第12章 その8 逆襲のゴラオン!(またはハロウィンの逆襲!?)
その8 逆襲のゴラオン!(またはハロウィンの逆襲!?)
「さてと。」
「そうですね。」
それだけ残して、イスオルンもと主任とワグナス主任代行も飛び立っていきます。
お二人とも、もともと「飛行」をいやがっていたのに、すっかり・・・。
なんだかお気の毒です。
「ゴラオンも無事出たし。じゃ、あたしは総指揮に入るわ。今まであなた方にまでいろいろさせてごめんなさいね。」
そう聞いてわたしはひらめいたのです。
「学園長!偵察の許可を。前線の様子を知る必要があります。それによってはやはり市民の避難も考えなくてはいけませんし。」
「あら、フェルノウル教官を信じていないの?・・・というより・・・フフ。近くで応援したいのね、そんな顔して。」
思わず顔を隠します。
そんな顔って、どんな顔でしょう?
「行ってらっしゃい。でも単独はアウト。少人数の・・・あの子たちならいいんじゃない?」
「・・・クラリス・・・アントは?」
今は目が赤いレンです。
もともと瞳は青味がかった緑なんですけど、ミライと感応しているとその度合いでどんどん蒼くなっていって・・・でも、今は泣き止んだばかりで、瞳はともかく、その周りは真っ赤。
鼻の頭も赤いです。
「・・・あなたの方がこの現象には詳しいのでしょうけど・・・ですが、叔父様の中に・・・叔父様の心臓はアントみたいです。まるでアントの感情が上書きされたような・・・。ですから、手をつないであげたりすると、きっと喜びますよ。」
レンは、複雑な、泣き笑いの表情を浮かべ、目を伏せます。
「・・・恥ずかしいの。」
レンが叔父様と親しく話したことは多くはありません。
それを言えばデニーだってさっきの「絵本」がらみの件が初めてでは?
遠巻きで、信頼できるけどもとても変わった教官という気分だったのでしょう。
「急ぎますわよ、二人とも。」
「そうよ、肝心な場面見逃しちゃうわ。」
シャルノにエミル。
同行はありがたいのですが、ふっとジェフィの暗躍が浮かびます。
「展嫁三分の計とは・・・」
「か、関係ありませんわ!」
「そうや、うちの目で直接見定めよう思うちょるだけや!」
・・・まだ許婚者気分が残っているようです。
三者同盟の危機かも。
「ずいぶん経つ。心配。」
リト。
ちょっと叔父様にも似てるかも。
でも同じ黒い瞳でも叔父様の瞳は見ていると吸い込まれそうな夜空の色。
この子の瞳はまるで輝く黒曜石。
どちらも透明感はあるんですけど。
「確かに心配ですね。教官殿、ちゃんとメガネかけてるでしょうか?」
心配するところがそこですか?
そこなんですか!?
このバカメガネ。
「ええ?教官よりメガネが心配なんだ?デニー相変わらず。」
リル、もっと言ってあげて!
「それは違います。同じメガネ仲間として、その真の力を発揮するのは、メガネを着用した時だと知っているからこその心配なんです!」
「・・・あたい、ついていけない。デニー、絶対それ変だって。」
「・・・マニアだから。」
「おたく」と「マニア」。
その境界線は叔父様にお任せすることにして
「もうすぐ城壁に昇る階段です。急ぎます!」
たどり着いた城壁の上。
そこで薄暗闇の中で繰り広げられる景色。
それは・・・空飛ぶゴラオンと巨人たちの戦いでした。
ですが地上には傷つき横たわった巨人がいて、兵隊さんたちが、魔法や弩弓、時には騎馬突撃でとどめをさしています。
すでに数体の巨人を葬ったようですが、ここからでは見えない味方の死体もたくさんあるのでしょう。
「遠視」を使ったデニーが青い顔をしています。
「ちいぃぃぃっ!「火球」!」
ゴラオンが、その袖口から三本の丸い棒を取り出します。
するとそれは広がって四角くなり空間に古代文字を現出させるのです。
そして同時に3つの魔法円が浮かびます。
「スクロールですね。袖口に収納したスクロールで魔法攻撃を行う、そういうことのようです・・・さすがですわ。」
「ああ・・・操縦しながら魔法を使えんかったあん時の欠点、もう改良してたんや。」
三つの火球が大きな人型に・・・・大型種の顔面を襲い、爆発します!
頭部を失い倒れる大型巨人です。
足元にいた、味方の兵隊さんがあわてて散開してます。
ですが、別な一体が振り回した拳が、攻撃直後の、止まっていたゴラオンを襲います。
「あっ!」
危ない、とすら言えず、思わず目をつぶってしまいます。
わたしも士道不覚悟です。
でも!
「クラリス、大丈夫。障壁。」
「ちゃんと魔術的な装甲・・・「防御」で守っとったんかいな。」
「いえ・・・もっと強力ですけど局所的な、シールド系かもしれません。」
そんな仲間の声で、ようやく目を開くと、ゴラオンは殴られた衝撃で飛ばされましたものの、健在です。
しかも背中の棒・・・何か先から液体が滴っているような?・・・を抜き、一度高度を上げます。
そして、今度は急降下して、その巨人の頭頂部に突撃したのです。
棒の穂先は、最初は広がって見えたのですが、今は鋭い切っ先に変わっています。
「あたい、絵筆に見えたけど槍なの?」
「絵筆はないでしょうけど。でも形が変わりましたわ。」
「あの飛び散った水はなんやろ?」
どぐわあああっつ。
ゴラオンの槍の切っ先は深々と巨人の頭頂を貫通します。
しかし、まだ暴れる巨人。
なんか「でじゃぶって」ます。
左で槍を突きさしたまま、右手で再びスクロールを出す動作をするゴラオンです。
振り回されながらも、その眼前には展開される古代魔法文字が浮かびます。
「雷撃!」
魔法円から出現した雷が槍を伝わって・・・あれは!
「・・・必殺!」
「「「「「サンダーブレイク!!」」」」
思わず叔父様にあわせて叫ぶわたしたちです。
響きと共に崩れ落ちる敵から、槍を抜き、再び飛び立つゴラオン。
「本当にさっきの少年はフェルノウル教官殿だったんですね・・・。」
「ああ・・・随分ちごうとると思うとったけど。根っこの部分は同じなんやな。」
「え?今なんて?」
一人事情を聞いていないリトは、もう目をパチパチ。
驚きの顔です。
困った顔でわたしを見るリトです。
「ゴメンなさい!説明は後でデニーがするから!」
「閣下ぁ、それは無責任では?」
「じゃ、エミル。最初にわたしの従兄なんて言ったのはエミルだし!」
「うちか!」
そんな地上の混乱をさておいて。
「ご主人様ぁ。それ、本当はメルとの合体技なのです。お一人でなされるとは、メルは寂しいのですが、やはり本物のご主人様はすごいのですぅ!」
なんだか、甘ったるい声が周辺に広がります。
・・・時と場をわきまえずに、年中発情している犬耳メイドの声です。
「うへっ。それはごめんね。でもメルの魔力供給があってのゴラオンさ。こいつで何をやったって、僕とメルとの共同作業に変りはないよ。」
「きゃあああ。メルは感激です!もう愛するご主人様のためなら、どんなことだって厭いません。メルの心も体もご自由になさってください!」
ピンク色の声が、それはそれは大きく響いて、城壁の守備兵さんや、地上の兵隊さんのやる気がとっても削がれているのがわかります。
戦いにおいて士気は、その戦力の三分の一を占めるとも言われますが、我が軍に与えたそのダメージは甚大。
なんかもう、みんな帰りたそうです。
「せめて「拡声」をきって欲しいのです。あれでは無意味・・・いえ、むしろ有害です!」
そんなやりとり、せめて二人の時にやっててください。
それはそれで、むか、ですけど。
しかし、叔父様。
妙に口がうまくなったというか、自分の言葉が相手に、特に女の子にどんな影響を与えるか全く無自覚な様子は、あの子を思い出します。
ふとレンと目が合ってしまい、同時にため息を漏らすのです。
やはりあの二人は同じなのです、良くも悪くも。
「さてと・・・残った敵はいよいよ大物。しっかしほんとに大きいなぁ。」
分類上、特大種の巨人は、身長40m以上・・・ですが目の前の巨人は、それを大きく上回っているでしょう。
「身長57mってとこかな。こいつの10倍近い・・・じゃ、手堅くいきますか。」
ゴラオンは一度大きく距離をとります。
それを追いかけ始める巨人、歩くたびに地面が陥没し、大きく揺れます。
あれでは早く歩けない。
兵隊さんもろくに逃げられませんけど。
「おっと、忘れてた。」
ゴラオンは突然その小さな頭部に何かをかぶります。
追加装甲?
それとも魔力増幅器かなにかでしょうか?
一種の禍々しさと、こっけいさを感じさせる楕円形でオレンジ色の・・・。
目や口の部分には大きな穴が開いていて・・・。
「クラリス、何?」
「わたしもわかりませんけど。」
叔父様のことは、わたしだってわからない、予想できないことが多いのです。
そして、この後、まさに予想もできないことが起こるのです!
「どうだ!ゴラオン零式改ハロウィンバージョンだ!なんたって、今日は10月最後の日!こんなレアモンスターがやってくるのも、そういうことさ!」
ええっと・・・?
みんなの頭上にきっと不可視な「はてな」が浮かんだのです。
空中のゴラオンに近づく特大巨人。
それに余裕で正対するゴラオン。
「フッ。ジャック・オー・ランタンの力を借りて、お前にいたずらしてやるぜ!って要は魔術でやられるか、それが嫌ならなんかくれるか!どっちか選ぶがいい!トリック オア トリート!?」
何やら勝ち誇っているさまの叔父様の声が響きます。
しかし、そこにすごく言い辛そうなメルの声。
あの子が叔父様相手に困るのは珍しいのです。
「・・・あのぅ、ご主人様。ご主人様の誤りを指摘するのは、メルにとって、とっても心ぐるしいのですが・・・今日は11月15日なのです。10月31日ではございません。」
「はぁ?」
叔父様の、その間の抜けたお声が辺りに響く様子は、痛々しいほどです。
「ですから、ご主人様は、南方でミレイルトロウルを倒し、その後、女王トロウルの呪詛とご自身の心労のため、しばらく精神的にひきこもっていらっしゃったのです。実はあれからもう2週間以上たって・・・。」
「・・・マジ?」
「はい。そして今日はエスターセル女子魔法学園の学園祭当日なのです。」
「・・・それって、思いっきりハズイ!いや、イタすぎ!「ハロウィンの日」だってこんなに張り切ったのに、ハロウィンならこっちに広まるかなって考えてたのに・・・僕の黒歴史がまた一つ増えちゃったじゃないか!?」
ゴラオンのせまい操縦席でジタバタしている叔父様の様子が目に浮かびます。
「世間に興味をお持ちにならず・・・」
「日付とか確認しないんは・・・」
「今も昔も」
「大人になっても」
「変わらないの。」。
「叔父様のバカ。」
まだわかっていないリトを除いたわたしたちは、一斉にため息をつくのです。
ですが、そんな羞恥心があったんですか、叔父様?
意外です。
手遅れですけど・・・。