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第11章 その18 三者同盟

その18 三者同盟


「クラリス~やめて~それはダメ~」

 

 ・・・?


 遠くでレンの声がしますね?


「どうしました?」


 まぶたを強引に開きますが、つい手でこすってしまいます。


 眠いのです。


「どうしましたじゃないよ~クラリス、なんかうなされてたから、側にいてあげたのに・・・ひどいよ~」


 わたしのベッドから大慌てで逃げ出すレンです。


 夜にわたしを案じて、一緒に寝てくれたようです。


 甘えたがりのレンの言い訳のような気もしますけど・・・。


 それでも昨日の一件・・・いえ、王女殿下に展嫁三分の計、アントとの遭遇で三件ですね・・・でかなり参っていたわたしにとって、ありがたいのです。


 それなのになんで今さら逃げるんでしょう?


「だから、捧げていいのは心臓まで!唇はあげられないの!」


「ですから、唇も心臓も、そんなもの、要りません!」


 レンまでデニーの真似して、もう。


「・・・また寝ぼけて・・・今のは危なかったんだから。」


「まさか心臓が?」


 わたしがかみつきでもしたのでしょうか?ドキドキです。


「・・・唇よ!クラリス、寝ぼけてるとこわいんだから!もう。」


 互いにそんなことを言い合いながら、着替えます。


 こんな言い合いも明日まで。明後日にはリトたち「たこ焼き隊」が帰ってくる予定です。


 だからレンと一緒に寝るのも今夜限りなのです。




「レンも随分言い返すようになりましたね。」


「・・・前よりは、クラリスのことわかったから・・・良くも悪くもだけど。でも、仲良くなったって思ってるの。」


「わたしもです。」


 学生食堂で朝食を一緒に食べます。


 今日はミルクで煮た麦がゆです。


 その上に乗せるものはご自由に、ということで、ハム、チーズ、貝、茹で卵のスライス、薬味、ドライフルーツなんてものまであって、けっこう個人の好みで違う味付けになります。


 わたしは、貝と茹で卵を数個に薬味ですが、レンはドライフルーツたっぷりで、それは普通にスイーツですって感じ。


「閣下、レン、おはようございます。」


「おはよう~」


 デニーとリルが同席しにやってきました。


「二人とも、意外に元気ですね。」


「・・・うん。昨夜の秘密会議と特訓で寝不足かって思ってたの。特にデニーは・・・」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!実は寝てません!完徹です!」


 食事中にわざわざ立ち上がって右手を振りかざす動作・・・典型的なナチュラルハイ、という症状の様です。

 

 目が赤いかどうかはメガネが邪魔してわかりませんけど。


 ちなみに麦がゆの上は薬味ばっかり!


 だからやせてるんです、この子は。


「リルは平気。あたいはいつでもどこでもぐっすり眠れるよ。」

 

 それは軍生活では便利な適性でしょう。


 リルの麦がゆは、全ての具が山盛りですごいボリュームです・・・睡眠と食事、これがこの胸を育てたのでしょうか?


「ところで閣下、作戦立案終了しました!こちらになります。ご検討お願いします!」


「デニー、一晩中うんうん、うなって・・・あたいはすぐ寝ちゃったけど。」


 確かにデニーには魔術対抗戦の基本戦術を考えておいて、と頼んでいましたけど


「まさか、一晩で!呆れたわ、デニー・・・でも、ありがとう。あなたのおかげで、早速今日から動けます。」


 わたしはデニーから一枚の羊皮紙を受け取りました。


 そして、あわただしく麦がゆを平らげて、目を通すのです。


 叔父様の麦がゆが食べたいなって、そう思いながら。


 



 そして、緊張感あり過ぎる午前の授業を終え、わたしとエミル、シャルノは、いつもの東屋にいます。


 昼食は三人とも食欲なし。


 小食のレンやデニーにちゃんと食べさせるために、わたし自ら朝食をムリヤリ詰め込んでおいて正解でした。


 二人とも、今日はずっと暗い表情でした。


 特にどんな授業でも積極的なシャルノが全く挙手・質問せず、何かあれば明るく笑うエミルが不機嫌なまま・・・「たこ焼き隊」も明日まで不在で、クラスはまるで「お葬式」だったのです。

 

 そんな二人に、わたしは駆け引きなしで用件を告げることにしました。


「エミル、シャルノ・・・休戦協定です。」


「休戦やて?」


「わたくしたち三人の、ですか?」


 意外そうな表情を浮かべるシャルノです。エミルに至っては、またあの話し方になってます。


 顔に似合わないのに。

 

 なにしろジェフィの展嫁三分の計を聞かされてから、わたしとエミル、シャルノは極めて気まずい雰囲気になってしまい、そのまま昨夕、別れたのです。


 そんな二人に、昨夜、キッシュリア商会の手の者に襲われた件を話しました。


 さすがの情報通のシャルノでも知らなかったのか、驚いています。

 

 エミルも驚いていますが、同時に微かに笑っていました。


 落ちぶれたライバルが再起不能になった、その確証を得たのでしょう。

 

 それでも二人とも


「そんで、あんたは無事やろ?」


「けがはありませんでしたか?」


 ごく自然にわたしの心配をしてくれました。


 それが昨夕以来のわだかまりをなくします。


「ありがとう。わたしは無事です。・・・ジェフィもですけど。」


 ・・・そして、わたしの返事と共に二人の安心したため息。


 それを聞くと、わたしは当初の考えを変えざるを得ませんでした。


 二人にも秘密にしておこう、という考え。


 そして休戦協定そのものも。





「エミル、シャルノ・・・よく聞いて。信じられないかもしれないけど、これは、デニーも知っているし、リルやレンにも話したことです・・・。」

 

「フェルノウル教官が見つかって・・・?ええっ!?」


 エミルの目も口も真ん丸です。


 その、本物の王女殿下にも負けないくらいのお姫様顔が、もったいないのです。


「16歳になってるって?意味が分かりません!クラリス?わたくしをからかって・・・すみません、あなたは、そんな人ではありませんでした。」


 立ち上がり、すぐに座りなおすシャルノ。


 その一連の動きには、わたしへの信頼が感じられてうれしいのです。


「原因もある程度は突き止めました。後は、元に戻すための手段です。その手段の解明に、わたしとレンが動いています。」


 実際には主にメルとミライですけど。


 ただ・・・


「仮に、16歳の叔父様をアント、と呼んでいますが、昨夜アントはジェフィとも会っています。もっともジェフィは叔父様とは気づきませんでしたが。」


「って、気づいたら、そいつ、ぜったいヤバイって。あいつならわからんけど、でもさすがにあの性悪ジェフィでもないわ~」


「エミルの言う通りです。気づくわけないでしょう。あの陰険ジェフィでも。」


 まぁ、そうなのですが。わたしも腹黒ジェフィに話す気はありませんし。


「ですが・・・そんな大切なことを・・・わたくしたちにお話してよかったのですか?」


「・・・そう言えばそうやな。わてら・・・恋敵みたいなモンや。」


 恋敵?


 そういう言い方もできなくはありませんが。


 でも


「だって、あなたたち自身は、叔父様と結婚するつもりはないんでしょう?」


「わたしにはありません。ですが、テラシルシーフェレッソ伯爵家としては、フェルノウル教官との縁は必要と考えています。」


「うちんとこもおんなじや。わてが断ったとしても、従姉妹にかわるだけやろうな。」


 シャルノと比べると、少し語気が弱いエミルです。


 顔も知らない相手に嫁がされるよりは、気心も知っていて好意も持っている叔父様との縁談がマシ、それくらいは考えそうですし、冷静になった今では、ちょっとわかります。


「シャルノもエミルも積極的に叔父様と結婚したいわけではないのですし、それであれば、早く叔父様に復帰していただいて、事情を話した方が簡単に解決出来るはずです。そのためには、いろいろ個人的な協力をお願いするかもしれませんし・・・」


「フェルノウル教官殿は、その・・・わたくしたちとの結婚はおことわりになる、そう確信しているのですね、クラリスは。」


 少し不満そうです。


 結婚は嫌がっても、簡単に断られるのはプライドにさわるのでしょう。


 複雑な乙女心なのです。


「まさか・・・自分以外の女には、教官殿は目もくれんって思うとるんか?」


 頬を膨らませるエミルは、むっすりして、もう、語気は荒いし、本当に表情豊か過ぎです。


「別にわたしに自信がある・・・とは言いません。」


 自信があったらどれだけうれしいか、まったく。


 ただ、叔父様がひきこもっている原因の一つは、わたしの・・・あの、コクハクらしいので、不本意でも自粛します。


「叔父様は、政略結婚などで、自分の生徒が不幸になることはお許しになりません。」


 二人とも、おおいに納得した顔です。


 一瞬で表情が変わったのです。


 教官として、一個の大人として、二人は叔父様がどんな人物かは理解し、信頼し、尊敬しているのです。


 ですけど、これは内緒です。


 あの人が、自ら女性を幸せにする自信も覚悟も、未だ持っていないヘタレ、ということは。


「だから、どうしてもあなたたちが叔父様を好きになって、結婚したいというのなら、わたしは恋敵とやらになりますけど、二人ともそうじゃない。だったら、わたしたちは、争う必要はないのです。」


「わかったわ。クラリス。わたいは休戦協定大歓迎よ!」


 ようやくいつもに戻ったエミルです。


 ニコニコ笑ってくれて、わたしも安心します。


「・・・そうですね。協定締結です。」


 シャルノも微笑みます。


 うれしくなったわたしもつられて微笑み、二人と目を合わせます。


 ですが、路線変更したからには、この後もあるのです。


「では、つづいて、同盟の提案です。」


「同盟やて?休戦と違うんか?」


「エミル、不勉強ですよ。休戦は戦いを延期するだけですが、同盟は共に手を取り合うことです・・・これはジェフィが標的なのですね、クラリス。」


 さすがにシャルノは察しが早いのです。


 魔術ばかりか剣術にも、そして兵学にも優れている優等生です。


「そう、展嫁三分の計・・・あんなものは無論ですが、ジェフィが個人的に叔父様に接近すること自体、断固阻止します!」

 

 あの女だけは別なのです。


 いくら自分自身をささげる覚悟があろうと、叔父様にとってはそんなの、ただの迷惑です。


 もちろん、わたしの個人的感情にとっても!


「そうですね。伯爵家としての立場はともかく、あのジェフィの接近を許すわけにもいきませんし。」


「面倒やなぁ、シャルノ。どうせ政略結婚そのものが教官殿の気に入らんさかいに、アドテクノ商会は違うアプローチを考えやぁて、わては父ちゃんにそう言うたるわ。」


 エミルの直観力と、こういう反応の速さはさすがなのです。


 計算高い、と言うには表情に悪気がなくて、明るすぎるのですけど。

 

 シャルノもエミルの言うことに大きくうなずいてます。


 さっきの微笑みが、暖かい笑顔に変わっていって、きれいなプラチナブロンドの髪にぴったりの美少女ぶり。


「わかりました。もう細かいことは言いません。とにかくわたくしはあなたに味方させていただきます。」


 シャルノ!

 

 シャルノがゆっくりと差し出す手を、わたしは強く握り。


「うちも。いろいろ慣れない考えに取りつかれてもうたけど、一周まわって、うちもや。」

 

 エミル!

 

 エミルも、わたしとシャルノの手に、自分の手を重ね。


 そして、わたし三人は、互いの重ねた手を握り合うのです。


「では・・・三者同盟締結です!」


「無粋やな、クラリス。こういうんは、仲直りっちゅうんや!」


「その意見に賛成です・・・わたくし、初めてエミルに負けた気がしますわ!」


「そりゃ、めっちゃひどいねん、シャルノ。」


 三人で何の屈託もなく思いっきり笑いました。


 昨日からの暗い気持ちは、もう全然なくなって、とても晴れやかな気持ちです。


「ところで、エミル。その話し方、結局何なのですか?どこかの方言なのですか?」


「・・・ナイショやねん・・・追求しないで!お願い!」


 セリフの前半と後半は、もう別人なエミルです。




 そして・・・


「クラリス!エミルにシャルノも。久しぶり!」


「え?」


 振り向いた視線の先にいたのは小柄な黒髪の・・・リト!


 リトです!


 わたしのルームメイトで、一番の親友!


「リトォ!帰ってくるのは明日じゃ!?」


 わたしは走り寄って、小柄なリトを抱きしめます。


 リトは少し照れてます。


「なんか知らないけど、三人盛り上がってた?」


「いろいろあったのですわ。」


「ホント。多分クラーケン退治よりめっちゃあり過ぎよ。でもリトも戻ってきて、これで元通りね。」


 わたしたちは、さっきの勢いそのままに、リトも入って、今度は4人で抱き合って、それを見ていたクラスメイトたちがびっくりして集まってきたくらいです。


「これでいよいよわたくしたちも対抗魔術戦に専念できます。」


 今日は11月10日。


 わたしたちは一日早く、対抗魔術戦の本格的な準備に入ることにしたのです。


 ガクエンサイは15日です。


 もっとも、その後のお昼休みは、リトと二人で「クラーケンでたこ焼きはできるのか?」「たこ焼きはどうやってつくるのか?」って調べものですけど。

 

 そうして、放課後はいよいよ第一回魔術対抗戦作戦会議を開くことになったのですが・・・。





「戦隊長閣下!いえ・・・あのぅ・・・。」


「なんですか、悪知恵参謀。そろそろ会議を始める時間ですよ。」


 大仰な呼び名に、事情を知らないリトが首をかしげています。


 可憐なリトがそんな仕草をするととてもお似合いです・・・わたしは最近首を傾げすぎて、きっと首に悪い癖がついています。


 しかし、デニー、閣下は禁止ですし、そもそも何にでも「閣下」は悪趣味ですよ


 そう思いながら、リトに向けた視線をデニーに向けなおします。


 すると徹夜明けのデニーが青い顔で告げるのです。


「その・・・ジェルリフィ・デ・デクスフォールン男爵令嬢がお越しです!」


 それは「男爵令嬢のお越し」などという優雅な響きに程遠い、まさに「ゴジラの逆襲」のような響きで告げられたのです。


 ゴジラとは異世界の二足歩行ドラゴンと聞いていますけど。



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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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