表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/277

第11章 その4 先行き不明のクラス会議

その4 先行き不明のクラス会議


「今日からガクエンサイのために時間割の大幅な変更があります。」

 

 翌週の最初のホームルームで、ワグナス教官がおっしゃいます。


 ワグナス教官殿・・・あんなにいつも通りなのに陰では学園長と・・・さすがは大人です。


「すみません。教官殿。学園祭について根本的な疑問があるのです。」


 今日の日程についての説明の後、わたしは質問することにしました。


「まず、ガクエンサイの目的を教えていただきたいのです。例えばわたしたちの実力を試す場なのか、いらっしゃるお客様に楽しんでいただくのか、あるいは模擬店なるものでお金を稼ぐのか・・・」


 わたしの質問に教官殿は滑らかにお答えくださいます。


 前回とは違います。


 これでこそ副主任・・・いえ、主任代行教授です。


「当たらずとも遠からずですが、最大の狙いは、キミたちが楽しむことですよ。そのための学園祭・・・お祭りなのですから。」


 教室中がザワつきます。


「楽しむ?」


「お祭り?」


 仮にも軍学校の生徒であるわたしたちです。


 もちろんお友達と切磋琢磨しながらも和気藹々と過ごす日々です。


 楽しみは随所にあります。


 ですが、軍人を養成するための学園の行事が「楽しむ」ことを目的とした「お祭り」?


「それは・・・やはりあの人の?」


 ついこんな聞き方をしてしまいます。


 またまたあのメガネが怪しく光るのです。


「・・・まあ。企画者からのメッセージです。読み取るのに苦労しましたが。」

 

 叔父様からの?ひょっとして「遠話」を使ったのでしょうか?


「兵士はいつ死ぬかわからない。いつどんな苦境に追い込まれるか、だれも知らない。そして、自分の人生を諦めた兵士は、簡単に死を選ぶ。容易に人を裏切る。兵の誇りなど捨てて。」

 

 打って変わって教室はシ~ンと鎮まり還りました。


 なまじ戦場の空気を知ったわたしたちです。


「戦場では何があるかわからない」と言われた記憶も薄れていないのです。


 それに、19年前の洞窟の中でアント・・・16歳の叔父様・・・が言っていました。


「いつ死んでもいい敗残兵」「自分の命なんか諦めている」って。


 そしてわたしとレンを襲おうとした二人の上官にも「もしも部隊が全滅しなかったら」「もしも味方の囮にされなかったら」って。


 絶望した兵士はたやすく死を選び、仲間を裏切る。それはアントの経験でしょう。


 そう考えるわたしを、最近めっきり勘がよくなったレンが見つめています。


 わたしはレンを見返し、軽くウインクをします。わたしは大丈夫って。


 レンも返してきました・・・あの子の方が上手です。意外過ぎです。


 ちぇ、です。いえ、舌打ちはしませんが。


「ですが、たとえ苦境にあっても、その先に希望があれば、仲間と過ごした思い出があれば、生きられるかもしれない。企画者は自分の従軍体験から、こんなことを思いついたそうです。・・・そして、わたしたちは、苦境にあってもあきらめず、生還するたくましい軍人を育てたいのです。キミたちを死なせないために。」


 これは、あの人の願い。


「もちろん、キミたちに楽はさせません。これも訓練の一環です。しかし、今を仲間と共に楽しく生きる、それが将来のキミたちを生きのびさせることにつながるという企画者の意見に我々も同意したのです。」


 そして、これは教官方の祈りなのでしょう。


 わたしたちはこんな方々に見守られているのです。


「だから、きみたちは学園祭に真剣に挑み、そして存分に楽しんでください。仲間と共に。」


 わたしとシャルノと目が合います。


 彼女も同じ思いなのです。


「ヒルデア!」


 シャルノが叫び、青いショートカットのヒルデアが慌てて立ち上がります。


 大丈夫。彼女もわかっているようです。


「一同起立!」


 クラス一同、急な号令にも意外なほど息が合って一斉に立ち上がります。


「わたしたちを育て見守ってくださる教官殿に感謝を込めて敬礼!」


 みんなきっと思いは同じだったのでしょう。


 こんなにそろった動きは初めてです。


 あのアウレイア号に搭乗する時ですら、ここまではそろっていなかったと思います。


「・・・はは。感謝は早いですよ。感謝されるほどキミたちが学園祭を楽しめるかは分かりませんからね。」


 ですが、ワグナス教官は返礼を返しながら、皮肉っぽく笑いました。


 確かに、ガクエンサイと言う未知の行事に挑むのは、実はこれから難問の連続になるんです。




「さて、という訳で、細かいことはキミたちに任せます、なんたって、これはキミたちが主役なんですから。」


「ええ~っ!」


 いきなりです。


 これは実は、ただの「投げ槍」ではないでしょうか?


 さっきの感動的な思いがなんだか、残念なものに成り代わります。


 そもそも何が大きくて何が細かいんでしょう?


 わたしたちには、そこからが、もう、難問なのです。


 という訳で、朝からクラス会議が始まりましたが、第一回会議は「何を話し合うべきか話し合おう!」・・・って冗談みたい。


 教官がニヤニヤとお笑いです。


 つい学園長とのことをみんなにばらして差し上げたくなります。


 いえ、約束しましたからそんなことはしませんけど。


「とりあえず、司会進行はクラス委員が行います。」


 ヒルデアとシャルノ、ユイが前に出ました。


 ヒルデアとシャルノが簡単な打ち合わせとして、その間にユイが黒板に「第一回学園祭クラス会議」ときれいな字で書いていきます。


 ユイは錆びた鉄色の髪をした細身の子です。


 誰かさん同様眼鏡をしていますが性格的には真逆で、真面目な文学少女です。


 ミステリーなんか読まないのです。


 まして腐った推理には無縁と聞いています・・・もっともあまり話したことはありませんけど。


「では、まず役割を決めるよ。人があっての組織。組織あっての行事だからね。で、その次は、役割が決まった人にドンドン考えてもらうよ。」


 ヒルデアが教卓についてわたしたちを見渡します。うん?なんでしょう?


「では、学園祭の企画のために、中心的な組織をつくります。仮にこれを企画運営委員会とします。」


 シャルノが続けます。


 プラチナブロンドの髪がきれいにたなびきます・・・今日は。


 時々風のせいか湿度のせいかうまくいかない時もありますけど。


 あれ?なんなんでしょう?ヒルデアだけじゃなく、シャルノまで・・・。


 その間にユイが板書していきますけど・・・


「話し合い1 役割を決めよう!企画運営委員長」


「話し合い2 企画運営委員で話し合おう!」


「話し合い3 委員会の提案について話し合おう!」


 ・・・なんかこれも人任せにしてませんか?


 そう思っているうちに再びヒルデアです。


「とりあえず、今日の話し合いで必要なのはここまで、でいいかな。・・・異議なしだね。で、だ。せっかくの学園祭。ここはクラス委員とは違う人に委員になってもらうよ!」


「ええ~っ?」


「なんでなんで?」


 そんな声が随所で上がります。


 それを鎮めてシャルノが答えます。


「学園祭の準備中でも、普段通りのクラス委員の仕事はありますし、普段要職についていなくても適任で人望のある方の方がふさわしいと思うからです。」


「ふ~ん?」


「そうかも。」


「そう?」


 そうですか?


 一理あるようなないような・・・それならクラス委員長のヒルデアの代わりにシャルノがふさわしいと思うのですが、わざわざクラス委員ではないって言ってます。


 なんとなくイヤナヨカンがします、いえ、「イヤナヨカンしかしない」という感じです。


「そこで、クラス委員から推薦します。企画運営委員長にはクラリスさんがいいと思います!」


 ええ~っ!!なんですか、それは!?


 それでさっきから二人ともわたしの方を見ていたのですね!


 冗談じゃありません。


 そんな大役、しかもこんな謎ばかりの行事の責任者なんて、明らかに「人身御供」ではありませんか。


「委員長以外には補佐として事務の得意な方や会計に詳しい方が入ってくだされば助かります。」


「待って待って!まだ委員長が決まっていないでしょう?なんでもう補佐の話をしてるんですか!」


 慌てて発言します。


 もう、大慌てです。


「だって、もうみんな納得してるヨ?」


「あなた以外にいないでしょう。あの企画者の想いを受け止めて形にできるのは。しかも戦場実習で見せた決断力に行動力、何より多くの大人の兵隊さんも黙らせたその暴走ぶり、コホン、いえ、意志力です意志力・・・もう異論を言える方はこの世におりませんわ。」


 この際暴走がどうとか突っ込んでる余裕はありません。ヒタイの一部がピクピクしますけどガマン。


「いますから!たくさんいます!!」


 でも、ねえ、みなさん・・・あれ?


「クラリスならオッケーだって。」


 エミル無責任に賛成しないで!


「同意。激しく同意。」


 リト、なんでわざわざ二回言うのですか?


「うんうん。クラリスがんばって~あたいも頑張るから!」


 リル、ちゃんと意味わかってます?


「・・・レンも賛成。」


 レンまで。もう、みんな無責任です。


「これはもう就任するしかありません!クラリス委員長閣下、バンザ~イです!」


 この腐れメガネ。また閣下なんて・・・やめてやめて!閣下はヤメテ。


「班長閣下」なんて本物の軍人さんにも呼ばれて、これは「トラウマ」というのです。


「委員長閣下バンザ~イ!バンザ~イ!」


 なのに・・・みんな・・・もう、きっと自分がなりたくないからってわたしに押し付ける気満々のようです。


「クラリスが委員長なら、会計はあたし、やっていいよ。事務方はデニーに手伝ってほしいなぁ。」


 だからエミル・・・まだ何も決まっていないのです。


「はっ。ではデニス・スクルディル、企画運営委員を拝命いたします!」


 だからデニー・・・。もう時々軍人のふりして、まったく。


 確かに商会の娘のエミルに、腐っても頭脳明晰なデニーはいい人材です。


 ですけど~・・・だからって、委員長がわたしって、どうにかなりませんか!




「・・・クラリスです・・・学園祭の企画運営委員長に就任しました・・・。」


 もう、棒読みですけどなにか?って感じです。


 挨拶なんてもうどうでもいいって感じなんです。


「エミルだよ。会計は任せて。絶対黒字にするから。商売は戦争よ!」


「デニスです。委員長閣下を補佐します。みなさん、ご協力おねがいね。」


 大きな拍手は、正直心苦しいのです。


「あなたなら大丈夫ですわ。わたしたちクラス委員もお手伝いますし。」


 逆でしょう、シャルノ?


 本来あなたたちクラス委員こそが中心になるべきでは・・・そう言いたいのを飲み込みます。


「ボクも協力を惜しまない。クラリスならみんな言うこと聞くから。」

 

 ヒルデアは、人に面倒を押し付けるのが上手になりました。


 もっと前向きな成長をして欲しかったですけど、成長の方向性が残念です。


「さて、ではここからは企画運営委員に任せるから。」


 ちっ、です。


 いえ、舌打ちはしませんけれど。


 ・・・ふっ。ここまできたら、断りませんが、どうせならみんなを巻き込んで差し上げます。


 いえ、これは嫌がらせとか仕返しとか、そういう低次元などではありませんよ?


 みんなが参加してこその学園祭のはずですから。


 わたしは「話し合い3」を書きなおします。


「全員どこかの部門に入ろう」です。


 残念ながらユイほどきれいな字ではありませんが。


「では、続けます。・・・これから、企画の内容に従って、いくつかの部門をつくります。皆さん全員そこに入ってもらいますからね!」


「ええ~っ!?」


 ふん、です。問答無用なのです。


 急ごしらえながら学園祭の企画書を見ながら組織図をつくります。


 企画運営委員の下にいくつかの空欄ができます。


「デニー!」


「はい、閣下!」


 閣下はヤメテ。


 とは言え、こういう時のデニーは、見事な進言をしてくれます。メガネも絶好調に光ります。


「フェルノウル教官殿の企画書に基づいて考えますと、各部門として舞台発表、模擬店、会場装飾、それに対抗戦に分けます。」


 なるほど・・・


「って対抗戦?」


「はっ。保護者の方や地域の皆様に日頃の修練の成果をお見せするのは当然として」


 ・・・当然なんですか?いつどこで当然になったのか、だれかに問いただしたいものです。


「わたしたちの中だけで競っても、それは井の中のジャイアントトードなのです。それに内にもめるより外に敵をつくるべきなのです。それが団結を深めるのです。」


 どんな大きい井戸なんでしょうね、それは。


 後半のセリフは真理ですけど、少し危うい気もします・・・ま、とりあえず「するー」です。


「そっか、ヘクストスにある他の学校に声をかけて・・・お互いの腕を見せ合うのね!?めっちゃ燃える!」


 ・・・これはもう、開始早々、暴走が始まっているのでは?


 困ったわたしはワグナス教授に救いを求めましたが・・・反応なし。


 では「あり」なんですね。もう知りませんよ?では。


「対抗戦は、他の学校との協議が必要な部門です。教官のご助力も必要ですが、それなり以上の立場も必要です。これはクラス委員をそのまま任命します!」


「ええっ?ボクたちを使うの?」


 そういう権限をくれたのはあなた方でしょう?


「・・・そう来ましたか・・・図られました。さすがです。」


 別に図ってはいないのですよ?シャルノ。


「・・・。」


 恨めしそうに見ないで下さい。ユイ。これは客観的な判断なのです。


「それで、企画運営委員とクラス委員つまり対抗戦部門を除いた、残り3部門については自分の得手不得手や興味関心に基づいて検討してください。」


「まだ決まっていない生徒が14名。それで残り3部門かぁ・・・装飾は少し人数少な目で3名くらい、舞台は多めで7名、模擬店が4名、でどうかな?」


 計算とアイデアはエミルのお手の物のようです。


「いいですね、エミル。」


 組織づくりや計画はデニーです。


 その彼女はエミルを信頼しているようです。


 こんなに二人、相性良かったんですね。意外です。


「ではしばらくみんな、自分たちで考えて。」


「相談していい?」


「いいです。」


「二部門の掛け持ちはいいの?」


「無理しない程度なら。ですが各部門で責任者を決めてもらうので、それは掛け持ちなしで。」


 いろいろな質問が出ますが、もう、とっさに深く考えずに答えます。


 困ったものはエミルとデニーに相談しましたが。


「予算は?」


 ・・・これは教官の番ですね。


「はい・・・ですが、これは皆さんの企画に合わせて検討します。一旦は自分たちで算出してみてください。」


「よっしゃあ~!銭の勘定はまかしときぃ!」


 ・・・エミル。またですか?


 その病的な話し方は、お姫様顔に似合わないのに。


 その後、話し合った結果、リトが模擬店に、レンが舞台発表、そしてなんとリルは装飾部門の責任者になりました・・・大丈夫かしら、たしかに絵は上手ですけど。


 いえ、それを言えばレンが舞台発表というのも意外ですし、リトが模擬店・・・みんなちゃんと考えたんでしょうか?


「では、各部門ごとの詳細な計画は次回の会議までの課題とします。わたしたち委員会は予算案とスケジュールをつくっておきますので。」


 そう言いながら、予算案はエミル、スケジュールはデニーに丸投げと決意します。


 これで・・・なんとか乗り切った気でしょうか?


 もうヘロヘロですけど。でもエミルとデニーは意外に元気なのです。


「もう、ゼニや、まずはゼニの計算や、全てはゼニから始まるんやぁ!もうけてなんぼじゃあ!はぁっははは!」


「まずは組織ね。そして見通しを持った計画。これが勝負の分かれ目よ!お~ほっほっほ!」


 ・・・その元気を分けて欲しいとは微塵も思いませんが。


 どっかに行っちゃってますね、二人の精神は。


「なんでレン、舞台なの・・・もう明日から学園来ないから・・・。」


 あら、またひきこもり宣言です・・・ではなんでそこになったんですか?


「・・・お店?なんで?」


 リトもですか?みんなちゃんと考えてないのでしょうか?


「レンも。人数合わせで決まってた。」


 ええ~?それは組織づくりでもう失敗ですか?


 リトもレンも、あまり意見を言わない性格なので、こんな時は損なのでしょう。


 でも・・・わたしたちがここで介入すると「えこひいき」とか「不公平」とかって言われそうです。


 言われるだけなら平気ですけど・・・でもここは原則をしっかりと決めておかなくては・・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ