第13章 エスターセル女子魔法学園の平穏な日常 その1 復活の主任教授
第13章 エスターセル女子魔法学園の平穏な日常
その1 復活の主任教授
ホームルームの後のことです。
臨時に集会が設けられることになり、わたしたちは屋内演習場に駆け足で向かいます。
普段は「廊下を走るのは禁止」ですが、行動中は許可、いえ、むしろ推奨されます。
考えてみれば一昨日は、学園内にぎっしりいらっしゃった避難民の方々も、もう全員退去なさいました。
退去の際にみなさん、学園内をきれいにお掃除していかれました。
おかげで校内はもう通常の活動が可能になっています。
ちなみに退去されたのは北街区最大の野外演習場です・・・あの「火事騒ぎ」があった。
何でも大規模な避難所が設営されたとか。
王宮のありえないほど素早い対応に驚きです。
無人の廊下を走り抜け、演習場に到着。
わたしたちが整列するや、先日の「巨人災禍」よる犠牲者に黙とうが始まります。
わたしたちは皆さまの魂の安らぎと次なる転生を世界の秩序に願うのです。
続いてセレーシェル学園長から正式に「街の再建」の協力と、来週の「ガクエンサイ」についてお話がありました。
それでも、その最後のお言葉・・・
「今回の「巨人災禍」はまことに大きな被害を与えました・・・ですが、我がエスターセル女子魔法学園が、とくに生徒であるあなたたちがその被害を最小限に食い止めたとわたしは思っています。わたしは、わたしたちは、あなたたちを誇りに思います。」
こうおっしゃってくださったときには。
「ぐすん」
「学園長~」
わたしたちの中で感激して泣きじゃくる子が何人もいました。
わたしだって涙こそ流しはしませんが、感動したのです。
しかし・・・
「そして、この騒乱を受け、イスオルン主任教授が復職することになりました。」
この言葉で雰囲気が一変します。
「災禍」当日は「恩赦」で自由になった「もと主任」が学園に戻り、巨人相手に戦ったことは感謝できても、再び主任教授として復職すると言われて、まだ納得できない生徒が少なからずいるのです。
なにしろ日ごろの実習での心身両面の厳しさや女性を差別するような発言、なによりも「イスオルン動乱」と陰で呼ばれる事件の当の本人なのですから。
「めっちゃ納得いかない」
わたしの周りではエミルがこんな感じ。
実家の商売敵と組んでいたことが気に入らない・・・とは思いませんけど。
「復職なさるのはともかく・・・ではエクスェイル教官殿はどうなるんでしょうか?」
そっちの心配はシャルノ。
そう言えば「戦略」「戦術」関係の授業で主任の代用枠採用されたエクスェイル教官でした。
ガクエンサイの途中から、今朝も・・・お姿、お見掛けしませんね?
まさかもうおやめになったとか?
シャルノはあの美形の青年教官に好意をもっているので気になるのでしょう。
委員長のヒルデアは中立です。
首をかしげている様子はありましたが、表立っては何も言いません。
さすが、公私のけじめをつけているのです。
単なる様子見ではないのです・・・多分。
大きく分けると、ジーナたちの武闘派は歓迎、ソニエラやユイのような文化系は批判、そういったところでしょうか。
「クラリスは?」
「リト?・・・わたしは」
というわたしの言葉を遮って、自分の予測を得意げに話すメガネ。
どうも叔父様の復活での「推理」が的中したことで無駄に自信を深めたようです。
当たっても外れても迷惑なメガネです。
しかもその予測!?
「閣下は武闘派ですから、ジーナたちと同類でしょう。」
むか、です。
賛成反対以前に、わたしをあんな戦闘種族と一緒にしないで!
「デニー、何度も言いましたが、閣下と呼ぶのは禁止です。」
「そうだよ、デニー。それにクラリスはちゃんと文化を理解してるの。フェルノウル教官の文化的「クントウ」をたくさん受けてるの!」
そう跳ねる勢いで言うと、年齢身長に不相応な胸が揺れるリルです。
ですがその発言は否定したいのです。
叔父様の文化的薫陶・・・それは「中二病」という恐ろしい病のことなのです。
不当なことに、わたしにはその保菌者の嫌疑がかけられています。
それも当の感染源から疑われているという屈辱的な状態なんです!
「それじゃ、まるであたしたちが文化を理解していないみたいじゃない、リルのくせに。あたしだってフェルノウル教官がお話になる「文化」的な話題は大好きよ!」
聞きつけたアルユンが入ってきました。
まぁ、叔父様を敬愛しているこの子はわたしには敵対的ですが、リルとはなぜか仲がいいみたいです。
「じゃ、アルユンは主任の復帰に反対なの?」
「それとこれは別。エクスェイル教官のぬるい実習にはアキアキしていたのよ。ジーナなんかそのうちボイコットして街で暴れだすわ。はたまた若造教官相手に大立ち回りね。」
「・・・レンは毎日ついていくのが大変だったの。今の方がいいな。」
クラス最年少にして最小のレンです。
確かにあの実習は過酷だったでしょう。
こんなふうにクラス内でも、意見が分かれています。
ですが、学園長自ら決定したことですし、わたし自身はもうわだかまりはないのです・・・ホントですよ。
そんなくすぶった気配のまま、運動服に着替えて野外演習場に集合です。
そのまま市内の再建に向かうのですが・・・げ、です。
「遅いぞ!これだから女は!」
なんで主任が?
「ワグナス教官は学園祭の計画見直しで忙しい。なにしろ立案者がひきこもってるから彼に負担がくるんだ。ならば、学園祭には縁のないわたしが引率するべきだろう・・・不満か!」
「はい!いいえ。教官殿!」
おおいに不満を持ってる子も多数いるのですが、いかんせん教育の成果です。
わたしたちは表立って教官に「反対」とか「批判」とかできないように教育されているのですから。
これでも軍学校なのです。
しかし主任は不平は百も承知とばかりニヤリとお笑いになるのです。
もともと人の悪そうなお顔なのに、そんな顔をなされると・・・ただの悪人です。
あの丸い眼鏡はぜったい外すべきです。
「人の悪さ感」倍増アイテムです。
「で、お前ら、何しに来たんだ?・・・ヒルデア。」
「はい!教官殿・・・街の再建のお手伝いです。」
「非力で取柄もないお前らが、再建の手伝い?じゃあ、何か足りないんじゃないか?頭の中身が足りないのは今更どうしようもないが・・・」
ギリギリ。
あちこちで歯ぎしりの音がします。
以前ならばあの主任相手にアリエナイことなのですが。
これはいけません。
ですが
「そうなんですよね。これが炊き出しとか救護ならわかるんですけど。再建って言えば力仕事ですよね?」
ぼそっとつぶやくデニー・・・あ!?
「どうした・・・クラリス、何か?」
「はい、わたしたちは必要を認められた時以外、魔法杖の所持や郊外での術式の行使を制限されております。それにこれが「実習」の一環であれば「魔術教典」も必要か否か。その判断を授業前に問うべきでした。」
再びお笑いになるイスオルン教官。
しかしそのたびに周りの温度は乱高下してるような・・・。
「ではお前ならどう判断する?」
「はい!わたしたちは魔法兵です。女子であり膂力はありませんが、魔術を行使して街の再建に貢献できるなら、最も目的に適うと思います。」
「そうだ。今のままのお前らを連れて行っても再建の邪魔するばかりだ!そこまでわかったら、とっとと魔法杖と教典をとってこい!2分以内だ。遅れた者はウォーミングアップで演習場を10周!」
「ええ~っ!?」
一斉に上がる悲鳴。
しかし
「うるさい!20周にして欲しいのか!」
それを上回る怒声です。
それでは街の再建どころかわたしたちがボロボロになるだけなのです。
「みんな、行きますよ!「俊足!」」
先日アルユンが使ったのを見て、早速覚えたばかりの術式です!
まさか早々に役立つとは!ワンドなしの簡易詠唱ですが成功っと!そのまま走り出します。
「クラリス、あんた、あたしの術式をパクったわね!「俊足」!」
わたしにつられて追いかけるアルユン。
それを見たみんなも大慌てで走り出します。
おかげで2分を大幅に下回っての全員集合です。
みんな息を切らしてますけど。
「ところでクラリス・・・お前はグラウンド5周だ!」
そんな主任の叱責が?
「ええっ?なんでですか!?」
思わず素のまま答えてしまい・・・
「バカモン!答え方がなっとらん!1周追加。」
ぐ・・・
「・・・はい。教官殿・・・ですが理由をお聞かせください!」
・・・その時のイスオルン主任の笑顔。
その人の悪さは「人の世にあってはならない」レベルなのです。
「だれが術式の行使を許可した!実習中でも魔術の無断使用は懲罰モノだ・・・が、まぁしかし今回はこの程度で見逃してやる・・・感謝の言葉は?」
「・・・はい。寛大な処置、ありがとうございます・・・クラリス・フェルノウル、グラウンド6周に行ってまいります!!」
もうやけくそで走り出すわたしです!
この人はやっぱり鬼教官です!
きっとわたしがなんで術を使ったのかわかって、それでもこうやって・・・いえ、わたしが何かやると最初から見越していたのかも?
「教官殿!ですがクラリスはクラスのみんなを急がせるために敢えて・・・」
そんなシャルノの声が微かに聞こえます。
「そうだよ。それに「むだんしよう」ならアルユンもオンナジじゃない!」
「このチビ巨乳、なに言うのよ!」
「そう言えばそうね~アルユンも走れば~♡」
わたしをかばう声はありがたいのですが・・・かばってない声もありますけど・・・ここは確かにケジメが必要な場面でした。
主任が復帰された動揺から、わたしたちはまだ立ち直っていないまま学園外に作業にいくのです。
まだガレキが残っているし、きっと危険な作業もある。
そして、今の私たちを一目見て、主任は何らかの引き締めが必要と判断されたのでしょう・・・多分。
ただ人が悪いだけではないのです・・・おそらく。
走り終って、周りにあつまった友達に、わたしはそういうことを告げます。
リトなんか、さっき、わたしと一緒に走ろうとして、ヒルデアに止められました。
怒ってくれてうれしい反面、わたしたちは教官の復帰を冷静に受け止める必要がある、そのことをしっかりわかってもらわなくては、そう思ったのです。
「クラリス・・・復帰に賛成?」
「ええ。だって、あんな意地の悪いお方、他にいません。ならこの教官の下でわたしたちはきっと一層成長できるはずです。違いますか?」
わたしがそう言うと、みんな大笑いです。
そんな面白いこと言ったでしょうか?
「いや、確かにそうやな。」
「はい。人の悪さでは人後に落ちません。」
「女性にも手加減なしの厳しさですしね、閣下みたいに。」
「そう?んじゃ、クラリスが言うなら。」
「うん・・・レンも我慢する。」
何となくみんなで笑ってスッキリです。
主任は少し離れた場所からわたしたちを見ていました。
「・・・そろそろ行くぞ。」
「はい!教官殿!!」
こうしてわたしたちは、いろいろな思いを飲み込んで、ヘクストス市街の再建に向かうのです。
「ボソボソ・・・「石材修復!」」
ヒュンレイ教官の術式は精霊魔術の土系に特化しておられるようです。
見本として教官が唱えると、一瞬で家一軒がにょきにょきと復活したのです。
びっくり。
木材とかガラスとかは散らばったままですけど。
それは放置でいいんでしょうか?
「そこまでやると、ヒュンレイも魔力がすぐつきる。基本的に家一軒に術式一回。あとは自分たちでやってもらうさ。」
それでも家を直してもらい、住人の方々はヒュンレイ教官を取り囲んで大喜びなのですが、ヒト嫌いな教官は見るからに迷惑そうです。
この辺りは、ほとんど石材の家です。
幸い、死体はほとんど撤去されています。
学園周辺はもともと死者が少ないので、昨日でほぼ終わったとか。
それでも作業中に時々発見してしまいました。
いえ、探したのは「生存者」なんですけど。
途中で見つけては、運ぶのを手伝ったり、近くの男の人に知らせたり、そんな感じです。
それでも家財に埋もれていた人やガレキの中にいた生存者を見つけ、何人か救うことができました。
わたしたち2班は、レンの「精神結合」とデニーの「検知」を使い生存者の捜索を行っていました。
疲れたらわたしやリトの魔力をリルが「移し」ます。
おかげでかなり広い範囲を回りました。
シャルノたち1班も捜索組なのですが、デニーみたいに「検知」「探知」系を覚えている者はおらず、教典を見ながらの詠唱で、あまり能率的ではないようです。
ジーナ、アルユン、ファラファラたちがいる3班は、アルユンの「修復」にジーナの「強化」、ファラファラの「加力」を駆使し、家の修復を担当。
ヒルデアたちの4班も修復組ですが、その成果の差は歴然・・・。
ここまでが1校時、2校時の内容で、3校時は全員集合してレンの「精神結合」。
残った魔力を能率的に使いながら、探し、運び、修復していきます。
3校時が終わると、さすがに全員魔力不足。
デニーやアルユンは魔力欠乏の頭痛を訴えます。
加えて足を痛めた生徒が多数。
足場の悪い場所での長時間の行動ではヤムナシですけど。
そういえば、戦場実習で会ったペリオ、サムド、ヘライフ。あの3人からもらった塗薬、まだ使えたでしょうか?
「よし、早いが今日はここまで。4校時は休息とする。全員回復に努めるように・・・休憩室の利用を許可する。」
魔法兵の特質上、魔力の回復を早めるために心身を休める特殊教室なんです。
多用するとただのしゃべり場になってしまうので許可が必要です。
リラックスできるゆったり椅子やガラス張りで中庭が見える景色、空が見える天窓に適切な温度管理・・・とても居心地がいいのです。
回復率は自然回復の1.5倍とかで微妙なところですが、ま、高価な回復薬は緊急時だけですし。
疲れているので、あそこで休めるのは正直ホッとする気持ちです。
ですが、まだわたしたちの助けを必要とする人が・・・
「教官殿。しかし、まだ動ける生徒もいます!その者たちだけでも作業を!なんならわたしだけでも・・・」
そう申し出たわたしは、しかし主任ににらまれるのです。
「明日も明後日も、続く作業だ。今日で終わりではない・・・充分に回復することも必要だ。魔力だけではなく、体力も精神も、だ。」
そうぶっきらぼうに話されるイスオルン教官は、なぜだか普通に優しい人に感じるのは気のせいに決まっているのです。
「これ何?」
休憩室になぜか湯気が立っています。
もう11月の半ば過ぎで、外気は乾いて冷たかったのですが、今の部屋はいつに増して暖かでもあります。
見ると、部屋の奥、ガラス張りの壁の前には下水溝のようなものが設置されています。
湯気はその水・・・いえ、お湯から出ているようです。
湯気でガラスの下の方が曇っています。
「これは足湯なのです。」
メルの声がします。
振り向くと、いつものメイド服姿のメルが、にこやかにわたしたちに話しかけます。
「靴を脱いで、そこのクッションにお座りになってください。メルが足湯の説明と一緒に、皆様の足のサイズを測らせていただきます。」
「ええ~メルっち。足のサイズなんか測ってどうすんの?わたい、めっちゃ気にしてるんだけど。」
「エミル。教官助手に失礼ですよ。ですがメル助手。できれば理由を教えていただきたいのです。女性同士とは言え、足の大きさとは少々・・・」
人に素足を見せることに抵抗があるわたしたちです。
靴を脱ぐのは、部屋のベッドの上だけ、そういう者も多いのです・・・わたしもそれに近いのです。
「はい。まずここは足湯と言って・・・」
その後、メルの説明が続きます。「足の裏にはツボ・・・神経の結節点が集中している」とか「全身の臓器や器官の反射区がある」とか「血液の流れを考えれば第2の心臓ともいえる」とか「文化的に温泉がないから全身浴は諦めた」とか?
次いで
「このお湯は、ご主人様が調整した薬を調合しています。そして適度な温度を保って循環しています。そこに足を浸すことで血流が促進されて疲労回復、関節や筋肉の可動域拡大、何より神経をリラックスさせ魔力の回復にも役立つ・・・なのです。」
とりあえず、休憩室に疲労回復の施設が増設されたのはわかりましたし、ありがたいことなのです。
しかし
「メル。なぜ足のサイズを測る必要があるのですか?」
そう問い詰めると
「はい・・・詳しくは存じませんが、ご主人様が軍靴のことを調べたいとか。これは学園長と主任教授の許可をいただいております。ですからご協力をお願いするのです。」
ペコリと頭を下げるメル。
犬耳がピョンと出て、一部のメルファンが「かわいい」とか言ってます・・・フン、中身も知らずに。
でも軍靴ですか。
わたしたちの靴は、入学時に購入したもので、確かに軍靴の一種です。
軍靴ですから耐久性防水性に不満はないのですが・・・。
それでもヒルデアもシャルノも、理解し納得したようなので、みんな「きゃあきゃあ」「くすぐったい」「ギブ、ギブ~」「メル助手・・・そこは武士の情けで・・・」とか騒ぎながらも採寸されていました。
メルは採寸がてらマッサージもしてるようです。
確かにくすぐったいし恥ずかしいしかも時々とっても痛い・・・しかしメルに弱みを見せるわけにはいかず、わたしは意地でも冷静さを貫くのです。
それで一通り終わり・・・騒いだせいもあってか、確かにリラックスして、全身が温まっています。
デニーも「頭痛が収まりました」と言ってます。
効果大のようです。
「ちなみに、明日はアドテクノ商会で、みなさんの全身を採寸するのです。」
「ええ~!」
ナンデモ制服にイロイロ改良の余地がありそうとか?
「まさか・・・フェルノウル教官はわたしたちの体のサイズを、なにかいかがわしいことに・・・」
むか、です。
誰ですか、そんなおバカなことを言うのは!?
「失礼な!叔父様はリアルな女性に興味をお持ちになりません。そんな心配は不要です!」
「そうなのです!メルのご主人様に限って、女性に興味を示すことだけはないのです!」
ついメルと一緒に力説してしまいました。
わたしたちは叔父様がいかに女性に興味がないかを今までの事例を基に一つ一つ話して言ったのですが・・・
「クラリス、止めて・・・」
「レンはそんな話聞きたくないの!」
「教官が・・・そんな・・・」
何やら深刻なトラウマを抱えた者が数名。
そのほかの生徒も
「分かりました!疑ったわたしたちが愚かでした。ですからそんな悲しい話はやめてください。」
「クラリス・・・メル助手・・・あんたたち、報われないわぁ!」
何やらかわいそうな生き物を見る目でわたしたちを見る者が多数・・・みんな、どうしたんでしょうか?
珍しくメルと目を合わせて首をかしげたほどです。
そこに「拡声」連絡の声・・・なんでしょう?
「生徒たちに告げる・・・とっとと出て来い。昼食後の5校時は「戦術」の実習だ。その課題を事前に配布する・・・昼休みのうちに質問に答えて空欄を埋めるように・・・配布は4校時終了前に主任教官室だ。遅れた者は・・・分かってるな?ふっ。」
主任からの連絡です・・・が!
「4校時終了?」
まず互いの顔を見合わせ、次いで体内にある魔術時計を確認します。
魔術時計は冷静に、正確に時間を教えてくれました。
「「「「「あと1っ分!!!」」」」」
わたしたちは、もうお湯で濡れた足もふかず、ひどい子は靴下も履かずに走り出します。
わたしだって「俊足!」です!
アルユンと競い合って先頭争いです。
もう、あの教官の下では、わたしたちの学園生活に油断とか怠惰とかはありえないのです!
ですが、そうです。
叔父様もきっとおっしゃられるでしょう。
「どっちがキミの目指す道に近いんだい」って。
そんなの決まっているんです!
そして・・・!
アルユンを振り切り、一番です!
「・・・ぜえ・・・ぜえ・・・クラリス・フェルノウル入ります!」
意気込んで入った主任教官室。
そこで微笑むイスオルン教官殿・・・。
「クラリス・・・廊下を走るなという規則を忘れたか?バツとして・・・」
って、その笑顔の邪悪なこと!
これって、やっぱり、あんまりじゃないでしょうか?
わたしは、「この鬼教官!」という言葉を飲み込み、入学以来初めての反省文を書き始めるのです。




