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第11章 その9 学園祭(まつり)の華は魔術戦!?

その9 学園祭まつりの華は魔術戦!?


「予算なんやけどな、ヘクストスの屋台の人たちにも話通したいんよ。」

 

 ガクエンサイ当日には、市内の屋台にも来てほしいという意見があり、エミルが中心になって具体化しているところです。


「それは、いいですけど。ちゃんと教官方にもお話しないといけません。」


 順番的には、教官方の会議を経るべきなのですけど、随分とこのガクエンサイでは生徒の自由度が高いのです。


 企画者であるあの人の希望のようです。


「ほなら、明日、学園に来てもらうわ・・・ワグナス教官、ええでっしゃろ?」


「ええっと・・・すみません、クラリスくん。エミルくんの言っていることを通訳しくれますか?・・・「翻訳」(トランスレーション)を使うのも変な話ですし。」


 ・・・わたしも自信ないですけど。


 お金が絡むとエミルは、そのお姫様みたいな顔には全然似合わないこんな話し方になるんです。


 でも確かにわざわざ術式を使うのは変ですし。


「それで企画運営委員長閣下、「たこ焼き」隊の帰還は予定通り11月11日だとして、そろそろガクエンサイ当日の対抗戦の準備はしておかないと・・・。」


 次から次へと、いろいろな件がわたしのもとに来ます。


 もちろんエミルとデニーはよくやってくれているのですが、それでも初めてのガクエンサイです。


 かなり検討事案が多いのです。


 それはそうと、 閣下はやめて、っていくら言ってもこのメガネは直してくれません。もう。


「・・・確かに、みんなそろったらすぐ始めないといけませんね・・・ヒルデア、それでいいですか?」

 

 それは、未だクラス全員がそろわない第5回目クラス会議の時のことでした。


 こんな流れで、ガクエンサイ当日に行われる他校との魔術の対抗戦について、クラス委員から説明があったのですが・・・。




「ヒルデア、これは聞いてません!」


「言ったようなものだよ、ボクたちに対抗戦の仕切りを任せるからには必然だろう。」


「そうですわ、クラリス。あなたにお任せることは最初から決定事項です。」


「シャルノ!あなたたちにお任せしたのは、他校との交渉と試合運営であって、対抗戦での役割を押し付ける権限ではありません!試合の指揮官は当然クラス委員長が行うべきです!せめてクラス会議で決めるべきことでしょう。」


「でも、もう登録済みさ。あきらめてくれよ。企画運営委員長。いや、戦隊長!」


 ヒルデアとシャルノは、戦隊長、つまり対抗戦の指揮官を拝命せよということなのです。


 二人に押し付けられた規格運営委員長の仕事は、忙しくても懸命にやってきたつもりです。


 「たこ焼き」隊の件も、「歌劇団」の件も、今出て来た屋台の件、予算の件、物資調達の件、全体練習の件・・・生徒の自由度が大きいということは、わたしたちが責任もって取り組むということでもあります。


 手を抜かず、頑張ってきたつもりです・・・企画者の叔父様がいないのに・・・会いたいのに・・・。それなのに。


「もういい加減にしてください!わたしにはそんな力はありません。企画運営だけでもういっぱいいっぱいなんです!」


 つい大きな声を出してしまいます。


 教室が静まり返ります。


「ちょい、クラリス・・・言いすぎだよ」


「・・・閣下、落ち着いてください。」


 両脇の性悪商人と悪知恵参謀がわたしをなだめようとするのですが・・・。


「もう・・・しばらくほうっておいて!」


 その日の話は、一旦保留になり、放課後にわたしたち企画委員で商店街にまわる予定も、エミルとデニーに任せ、わたしは休むことにしました。


 その日の放課後は、誰も来ない屋上でずっと空を見ていました。


 雲しか見えない空を。

 



「・・・クラリス・・・今日はどうしたの。」

 

 部屋の明かりを消しても、二人ともまだ眠れません。


 それでレンが隣のベッドから話しかけてきました。


「クラリス?聞いてる?」


「・・・ごめんなさい、レン。でも・・・戦場実習以来、なんかヒルデアが、シャルノもだけど、わたしにいろいろ押し付けてくるようになった気がして・・・疲れたの。」


 きっと、本当はもっと前。


 叔父様が学園に教官としてやってきて、それまで目立たなかったわたしが授業中につい質問とか発言とかをするようになってしまって・・・そのあたりからです。


 シャルノと仲良くなったのもその辺りですけど。


 その前後に「戦術」の演習で、デニー、リル、レンの3人とも仲良しになれて。


 気が付けば夏休み前と後では、わたしの学園生活は大きく変わりました。


 リトとエミルと。


 二人がいてくれればそれでよかった日々が、むしろわたしにとっては自然な時間。


 でも、近頃の生活もとても楽しいのです。


 ただ、さすがに今は・・・。


「なんか、いろいろあって、わたしも変わってしまったのでしょうか?」


「クラリスは・・・変わっていないよ。でも、みんなクラリスがエライことを知ったの。とっても一生懸命なことに気づいたの。」


「・・・わたしはエラクなんかありませんし一生懸命でもありません。模擬戦ではファラファラに負けました。

 一対一なら、リトにもジーナにも・・・ううん、アルユンにも勝てないかもしれない。」


「・・・みんなが見ているあなたは、そうじゃないの。」


 アルユンは、叔父様に師事しているわたしが、「この程度」であることを責めていました。


 アルユンには教えてくれる人がおらず、魔術書すらなかった。


 そんな彼女から見れば、わたしはのうのうと学園生活を送る怠惰な生徒に見えるのでしょう。


「わたしは・・・叔父様の姪であることに・・・いえ、弟子の一人であることに甘えて、努力を怠っていたのです。そんなわたしが、ガクエンサイの準備でみんなをまとめているだけでもおこがましいのに、その上対抗戦の戦隊長なんて・・・器じゃないし柄でもないのです。」


 同じ弟子であるメルが12歳にして中級魔術士であるというのに、わたしはようやく下級魔術士レベル5。


 全然なのです。


 メルは魔力奴隷として育てられたという過去がありますが、おそらくそのおかげで魔力量や魔力の純度が高いのでしょう。


 しかし、文字の読み書きから教わらなければならず、決してわたしより条件が有利ということではないはず。


 それなのに、もう魔法学校卒業レベルを超え、教官レベルなのです。


 わたしだって、頑張ればそれくらいは目指せたのではないでしょうか?


 惜しむらくは、11歳から14歳まで、叔父様から遠ざかっていた日々があったことです。


 その間も、時々はお部屋を訪れて学ぶことはありましたが、その前後の時期と比べれば明らかに学習の質も量も劣るんです・・・わたしの誓いを考えれば、そして本当の叔父様のことを知っていれば、まさに無駄な時間でした。


「ねえ。クラリスはいつから・・・フェルノウル教官が好きだったの?」


 暗闇のせいでしょうか。


 レンの不意の質問にも、わたしはそれほど動揺せずに済みました。


 それでも顔が赤らみ、心臓が大きく脈を打った程度の自覚はありますけど。


「レンには・・・隠せないないですからね。一緒にミライの洞窟に行って帰ってきたあなたには。」


 叔父様に抱きついて自分の想いを伝えた時も、この子は側にいたのです。


「ですが・・・実はよくわからないのです。」


 子どもの頃は・・・そう、あの邪竜の襲撃があった日。


 あの日までは、おそらく一番親しい肉親だったはず。


 母よりも父よりも側にいてくれる人。


 でも、あの日からは?


 そして、4年前のトレデリューナ臨時法を知った日からは?


 1年前、受験のために再び深く師事してからは?


 3月に「フィギュア事件」があって喧嘩別れしてからは?


「・・・8月に再会して、叔父様が教官になられて・・・それからいろいろとあり過ぎました。」


「8月かぁ・・・あれからいろいろ事件が続いたね。」


 ホントです。


 あの人と関わると、平和な学園生活もあっという間に事件の連続。


「ですけど・・・そのおかげで、今まで気づかなかった叔父様のことをたくさん知ることができました。」


「・・・レンにとっては、ありえないくらい不思議で、でも優しい教官だよ、最初から。だって、人前でちゃんと話できないレンが、どれだけ理解しているかいつも見てくれてたし、話もとても分かり易くて・・・内容はすごく難しいことなのにね。あ、でもやっぱり一番最初は変な人かな?ろくに声も聞こえなかったし、生徒見ないで板書ばかりだったし。」


 ・・・確かに。


 あのコミュ障で女性嫌いのひきこもりが、よくもまあ、女子校の教官になどなったものです。


 一部にこんなファンもいますし。


「そして、いろんな事件があったから、レンはみんなと仲良しになれたの。こうしてクラリスともお友達になれたの。だから・・・クラリスが疲れてて、寂しいのもわかるけど、でも、クラリスがいて、教官がいたからみんな今みたいになったの・・・レンは今のみんなの方がいいな。」


 ですが、その叔父様は今はいません。


 所在も無事かどうかも知らせず、わたしの気持ちを知ったはずなのに、そのわたしを放っておいて。


「レン。ミライも知らないのですか?叔父様の行方を?」


「・・・知らないって言ってた。でも、南方にはもういないって。」


 ミレイル・トロウルの、おそらくは変種の女王。


 鉱物脳を支配することで感応力や支配力を強めたミライの言うことですから、きっとそうなのでしょう。


「・・・レンも会いたいよ、教官に。でもクラリスはレンよりもっともっと会いたいんだよね。」


 まだ幼さを残す、レンの声。


 ですがその語感からはわたしを案じるような優しい気遣いが伝わってきます。


 それがわたしの心の壁をあっさりと越えてきて。


 だから


「はい・・・会いたいのです・・・わたしは叔父様にお会いしたいのです。それだけなのに・・・それなのにあの人は・・・。」


 わたしは年上の見栄も捨てて、素直にそう言います。


 そう繰り返します。


 そして


「・・・バカ・・・叔父様のバカ・・・。」


 あとは毛布をかぶり、声を噛み殺すのです。


 そんなわたしのベッドにレンが入ってきました。


「・・・クラリス。我慢しなくていいよ。ね。」


 小さいレンが、優しくわたしの頭を抱き抱えてくれます。


 まだ少し固い体、でもわたしより高い体温が包んでくれる、そんな時間が過ぎていきました。


 そして、レンの微かに甘い体臭が、わたしをいやしてくれたのです。


 思わずレンの臭いを深く吸い込みます。


 現金なもので、そうなるとレンに対して感謝と同時に、ちょっと気恥ずかしさがぶり返してきました。


「・・・レン、ありがとう・・・でも後悔しないでね。」


 少したって、落ち着いたわたしは体を起こして、レンの耳元でささやきます。


「・・・え?後悔?なに?」


 キョトンとした声。


 全くわかっていない声です。


 ふふふ、です。


「こんなところには入ってきて、いろいろ奪われても知らないから!」


「ええっ!?それはダメぇ、クラリスぅ!」


 わたしは年上の威厳を取り戻すべく、レンにちょっとだけ教育してあげることにしました・・・ちょっとだけですよ?





 ・・・次の日の朝、レンは恨めしそうに、顔を真っ赤にしてベッドから出て行きました。


「クラリスの卑怯者、恩知らず!」


「何を言ってるの、大切なものはちゃんと残してあげたから。」


「バカバカ!そんなこと言わない!」


 更にレンの顔が赤くなります。


 これはいけません。


 わたしの方が特殊な趣味に目覚めてしまいそうなくらい、かわいいのです。




 その後、機嫌を直したレンと一緒に登校すると、珍しく朝食の時間にデニーとリルが食堂にいました。


 二人とも、朝は遅いみたいでなかなか会わないのです。


「おはよう、デニー、リル。今日は早いのね。」


「・・・おはよう。」


「・・・閣下ぁ・・・おはようございます・・・レンもおはようです。」


「ふたりとも、おはよ~。」


 ・・・リルはともかく、デニーのメガネに光がありません。


 寝不足でしょうか?




「ブリティッシュの食事は朝に限る・・・です。」


「・・・クラリス?何それ?」


「すみません。時々叔父様がつぶやいていたんです。」


 今日の朝食はライ麦パンにチーズ、ミルク・・・。


 なんとなくコンティネンタルという気分で、せめてハムエッグでも欲しいと思ってしまったのです。


「わたしは朝は弱いので・・・これでも多いですよ。」


「ん~・・・リルもあまり朝ごはんは食べないかな。でも食べる時は食べるよ。パンお替りしてくる。レンは?」


「・・・レンはお腹いっぱいなの。」


「レンはもう少し食べないと。成長期ですし。このままでは育っても骨だけとか、胸だけとか・・・。」


「閣下、何気にわたしとリルをディスるのは・・・。でも、お元気になったみたいですね。」


 困惑しながらも、笑顔になったデニーです。


 でも、ホントにもう少しふっくらした方が女の子らしいのです。これでは普通に少年です。


「昨日はゴメンさない。少し疲れていました。」


 みんなに頭を下げます。


 教室でも謝らないといけません。


「いえ、確かに閣下はお忙しいですし、いろいろ・・・お寂しいでしょうし。」


 意味深なことをわざとらしく言うメガネです。


 ふん、です。


「あなたも少し元気になったようで何よりです。」


 今さら、それくらいで怒ってあげないのです。


「クラリス、寂しいの?リル、バカだから気が利かなくてごめんね。」


 リルは素直ないい子です。


 でも素直過ぎです。悪い人に騙されそうで心配です。


「リル。あなたがいてくれるから、大丈夫ですよ。」


 同い年のはずですが、小柄で少し舌足らずなリルは年下みたいです。


 胸は不相応に発達して時々困りものですけど。


 そんなリルをつい撫でてしまいました。


「へへへ、リル、お姉さんだから妹にはナデナデしてあげるけど、誰かに撫でてもらったの久し振り~。」


「イヤではないですか?」


「ううん。うれしいよ。早起きしてよかった。デニーが珍しく早かったからだね。」


「デニー?今日は何かあったのですか?」


 ・・・怪しいです。


 わたしに振られると、デニーのメガネがすりガラス風に光を遮り、目を隠すのです。


 器用なメガネですこと。


 あれも一種のマジックアイテムかもしれません。


「いえ、昨日急に予定が変わったので、今日の予定を立て直していたのです。」


 それはそれは。


 ・・・ふうん、なのです。




「昨日は、感情的になってすみませんでした。大切な議題を後回しにしてしまって。」


 朝のうちに、クラスのみんなに謝罪します。


「いや、ボクも事前に何も言わずに決めて、悪かったよ。確かにキミに頼りすぎてた。こっちこそ謝罪するよ。」


 ヒルデアがそう許してくれたので、昨日の途中から再開します。


「まず、当日招待する学校は、ヘクストス女子魔法学校、パントネー魔法女学園だ。」


 順番に言うと、ヘクストス女子魔法学校(通称ヘク女魔校)は、創立10年の、女子の魔法学校としては近隣では最も古い学校です。


 女子の社会進出が始まった時期と同じくして創立されたそうです。


 一方パントネー魔法女学園(通称パン魔女園)は、トレデリューナ臨時法が施行されてすぐに開校した4年目の新設校です。


 どちらも私立ではありますが、女子生徒の魔術士としての進路を切り開いた先駆者です。


 ただし、前者が主に純粋な魔法の研究に特化して、進路としては魔術関係者を養成するという少数精鋭主義に対して、後者は卒業生を軍に入隊させるという魔法兵養成校の面が強いという特徴があります。


 しかし、パン魔女園の卒業生を兵として採用する段階で、現行部隊から反対が多く、結局は一部を後方に配置しただけで終わったとか。


 どうも養成段階で、民間の魔術師に任せた結果、軍が望むレベルに達しなかったという噂がありました。


 つまり・・・「魔術師」ではあっても「軍人」ではない、という評価です。


 そして、その反省から急遽今年創立したのが我がエスターセル女子魔法学園・・・通称エス女魔園・・・ということなのです。


 わたし自身、昨年自分の志望校を選ぶにあたって、この3校を・・・他にもありましたが・・・いろいろ調べたことを思い出します。


 わたしは自分の誓い・・・「魔法兵になって困ってる人を救う」・・・を実現するために、「魔法兵」つまり軍の魔術士という進路を選び、エスターセル女子魔法学園に入学したのです。


 それは叔父様と対立する理由になってしまいましたが。


 期せずしてこの3校が魔術の対抗戦を行うことになるということに、運命めいたものを感じてしまいます。


 ・・・って、あれ。


「ヒルデア?これでは全部で3校では?」


 4校の対抗戦。


 そう思っていたのです。


「ああ・・・それがなかなかどこも相手になってくれなくてね。」


 確かに他にもある女子学校ですが、この3校と比べると、「上流階級」や「お金持ち」の趣味の学校とか、逆に就職や出世のための「資格」「経歴」づくりという面が強かった気がします。


 要は「本気度」が違うのです。


「あ、でも誤解しないでくれたまえ。ちゃんともう一校くるから・・・一校でいいのかな?」


「いいと思いますけど・・・最後の一校は、冒険者養成校の魔法科の方々を招待いたしましたの。」


 それは・・・反応に困るわたしたちとは逆に、面白そうなお顔をするワグナス教官です。


 国立の、冒険者ギルドの下部組織になっている、初級冒険者に基礎的な知識や技能を教える学校なのだそうです。


 そして、冒険者のクラスごとに戦士科、探索科、魔法科などがあるとか。


 ただし


「年齢がけっこう不統一で、一応入学して一年以内でお願いした。もちろん女性限定。」


 それは一年以内であれば、年齢は問わない、と?


「そうしないと、20人も集まらないってさ。ただ、入学する前から魔術を使えるものもいるわけで、そこは難しいかな。年齢も常識の範囲内でってことで。」


 ・・・それを言っては、わたしたちも入学以前の差は存在します。


 仕方がないでしょう。


 他の2校は、参加対象は初年度生徒20名で同意していただいたとか。


「なるほど。まあ、ほとんどはわたしも知っているのですが、3校目は・・・だれが交渉したのですか?」


 教官の問いに答えたのはシャルノです。


「わたくしとヒュンレイ教官殿です。」


 ヒュンレイ教官殿でしたか。準教授の。


 ウワサでは元冒険者と聞いていましたが本当だったのでしょうか。


「なるほどね。あの出不精をよく引っ張り出しましたね。シャルノさん。」


 確かにヒュンレイはあまり教官室からお出にならないことで有名です。


 まさか叔父様のようなひきこもりとは思いませんので、研究熱心な方だという評判ですけど。


 ただ、何となく眠そうなお顔なので一部では昼寝してるのでは、という憶測も流れています。




「さて、ユイ。黒板に書いてくれ。」


 ヒルデアは、その後、対抗戦のルールを説明します。


「ボクたちはよく知らなかったけど、エスターセル魔法学院では、教程の中に魔術戦というのがあるそうで、今回はそれを使用することにしたんだ。これは同校卒業生にして我らがエクスェイル教官殿からお聞きした。シャルノ?いいかい?」


 シャルノがエクスェイル教官を教室にお連れしました。


 それにしても、わざわざシャルノがお迎えに行かなくてはいけないのでしょうか、後でからかってあげましょう。


「え~、魔術による対抗戦は、僕の母校エスターセル魔法学園では恒例だ。集団で魔術を競うことで、軍人としての組織戦を学び、また魔術士個人の力と集団としての熟練度、両方ができていないと勝てないということを実感するためだ。」


 シャルノやヒルデアは上気して聞いています。


 はいはい。


 まあ、見て、聞いているだけならいい教官でしょう。


 どうせエミルも・・・そう言えば、さっきから妙に消えていましたね。


 しかも、ひいきのエクスェイル教官を見てもいない。


 ・・・そう言えばデニーも静かです。


 二人とも・・・?


「今回の対戦形式は標的破壊だ。お互いの魔術のみで相手の標的を先に破壊した方の勝ちだ。物理攻撃は禁止。相手への直接攻撃も禁止。だから、攻撃術式を相手の標的に集中する。もちろん早く唱えればいい、と言えば必ずしもそうじゃない。さすがに数人が簡易詠唱や略式詠唱したくらいでは壊れない。一方全員で通常詠唱すると、その間にやられてしまう。それに防御術式をはってもいい。だからのんびり唱えていれば相手側が防御を固めてしまう。ただ、防御術式は・・・」


 なるほど・・・駆け引きが重要ですね。


 攻撃に長けた術者と防御に長けた術者に分けて・・・例えばわたしなら「防御」の略式詠唱ができますから、まずそれで守りを固めます。


 その間、エミルやシャルノが簡易詠唱で「魔力矢」「火撃」などを唱えて・・・後のみんなの得意不得意を確認して仲間を分けますか。


 あるいは、全員に略式詠唱で「魔力矢」をできるようになってもらって・・・いえいえ、この短期間では無理でしょう、もしも叔父様がいたとしても、個人の特性を無視しての努力とか、そんなことを嫌がる方です。

 

 お話を聞きながら、いつに間にか、わたしはいろいろな戦い方を考え、脳裏で試してみるのです。




「という訳で、ルールや試合会場の確認のため、明日、3校の代表者が本校に来ることになっている。」


 ヒルデアがそう言ってわたしたちを・・・いえ、わたしを見ています。


「だから、ボクたちも代表者を決めておきたい・・・改めてお願いする。クラリス、ボクは、ボクたちクラス委員では、キミに戦隊長を引き受けて欲しいんだ。」


 そうくるという気はしましたし、昨日のように頭から拒否する気にはなりません。


 ですが、陣形、術式、攻守のバランス・・・どれが有効なのかいろいろ考えて見て、もちろん経験者のエクスェイル教官にも伺ってみるべきで・・・教官に積極的に参加していただくためには、わたしでない方が適任でしょう。

 

 ちらっと見ても、エクスェイル教官が不安そうにわたしを見ていますし。


 やれやれ、なのです。


「昨日のように感情的なことは言いませんし、忙しいとか、そんな消極的な理由をいうつもりもありません。ですが、わたしよりも適任がいるのです。」


 ヒルデアもシャルノも意外そうにわたしを見ます。


 エミルもデニーもです。


 あなた方は、もっと視野を広くしてほしいのです、全く。 


「じゃ・・・キミは誰が適任だって言うんだい?」


「・・・わたしは、なぜヒルデアやシャルノが自ら名乗り出ない方が不自然に感じます。クラスをまとめて戦うのですよ?あなた方こそふさわしいし、その力や責任感を誰も疑いません。」


 しかも教官の支援を受けて。


 それこそクラス委員の仕事でしょうに。


 結局、わたしとヒルデア、そしてシャルノは、互いに見つめ合うのです。長い時間。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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