第11章 その5 迷走と暴走の部門会議
その5 迷走と暴走の部門会議
第一回クラス会議の日の放課後です。
わたしたちは中庭で声をかけられます。
「おっす、嬢ちゃん方。」
クレオさんです。
戦場実習に同行した記者見習の方で、男装の美女、17歳!です。
地味な茶色のスーツにベレー帽ですが、刈り込んだ紺色の髪とくっきりとした目鼻立ちは、一見美少年なのです。
実はクラスにも隠れファンがいるのですが、実習中つきまとわれた身としては少々苦手意識もあります。
「クレオさん!先週から連載を始めたエス女魔園の従軍記は面白かったです!あれはクレオさんが執筆したんでしょう?」
デニーは隠れていないクレオファンです。ですが・・・
「ええっ?そんな記事が出ていたんですか?それも女性のクレオさんが記事を!」
そっちの方が驚きです。
「知らなかったのかい?我がヘクストス・ガゼットの週一連載だよ。結構好評なんだ。記事は・・・原稿書いたのは俺だけど、名前は先輩名義さ・・・よく俺だってわかったな、デニー。」
「それはもう。クレオさんでないとわからないことが満載ですから。特に班長閣下の暴走場面とか。」
そんなのが載ってるんですか!?
それは不許可です!
公序良俗に反します!!
「いやいや、イラストもちゃんとかわいく書きなおしたから勘弁してくれ。」
そう言ってクレオさんは一枚の新聞をわたしに手渡すのです。
その一面の中の紹介記事に、こんなアオリが書かれていました。
「エスターセル女子魔法学園、戦場実習に!・・・今年創立した軍初の女子校である同校は、今月ついに念願の戦場実習に挑むことになった。しかし女子校初の試みである上に、南方戦線の崩壊に巻き込まれ、危機また危機の連続に見舞われる。その苦境に敢然と立ち向かう乙女たちの健気な戦いをここに記す!」
・・・どこかの遠い世界の物語であれば、面白いと思ったかもしれませんが、当事者たる身としては、複雑なのです。
「いやあ何回読んでも、ワクワクします!」
このメガネ、やはり記者になりたいんでしょうか?
「・・・後でレンにも読ませて。」
こんなものに興味を持たなくても・・・まったく。
「あ~、2班やシャルノにエミルのイラストぉ~!」
中のページにそんなものがありました。
ヤレヤレです・・・確かに以前の「わたし」よりは乙女風になっています。
以前のアレではただの軍人女でしたから。
しかしリルは絵が好きなので次々とイラストに目を向けます。
クレオさんのイラストは「客受け」に配慮してはいますが、みんなの特徴をうまくとらえています。
ですが・・・イラストのリルは・・・なんでこんなに露出度が高いのでしょう?
もっとも当の本人は
「・・・すごい!クレオさん上手~リルにも描き方教えて教えて~!」
・・・気にしてませんが。
興奮して跳ねる度に、その胸が大きく揺れます。
その辺りをうまくイラストにも反映させたのでしょう・・・誰が読むんでしょう、この記事。
クレオさんのオジサン臭が怪しいのです。
「ところで班長閣下?」
「その呼び方は止めてください!」
もうイヤです、トラウマです!
「そうですクレオさん!」
珍しい!「閣下」を広めた張本人が・・・。
「クラリスは今、委員長閣下なんです。正しく呼称してください。」
ドテ、です。
いえ。
期待したわたしが愚かでした。
「それそれ・・・なんでもガクエ~サーっていう面白いことやるんだって!?アンティパパの提案だろ?」
クレオさんは子どもの頃に家族で叔父様のお世話になったので、叔父様をこう呼んでいます。
でもパパ・・・意味深過ぎです。
「うん。教官の企画。」
いち早く記事を読み終えたリトがレンに渡しながらそう答えます。
「そうかぁ・・・んじゃ、今度はそのガクエ~サーの取材をしないとな。従軍記の次はこれで決まりだ!」
もう次の記事を考えてるんですか。
たくましいのです。
「そうでもしないと、男社会で女一匹、やってくのは大変なんだよ。」
そういうクレオさんは凛々しいのです。
デニーでなくてもちょっと憧れます。
「だから、また、いろいろやらかしてくれよ、委員長閣下!」
それとこれは別です!
しかも「閣下」はヤメテ!
だいたい「また」ってなんですか?
わたしは何を期待さているんですか?
「そういうことなら、クレオさ~ん、お願いがあるんですけど・・・」
それでエミルとデニーはクレオさんに何をお願いするのでしょう?
そしてその翌日。
「では第2回学園祭クラス会議を始めます!」
今日の内容は「部門会議」です。
各部門ごとに責任者と企画内容を話し合ってもらうのです。
「では部門ごとに集まって、話し合ってください。もしも・・・前回の話し合いで変更などが必要な場合は、今ここでしっかりと話してください。」
リトやレンが自分の役割に不満なら、またもう決まったリルの装飾部門長が不適切なら、きちんとお互いに話し合っておくべき。
その最終的な機会はここ。
でもそれは自分でやらなくてはいけません。いくら寡黙だろうと内気だろうと、
これはリトとレン、自分の仕事。
「対抗戦部門からの企画は・・・市内の女子魔法学校による3校を招致しての魔術戦ですわ。」
魔術戦・・・純粋な魔術戦なら意外に本校のアドバンテージは少ないのです。
いえ、むしろ不利かも。
何しろ総合的な戦闘訓練がかなりの割合で教育課程に入っていますし、教養科目として芸術科目まで学んでいます。
一方私立の魔法学校は魔術の実践が多そうです。
あと、わたしたちは創立1年目で伝統とか先輩に学んだりとか、そういうところがありません。
それが他校と比べた時にどう影響しているのか・・・不安がないとは言えないのです。
「それで、現在参加してくださる学校と交渉中・・・魔術戦の内容も検討中、と。」
まだまだ詳細は不明と言うことですがシャルノの自信ありげな表情を見れば問題なさそうです。
「だけど招待しておいて、ボクたちが負けることは許されない!だから毎日練習する時間を確保してくれ!」
ヒルデアはそう言いますが・・・それは・・・どうしましょう?
ワグナス教授?
「学園の大きな授業日程に変更はありません。キミたちが自主的に時間をつくって行う場合はその限りではありませんが。」
・・・早朝、昼休み、放課後。
その時間で何とかしろ、と?
「・・・まぁ、学園の名誉にかかわるのであれば、教官の間で検討してみます。」
「お願いします!」
教官の皆様も初めての、しかも未知の行事ということで、かなりわたしたちの要望を検討してくださいます。
ありがたいことなのです。ですから
「詳細が決まったら、わたしたちも、放課後の自習時間を活用しましょう。」
渋い顔をしている生徒もいますが、できる限りの範囲で協力してもらうつもりです・・・まぁ、強制はしませんけど。
「リルだよ。装飾する場所をどこにするか、教えて~。それに合わせて絵とか飾りを考える~!」
なるほど。
確かにたった3人では限界があります。
目立つ場所を中心に集中しましょう。
細かいところは部門に一任です。
「では、校門、玄関、舞台、この三カ所を中心に。余力があれば、また考えましょう。」
「はい。」
とりあえず、こんなものでいいでしょう。
しかし・・・なにか引っかかります。
あとで考え直しましょうか・・・。
それにしても装飾部門は和みます。
「クラーケン退治?」
「ああ、模擬店ではケール湾の南東、メダユ島に向かう砂糖航路を邪魔するクラーケンを退治しに明後日から遠征に向かう。」
はてな?です。
最近謎が多くなって、わたしの首に悪い癖がついた気さえします・・・学園祭の模擬店のどこにそんな大活劇の要素があったのでしょう?
ふつうになにかの屋台でいいのでは?クレープとか。
そんな、唖然とするわたしたちを思いっきり置いてきぼりにして、ジーナの話は続きます。
「とりあえず秘密兵器は用意できた。まあ、下級魔術士にしちゃなかなかの戦闘力のある人材もそろった。」
それにしても上位精霊に匹敵するクラーケンを相手にできるレベルでは・・・いえ、そもそもそこでもなくて・・・
「あのね、ジーナ?なんで模擬店一行がクラーケン退治を?」
もうわけがわからないのです。
そんな命がけの模擬店、必要ですか?
まさかの冒険者の下請けミッションとか前線中隊の護衛任務ですか?
「決まってるだろ、たこ焼きの具材だよ。」
大変です。
この世界が大きく揺らいでいます。
それは一般では良識と言うものかもしれませんし、単にわたしの頭がくらくらしているだけかもしれませんけど。
「では・・・模擬店の、その、たこ焼きとやらの具材にするためにわざわざケール湾のクラーケンを狩りに行く、と?」
「おうさ。さすらいのたこ焼き、このあおり文句に俺たちは心を撃たれたんだ!」
・・・叔父様のバカ。
あんな無責任な怪文のせいで生徒が死地に向かうことになるのですよ。
クラス一の大きなジーナは、身体能力の高さも相まって魔術士には見えないほどの女丈夫です。
そのくせ強化魔術に長けたレベル3。
大活劇には向いているのでしょうけど。
なるほど、白兵戦クラスNO1にしてレベル4のリトを引き込んだ事情はわかりました。
加えてアルユン。
運動は不得手ながら幻術と支援系に長けたレベル3。
この3人はあの叔父様が行った地獄の戦術演習で生き残った猛者です。
ファラファラが参加しているのは謎ですけど。
いえいえ、彼女もレベル4。
優秀なのです・・・見かけによらず。
「なあにクラリス~?ファラを変な目で見て~えへ♡」
その間延びした口調とゆるカワな外見でだまされるのは、おバカな男の人だけで十分なのです。
「でも、授業とかは?」
「ちゃんと校外学習、引率教官付きで許可を求める。往復みっちり授業まつり。」
・・・ついていく教官の方も大変です。
その許可って通るのかしら?
目をやるとワグナス教官が肩をすくめていらっしゃいます。
それでも
「教官方の承認を得るかどうかはともかく、勝算はあるのですか?さもなくば企画運営委員として許可できません!」
「今からちゃんと書類にしておくよ。見ておいてくれ。だが、自信はあるぜ。」
わたしとジーナはしばらくにらみ合います。
「ねえねえ~クラリス~エミル~デニス~、ちゃんと見てね~見ないと泣いちゃうよ~♡」
はぁ、です。
一気に力が抜けるのはわたしとジーナだけではないのです。
「では、詳細は後に。次は・・・」
「舞台発表は・・・まったく企画決まりません。何どうすればいいんでしょう?」
責任者はソニエラ。
さっきまで話していたジーナとは違って、まあ、普通の子です。
規格外のジーナたちと比べるのがおかしいと言われればそれまでですけど。
髪の色は少しわたしに似て赤毛で、背はわたしより少し大きいんですけど、それほど特徴がない、というのは失礼ですが、そんな感じの子です。
責任者には不向きかもしれません。
「原案どおり少女歌劇がいい!」
「歌!歌うたいたい!」
「ダンス!ダンス!ゼッタイダンス!」
「魔術~。」
「漫才~。」
「・・・レンはみんなに任せるの。」
これはまとまりません・・・自由過ぎです。
まだ企画が始まったばかりなんですが。
レンも・・・朝ムリヤリ引っ張り出してきたのに。
でもやめるとか代えてとはもう言わないようです。
ですが、企画そのものは部門に任されていますし、お手伝いにも限界があります。
「なんとか企画は部門で決めてもらわないと・・・」
「まあ、そんなんでしょうけど・・・。」
「撃!ヘクストス華撃団!カッコイイ!!」
「我が故郷よ~エスターセルの輝きよ~」
「ダンダンダンス!ヘイヘ~イ!!」
「魔術~!」
「漫才~!」
「・・・レンは何でもいいの。」
結局その後も舞台発表部門はまとまらず、発表内容を各自深めて考えるというのが次回までの課題になりましたが・・・話し合うのが、もう難関です。
これって前途多難過ぎではないでしょうか?




