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第11章 その8 走れ、歌劇団!

その8 走れ、歌劇団!


 それは、模擬店一行が旅立ち、その間に少し寂しくなったクラス会議が進められていた時のことでした。


 何度目かの部門会議でも、未だ進展がない舞台発表ですが・・・。


「少女歌劇~!ヘクストス華撃団って激燃えでチョ~萌え!」


「歌いたい唱いたい~!歌唱い隊!」


「ダンスがないと死んじゃう!舞台は踊りとともにあるのよ~!」


「魔術~!」


「漫才~!」


 ダメですね。


 進展が全くありません。


 そして、そんな時です。


 レンの一言が・・・。


「・・・ねえ。どうせなら全部やったら?一緒にして。」


 ・・・それは、一瞬の沈黙の後、


「おおおおおおおっ!」


「それだああああっ!」


 って、圧倒的な支持を受けて決定しました。


 これを「コペルニクス的転回」と言うのでしょうか?


 あるいは「コロンブスの卵」が正解なのでしょうか?

 

 考えてみれば「歌劇」ですから歌やダンスがあって当然だし、舞台の背景に幻術を使えば魔術の披露にもなるわけです・・・漫才は・・・まあ、劇の合間に一席設けるってことで。




 そしてソニエラが叫びます。


 あんなに元気いい子だったかしら?


「演劇は、まずは体力よ!いくわよぉヘクストス華撃団!あのニュスペリル湖に沈む夕日に向かって!」


「おおっ!」


「・・・ええっ?・・・あんなこと言わなきゃよかったよ。」


 レン以外はもう熱血路線一直線です。


 全員で走っています。


 レンも手を引かれて走ります。

 

 しかし題材の見直しとか脚本とか、いろいろ前途は多難なはずです。


 走る暇があるのでしょうか?


 ですが、任せるしかないのです。


 ちなみに学園から見ると、北東のニュスペリル湖に夕日は沈みません。


 普通にエスターセル湖にしておけばよかったのに・・・。


 どういうルートであそこまで行くつもりなのでしょう?


 わたしは考えるのが怖くなって、後は自分の仕事に逃避することにしました。




「レン?どうしたのですか?」


「・・・だって、リトがいないし、レンも同室のファラファラがいないし、その間ならいいんじゃないかなって・・・寮母さんが。」


 まだ「たこ焼き」隊一行が戻っていない頃でした。


 夕食後、レンがわたしの部屋を訪ねて来たのです。


 同室のいなくなった者同士、しばらく学生寮の部屋を移動してもいいと許可をいただいたそうです。


 寮母さんも、最年少で大人しいレンには甘いのです。

 

 正直に言うと、悩みました。


 規則としては特例もよくないし、自立して生活することが求められる寮生活です。


 なのですが・・・


「・・・だめ?」

 

 レンはまだ13歳です。


 それでなくても内気で人見知りで。


 そのくせ甘えたがりで、先月の戦場実習の時も船内ではずっと一緒に寝てあげたのです。


 今もわたしに断られたらどうしようって泣きそうです。


「この寂しがり屋さん。特別に許可します。」


 わたしは、そう笑って入れてあげたのです。


 レンもかわいらしく微笑んで、荷物を持って入ってきました。


 日中走ったせいか、レンは疲れて荷物が重そうです。


 わたしはその荷物を取り上げて、中に運びます。


「・・・クラリス、たくましい!」


 これは褒められたのでしょう。


 ですが乙女としては素直に喜びにくいのです。


「レンも頑張って鍛えなくては、ね。」


「え~レンは魔法だけでいいの。」


 レンは口をとがらせています。


「それだと、軍では生きていけませんよ?」


「・・・卒業したらどうするか、レンはまだ決めてないの。」


 卒業したら軍に入るという以外の選択を考えるクラスメイトは少なくないようです。


 2班でも、私とリト以外はまだ決めかねているみたい。


 軍の学校に入学しても、軍に入ったというより、「口減らし」「まだ結婚はイヤ」「お金がもらえる」・・・そんな入学理由も多いのです。

 

 そのせいか、入学当初は「玉石混淆」という感が否めませんでした。


 「魔術適性」だけで入ったような子も実際いたりします。


 それでも最近はみんな随分「勉強しよう」という感じになって来たのではないでしょうか。


 前期の最後に叔父様から「魔術教典」をいただいたことがかなり大きいと感じます。


「・・・クラリス。そっち行っていい?」


 わたしがいろいろ考えているうちに、レンはわたしのベッドにもぐりこんできました。


「レン・・・今日だけですよ。」


「うん。ありがとう。」


 本当に甘えたがり。


 でも、正直わたしも寂しかったのです。


 レンを抱き締めて眠ることにしました。


 レンも安心してわたしに甘えてきましたが、走って疲れていたのか、すぐ眠りました。




「だめ・・・やめてぇ・・・クラリス、だめだよぉ。」


 ん?


 ええと・・・ここは寮のわたしのお部屋で、わたしのベッド・・・。


「・・・レン?なんでここにいるんですか?」


 どうもわたしは寝ぼけていたようです。


 レンが大慌てでベッドから逃げ出します。


「なんでじゃないよぉ・・・危うく奪われちゃうとこだったよぉ、もう。」


 息を切らしているレン・・・「なにを?」と聞いてはいけない気がします。


「・・・デニーじゃないけど、あげてもいいのは心臓までだから。後はいくらクラリスでもダメよ!あげられないから!」


 心臓なんて欲しくありません。


 そんな特殊な趣味とやらは持ち合わせていないのです。


 「特殊な趣味」・・・ふとそんな口癖の人を思い出します。


 さっきまで一緒だったような・・・そんな錯覚がします。


 夢?よく覚えていません。


「もう・・・まさか、いつもリトとこんなことしてるの?」


 ・・・「どんなこと?」これも聞いてはいけないのです。


 泥沼にはまりそうです。


「すみません。寝ぼけていただけですから。」


 そう言って、あとはこの話題を切り上げるのです。


 さすがに少し恥ずかしいし。




「はい、では、魔撃団出会いのシーン始めます!」


 わたしたちは、今、歌劇の稽古を見学中ですが、意外に順調です。


 最初の一歩を踏み出すまでの苦難がウソのようです。


「ええっと、今は個性の強すぎる団員が最初なかなか打ち解けずにいる場面ね・・・はは。」


「なんですか、エミル?その変な笑い方?」


「だって・・・わたいらも最初ぎこちなかったよねえって。」


「あれ・・・そうでしたっけ?」


 4月の頃って、どうでしたっけ?


「そう言えばそうですね。リトはすぐクラリスと仲良くなっていたと思いますが、エミルは少し二人に入るのが遅かったですね・・・そもそもエミルは人気もので引く手あまただったからどこの仲間になっても不思議なかったけど・・・わざわざあの片隅で地味な二人にくっついたのは意外でしたね。」


 ・・・片隅?地味?


 ・・・否定できませんけど。


「いや、閣下、あのですね。まだ互いの人柄も実力もわからないうちは、黒髪のリトはそれだけで悪目立ちしてましたし、閣下も入学当初はあか抜けないというか真面目過ぎるというか・・・付き合いにくい人だなって、みんな思ってましたよ。・・・すみません。」

 

 この辺りでは黒い髪、しかも黒い瞳は珍しいのです。


 でもリトは寮でも一緒ですし、友情にも信義にも厚い素晴らしい友人です。


 少し口数が少ないのですが、その目は口以上に雄弁なのです。


 わたしがあか抜けないのは・・・否定できませんけど。


「だって・・・あの時のクラリス・・・術式の詠唱の際でも古代魔法文の独唱でも、一字一句たがえず略さず正確に発音するって、あれ、できないよ?みんな古臭いって笑ってたけど。わたいたちは、つい急ぐし、略した方がかっこいいし、そもそもそこまで正確な発音を知らないし。それが同い年の仲間がこんなに揺るぎなく正確な詠唱ができるって、ちょっと感動したんだよね・・・ま、話してみれば思ったほどにはガチガチでもなかったし。」


 そう言えば、入学当初は、魔法文字、特に古代魔法文字の発音をからかわれていました。


 忘れていましたけど。今では・・・特に叔父様が「古式詠唱」などで、いかに正確な発音や文字の理解が術式の威力に影響するか、みんな知っています。


 でも、あのころは一部の人以外とはなかなか話せなかったものでした。


「でも、エミル。いつごろからわたしたち、友達になったんでしたっけ?」


「薄情ね、クラリス・・・わたいがイスオルン教授の授業で古代魔法文字読めなくて困ってた時にこっそり助けてくれたじゃない。」


「・・・そんなことありましたっけ?それにそんなことくらいで・・・」


「そんな事じゃないの!入学してすぐなのに、あんなの読める人いないし、それをあっさり人に教えて。自分で言えばすごい評価上がったのに。」


 はてな、です。


 そんなことで上がる評価なんて、叔父様に笑われます。


「・・・ね。わかるでしょ、デニー。」


「はい、クラリスはやはりクラリスなんです。委員長閣下です。だから、創立したばかりでまだ雰囲気がつかめてなかったクラスも、自然に自分一人よければ、じゃなくて、みんなで頑張ろうって雰囲気になっていったんだと思います。」


 ・・・二人とも大げさです。


 なんだか恥ずかしいです。


「あ・・・レンの出番です・・・。声が聞こえませんけど。」


「いや、そこ、セリフないんです。」


 ・・・・・・。




「さっ、今日はこれで終わり。いつも通り、みんなで走りながら語り合いましょう!」


 そこは、走るか語らうか、どっちかにするべきでは?


 まぁ、みんな反論ないならいいですけど。


「ヘクストス魔撃団、GO!」


「OH!」


 ・・・あれ?




 さて、舞台発表はその後も順調です・・・毎日走ってるおかげかどうかは知りませんが。


 意外にも、自己主張が強いだけあって、多才なメンバーが集まっていたようです。


 脚本、演出、配役、選曲、振り付け、背景幻術、漫才と、まあ見事な進行なのです。


 しいて文句があるとすれば、人手不足を理由にわたしたち企画運営委員を敵役に配して出場させることくらいでしょうか?


 これは何か含むところがあるのでは?


「よっしゃあ、引き受けたる!真の悪役魂を見せちゃるわ!な、デニー!」


 またエミルの口調が・・・もう、そのお姫様顔がもったいないです。


「応です、エミル。わたしたちの衣装やアクションは全てお任せください!」


 ・・・なんでそんなに乗り気なんですか、エミルもデニーも。


 この忙しいのに毎日短時間とは言え舞台の練習なんて。


「大丈夫です!委員長閣下!閣下の魅力を全てわたしがひき出して見せます!」


「デニーはホンマにクラリスを崇拝しとるなぁ・・・なんか疑いとうなるわ。」


「な、なにを疑うのですか!?」


「大丈夫です。このデニス・スクルディル、クラリスとフェルノウル教官殿の仲を裂くような恐ろしいことはいたしません。それは世界最後の日がきたとしてもあり得ないのです!」


「縁起でもないことぬかすな、このアホ!」


「まったくです。」


 もうこのメガネは。


「なんや反応薄いで、クラリス?」


 え?そうですかね?


「それは、教官との仲を事実と認めたからですね!?クラリス!」


 ・・・まあ、まだ一方通行な気がしますけど。


 叔父様はわたしをどうお考えなんでしょうか?


 わたしはあんなにはっきりと思いを伝えたつもりなのに、叔父様は未だにわたしの保護者を気取っていらっしゃるような気がします。


 しかも、まだ帰ってきませんし・・・。

 

 いつの間にか、エミルもデニーもわたしから遠ざかって、そして、わたしは一人、屋上に向かうのです。




「なあ、デニー・・・いつまでクラリスのこと、「閣下」って呼ぶんや。尊敬も崇拝もわからなくはないんやけど、大仰すぎやないか?戦場実習中はまだしも、もうええんやないか?」

 

 屋上から企画室に戻ると、エミルがデニーと話し始めていました・・・これは、入りづらいタイミングです。

 

 少し様子を見ましょう。


「エミル・・・ここだけですが、わたしにレンにリル。クラリスやリトと比べれば魔術士としても、たんなる学生としても明らかに力不足なんです。でもそのことをクラリスは全然口にしません。そんなわたしたちとリトを分け隔てなく扱って、それにわたしたちにできることをちゃんと考えてくれて・・・。だから2班で訓練して、実習でいい結果が出た時は泣くほどうれしかったんです。それどころか、誰とは言いませんが、ある教官がわたしたちを劣等生って言ったのをクラリスはすごく怒って、教官にすごい勢いでつめよって・・・もうこの人には死んでもついて行くしかないじゃないですか。そんな風に思ったら・・・自然に閣下って出ちゃうんです。」

 

 ・・・これはいけません。


 入るタイミングを完全に失いました。


 それにしても、デニー・・・あんなことくらいで命の安売りなんてしないでいいのに。


 ぐすん。バカメガネ・・・でも閣下はヤメテ。




「ぐわあああ。」


 ドサ。


 ドテ。


 ドタ。


 正義の味方を気取った主役たちがゴミ屑のように飛んでいきます。


「はん!これくらいでわたしが倒れると思っているのですか!片腹痛いです!ほおっほっほっほ!」


 そして、黒いマントをひるがえしながら、黒の網タイツで舞台をふみしめ、黒い蝶マスクの向こうで客席をはったとにらむのです!


 頭の上の黒いシルクハットはご愛敬なのです。


「クラリス、はまり過ぎや・・・。」


「この存在感、子どもが泣きます。」


 なんのこの程度、まだまだです!


「ちょっと・・・委員長、そこは多少は加減してくださいよ。」


 演出担当が何か言ってきましたけど、ふん、です。


「何ですって!3人がかりでわたし一人に弾き飛ばされるなんて、それでもエスターセル女子魔法学園の生徒・・・いえ、正義のエスターセル光撃団なのですか!」


「きたっ、「クラリスの正論」や!正論で相手を追い詰める反撃不能の凶悪攻撃や!」


「それは聞くからに恐ろしい・・・。」


 なんかごちゃごちゃ言ってますね。配下たち。


「いやいやいや、今、お芝居ですから!」


「お芝居だからって、適当に済ませていいっていうの?そんな気が抜けた「ごっこ」を見てお客様が喜ぶと思うのですか!」


「うわあ、しかも、えげつない問答無用の連続攻撃や!」


「これは痛い!子どもじゃなくて演出係が泣き出しましたよ!」


「・・・だからクラリス誘うの止めたのに・・・。」


 なんですか、みんな。


 このくらいのことで言いまかされては本当によいものはできませんよ!


 互いに本音をぶつけ合ってこそ、強い圧力に耐えてこそダイアモンドは輝くのです!


「いやいやいや・・・委員長ぉ~ご勘弁を・・・。」




 結局あの後、配役が変更され、わたしは悪の手下Aになりました。


 セリフもありません。


 せっかくやる気出したのに、何となく面白くないんですが・・・。


「クラリス閣下がでたら、主役も何もかんも持っていかれるわ。しゃあないて。」


「まったくです。やりすぎですよ、委員長閣下。」


 だって・・・なんとなく思いっきりやんなきゃって・・・。


 ぶすぅ、です。


「だからぁ・・・閣下はヤメテ。しかもエミルまで。」


 わたし、ちょっといじけてしまうのです。




「・・・クラリス・・・今日はやりすぎだよぉ。」


 ここは寮のお部屋です。もう夜なのです。


「ごめんなさい。痛かった?」


 レンはまだ痛いのか、あちこちさすっています。


「・・・うん・・・でも、やっぱりレンたちが弱いからだよね。」


「お芝居だから、強い弱いとは違う気がしますけど。」


「・・・じゃあ何?」


 レンが、手を止めてこちらを見ています。


 きれいな目ですけど・・・


「お芝居でも、本気かどうか・・・それはあると思いますよ。」


「・・・レンたち・・・本気じゃないの?」


 その目の前に、ウソはきっと見破られます。ですから


「・・・正直に言えば。ですが、わたしが大人げないだけかもしれませんね。」


「・・・・・・。」


 うまく言えないまま、そんな言い訳をしました。


 ですがレンはごまかされてくれなかったようです。




 今日も舞台発表部門の7人は走ります。


 7人のランナー。


 なんかかっこいいですけど。


「さあ、今日も第六のゴーレム戦隊、ガンバるわよ!」


「おおっ!」


「・・・おおっ。」


 レンも一緒に走っています。


 珍しくレンの声もここまで聞こえてきます。


 気になるとすれば、聞くたびに劇のタイトルが変わってるっていうことでしょうか?


 本番のタイトル、宣伝前のプログラムと違ったら困るんですけど。




 そして彼女らのランニングは毎日続き、気が付くとレンも随分とメンバーに馴染み、しかも元気になった気がします。


 演劇の内容や、練習時間、予算でわたしたちともめるのも日常茶飯事になり、ソニエラもタフになりました。

 

 レンともすっかり仲良くなったようです。


「今日も走るわよ!いい、クラリス帝国討伐隊!」


「おおおおおっ!」


 ・・・なんですか、そのタイトルは?


 えっ?


 やっぱりちゃんと悪役で出て欲しい・・・?


 でもそのタイトルはヤメテ。


 わたしに何をさせるつもりですか・・・いえ、わたしをどう見てるんですか、あなたたちは!?


 ・・・え?


 そのまんま?


 ・・・それは、ふふふ、の、ふ、なのです。

 



 こうなったら・・・出るからには目にもの見せて差し上げますよ!


「覚悟なさい、クラリス帝国討伐隊とやら!ほ~っほっほっほ!準備はいいですか!性悪商人に悪知恵参謀!」


「よっしゃあ、まかしときクラリス陛下!」


 黒ベースに青の衣装、エミルはちょっとクールです。


「悪女帝クラリス陛下、ウラァ~!です。」


 やはり黒ベースですが、こちらは衣装に赤が入ったデニー、コケテッシュです。


 三人でポーズを決めます!


 もう、何かが飛んでいきました。


 きっと良識とか羞恥心とかそんなものが。


 そして、黒一色のわたしは、やはり黒い蝶マスクの向こうで高台から舞台を見下ろすのです。


「さあ。かかってきなさい!クラリス帝国討伐隊!」




 お稽古が終わると、あちこちで泣き声が聞こえます。


 別にわたしが悪いわけではない・・・と思います。


 ちょっと本気を出しただけなのです・・・ちょっとだけですよ?


「陛下ぁ・・・あの五連撃はやりすぎや。」


 性悪商人、あなたの「そろばんローラーダッシュ」が安全だったとでも?


 この死屍累々の有様をわたし一人に押し付けないで。


「ですが陛下・・・とどめの衝撃粉砕波は必要なかったのでは?」


 悪知恵参謀こそ、あんなに陽動作戦で敵をかく乱して・・・。


「仕方ないではありませんか。最終的にはわたし一人で4人を相手にしたのですよ!例え劇中であっても正義を掲げるならば、あの程度の攻撃でチリアクタのように吹き飛ばされるとは情けないのです!」


 お~い、おいおい・・・そんな屍たちの泣き声が大きくなります。


 あ・・・言い過ぎてしまいました。


 やはり調子に乗りすぎていたようです。


 一気に頭が冷えます。


「・・・ごめんなさい。やり過ぎでした。みんな、大丈夫ですか?」


 わたしは慌てて倒れているみんなに駆け寄るのです・・・しかし。


「・・・違うの!クラリスは悪くないの!だからみんなも大丈夫なの!」


 レンはそう言うと、わたしを見て立ち上がるのです。


 続いて、ソニエラも真っ赤な目のまま立ち上がります。


「そうです。クラリス女帝のおっしゃる通りです。わたしたちが無力だっただけ・・・。でも、このままでは終わりません。・・・いいわね、みんな、特訓よ!」


 その言葉に倒れていた生徒たちは一人また一人と立ち上がり、円陣を組むのです。


「わたしたちは決して負けません!学園に平和が戻るまで!」


 ・・・これは、わたしが「学園の敵」という設定なのでしょうか?


「さあ、今日も走るわよ。そして次こそは負けないわ!クラリス帝国を倒すまでわたしたちの戦いは終わらないのよ!」


「おおおっ!」


「クラリス帝国討伐隊、夕日に向かって突撃よ!」


「おおおおおおっ!」


 七人は走り去っていきます・・・いい話で終りそうなんですけど、これは演劇のタイトルが「突撃!クラリス帝国討伐隊!」で決定、ということなのでしょうか?


 さすがにこれは止めて欲しいのです。


 わたしの名前は叔父様が、憧れの「銀の指輪のお姫様」にちなんで名づけてくださったもの。


 可憐ではかなげで、でもけなげなイメージが、今のわたしにピッタリかどうかはわかりませんが、まさかその名を悪の帝国に冠することは許されないのです・・・最悪の場合、企画運営委員長の特権を濫用してでも断固阻止です!



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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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