第12章 その4 出陣!エスターセル女子魔法学園!
その4 出陣!エスターセル女子魔法学園!
「よかったですね。エミル。シャルノ。」
「いやあ、わたいは別に心配してなかったけどね。」
「わたくしもですわ。名にし負うテラシルシーフェレッソ伯爵ともあろうお方がこんなところで命を失うとは思っていませんでしたし。ですが、ありがとうございます。ちゃんと無事を確認出来て安心いたしました。」
「でも、王女殿下は大公殿下と会って、めっちゃゲンなりしてたよ。おかしかったなぁ。」
「エミル、それは少し不敬ですわよ・・・気持ちはわかりますけど。」
そのお三方は、既に学園から出立し、それぞれの役割を果たしに向かわれました。
エミルのお父さんはアドテクノ商会の会長、シャルノのお父さんは有力な貴族。
ここで助けを待つより、ヘクストスを守るために動き出しているのです。
王弟殿下も同行されたとの事。
護衛は充分との事ですし。
でも二人ともちゃんとお父さんとお話ができたようで、さっきまでとは表情が違います。
「それで・・・メル。あなたが「浮揚」で偵察するのはわかりますし、ありがたいのですけれど・・・」
「飛行」は上級魔術。
この学園でも使えるのはワグナス教授とイスオルンもと主任だけ。
「はい。メルの術式はご主人様直伝。中級でも自在に飛行できる素晴らしい魔術なのです!」
「すごいなぁ、メルちゃんは!でもキミのご主人様って、ホントに変な人なんだね。」
「だから、なんでアントが一緒に飛んでいくんですか!」
しかもそんなに抱き合う形で!
「だって・・・ニセモノでもご主人様がいないと、メルは不安なのです。」
この子は「鉄の心臓」のくせに!・・・でも確かにメルの精神は叔父様がいないと途端に不安定になるのはわかってはいますけど。
いるんですけど!
もう。
自分に「平穏」でも使えばいいのに・・・。
何やら理不尽な苦情を言いそうで、ガマンしてるわたしです。
「僕もなんかやってないと落ち着かなくてね・・・キミの手助けになるんなら。」
腕一本のくせに。
空なんて飛んでいいのかしら?
落ちたらどうするんでしょう?
「メルちゃんを励ますくらいしかできないし、それでも足手まといにはならないさ。」
なんだかんだいって、この二人が小型巨人を瞬殺したとは聞きましたし。
アントも見かけよりは頼りになるし・・・まだ何か隠してる「力」とかあるかもしれません。
結局二人はべったり抱き合って空を飛んでいきます。
ちぇ、です。
いえ、舌打ちはしませんけれど。
アントはわたしに手を振ろうとして、その右腕がないことを思い出し、憮然としています・・・けが人の自覚すらないのですか、あの人は。
・・・でも異民局で「四肢再生」を使ってもらったはずなのに・・・どうして右腕が再生しないんでしょう?
「あなたもこれ飲んでおいて!」
「いいんですか?こんな高価なもの!」
わたしの使いどころの乏しい鑑定眼では、一本で銀貨4枚はします!
「どうせ今日の大会の景品ですよ。気にしないで。」
スフロユル教官が魔力回復薬を配ってくれます。
ちゃんと隣にはミラス助教授。
ホントに付き合ってるんでしょうか、お二人。
ミラス教官が今、目をそらしました。
ホントのようです。
まったくどこもかしこも。
薬は苦いし、なんだかおもしろくないのです。
またわたしの女子力が大きく凋落していることが原因なのでしょうか。
「クラリス、不機嫌?」
リトがわたしを見上げています。
別に不機嫌では・・・そう言いかけて、つい比べてしまうのです。
「リト・・・あのさっきの男の子・・・実は・・・」
「エミルから聞いた。クラリスのイトコだって。」
なるほど。
ナイス、エミル。
無難な言い訳です。
「だけど・・・弟にそっくり。少し大きくした感じ。」
・・・・・・・・・・・・。
「前に話した。弟がいる。」
不審そうなリトの視線にようやく答えます。
「・・・ええ。覚えていますよ。13歳くらいの、少し病気がちって・・・」
わたしや王女殿下はリトに似てるって思っていて、でも本人は弟さんに似てるって・・・。
要約すれば、アントはリトの一族に似てる。
これはどういうことなのでしょう。
戦場実習から帰っていくつか知ったこと。
その一つに邪竜や邪巨人の襲来について調べることがありました。
アントにとって産まれてすぐにあった襲撃とは、今から34年ほど前の邪黒竜の襲撃のことでしょう。
ひょっとして、リトの親類の中に・・・。
「ねえ、リト。叔父様って、リトのお父様に似ていないの?」
「フェルノウル教官が?・・・言われてみればちょっと似てるかも。でも父はもっとがっしりして、筋肉質。騎士だから。」
不思議そうに答えるリトです。
ここで叔父様の話題は不自然だったかも。
「戦隊長閣下にリト副長!そろそろですよ!」
「了解です。デニー・・・。」
いいタイミング。
ありがとう。
気を利かせてくれて。
途中からは視線でお礼です。
「どういたしまして。本番が近いんです。集中しましょう。」
「集中だよぉ、おお~っ!」
冷静なデニーと元気なリルのおかげで、わたしもリトも気合が入ります。
そして
「・・・大丈夫。たぶんできる。みんなもその気だから。アントについてはミライも手伝ってくれるって。」
レン。
その青い目は自信に満ちています。
内気過ぎたこの子も随分変わりました。
「では、作戦の最終確認です。」
ここにいるのは学生たち・・・。
内訳はエスターセル女子魔法学園20名。
ヘクストス魔法女子学院30名にパントネー魔法女子学園30名。
ルーラさんはじめ冒険者さんは、少人数一組で警戒・伝令役。
ここにはいません。もう配置についています。
「教官の方々も、既に行動しておられます。」
各校の引率の方にも手伝ってもらっています。
「作戦開始は1530。ワグナス、イスオルンお二人の上級魔術師と、メル助手とその護衛、この3組が騎馬衛兵隊と連携して、市民の捜索と誘導、そして敵の発見・誘導を行っています。飛行術式を長時間行使するため、基本的には交戦はしません。」
その戦闘力は惜しいのですが・・・仕方ないのです。
捜索エリアも東西南北で大きく分けています。
北がもと主任、東が教授、西がメルとアント、南がクレイドル騎馬衛兵隊。
「他の中級魔術師の教官方が、伏兵。地上での迎撃を行います。大きな道路を中心に縦深陣地で布陣します。ですが、これもあくまで市民の援護が優先です。ムリに自分の担当でとどめを刺そうとしないよう指示してもらっています。わたしたち魔術師は、基本的にそんなに長時間は戦闘できませんし。」
そう。
全力戦闘時間の短さが、わたしたち魔術師の欠点。
何体の敵が来るかわからないのですから、一人一人の役割をしっかり決めること。
イスオルン主任の助言は助かりました。
「都市埋伏陣」という、この待ち伏せの布陣もわたしの提案を基に主任が考えてくださいました。
本当にこの方がいらっしゃらなければどれだけ苦労したでしょうか?
「敵はその巨体から、発見が容易で、かつ移動経路が予測しやすいという欠点があります。」
わざわざ家を壊しながら前進するような面倒なことは巨人だってしないのです。
「そこで、学園に向かう道路の内、既に重力魔法「軽量化」でガレキを移動させて、ここと、ここは、人族は通れても、巨人は手間がかかるように細工しています。講師・助手レベルの教官方と若い市民の皆さんに協力をいただき、もうすぐ終わるはずです。そして、何カ所か、罠もしかけました。時間がないので、大きなバナナの皮くらいですけど。」
あちこちでクスクスって声。
昔、叔父様から出された「巨人は巨大羊の夢を見るか?」っていう課題から引用した、わたしのへたくそな冗談ですが、それなりにウケたようです。
「ですから、敵は順番に、ここか、ここ・・・。はい、南西に走る道路か西から来るこの道路、ここを移動し・・・最後は学園前の北西の・・・この直通の通路でやってきます。」
デニーが演習場の地面に描いてくれた特大の地図は、わたしたちに周辺の様子を簡単に想像させてくれます。
「そして・・・ここからがわたしたちの出番です!では、みなさん、配置に・・・」
「待ってください!フェルノウル。」
王女殿下は不満げです。
「なぜあなた方が遊撃で、わたしたちが学園の待ち伏せエリアでの攻撃なのですか!?三校で交代で戦えば、魔力消費は抑えられる。まさかわが身を気遣っているのか!」
「わざわざ自分から言い出さんでも。ほんに面倒なお人です・・・。」
レリューシア王女殿下を気遣わないわけでもないし、ジェフィに面倒を押し付けたくない訳でもないのです。ですが・・・。
「言ったはずです。それは・・・わたしたちエスターセル女子魔法学園が一番ふさわしいからです!そうですね、みんな!」
既にわずか5人で中型巨人を数体葬ってみせたわたしたち2班。
その自信が言わせ、そして認めさせたのです。
そしてわたしの声に続く
「はいっ!戦隊長っ!!」
というみんなの、今までで一番大きな声が!
それが決め手です。
その声は他校に対して、圧倒的な士気の高さと団結力を見せつけたのです。
わたしたちを見つめる王女殿下、ジェフィ、他校のみんなの目。
その目が驚きで見開かれます。
これで、もう異論を言う者は誰もいなくなりました。
この場の80名が自分の役割に徹する、その覚悟ができたのです。
「魔術大会、今日でのうなってええのかもしれまへん。こん次の機会を待ちます。」
でも、そんなささやき声が・・・あの腹黒は、ちょっと信用できないんですけど。
「コホン・・・ですが、わたしたちの魔力も無限ではありません。このエリアでの魔術攻撃が必要です。それは皆さんにお願いします。また、市民のみなさんの側にいて、安心させてくださる方々も必要なのです。ですからこれも必要な役割分担なんです。」
パン魔女は校門付近から、遠距離で攻撃・支援。
このエリアに来るまで各地で攻撃を受け弱った敵にとどめを刺す、そんな役割。
学園に残る教官方も同じ役割です。
パン魔女が消耗したら、ヘク女魔と交代します。
待機している一校は、市民の皆さんのそばで、状況を説明したり、声をかけたり・・・決してそれも楽じゃないはず。
とにかく、できることはなんでもやる。
でもあくまで冷静に、分担して、みんなで。
それが、今のわたしたちの全力!
「みんな。さっきの声、とてもうれしかったです。今回はとびきり大きい声でしたけど、あれって練習してないですよね?」
ゆっくり前進。
各班を中心にした、横隊。
でも合図一つで散開可能。
「なんとなくですわ、声が・・・」
「自然に出たんや。」
「ん。」
歩きながら、作戦の開始に近づきながら、それでもこんなに落ち着いて話していられます。
まるで、いつものわたしたちの会話みたいです。
最近の、シャルノも入った4人組。
「戦隊長閣下、私たちをなめすぎです。」
「そうだよ。2班は当然だけど、あたいら、クラスはもう戦友だよ!」
「・・・うん。クラリス。みんなを信じて。」
最初は全然なかったわたしたち2班の信頼関係も、今ではこんなに太くて強い。
「クラリス~巨人が近づいてきたら、俺たち突撃してもいいだろ、なぁ?」
「だから、わたしを巻き込まないで。クラリス、あなたがはっきり言わないとこの脳筋わかんないって。リーダーぶるならもっとしっかりやって!」
「ファラはいかないよ~ジーナの楽しみをとったりしないからね~♡」
ホントに個性的な人たち。
これでもわたしに協力しているから不思議です。
「戦隊長!指揮権は委譲しているが、散開した時の各班の判断は・・・」
「・・・・・・。」
バランス感覚にすぐれたヒルデアは、細かいところに目が行き過ぎるのかも。
活発なシャルノと大人しいけど実務的なユイがいて、クラス委員もバランスとれてたんでしょう。
他のみんな。
話下手で社交的でもないわたしは、まだゆっくり話したことがないクラスメイトもたくさんいて、でも、今はわたしに手を振ったり、微笑みかけたりしてくれて・・・そして生死をともにする覚悟は、誰一人欠けることなく持っている。
自慢の仲間。
わたしの誇り。
「みんな。今日は、終わったらみんなで大騒ぎしましょう!」
「それは名案!」
「わたし賛成っ!」
「異議なし~!」
そんなめいめい勝手な同意も、それぞれ不思議と息が合ってるみたいです。
そんな話をしながらの一歩一歩。
それもついには終わり、作戦開始の定位置。
学園に直通する通路の交差点の手前にたどり着きます。
そして・・・そこから見えるのは。
あちこちから上がる火の手。
混乱している人の群れ。
大きな人が歩き、暴れ、壊す姿。
壊されているわたしたちの街。
ギリッ。
わたしは思わず歯をかみしめます。
そして、時間です。
体内の魔術時計は、1530.
キ~ン!コ~ン!カラ~ン!・・・・キ~ン!コ~ン!カラ~ン!・・・
今、鐘がなりました。
わたしたちの学園の鐘。
「拡声」のせいでいつもよりずっと大きな音で。
これから、作戦が終わるまではずっとなりっぱなしです。
学園がある限り。
始まったのです。
作戦が。
学園を、街を、人を守る戦いが。
だから、みんなを見据え、学生杖を掲げて叫ぶのです。
「我ら、エスターセル女子魔法学園・・・出陣します!」
「はいっ!!戦隊長っ!・・・えい、えい、おおおうっ!!」
19本の学生杖がわたしに続き、高くきれいに掲げられるのです。
空に掲げられたワンドは、宙でクルクル回って、光に反射してキラキラ光る。
とてもそろって、とてもきれいな動き。
こんなの訓練でもやったことないのに。
みんな、決まり過ぎです!




