいなワンド(学生杖)ではなくメイジスタッフ(魔術師杖)を持ってます。
ローブに帽子もまさに一人前という感じです。
みなさん、18歳以下のはずですけど、15歳のわたしたち・・・一部例外がいますけど・・・とはキャリアが違いうのです。
ですが、つけいるスキは小さくない。
わたしは主将のルル・ルーラさんと握手を交わします。
それが終わって位置に着くと・・・
「開戦!」
審判の号令です。
今、対抗魔術戦の第一試合が始まりました。
ルーラさんたちは、全員が攻撃魔法を唱えるようです。
ですが魔術士レベルとは別に、専門的な詠唱技術はイマイチで、訓練不足でタイミングもバラバラです。
やはり普段から各自自分のパーティーで行動する冒険者さんたちは、魔術師だけの集団戦の練度は高くありません。
ただ、一撃の威力はありそうです。
一方こちらは、初手のセオリーを変えて、防御からです!
「防御!」シャルノ。
「風甲!」リト。
「木材強化!」アルユン。
この3人がそれぞれ得意の術式をまず簡易詠唱します。
全部違う種類の防御魔法。
ですから全部有効です。
三つの魔法円が浮かび、白銀に輝きます。
そして、その輝きが消えると、今度はわたしたちの標的が輝くのです。
これで敵の攻撃力はかなり減殺されます。
冒険者さんの中でも簡易詠唱を使える二人が唱えた「魔力矢」は弾かれ、「火撃」はかなり小さくなって標的にポッと当たりました・・・ダメージはほとんどなしです。
しばらくして略式詠唱や通常詠唱の「魔力矢」がこれもバラバラに飛んできましたが、標的に届いた時には、かなり「矢」は小さくなっています。
それでもその威力を残し、思ったより多くの矢や炎が標的に命中し、ダメージを与えていきます。
さすがは冒険者さんたちです。
標的の耐久度はまだ大丈夫でしょうか?
その間、ヒルデアが指揮するチームの主力は、「魔力矢」の集団詠唱に入っています。
我がエス女魔は、一つの攻撃も行わず、見た目には防戦一方です。
わたしたちは、この初戦、5人の遊撃隊と15人の主力に分かれます。
さっきの3人にわたしとファラファラも遊撃隊です。
遊撃隊はわたしの指示で攻守柔軟に行動します。
メンバーは変わった術式を覚えている人たちが多いんです。
序盤は防御にかく乱で、敵の攻撃を邪魔します。
一方、今回の主力は、ひたすら集団詠唱で、しかも威力を高めた「魔力矢」を討ち続けることが任務です。
もちろん作戦変更はあるかもしれませんけど、その時もわたしが指示する予定です。
ホントはもっと細かく取り決めたかったとも思うんですけど
「ですが、作戦の細部は柔軟に、ですよ、閣下。」
「そうね・・・20人の短期決戦です。きっちり決め過ぎるよりは。そうしましょう。でももしもの時の合図は決めておきますよ。」
そんな感じで、いい加減です。
デニーも遊撃隊に入りたかったんでしょうけど、あの子、今初戦では使える術式はまだ・・・なので主力部隊でヒルデアの補佐です。
「あ!あの人!」
「わかってるの~♡・・・「加力♡」」
今、冒険者さんのかなり魔力を込めた「火撃」が発動するタイミングでした。
あの直撃を受けたら、さすがに危険!
それを注視していたファラファラが、味方の標的を一瞬だけ動かしたんです!
重力魔法の下級術式「加力」で。
これもちゃんと魔法防御の一種です。
スレスレの所を大きな炎が飛んで行って、うまく標的が右に揺れてかわした時は、大きな歓声が起こり、冒険者さんたちは「きったねー」とか「ずり~」とか・・・でもルール違反じゃないですよ!
相手を直接攻撃したり標的を直したり隠したり位置を変えたりすると違反ですけど。
そんなちょっとヒヤヒヤした場面の間に
「・・・・・・わたくし、シャゼリエルノス・デ・テラシルシーフェレッソが命じます・・・「防御!」
「・・・・・・リト・アスキスが願う。「風甲」!」
「・・・・・・わたしはアルユン、頼んだわ!「木材強化」!」
時間をかけて、今度は十分に魔力を込めて通常詠唱した三人。
大きな魔法円の輝きが広がり、今度は標的も強く輝きます。
冒険者さんの攻撃呪文は、もう全部弾かれています!
基本3人はここで任務終了。
「ファラも休みたいの~・・・「加力」♡」
もうちょっとお願いします。
まだ痛いのは防がないと。
「ちょっとクラリス、「魔力矢」で援護くらいできるわよ。」
確かにアルユンの「魔力矢」にシャルノの「火撃」は強力・・・ですが
「アルユン、まだ初戦です。よほど効率よく魔力を使わないともたないのですよ。」
シャルノが言ってくれた通りです。
リーグ戦になって、補欠メンバーもいない私たちは魔力が命綱なんです。
「同意・・・アルユンも従う。」
「わかったわよぉ。」
リトも説得してくれて、おかげで、わたしの言うことは聞きたがらないアルユンも、納得してくれます。
そこに、視界の隅に強い光!
「「「魔力矢!」」」
充分に魔力を込めた味方主力部隊の集団詠唱による「魔力矢」が完成し、15人の強い意志が同調した大きな白銀の矢があらわれます。
冒険者さんからは悲鳴、観客からはどよめきが聞こえます。
「精神結合を禁止された時はどうなるかと思いましたけど。」
「ん。でもこれもあった。」
「ま、集団詠唱は前に会得済みだったしね。」
「あっちの方が目立つの~「加力」♡」
「ファラファラも活躍してますよ。」
少し地味ですけど。
でも、確かに大きな白銀の矢が一撃で標的を破壊する光景は、とても印象的です。
突き抜けた魔力矢の白銀の軌跡。
そして木材は飛び散り、人型の模擬標的は倒れていきます。
会場はもう大歓声です。
大きな拍手に包まれながら、喜びたがる仲間を「先に並んで!」って抑えて、再び横一列に並びます。
「終戦!勝者、エスターセル女子魔法学園!」
審判の宣言を受けたわたしたちは
「みんな!相手チームに!」
「はい!ありがとうございました!」
って、相手チームに敬礼を送るのです。
わたしたちが初戦の勝利を喜んで抱き合うのは、まだ。
「待機場所にもどるまでは笑顔禁止!」
「「「ええ~!?」」」
不平不満を抑え、それでもみんな、駆け足です。
大勢の歓声と、そして教官方の賛辞を浴びながら。
しかし、わたしは自分に言い聞かせます。
「まずは一勝、ですがまだ初戦に過ぎない」と。
わたしの脳内では、次の相手との戦いはもう始まっているのですから。




