第13章 その8 魔法街は沈黙する。そして・・・始まる。
その8 魔法街は沈黙する。そして・・・始まる。
「ねえねえ、夕べ、何してた?」
「「あれ」の時?びっくりしたよね~・・・宿題。」
「魔法街と言っても中心部じゃないこの辺りで起った現象でしょ・・・やっぱ・・・」
「そうよね~どっかの研究所や大学があるわけじゃあるまいし・・・ここらじゃ原因になりそうな・・・ってなれば・・・ほら。」
「・・・やっぱり・・・ねぇ?」
朝の登校中です。
まわりの声が痛いのですが、気にしないことにします。
遠慮がちな視線は当然無視。
一緒にいる仲間は、リトにデニー、リルにレン。
要するに2班全員が今朝からわたしと一緒です。
だけどわたしに気を遣って、誰も「昨夜の一件」、あの怪現象については聞かないでいてくれます。
むしろわたしを守ってくれてるみたい・・・なんとなく察してるのでしょう。
学生食堂でも「声」は、可聴域で聞こえて・・・視線はさすがにみんなも向けないようにしてくれます
が・・・努力目標って感じです。
「・・・クラリス?」
「今日は小食ですね。珍しく。」
「食べないと大きくなれないよ?」
「・・・リル、まだ大きくする気?」
わたしだって食欲のない朝くらいはあるのです。
さすがに「あの後」で、「今」の状況ですし・・・。
「おっはよ~元気ないよ~。」
「昨夜は大変でしたわね、お互いに・・・あっ!」
エミルとシャルノが珍しく朝から食堂に来ていて、わたしたちに合流します。
隣のテーブルを強引に寄せて。
で、ちょっと口を滑らせかけたシャルノがあわてて口を押えますが、それは却って目立つのです。
「やっぱり・・・聞いちゃだめですかね?」
「「ダメ!」」
「ん。」
詮索好きな、というより謎の解明が大好きなデニーが我慢しきれず、ついに切り出してきて、2班のみんなに止められてます。
リルとレンが二人がかりで文字通り口を封じて、リトがわたしとの間に立ちふさがるのです。
わたしとエミル、シャルノは・・・困惑中。
つい目くばせしちゃいますけど・・・。
あれは、昨夜の「大人の会議」の中の出来事でした。
途中参加したジェフィです。
いつもの薄い微笑みがなく、ひたむきとすら言える顔。
「フェルノウル様。あなた様のお噂はかねがね伺っております。ですが、そのおつくりになったものの価値をもっと理解しなければ大変なことになります・・・さっきの大公はんみたいなお人は今後も出てきなはりますし。」
そう言って叔父様にさりげなく椅子を寄せていきます・・・近すぎです!
「うん・・・キミは若いのに思慮深いことを言うね。おっさんもおんなじことを言ってたよ。」
おっさんというのはイスオルン主任教授です。
まさに「そのせい」で事件まで起こしてしまいました。
今でこそ仲直りしたように見えますが、一時は険悪この上ない間柄でした。
「ですから、フェルノウル様には、お側に信頼できるお人を置いてほしい言うんが、今まであなた様にご協力しておられた伯爵様と会長はんのお考えです。」
少しずつ叔父様に近寄るジェフィ。
エミルとシャルノがわたしに落ち着けってサインを送ってきますけど・・・ムカムカが抑えきれません。
もっとも叔父様は胡散臭そうに伯爵様と会長さんを眺めるだけで、ジェフィにはさほど関心がないご様子。
初対面の、しかも女の子は苦手ですし。
さすがのジェフィも・・・って、あ!
その強引な腕のつかまえ方は反則!
「んっと・・・なんだい?ジェリルフィさん?」
「はい。そいで・・・フェルノウル様。お身を固める気はございまへんか?」
・・・ほら、来ました!
「はあ?」
もっとも当の本人は、思いっきり間の抜けたお返事です。
「伯爵様も会長はんも、ご自分の愛娘をフェルノウル様に嫁がせたいお思いです。先ほどまでの事情もさることながら、フェルノウル様のお人柄を大いにお気にいってはるんです。」
ついに叔父様に言われてしまった二人。
シャルノは顔を隠すようにうつ向き、エミルはなぜか顔を赤らめてます。
それを知ってか知らずか、当の叔父様。
「・・・本当に気に入ってたら娘を監視役にしようなんて考えるわけないと思うんだけど?要は信用ないんだろ・・・政略結婚にしても最低だな。」
普通であれば伯爵令嬢と大商会の娘、しかもどちらも若くて美人。
どう考えても二つ返事でうなずく場面なんでしょうけど、叔父様はむしろ機嫌を損ねたようです。
そして気持ちをお静めになるためか、ワイングラスに手を伸ばします。
予想通りの反応とはいえ、それでもホッ、です。
「政略結婚かどうかは知りまへん。フェルノウル様。せやけど、うちはあなた様の妻になりたい思うてます。」
ジェフィが彼女の本題を言い出すと、叔父様が思いっきりワインを吹き出して。
ああ、また絨毯が・・・。
「あのお二人はどうかもわかりまへん。ですけど、うちは・・・本気です。」
ジェフィが直球勝負!
意外です。
正面から叔父様を見つめています・・・あの細い目が見開かれ、キレイな深緑色の瞳が見えて、唇が何かを訴えるように小さく開いて・・・。
叔父様すら、これでは危ないかも!
わたしは思わずその左手を強く握ろうとします。
「すまないが、お断りする。こう見えて僕は自分がどれだけダメな男かわきまえているし、結婚なんてマッピラだ。何よりも、僕は若い女の子を不幸にするなんて特殊な趣味はない・・・あの親父たちが何を吹き込んだか知らないが、考え直すんだね。キミはもっとマシな相手を探して幸せになりたまえ。」
叔父様にしては、意外なほど常識的な断り方です。
ちゃんとジェフィの方を向いていますし、真顔です。
ですがジェフィは毒気を抜かれたような顔です。
口までポカ~ンって開いたまま。
真面目に返されるとは思ってなかったんでしょうか?
まさかこの好条件で断られるなんて考えてなかったとか?
「あのぅ・・・フェルノウル様?うちはあなた様と結婚できたらそれでええんです。幸せには自分で勝手になりますんで。あなた様はあなた様のやりたいことをなさればええし、うちはうちで、あなた様の作ったもんが他所様にとられんように見てるだけで伯爵や会長からいろいろ便宜をはかっていただけますし・・・」
ジェフィはムダなく合理的に話を進めたつもりでしょうけど。
ホラ、叔父様、ギロってなって・・・さすがのジェフィもこの会議に参加するために急ぎ過ぎたのか、調査不足。
ま、叔父様のことを調査なんかで理解できるとは思いませんけど。
「もっと断る!キミは打つ手を間違えた。本気で結婚やらなにやら言うなら、こんなろくでもない親父たちとつるむ必要はない。つるんでるということ自体がキミにとって価値の源泉であり、キミがこの場に来られたということ自身、あの親父たちの期待の表れと言える。だが、キミらが欲しがってるゴラオンやら術式の利権やらがどれだけのモノとしても、僕の教え子たちがこんな最低の男と結婚するなんて最悪な事態とは到底釣り合わないし、そんなことをしたら僕はこの子に顔向けできない。よくて刺殺、あるいは撲殺、下手したら呪殺されかねない。」
普段とも先ほどとも打って変わって立て板に水、という表現がこれほど似合う人もなかなかいない叔父様です。
ですけど、そんな叔父様を殺害するような恐ろしい「この子」って誰でしょう?
まさか・・・メル?
なんて考えていたら、ジェフィがすごい目でこっちを見てます。
え?
なんででしょう?
ギリリって・・・歯ぎしりですか?
わたし何もしてませんけど?
あ、思わず叔父様とつないでいた自分の右手を見ます。
「で、おっちゃんに伯爵ぅ~・・・こんな若い子に、自分の娘たちまで巻き込んで・・・なんか言いたいことある?このクソ親父たち。」
思いっきり「しくじった」というお顔のお二人。
「結婚」と「教え子」は、おそらくわたしの次くらいに叔父様にとっての「逆鱗」なんでしょう。
なんて「逆鱗」の多い人・・・「フルリバーススケールアーマー」って言うのでしょうか?
ですが「ゴラオン」については、叔父様の方がお二人よりも開発者ということで立場が上、更には社会的な立場を考慮しない非常識さはたった今大公殿下相手に証明済み。
ところが
「フェルノウル教官、言い過ぎよ。」
これは予想外です!
なんと学園長が叔父様の矢面に立たれたのです。
ちなみにジェフィは形成悪しとみてさっさと学園長の影に隠れます。
さすがに「機を見るに敏」なのです。
「お二人とも父親として、ご自分の愛娘の嫁ぎ先に悩まれてのことでもあったの。」
うんうんとうなずくイケメン伯爵様とふけ顔の会長さん・・・シャルノとエミルの会話によると、会長さんの方が10歳近く年下?
ウソ・・・。
「悩んでコレ?考えすぎて、何をどう血迷ったんやら。」
その叔父様のつぶやきも学園長に無視されました。
「だいたい、あなた、いい歳して独身の男が女子学生の教官なんて困るのよ!」
それはワグナス教官の方が深刻なんですけど。
うわさにもなってますし・・・ですが!
「加えて、あなたは実の姪っ子といつもイチャイチャ!」
イチャイチャなんてしてません!
って・・・!
学園長もわたしの右手をご覧になってますけど・・・これは・・・違いませんけど!
今さらでも、ぎゅうっと。
こんな時にでも自己主張しておかないと、叔父様には意識してもらえませし。
でも本人だけ気づいてないってどういうことでしょうか?
「春まで一緒に暮らしてた家族でしょ!いくら法律が許しても良識が許さないわ!」
「・・・なに言ってるんだ?学園長?さっきから何をどう突っ込んだものやら・・・」
叔父様がこれだけ困惑しきっているのは珍しいのです。
普通の人みたいです。「ダメダコリャ」?あ、でもなんかつぶやき始めました。
あれ?
ゴソゴソ?
これって・・・。
「だから、他にこんなかわいい子が三人いるんだから。全部もらえなんて言わないわ。でもだれか一人くらいは気に入ってるでしょう?とりあえず身を固めないと教官として社会的にいい加減やっていけないの!学園だって伯爵様や会長さんの・・・」
「静寂!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
学園長のお話し中に、叔父様は何かを諦めて、懐からスクロールを取り出していました。
しかも「天に星があり 空に雲がある」って言い出して・・・これ古式詠唱じゃないですか!
叔父様のいつもの真摯な詠唱と違い、随分「投げやり感」あふれる詠唱でしたけど。
「静寂」は風系列の精霊呪文で下級術式です。
その効果は範囲内の空気の振動、つまり音の発生を防ぐこと。
術式を防いだり敵の会話を封じ連携を殺したりするのに有効です。
しかも叔父様、持ち歩いてた毛筆で、壁(しかも豪華な大理石!)に
「これで話もできないから会議は終わり!さいなら!」
って大書して!
この術式をイヤな会議を壊すことに使った人は「前代未聞にして空前絶後」だと思います。
おかげで上級魔術師である学園長が魔法抵抗できないばかりか、来賓室内はまったくの無音。
わたしは叔父様に右手を握られたまま来賓室から連れ出されました。
出がけにエミルとシャルノに手を振ったけど、二人とも茫然自失でした。
ですが・・・
そのまま廊下に出ても。
校舎から出ても。
学園の敷地から出たのに!
・・・一向に音が聞こえないんです!!
どこまでも続く静かなだけの世界!!
そして、わたしは「エクサスの怪眠事件」と思い出し、星空を眺めながら途方に暮れたのです。
結局、学園の周辺はこの後、完全に音を奪われていました。
叔父様の「静寂」のおかげで。
・・・これが後日「魔法街の沈黙」と言われる、あの一夜の真相なんです。
「あんとき、最初のうちはめっちゃ面白かったんだけどなぁ。」
「ですがその後は、気が気ではありませんでしたわ。どこまで行っても何も聞こえないのですから。」
「結局、夜明けまで何も聞こえなかったねぇ・・・・さすがに眠れなかったよ。」
「あの来賓室、本当は魔法禁止のために「術式封じ」処理がされているんですよ!それをあっさりと・・・今朝もお父様が呆れてましたわ。」
「レリューシア王女殿下なんか呆れたのか、めっちゃ笑ってたね。実は怒り過ぎて笑うしかなかったとか?」
事情を知ってるエミルとシャルノもわたしも睡眠不足ですが、話をしてるうちにそれを忘れちゃいました。
「二人には、なんて言ったらいいのか・・・。」
朝食後、2班のみんなと別れ、わたしたちは学園長室に向かいました。
で・・・
「昨日のことは忘れなさい・・・責任は大人がとるから。」
今さら「大人」って言われましても。
学園長を含め「大人たちの会議」のおかげで、散々な一晩でしたし。
ですが・・・一番はやはり叔父様なのでしょうか?
加害も被害も叔父様が一番大きそうです。
「フェルノウル教官には昨夜から衛兵隊に出頭してもらってるわ。」
「出頭ですか?」
事件の犯人が誰かわからないうちに自ら名乗り出たら「自首」というのでは?
「・・・どうせみんなだれのせいかわかっちゃってるわよ。」
「「「・・・・・・・・・。」」」
返す言葉もありません。
ですが、あそこまで叔父様を追い込んだ皆様の責任はどこに行くのでしょう・・・?
「・・・なにヨ、クラリスさん。その目は。」
「イイエ。ベツに。」
気まずそうに眼をそむけた学園長は、それでもフォローはちゃんとしたと言います。
「わたしもちゃんと同行したのよ。それに同席していたヤンゴトナキオカタにも証言していただいたの。」
レリューシア王女殿下を巻き込んだんですか!
ウソ!!
「父が迷惑をかけたっておっしゃるんで・・・ま、それでおとがめなし!この一件は闇に葬られるわ!さっ、これで一旦は忘れましょ。明日はガクエンサイ。今日は最後の一日なのよ!」
それで、わたしたちも切り替え、明日のガクエンサイに集中することにしました。
クラスのみんなもいざホームルームが始まると、もう学園祭の準備に集中して、昨夜の真相なんてデニー以外は気にしてません。
どうせなんとなくばれてるし。
「何となく?いいえ!わたしは独力でこの真相を完全に突き止めてみせます!」
なんて、一人で勝手に盛り上がってますけど。
わたしは、いろいろ考えちゃいます。
例えば衛兵隊のクライルド隊長さん!
また叔父様がご迷惑を・・・でも明日いらっしゃるでしょうし、謝るのはそこで。
きっと、またウンザリ顔でしょうけど。
王女殿下とジェフィにも明日会えます・・・ジェフィには別に会いたくもありませんけど。
正々堂々と勝負あるのみです!
「クラリスってば!」
午前はリルたち装飾組のお手伝いやリトたちたこ焼き隊の試食なんかしてました。
一度せっかくつくった絵や装飾が例の騒ぎで壊され、一から作り直してたリルでしたが
「先週の作品なんかとっくに超えちゃうよ!」
って張り切ってましたし、リトも
「やっと焼けた!」
たこ焼きの腕が上がったようでした。
今は午前中の準備を終え、お昼休みの中庭です・・・って、エミル?
なにニヤニヤしてるのかしら?
「どうしました?なにをボ~ッと・・・ひょっとしてまた昨夜の件ですか?」
シャルノまで?
なんだか吹っ切れて、いつもより明るいです。
「そうねえ。夕べの会議、まさかあんな流れになるなんて・・・フェルノウル教官ってホントに女の子に興味ないのね。潔癖過ぎ。父ちゃんもわたいもしばらく様子見・・・まさか「あっち」の特殊な趣味じゃないよね?・・・クラリス、めっちゃ大変だね。」
なぜか少し悔し気に話し続けるエミルは、やはりこの件では油断できないのです。
ですが「あっち」というのはよくわかりません。
どっちでしょう?
「父も、いろいろ考え直すようです。もともとわたくしの魔法兵志願にも異論があったようで・・・家でも話し合わないといけませんわ。」
初耳です。
ですが由緒ある伯爵家の令嬢が、たとえ三女とは言え男社会の軍に入るのは確かに難しそうです。
「ですが、教官が生徒を・・・わたくしたち学生を思いやるお方だと言うことははっきりとわかりましたわ。」
こちらは「信頼できる教官」という、間違った認識を持ってしまったシャルノです。
いえ、間違いと決めつけるわけではないのですが・・・それもあの複雑すぎる人の一面に過ぎないと言うことはわかってもらえないのです。
もっともわたしも、昨夜の件は、まだ消化しきれなくて。
「三者同盟」が守られているのだけは心強いのですが、昨夜は少し足並みが乱れていた気もしましたし。
特にエミル。
「だけど・・・あの時のジェフィの顔!きゃはははは・・・ザマミロって感じ。今まで裏でチマチマやってたことが、教官の一言で全部ひっくり返されたって、もう、めっちゃ笑っちゃうよ!」
そのエミルのお嬢様顔が台無しになるような口を大きく開けた笑い。
それでも嫌味にはならないのが持ち前の明るさのおかげ。
「そうですわね。教官殿にはさすがのジェフィも呆気に取られていましたわね・・・ふふふ。」
それに合わせ、珍しく声を上げて笑うシャルノ。
こちらはあくまで上品さを崩してはいませんけど。
でも、わたしたちはわかってます。
全部がきれいに決着したわけでは全然ないのです。
あくまで叔父様が嫌がって逃げただけ。
この後「大人たち」がちゃんと考えてくれればいいんですけど、ね。
「だいたいクラリス、あなたたち、二人で逃げちゃって、あの後どうしたの?何か進展あったの?」
「シンテン!?そんなのありません!叔父様にお説教してました!またあんな事件になって・・・もう!」
「お説教ですか?でも声も聞こえないのにですか?」
「昔から叔父様とは、こういう時は指文字でお話するんです。」
まぁ、あんな目に遇うことが一度ではないわたしたちですし。
「相手の掌に人差し指で、そう、こんな感じで。」
「へ~っ・・・あ、でもこれ、なんかめっちゃくすぐったいよ。」
「それにとても距離が近くて・・・ああ、それで?」
「それ?」
「うんうん。あの時もクラリス、そんな顔してた。」
「ええ。教官殿に手をひかれながら、怒ったように目は吊り上げていらっしゃったんですけどね・・・」
「口元がニマ~って、今もそんなだったよ!」
え?
思わず両手で口を隠します!
「あ!怪しい、まさか唇まで!」
「え?キスですか?もうそんな仲なんですか!」
「違います!そんなこと、まだしてません!」
「「まだ!?」」
二人とも、今日は随分カラんできます!
もう!
「あ、お逃げになりましたわ!」
「めっちゃ早いわぁ・・・でもこれはやはり怪しいでぇ~。」
・・・もっとも同じクラスですから、どうせすぐ一緒になるんですどね。
そして、午後はシャルノとデニー、エクスェイル教官の4人で対抗魔術戦の最終作戦会議。
ホントはクラスみんなやイスオルン主任にも参加して欲しいんですけど、みんなの作業と時間を考えると、わたし4人に一任してもらって密度の濃い会議にしました。
後は明日を待つだけです!
放課後はエミルとデニー、3人で企画運営委員会の最終チエック。
その後は少女歌劇団の練習。
そして、気がつけば外はもう、きれいな夕焼け。
そろそろ下校時間です。
「悪女帝陛下ぁ、明日の本場こそはお手柔らかにお願いします!」
歌劇の題名は「虹の閃撃!エスターセル七光衛団!!」に決定し、もう差し替えなし。
一安心です。
わたしが敵役というのは変りませんが、題名から「悪女帝」やらがないだけマシ。
ソニエラも随分明るくなりました。
ガクエンサイの打ち合わせが始まったころはこんなにハキハキ話す子じゃなかったのに。
わたしも人のことは言えませんけど。
あの、無造作にまとめていた赤い髪も、明日の本番を意識してか、きれいな黄色いリボンで結わえられています。
「じゃあ、みんな。今日も走るわよ!目指すは北の魔法鋼像よ!」
「え~、あんな役立たずまでぇ?」
「魔法街の中心部を突っ切るの?また変なノ見ちゃうよ!」
アリエラの提案に口では文句を言いながらも、全員走り出していきます。
すっかり仲がいいです。
「・・・レンは早く帰りたいの。」
わがままな子が一人。
でもわがままを言えるくらい自分を隠さなくてもよくなった、ということでしょう。
それに・・・とりあえず何もなさそう?
レンはニコってわたしに微笑みをかえして、そして夕日に向かって走っていきます。
ということは・・・
明日はやっとガクエンサイ!
ようやくここにたどり着きました!!
「クラリス?」
振り向くと、そこには不思議そうにわたしを見るリトです。
だけどそんなリトを捕まえて
「わたしたちも走っちゃいましょう!」
って。
リトは少し迷惑そう。
でもちゃんとついてきてくれました。
「やっと・・・やっと・・・やっと・・・やっと・・・やっと!!」
「変な掛け声?」
掛け声じゃありませんけど。
つい・・・。
だって、ここまでとっても長かったんですから!




